上 下
3 / 5
第1章 いちごのように弱い乙女

第2話 母と娘のすれ違い

しおりを挟む
「お子さんの教育、ちゃんとしてるんですか!?」

 近所のおばさんの怒鳴り声が、私の部屋にも聞こえてきた。
 多分、家まで入ってきたんだと思う。

「私も、本当はどうにかしたいんです。
だけど、どうしていいのかわからなくて」

「それでも、母親ですか?」

「母親です。
まだ20代ですが、私は母親を頑張っております」

「20代後半にもなって、それがわからないの?」

「私は、実はまだ20代後半にもなれてないんです」

「そんなことって・・・」

 私のお母さんは9歳で妊娠をして、10歳で私を産んだ若くて、幼いママ。
 今は25歳というところだ。
 私はお母さんからまともな教育を受けた記憶はなくて、先生からいろいろなことを教わった記憶しかない。

「娘は時として、荒れることもありました。
ですが、母親として何ができるかわからなくて」

 私が中1で暴走族と付き合って、暴走族の世界で喧嘩最強の姫になっても、学校側の対象ばかりで、お母さんは何もしてくれなかった。
 たしか、その時はお母さんは20代前半だったと思う。
 
 私は確信した。
 お母さんは、ほんとに何もしてくれなくて、娘の私なんてどうでもいいのか、と。

「私も発達障害のグレーゾーンで、いつも悩んでいます。
娘とどう向き合うか。
彼氏も、夫になってくれましたが、浮気をされて逃げられました。
それでも、娘だけは・・・。
娘だけは、守っていこうって決めました。
娘の行きたい学園にも、入学させました。
だけど、うまくいかないんです。
周囲からは、親の教育が悪いとか、男を見抜く目がないと言われることもあります。
だけど、ただ頑張るしかないんです」

 嘘だ。
 お母さんは、口だけなんだ。
 発達障害のグレーゾーンが何なのかわからないけど、だからって私を見捨てていいわけじゃない。

「ですが、娘さんは学校に来ていません。
20代でも、母親をしっかりやっている人もいます。
自分に甘えているだけじゃないですか?」

「私も辛いんです。
娘は荒れて、荒れて、どう向き合うのかわからないんです」

「わからなくても、向き合うのが母親でしょう?」

「私はまた、娘が学校に行けるようサポートしてみます。
タルギちゃんは、私じゃありません。
1人の人間です。
感情もあります。
娘を踏みにじるようなことは、したくありません。
私も学校で辛いことは、たくさん経験してきました。
だから、タルギちゃんにも、学校に行けば辛いことはあるでしょう。
母親には見せたくないものもあるでしょう。
だけど、母親にできることがあります。
娘を最後までサポートしてあげることです」

「本当にしてるんですか?
口だけなら何度でも」

「だから、タルギちゃんにとっての最善な方法を探します」

 近所のおばさんは、帰ったのかな?
 扉を開けて、閉めての音がしていなくなった。

 いいんだ。
 お母さんは、何もわかってくれない。

 だけど、私の部屋の前からお母さんの声がした。

「タルギちゃん、カウンセリング受ける?」

「カウンセリング?」

「実は、フラゴラ学園にカウンセリングルームが2個あって、1人は男の先生で、1人が女の先生。
学園の悩みも、もしかしたら解決できるかもしれない」

 フラゴラ学園は広くて、どこに何があるのか把握してなかった。
 あの幼いお母さんも、知っていたのか。

 私は、しばらく考えこんでから答えた。

「行く・・・。
私、カウンセリングだけしたら帰る」

 お母さんのせいだ。
 お母さんがわかってくれないから、男選びに失敗した上に安易に私を産むことを選んだ。
 後先のことなんて、考えてない。
 カウンセリングをすすめるということは、お母さんは自分でどうにかする気がないということを意味していた。
 困ったらまわりに頼ったりするのは、お母さんの悪いくせだ。
 子育てなんて、まともにしない。
 自己解決能力もない。
 私は、お母さんに真剣に向き合ってほしいのに、そのことすら気づかない。
 
 お父さんは、別の女の人と浮気をして、離婚になった。
 それすらも、お母さんのせいなのに、子供を見捨てないいい親を演じようとしている。
 お父さんが何故、浮気しなくちゃいけなくなったかお母さんはわかってない。
 あの幼稚で分からず屋なお母さんだったから、お父さんが疲れて、別の女の人のところに逃げるしかなかった。

「お父さんに会いたい・・・」

 お父さんは帰ってこないのに、どんなに大好きでも、別の家庭があるとわかっていても、それでも一緒にいたかった。

 お母さんは、いつになったら自分の愚かさや、私に嫌われていることに気づくのだろうか?

「いい加減、早く気づいてよ・・・」

 私は、お母さんの存在が受け付けられない。

 私は、カウンセリングを受けるためだけに制服に着替えた。
 大嫌いな学園に、なぜかカウンセリングがある。

 私が廊下を歩いていただけで、この前の謎のイケメン高身長の男性とすれ違う。

「しばらく、学校に来てなかったみたいだな・・・ 」

「だとしても、私が困るだけだから」

「それでも、嫌なんだ。
タルギがこれ以上苦しむのは・・・」

「君は、私の何?
プリーモアモーレ?
こんなやつなら、会いたくない」

「あいつに何かそそのかされたのか?」

「プリーモアモーレは、パラブロータスの婚約者。
わかりきってるの」

「パラブロータスか。
なぜだよ?
どうして、双子であるプリーモアモーレのことは憶えているのに、俺のことは忘れているんだ?
幼稚園の頃から、ずっと一緒だったじゃないか?」

「双子?
プリーモアモーレの?」

「タルギ、記憶喪失になってからさ、俺の存在を認知できなくなって、本当の両親も忘れて、暴走族であるプリーモアモーレのことばかり追って、付き合ってから荒れきって・・・」

 話がよくわからなかった。
 明らかに、私の記憶と食い違ってる。

「何を言ってるの?
私はプリーモアモーレと付き合ってなんかいない。
暴走族の彼氏と付き合って、別れたんだよ」

「暴走族の元彼の名前、言えるか?」

「え?」

 思い出せない。
 誰なのかすらもわからない。

「私は、タルギ・ツァオメイのはず。
お母さんは?
お父さんは他の女と浮気して、離婚したんだよ」

「君は、騙されている。
一緒にいるお母さんは、本当のお母さんなのか?
9歳で妊娠して、10歳の子供がどうやって子育てする?」

 確かにそうだ。
 お母さんが私を育ててくれた記憶がないし、10代というアルバイトもできない年齢で、親の力を借りずにどうやって育てるんだろう?

「私は誰・・・?
私立フラゴラ学園なんて、本当にあるの?」

 思い出そうとすればするほど曖昧に薄れていく記憶。

「君のお母さんは、誰なんだ?」

「本当のお母さん?」

 私は、ひたすらに記憶を探る。
 
「あれは、お母さんじゃない。
叔母さんだった。
私は、いつもそう呼んでいて・・・」

 そう呟いた瞬間に、フラゴラ学園にはいちご型のモンスターらしき姿があった。

「きゃっ!?」

「よかった。
気がついたんだ。
君は、幻覚を見ていたんだ 


「幻覚?」

「ちなみに、カウンセリングルームに行こうとしてないよな?」

「した」

「誰に言われた?」

「叔母さん」

「男の人と女の人のどちらに向かおうとしてた?」

「女の人。
その方が話しやすいから」

「君は、心を完全に支配される目前までいっていた」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません

下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。 旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。 ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも? 小説家になろう様でも投稿しています。

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

既に王女となったので

杉本凪咲
恋愛
公爵令息のオーウェンと結婚して二年。 私は彼から愛されない日々を送っていた。 彼の不倫現場を目撃した私は、離婚を叫び家を去る。 王女になるために。

処理中です...