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番外編 Y戦士~みちびの場合~

第1話

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 僕はどこにでもいる普通の‥‥一般人だったと思う。

「Y戦士にならないか?」
 スキンヘッドの子供に聞かれた。
 唐突すぎるよな。

「そもそも、Y戦士って何?」
「特に深い意味はない。AからYまで戦士がいて、ワイが担当しているのがYなだけだ」
「なぜ、Zだけない?」
「ワイは、25人兄弟の末っ子でな、26人目が生まれなかった。ただそれだけだ。一番上の兄がA戦士担当、末っ子のワイがY戦士担当しとるだけ」
「僕にやってほしい、と?」
「強制はできんでな。できるけど、そうしたらワイの会社の上司にクレームが来るんでな」
 会社の上司?
「まず、Y戦士なんか必要あるの?」
「なかったらどうする?暇を弄ぶだけで終わらす戦士を希望しとるんか?
悪い奴らと戦う使命を適当に与えとるんや」
「適当なんだ‥‥」
「ワイの推薦は、勘を基準としかしていない。
戦士の数は世界の人口で考えれば、多くもなければ少なくもないとワイは適当に計算して思う。
だが、ワイらマスコットは兄含めて25人しかいないから世界中どうなっているか見て回ることは不可能かもしれん。
地球は25人だけではたりんのだよ。
たりない中、やってんだ。
ただ、推薦だけではなれん。Y戦士には条件があるが、どいつが条件備わっているのか見ただけではわからんのだ」
「適当に推薦してないで、確認してからでは?」
「確認しても、本人が忘れていたり、条件が備わっていることにきずいてないとかある。
それで何事もないように日常生活を送ることが多い。
ワイたちの敵となる邪悪な存在もそう。自身が邪悪な存在ときずかずに進学したり、就職したり、結婚したりして人生を終える者もおる」
「これで、人生過ごせるならいいのでは?」
「良くないのだ。邪悪な存在はいつどこで覚醒するかわからんのだ。
適当でもいいから戦士を覚醒させて、救わなくてはならない」
「何を?」
「敵によって目的が違うかんな。一概には言いきれない」
 
 子供の言う作り話に付き合うつもりはない。
 スキンヘッドで長いひげがあるかもしれないけど、明らかに子供だということは身長でわかる。多分、幼稚園ぐらいだろう。
 子供にしては辻褄が合うような言葉を並べられているし、小学生に入ってから使うような難しい言葉もそこそこは出てくる。
 幼稚園ぐらいの子供なんて先生や親が普段使うような言葉を真似してばかりいて、言葉の意味を理解していないことが多い。
 それに僕はその子を知らないし、身元不明な人物の言うことなんぞ、信じられそうにない。

「考え直してくれたか?一応、試しに交信してみるのだ」
「交信?」
「交信すれば当たりか外れかぐらいわかる」
「交信のやり方がわからない」
「適当でいいから」
「また、適当?」
 この子供はさっきから何なんだ?
 非科学的であり、非現実的なことしか言っていない気がする。
「多分、できないと思う」
「最初から可能性を諦めているということか?」
「諦めているというか、信じてない」
  交信なんか念じたところで、何をどうするのか具体的な指示もないし、ただ抽象的に押されているだけだ。

「気が向いたらでもいい。
他にY戦士がいるから、そやつを参考にするといい」
「Y戦士が近くにいるの?」
「ワイは基本この市内にいるからね」
「市内って見たことないが‥‥」
 スキンヘッドでひげの長い子供なんて目立ちそうだし、見つけられたら覚えているのでは?
「ないだろうな。漢字の読み書きが難しいワイが下手な買い物とかも行けないから一日中子供でも読めるような字で書いてある公園しかいなかったりする」
「漢字、苦手なの?」
「漢字が苦手というより、ひらがなやカタカタ以外読むことができない。
小学一年生で習うような漢字も含めて」
 この子供は小学にも入学してないということかな?
「ワイは次を当たることにするさ。
事件に巻き込まれんようにな」
 そう言って、子供は去っていった。

 僕は家に帰る。
 特にすることもなかったし、子供の長話ぐらいどうってことはない。
  
 両親はいる。だけど、この両親はあまり好きではない。 
 僕と血の繋がりはあるかって思うくらい似てないと思うけど、近所からは似てるとよく言われる。お世辞なのか、本当なのか。
 結婚してからも理想を求める。
 母は優しくて、収入があっての男を求める。
 
 僕はゆと。漢字はあるけど、あえて書かないでおくし、名字もふせておく。
  
 クラスでモテ女がいて、モテる女から話かけられるからクラスの男子に妬まれている。
 よく2歳年下や2歳年上、同い年から告白されたり、アプローチも多いけど、何故か1歳年上や1歳年下からのアプローチはない。
 ただ話ができるだけで妬まれるかな?
 受験する学校は、誰もいない所にしよう。顔見知りの人とは前述の理由でもう会いたくない。
 
 僕の学校は私服だから、破かれようが焼かれようが、捨てて家にある服を着ればいい。
 成長期なのを親がわかっているから、次々と新しい服を買ってきてくれる。
 制服だったら、高い金額のする物を何回買っているんだという話になる。
 体操服も自由だから、通販で大体買っている。
  鞄も自由で、学校指定の物は何もない。
 教科書とかは指定かもしれないけど。
 おかげで気は楽だった。

 受験、どうしようかな?
 受験はいつも親が決めたがる。私立の幼稚園や私立の小学の時の受験もそうだった。
 親が決めていた。
 今年は私立の中学の受験が待っている。

 両親は僕に理想の息子を押しつけてくるし、妹には理想の娘を押し付ける。
 妹の幼稚園も両親が決めた私立の幼稚園。今年は私立の小学校を受験させる予定らしい。
 妹はまだ幼いからわかってないかもしれない。親の言うことの方が正しいと感じるかもしれない。
 ただ、僕みたく物心がつけばすぐに反発したい気持ちが生まれてくるだろう。
 僕も妹みたく純粋になれたらどんなにいいだろう?
 
 学校に行きたくない。家にも帰りたくない。
 僕はとっさの判断で家を飛び出した。
 静かにしよう‥‥。
 何で僕はこの世界にいる?この家で生まれてきた?
 この家になんかいなくてもいいのに。
 とにかく家出をしよう。

 自分でも何をしたいかわからない。
 うん、きっとこれでいいのかもしれない。
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