盗賊たちに愛されて

野うさぎ

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第1章

第3話

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 俺は、ヒポポパーラメンスのところへ行こうと手探りで向かったけれど、腕をつかまれてしまった。

「どこへ行こうとしてる?」

「え?」

「ひとりで、何と話してる?」

 暗闇の中でも、俺がどこにいるとかわかる?
 だけど、だとしたら、ヒポポパーラメンスの侵入も気づくはずだ。
 まさか、ヒポポパーラメンスの存在が見えてない?

〈ヒポポパーラメンス、どうゆうことだ?〉

〈どうゆうことって?〉

〈バンディッツは、ヒポポパーラメンスの存在に気づいてないし、声も聞こえないみたいだ〉

〈妾は、山賊や空賊、海賊には認知できない。
ただ、それだけのことだ〉

〈それだけって・・・?〉

 ヒポポパーラメンスは、何者なんだ?
 ただの小さな空飛ぶカバみたく思っていたけど、考えれば考える程、謎が多い。

「ようわからんけど、どこにも行くなでヤンス」

 俺は、バンディッツに強く腕を握られた。

〈ヒポポパーラメンス〉

 俺は、助けを求めた。

〈そばで見守ってやるから、大丈夫だ〉

 うまく説明できないけど、見捨てられそうな気がするし、助けられるのか?
 ヒポポパーラメンスの魔法は、瞬間移動とテレパシーしか知らない。
 俺を救済してくれる力さえあれば・・・。


「バンディッツ様」

 2人の山賊らしき人が声を揃えた。
 多分、姿は見えないけど、洞窟の外で会ったあの二人組だ。

「ご苦労でヤンス、ステイメンツ、プロフェッサー」

 ステイメンツ?
 プロフェッサー?
 そんな名前だったのか?と首をかしげていた。

「紹介しようでヤンス」

 こうして、バンディッツがランプをつけてくれた。
 あるんだったら、最初からつけてくんない?

「こちらが、ステイメンツ・チューズ。
涼風の魔法と、陥没の魔法と、気泡の魔法が使えて、川で魚を取る時に役に立つでヤンス。
得意技は、気泡爆《きほうばく》でヤンス」

「気泡爆・・・?」

 見ると、あのガリ細の俺が「ラベンダーの香りがする」と言ったやつだ。
 ほとんど白に近いけれど、グレーが入っているような白鼠色の髪に、黄緑だけど、それが薄いために若菜色の瞳と思われる。

「こっちが、プロフェッサー・アウォード。
嫌疑の魔法と、窮屈の魔法と、沸騰の魔法が使えるでヤンス」

 ガリ細でもなければ、バンディッツのように太ってない。
 奴は俺から「薔薇の香りがする」と言っていた。

「最後に、オレは逐語訳の魔法と、閑職の魔法と、贈賄の魔法が使えるでヤンス」

 魔法の説明をされても、俺はこの世界に来たばかりで、何もわからない。
 だから、詳しく聞きたいけど、常識的なことも知らないのかと思われたくないから、質問できない。

「君は、名前は何という?
そして、どんな魔法が使える?」

「名前・・・?
魔法・・・?」

「もしかして、捨て子でヤンスか?
そのために、出自や名前がわからないとか?」

「俺は、サラン・ディスティーノ。
魔法は、わからない」

 俺は名前は言い、魔法は言わなかった。
 魅了なんて、俺のプライドが認めない。

「親も知らない感じか?」

「親は、多分知らない・・・」

「多分?」

 バンディッツが眉をひそめた。

「知らない!」

「そんな大きい声、出さなくても聞こえてるでヤンス。
そして、気になったんだが、君からアイビーの匂いがするでヤンス。
これは、香水?」

「アイビー・・・?」

 アイビーの花言葉って、何だっけ?

「そんなことよりもさ、発泡酒飲もうでヤンス」

 山賊たちで、発泡酒を飲もうとしたその時、洞窟が崩れた。

「危ない!」

 バンディッツは俺を庇い、俺の上に乗った。



 俺は、なぜか助かった。
 意識もあるし、どこも痛くない。

 何が起こったのかわからなかった。
 何故、突然に洞窟が崩れたんだ?
 地震でも起きたのか?
 だとしたら、大きな揺れがあるはずだけど、そんな様子もなかった。

「ヒポポパーラメンス!」

 俺は、相棒の名前を叫んだ。
 上に乗っているバンディッツは、目を閉じたまま意識もしてなかった。

 俺は、ヒポポパーラメンスに助けを求めることしかできない。
 彼が、下敷きになって意識がないなら、俺はどうしたらいいんだろう?

 俺はバンディッツをよけた。
 体重は普通の成人男性よりあるかもしれないけど、研究所で鍛えた俺の力なら、動かすことぐらいはできると思うけど、抱きかかえたり、引きずって連れて行くことはできなさそう。

 俺は、起き上がった。
 あたりは、崩れた岩?ばかりだ。

 歩きにくいけど、助けを探すしかない。
 だけど、こんな山の中で人がいるなんて思えない。

「久しぶりなのですわね、サラン様」

 声がした方を見上げると、目の前には袴を着ており、ニーハイブーツを履き、翡翠色の瞳と、浅緑の髪をツインテールにした背は高くもなければ低くもない女の子だ。
 少女の近くには、アザラシのぬいぐるみらしきものが飛んでいた。
 だけど、俺は同じ研究所の仲間であるために、知っている。

 彼女の名前は、レコナイーズ・プルーフ。
 頑健と逸品と散逸の魔法を使える。

 そして、アザラシの姿をした相棒のシーウ・イクサイメンツ。
 寡占と寡聞と寡少の魔法を持つ。

「どうして、ここにいる?」

「どうしてなのですか?
簡単な話なのですわ。
任務なのですわよ」

「任務・・・?」

「あたしは、山賊退治を与えられたのです。
たしか、君は訓練生なのでした?」

「洞窟が崩れたんだ。
山賊も下敷きになったし、ヒポポパーラメンスもいない!」

「これでいいのです」

「何を言って・・・?」

 レコナイーズは、冷めた表情をしながら話した。

「これでいいのですわ。
山賊の撲滅が目的なのですし、ヒポポパーラメンスは死なないのですわよ」

 山賊のバンディッツは俺を守ってくれて、悪い奴ではなかった。
 それに、ヒポポパーラメンスまで巻き添えをくらっていることも、考えられる。

「死なないって、どうしてそんなことがわかるんだ?」

「ヒポポパーラメンス様は、サラン様の相棒なら・・・」

 そんな話をしているうちに、ヒポポパーラメンスがどこからかやってきた。

「ヒポポパーラメンス!」

 俺は、生きていたんだという嬉しさのあまり叫んでしまった。

「何だ、妾の陰口か?」

「せっかくの感動、台無しにしないでくれない?」
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