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番外編 アクアマリン編集部

第2話

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 恋人の娘から恋愛感情を持たれるなんて誰が予想をする?

 10代になった一帆が「やっぱ‥‥あなたが好き‥‥」と告白された。
「結婚を前提に付き合ってほしいの」

 一帆‥‥。
 オレは、滴舟さんに申し訳ない気がした。


 オレはいつも通りに仕事をしている。
 だけど、滴舟さんの顔を見られそうになかった。

  一帆だからまだよかった。ニ帆からなんてなったら、滴舟さんは間違いなくオレに嫉妬していた。ニ帆は恋人みたいものだから。
 何でオレなんだろう?同級生の男子なんか、学校に行けばいるはずなのに。

 オレはどうしたらいい?
 一帆は可愛い。可愛いけど、恋愛対象としてではない。
 一帆と付き合ったら未成年に手を出したという犯罪になるし、二股にもなる。

 一帆はオレにお弁当を作ってくれるし、スーツにアイロンかげもしてくれる。
 マンションに住んでいて、隣同士だが、よく一帆はオレの家に来る。
 もしかしたら、本気なのかもしれない。

「大丈夫ですか?顔色が良くないですね」
 職場の後輩に顔をうかがわれた。
新入社員にもわかるくらいなのか。
「何かあったんですか?」
「いや、何にもないよ」
  本当は何にもなくはない。
 だけど、誰にも相談ができないし、相談しにくい。
 
 家に帰る足が重い。
 隣同士だから。

 最近、滴舟さんと二人でデートすることが多くなった。
 遊園地とか公園デートもしなくなった。
 飲み屋、カラオケ、海水浴などに行くことが増えた。
 10年以上のカップルだから、お互いのことは知りすぎている。だが、知りすぎてわからなくなってきている。一緒にいることが当たり前になりすぎて、新鮮な感じもなくなっていったし、娘も大きくなったから娘の話もなくなってきた。
 世間で言う倦怠期だ。
 ドキドキもしないし、別れることもオレの中では視野にあった。
 このまま付き合っても、男同士だから結婚はできない。
 思春期の娘がいれば、一緒に暮らすことも難しい。
 一帆に告白されたんだし、いっそ滴舟さんと気まずくならないように別れて、一帆と付き合おう。
 そのはずだった‥‥。

「透、別れようぜ‥‥」
「何故‥‥?」
 オレから降るはずだったのに‥‥。
「好きな人ができてさ‥‥」
「好きな人って誰ですか?」
「言えない」

 オレと滴舟さんは別れて、オレは一帆と付き合うことになった。
 一帆は美人だし、家庭的だ。

 一帆から衝撃的なことを話された‥‥。
「玉夫《たまお》さん」
 玉夫はオレの下の名前だ。
「私とニ帆が異父姉妹なの知ってる?」
「え‥‥?」
  知らない‥‥、初めて聞いた。
「玉夫さんには隠していたことよ。
私の本当の父は滴舟克《まさる》。あなたの元恋人だよ。
だけど、ニ帆は母は一緒だけど、克さんの恋人じゃないのよ。母が浮気して生まれた子供なの」
「ということは‥‥?」
「克さんは浮気されたことにきずいても、何故か口出しをしなかった。
その代わり、自分と血の繋がらないニ帆と今は付き合い始めてるわ」
「滴舟さんの好きな人って‥‥?」
「ニ帆のことよ。血の繋がらないってわかっていたから、結婚もできるし、二人の間に子供を授かることもできる。
恋人のようなものじゃなくて、本当に恋人と認識していたのよ」
「そしたら、何故オレと付き合う必要があった‥‥?」
「多分、ニ帆がそのときはまだ小さかったからだと思う‥‥」

 今まで付き合っていた時間は何だったんだ?
 オレよりも、ニ帆を恋人にしたかったのか。
 あんなに可愛かったニ帆が憎いと思ってしまった。
 まだ、滴舟さんを好きな自分がいる。
 どうしたら滴舟さん以外の人を好きになれるかな?
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