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番外編 トパーズ編集部

第8話

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 失敗した。

 初めてのデートなのに、同じ服を着ているなんて思わなかった。



「麗は、面白いね」

 戌野さんに笑われた。



「お揃いだね」



 俺も、その場は笑って、過ごすことにした。



 トパーズの売り上げはぎりぎり赤字ではないけれど、

 いいところにデート行けるほどのお金はなかった。

 遊園地なんて、行けそうにもなかった。



「麗と付き合えて、幸せだよ」



 今は、だれでも行けそうな公園で散歩しているけれど、いつかは遊園地とかでもデート行けたらなって。



「俺も、幸せだよ」



 敬語からやっと普通に話せるようになってきた。



「トパーズがつぶれて、部署異動になるかもしれないという話を聞いたんだ」

「俺は、その話を聞いたことすらないけれど」

「部署異動になったら、麗と一緒に仕事できなくなるかもしれないんだよね」

「多分」

「でも、部署が違っても、恋人関係は続くと思う?」

「もちろんさ」



 戌野の言った通りに、トパーズはつぶれて、部署異動となった。

 違う部署にはなったけれど、

 俺たちの心はつながっていた。



 年収も変わり、俺と戌は同居するようになった。

 男同士だから、結婚の籍は入れられないけれど、

 一緒に暮らすことはできる。



 この幸せがいつまでも、続くといいな。



 俺と戌野で遊園地に行くようになったし、

 ホテルに泊まるようにもなっていた。



 部署は違くても、会社は同じだから、いつでも会うことができる。



 戌野が一番好きな人。

 片思いが叶わないって思っていたけれど、あきらめ気味でも、

 諦めなくてよかった。



 最初は賃貸のアパートでの暮らしだったけれど、

 しばらくしたら、家を買う話も出るようになった。

 家を買うことはすぐにはできそうになかったし、

 ある程度、貯金してからとなるかな。



 俺と戌野は、部署が違うと帰る時間帯もばらばらだったりもする。

 その時は、早く帰った人が夕食を作るという話になっている。



 俺と戌野は、男同士なので、子供は作れない。

 でも、子供なんていなくてもいいんじゃないかなというのが正直な意見。



「ガーネットの売り上げが伸びている」

「本当だ」



 赤字だったガーネット雑誌の売り上げが伸びて、人気の雑誌となった。

トパーズは倒産したというのに。



 ガーネット編集部は、編集部の一人が行方不明となり、遺体で発見されたということで有名な話だ。

 噂によると、自殺したんじゃないかという話もあるが、真偽は不明。



 トパーズは売り上げ最下位の編集部ということになるのか。

 トパーズに就職したことが運の尽きだったかもしれない。



 だけど、俺は戌野と一緒にいて、最高に幸せ。
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