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番外編 盗賊に愛されて 第1章

第3話

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 ほのめは、とうとうザイコスキーと手を繋いで歩くとか、ザイコスキーにお姫様抱っこされるところにまできついてしまった。

 男のしてのプライドは最初から持っているつもりはなかったけど、そこまでされてしまうと、本当に女の子かのようになった気分だった。



「勇石神ちゃん」

 俺は最近、姉さんのことを名前で呼ぶようにしてる。

 海賊たちは、ほのめのことは呼んでくれても、姉さんのことは「何なのかわからない」「近付いたら感染するかも」「襲われるかも」という理由で避けていくので、誰も姉さんの名前を呼びやしない。

 勇石神ちゃんは首を縦にふる。

 最近、勇石神ちゃんは上手く喋れないと自分でもわかって以来、ジェスチャーが増えた。その代わり、あまり言葉を発したりはしなくなった。



「来たぞー、海賊専門退治屋だー」

 海賊たちが騒ぎ始めた。

「まずいわ、ほのめちゃん、逃げてちょーだい」

「何が起こって‥‥」

「海賊専門の退治屋よ。

 説明している時間はないの」

「船長、逃げ場はどこにもありません」

「そんなことないわ」

「あるんです!

水が凍ってしまいました」

 船の外を見ると本来、水のところは氷になっていた。

「氷になるってことは、まずいのが来たわね」

「アイスブロック」と言う声が聞こえたかと思うと、ザイコスキー船長や海賊たちは一瞬で氷になった。

 助かったのは、ほのめと勇石神ちゃんだけ。

「危ないところでしたわね」

 声がした方を見ると、見知らぬ女の子がいた。

「誰?」

「誰とは失礼ね。

あたくしは海賊専門の退治屋の氷狩《ひかり》と申しますわ」

「海賊専門退治屋?」

「有名な職業なんですのよ?」

「知らない‥‥」

「とにかく、海賊から逃げますわ」

「どうやって?」

「氷の上を渡るのよ」

「渡れるの?」

 ほのめは実は、深海恐怖症で、例え氷だとしても水上はこわい。

「こわいなら、おぶりましょうか?」

 女の子におぶられるくらいなら‥‥

「自分で歩くよ」



 船から降りて、氷の上を歩くとか割れる音がするので怖かったけど、陸まで来ればあっけないものだった。

「さあて、任務の報告ですわ」

「任務?」

「当たり前よ。これは仕事でやっているんですわ」

 氷狩、勇石神、俺の三人で街へ向かった。

 海賊の生活から離れられそうだけど、次は何が待っているんだろう?
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