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番外編 ガーネット編集部

第1話

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 おれは、ガーネット編集部の桃火《とうび》。
 1月生まれのやぎ座。
 好きな色は赤。
 好きな食べ物はざくろ。
「情熱的」「努力家」「忍耐力がある」「一途」と言われる。
 付き合って18年の恋人がいる。

 その恋人は男で、暁《あかつき》さん。
 バツニ子持ち。
 暁さんは、海外国籍で赤ちゃんの頃に結婚させられ、18歳で離婚した。
 18歳の頃に再婚して、18年の結婚生活を送り、36歳で離婚。
 おれは暁さんが36歳の頃から付き合っていて、今は54歳の童顔で皺《しわ》がない若く見えるおじいちゃん。
 暁さんの現在、36歳の息子さんは結婚していて、元気に外を走り回るような孫がいる。
 気まずいのは、息子さんよりも年下なこと。
 おれと暁さんは親子ぐらい離れた年の差恋愛をしている。
 年収は高いし、貯金もある。だから、暁さんとおれは同棲をしている。
 昔、暁さんはガーネット編集部だったらいけど、おれが大卒で入社する頃には昇格してもっと上の役職に就き、今は編集部にはいない。

 暁さんは仕事は有能だけど、家事を一切しない。
 だけど、おれより稼いでいるから文句を言いづらい。
 実際、水道代や電気代、家のお金は全て暁さんに払ってもらっている。
 
 男同士で結婚なんかできない。
 わかっているはずだけど、同棲した。
 おれも年齢的にそろそろ結婚とかしないと。
 祖父母は他界したけど、今は人生100歳まで生きる時代。両親の介護が必要になってくるだろうし、両親が孫の顔を見たいらしい。
 このまま暁さんと暮らすか、別れて普通に女性と付き合って結婚して、両親に孫を見せてあげるか。
 決まらない。

「娘と結婚するか?」
「娘さん‥‥?」
 そうだ、暁さんには娘もいたんだ。年上ではないけど、おれと同い年なんだよ。
 30代で今から結婚しても子供なんてできるかな?不妊治療とか必要になりそうでこわい。

「娘も独身なんだよな」
「はあ‥‥」
 娘さんとの結婚をすすめるなんて、おれのこともう好きじゃないのかな?
 それとも、心配してくれているのか?

 娘さんの名前は、暁《あかつき》朱熱《あかね》さん。
上に既婚者で子持ちで長男兄がいる。
朱熱さんは長女。

 結婚相手に対する理想は高い。
 年齢は36歳の兄より年下。
 長男以外。
 年収500万以上。
 眼鏡をかけていない。
 太っていない。
 毛深くない。
 職業は編集部長やその上の役職。医者は汚いから受け付けない。
 イケメン。
 家事、育児、仕事を器用にこなせる。

 この条件に当てはまるのはおれらしい。
 そもそも自分の年収がいくらか知らないけど、暁さんは知っているのかな?
 家事はこなせたけど、育児はやったことがないからできるかわからない。

 玄関先で朱熱さんと会うことになった‥‥。
「お邪魔しまーす」
「これが‥‥桃火だ」
「桃火さんですか?」
「はい」
 何度か会ったことあるはずだが‥‥。

「髪はセミショート、身長は170センチ越えている、小顔、歯並びは綺麗、髭《ひげ》も生えてない、短パンを履いてない、顎は細い、童顔、私との身長差が20センチ近くだから10センチのヒールを履いても15センチのヒールを履いても抜かしてしまう心配なし、むしろ15センチのヒールを履けば同じくらいの身長になれる、まさに理想そのものだわ」
 
 上から目線で審査されている気がするのは気のせいだろうか?
 この人とは付き合っても上手くいきそうにないだろうし、結婚まで辿り着けなさそう。

 しばらくして朱熱さんが帰った後に
「お前、本当は嫌なんだろう?」
 何故、わかった?
「嫌そうな顔してたぞ?桃火が飽きたんじゃないかって娘で試したんだ」
「何でそんなこと‥‥?」
「倦怠期が続いていて、もしかしたら恋心が冷めたのではと心配になったんだ。
今も俺のこと好きでいてくれるか?」
「当たり前だ、好きになれるのは暁さんだけだ。今も昔もこれからも‥‥」
「嬉しい‥‥」
 暁さんはおれの口に優しくキスをした。
忘れていた、18年の歳月と共に。

「孫連れてくるよ」
「お孫さんと付き合えって話ですか?」
「そんな年齢じゃないだろ?」
「そうですけど‥‥」
 暁さんの息子さんは大学を卒業して、三年間大学院に通い、卒業してから就職した。
 現在、三人の息子さんがいる。
 確か長男は小学一年生、二男は幼稚園年少、三男は保育園児。
「孫と嫁の喧嘩が激しいからって連絡がある。孫引き取るぞ」
「孫ってどっちの?」
「小学生の方だ」
「‥‥‥‥‥‥」

 家に小学生一年生の夕陽《ゆうひ》君が来ることになった。
 学校を転校することにはならないかもしれないけど、うちに来たら来たで上手くいくのか?
「‥‥‥‥」
「夕陽君」
「何?」
 強気な態度をとることで有名になっている。
「どうして、お母さんと喧嘩することになったかなって」
「理由なんていくらでもあるよ。
宿題やりなさいとか、テストの点数どうだったとか、友達とどこ遊びに行ったの?とか、しつこくて」
 そりゃあ、心配になるわな。
「あ、そうだ。夕陽は家に帰るつもりとかないから居候させてね。学校はこの家から通うからよろしく」
 何、この上から目線?小学生の言うことか?

 倦怠期を迎えたおれと暁さんの間に現れた、暁さんのお孫さん暁夕陽は、得体の知れない存在になった。
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