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番外編 光の影武者と闇の影武者

第3話

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  過去の自分を消し去りたい。
 あんなのどうにでもできた。なのに、僕てっば‥‥あんなこと誰にも知られたくないよ。
 僕は神王に文句言ってやろう。
 そんなこと嫌なら避ければいい?会いに行くには理由があるの。光と闇が存在したら戦争が起こるに決まってる。 
 神王だの、闇神だの名乗っているけど、本当は戦争を起こしたいだけじゃないの?
 僕は真っ先に光の力で、神王とところにむかう。
「オレのところに会いに来てくれたの?」
 神王は嬉しそうだった。
「用事があって来たの」
「用事?」
「光の力を消してよ」
「どうして?その力がなければ、俺に会えなくなるよ?」
「光と闇がいたら、世の中に戦争が起こるの知ってるよね?」
「知ってるよ」
「知ってるならどうして?」
 この人、本当に戦争起こしたいだけなのかな?
「オレは誰にたいしても与えているわけじゃない。戦争を起こす発端を作らないようなふさわしい者にだけ与えている。」
「なら、僕はふさわしくない」
「ふさわしいと思ってない。ただ、りとが好きなだけ」
「ならいらないよね。戦争を起こさないためには何でもする。僕は帰れないじゃないか。僕がいると戦争が起こるんじゃないかって‥‥」
「ならずっとオレといる?それでもいいぞ」
「いたらどうする?」 
「何でもしてやる。」
 「何でも‥‥?」
「神王はりとの望みを叶えるからさ、ずっとここにいてよ。帰らせないから。なら、いっそ光の力で」
 僕の後ろにある光はなくなった。
嘘?
「帰らせないという方法があったね」
「帰してよ」
「いたら、戦争が起こるんだよね?」
「なら、この力消してよ」
「わかった。光の力がなくなったら帰れないし、オレに守られるしかなくなるけどな」
「待っ‥‥」
 僕から光の力をすいとって、僕は力が抜けた。
「お望み通りにしてやったよ」
「なら、帰してよ」
「その望みは叶えられない」
 光の力をなくすことに成功したかもしれない。だけど僕は帰れなくなった。
「これでずっと一緒だね」

 あれからどのくらいたったのだろう。
 神王と二人だけの生活になった。
 ご飯も用意してくれるし(神王が人間界から盗んできたらしいけど)、何もかも神王に世話してもらってる。ただ何をするにしても、神王の許可が必要で、ここに自由はなかった。
 とにかく人間界に行かせてもらえるきっかけを作ろう。
「神王、僕、人間界の日光を浴びたり、空気を吸わないと体がおかしくなりそうだよ」
「それはできない。日光はこの世界がそうだし、空気は人間界と変わらないよ」
「人間界がどうなっているかわからない」
「わからなくていい」
「しばらく運動してないから体がおかしくなりそうだよ」
  そしたら神王が怒った。
「いちいち注目が多いな。そんなに人間界に行きたいのか?」
 僕は震えあがって、うなずくこともできなくなってしまった。
「注文が多いなら、人体改造だ」
 人体改造?
「神王を怒らすとこわいこと思い知らせてやる」
 僕はその場から逃げ出した。
 神王は容姿どころか中身まで子どもだ。そんなことで怒らなくていいじゃないか。
「逃げられないぞ」
 光から木が飛び出してきた。
 神王のことだから、人間界の木を育ててきたことが想像できる。
 僕はすぐに木に巻き付けられ、腕、足、お腹、口が木と一体化して、喉の近くまで木が侵入してきたものだから、僕は木を吐き出したくなったけど吐けなかった。息が苦しくなって、鼻呼吸を必死でした。お腹も苦しい。
「わがままなりと」
 神王は微笑んでいた。 
「もうあんなわがまま行っちゃだめだし、人間界に戻ろうとか考えなくていいんだよ」
 神王は僕の頭を撫でた。
 僕は恥ずかしいことに、神王の前でよだれをだらだらと流し、よだれは木に大体流れていく。
「この木、生きてるんだからね」
 そんなこと言われても飲み込めないもん。
 僕は言い返すこともできなくなっていた。
「りとにいらない部分を選ぼう。口でしょ、あー、人間界に向かおうとするのは足があるからだね」
 僕はびくびくした。何をする気なのか全く予測がつかない。
「両足は可哀想だから、片足だけ残しておくよ」

 両手と左足は自由になった。
 右足はどうしたかって?木に密着されてベッドの上から離れられないでいる。
 あとは口は木が口を覆ってしまい、僕はくぐもった声しか出せない上に、鼻呼吸しかできない。口は覆われた木の中にあるから、一応喋れることは喋れるけど、聞き取りづらくはなってる。
 食事なんてできないから、注射をを打って体内に栄養を送るしかなくなる。
 キスをしたい時か、口移しで食べ物や飲み物を与えたい時か、歯磨きをする時しか外してもらえない。
 全ては神王の気分で決まる。神王の気分にそぐわないことをしたら何をされるかわからない。僕は神王に従うしかなくなった。
 神王が僕によだれを出してほしい時は、木が横型に変形して、口を開けたまま固定する。よだれは出るし、顎は疲れる。長いことやると顎が痛くなる。しかもいくら手で外そうとしてもびくともしない。

「平凡だー」
 神王は伸びをした。
「最近、りとはわがままを言わなくなったし、いい子になってきた」
 神王が頭を撫でた。
 僕にとって神王は得体の知れないものだ。
「りとはいい子になったから、逃げようとか思わないよね?」
 僕は首を縦にふった。
「よろしい。ならりと、神王と一緒に行くか?」
 行くって?人間界?
 僕は首を縦にふった。
 僕は首を横や縦にふるか、身振り手振りでコミュニケーションをとるしかなくなった。もう言葉はない。
「それじゃあ、行くか」
  一応、ベッドで繋いでいる木は離れたが、右足の木は固定して、重い。
 引きずって歩こうとするものだから転んでしまう。
「大丈夫か?」
 僕は歩けないため、神王にお姫様だっこをしてもらった。
「無茶するよなあ」
 神王と僕の前に光が現れて、光は二人を包んだ。
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