【完結R18】君を待つ宇宙 アラサー乙女、年下理系男子に溺れる

さんかく ひかる

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3章 アラサー女子、ふるさとの祭りに奔走する

3-2 恋より仕事のつもりだけど -乙女ゲーム 赤ルートEND- ※R

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 ミツハの副支店長から、祭りのスポンサーを大学関係企業から集めれば、大学ブースを拡大できる、との約束を取りつけた。

「沢井さん、まず、これまで動画撮影で私が知ってる先生方を訪ねようと思います」
「ええ、他にも乗ってくれそうな先生、聞いてみるわね。飯島君! わかった?」
 隣の机で別作業している飯島さんが、びっくりしていた。
「え? 沢井さん、俺、めっちゃ忙しいし……これから、文化祭なんですけど」
「それも、素芦もとあしさんと一緒に進めればいいじゃない? 付き合いのある企業のリストを挙げるだけ、三十分もかからないでしょ?」
「はあ~しんどいなあ~。ほな素芦さん、パンフ用の写真撮影行っといてください」


 それから私は、先生方に説明する月祭りの資料をまとめた。スポンサー応募と出展ブースについて特に強調する。
 沢井さんと相談し、スポンサーを紹介してくれた研究室に、ブース出展の権利を出すことに決めた。
 知ってる先生だけでなく広く告知をするため、イントラに月祭りのページを作り、スポンサー&出展研究室の募集をかけた。それなりに反応があったので、沢井さんの提案によりウェブ会議で説明することとなった。

 参加できない人も、後で会議の様子を動画で参照できるようにする。基本は沢井さんが説明してくれたが、私も地元民として発案者としてお願いする。
 先生方が食いついたのは月祭りの核となる「ウサギと亀の物語」だった。
 物語の由来や伝承の元などにするどい質問が寄せられる。
「すみません。私も子どものころからずっと劇を演じていただけで、元の文献とかは残ってないみたいです。革命後、私の先祖が残した記録はありますが……」
 シドロモドロに私は回答した。
 その辺り気にするのは、やっぱり研究者だからだろうか。

「スポンサーは紹介だけでいいの? 交渉はそっちで、流れても大丈夫?」
 沢井さんが答えた。
「ええ、紹介していただければ……ただブース希望者が多いと抽選になります」
 意外にも、研究だけでなくPRにもみなさん、乗り気だ。
 終わった後、沢井さんは呟いた。
「だって、大学側も企業から寄付、集めたいでしょ?」
 流斗君が外国に行き音沙汰がなくなって一週間が経った。


 彼は、今、どうしているのだろう? 私のことなんかすっかり忘れて、学会の発表に学生の指導と忙しく過ごしているに違いない。変な挨拶してセクハラなんて訴えられないといいけどね。
 もう忘れないと。頬へのキス、唇の感触を。
 私はもう、うかつだった発言を後悔しない。彼は取材を引き受けることになった。それは、科学のためにいいことなのだから。その取材記事を見て、科学を志す子どもが増えるかもしれない。宇宙科学に出資するスポンサーが増えるかもしれない。

 荒本丞司との恋に破れてから、一人で生きるつもりだった。予定通りの行動に戻っただけだ。
 だから、今、彼とのメッセージを読み直しているのは、過去を封印するため。決して、未練や後悔からじゃない。会いたいとか、ぬくもりが恋しい、とか、声が聴きたい、とか、そんな……。
「流斗君、ごめんなさい」
 誰も私のつぶやきなど聞いていないのに。

 通常の広報課の仕事の他に、月祭りの出展について取りまとめを進めた。
 祭りに関心を寄せた研究室を回り、スポンサー候補のリストを集める。
 メールをチェックすると、朝河流斗准教授から添付ファイル付きのメールが届いていた。

 職場のメールアドレスに届いた流斗君からのメール。それは、『お疲れさまです』から始まる事務に徹したメールだった。
 もう彼とはこのような何の感情も混じらないやり取りしかできない……仕事中だ。先生からのメールの中身をチェックしなければならない。

 中身は、宇関の月祭りに広告を申し込んだ企業のリストだった。三社ある。添付ファイルを開くと、それぞれの企業が書いた申込書だった。ちゃんとリスト通り三社分ある。

 イントラで流斗君のスケジュールを確認する。彼はまだ外国だ。学会は終わり新しい天体観測所に学生を連れて行ってるところらしい。
 出張中に私からの、いや、広報課からのメールをチェックしてくれただけでなく、ちゃんと行動に移してくれた。企業のリストをもらえるだけでもありがたいのに、彼は企業の申し込みを取り付けるところまで、段取りしてくれたのだ。
 忙しいはずなのに、その行動力。単なる宇宙オタクではない。彼は研究者にならなくても、ビジネスマンとして有能さを発揮しただろう。

 三社とも初めて見る会社名だ。ざっと検索すると、コンピューター関係の会社らしい。いや、一社、聞いたことのある会社があった。ここでバイトする前から知ってる。確か、ゲームメーカーだったはず。

 私は、流斗君、いや朝河先生にお礼の返信を送った。失礼のないように。馴れ馴れしくしないように。かつ、無味乾燥にならないように。丁重なお礼を心がける。
 でも一言添えてもいいだろう。
「朝河先生は、ゲームメーカーさんともお付き合いあるんですね。企業の方とも幅広い交流のある先生の活躍、尊敬するばかりです」
……何か自分の下心が透けてみえるメールだ。落ち込んできたが、今は仕事中。

 気を取り直し、朝河先生が取りまとめてくれた三社の担当者にお礼の電話をかけた。もちろん、ゲームメーカーの会社にも。
 広告担当の女性が電話口に出た。
「はい。朝河先生にいつもお世話になっています。雑誌で宇宙のコラムを書いてくださるので」
 雑誌? ゲームメーカーが雑誌を出版するのは珍しいことではない。
「そうですか。失礼ながら、存じておりませんでした。御社はゲームメーカーさんなので、朝河先生もゲームをするかと思いまして……」
「えっ!? ゲーム?」

 相手の女性が驚いている。
 あれ? もしかするとこの会社は、ゲームが主力商品ではなく、出版がメインなのかな? でも、ゲームも作っていたはず。まあ会社の人間が全ての商品を把握しているとは限らないから、この人も知らないのだろう。
「そ、それは……あまり……その……うちはもうゲームからは撤退しているので、どうか……でも、素芦もとあしさんのような方も、あのゲーム遊ぶんですね……」

 あのゲーム!?
 しまった!
「もしかすると、宇宙のゲームということで、関心を持たれたのでしょうか?」
 女性が声を潜める。
「実は、私、御社のゲームで遊んだことはないのですが、友人がすごくハマって、御社の名前もよく口にしていたので」
「そうですか。ではお友だちによくお伝えください」
 ああ、バレてる、絶対。「友だち」なんて嘘だって。

 電話を済ませると、すぐさま私はパソコンで企業の名前で検索した。
 ゲームメーカーじゃない。お堅い教育関係の出版社だ。ゲームも出してないわけじゃないが、みな真面目な学習ソフトだ。
 え! 私、何をやらかしたの!?

 電話に出た広告担当の人に「あのゲーム」で遊んでいたことが、バレてしまった。
 しかもこの会社は流斗君から紹介された企業だ。私と企業との付き合いはこれっきりでも、流斗君と企業はこれからも付き合いがある。
 担当者が流斗君に「お宅の広告担当者、『あのゲーム』好きなんですって」なーんて、雑談レベルで話す可能性は……ないとは言えない。
 うわああああ!

 午後の仕事は散々で、私は飯島さんにまた叱られた。


************************


コギタス・エルゴ・スム 新たな旅立ち

「姫さん、ようやく奴を倒したな」
 勇者の血に目覚めた赤い髪のパイロットは、傍らの女の肩を抱き寄せた。
「よくやってくれた。これで束の間の平和だが、暗黒皇帝はしばし眠るはずだ」
 女は、愛する故郷を、父母を失った。
「お前だけはもう、私から離れないでくれ!」
 女は男にしがみつき泣きじゃくる。
「ほらほら、運転の邪魔をするなよ。新しい星が見えてきたぞ」
 眼下には、まだ緑が芽生えたばかりの惑星が広がる。
「重力・酸素濃度・大気圧OK、放射能も微量、有毒ガスも微量、生物は惑星全土に生息、ただし知性体は見当たらずってとこか」

 星間航空機は、新しい大地に着陸した。
「ここなら、ちょうどいいな」
「そうだ。長い時がいるが、新しく我らの王国を始めよう」
「それには、まず、子どもを作らないとな」
 パイロットは妻の宇宙服を手早く脱がせる。芽吹いたばかりの草原に、女の白い肢体を押し倒した。
「やめないか! このようなところで、あああ!」
「姫さん、ここには俺たち二人っきりだ。遠慮するな。何度だってイカせてやるぞ!」
 ようやく小さな脊椎動物が生まれたばかりの惑星で、二体のホモサピエンスは昼も夜も、ひたすら交わり続けた……。


************************


 私は、なぜあの会社の名前をゲームメーカーだと認識していたのか、完全に忘れていた。
 宇宙を舞台にした十八禁乙女ゲーム「コギタス・エルゴ・スム」
 発売元がゲームより元々教育ソフトに力を入れているため、宇宙論が隠されているといった噂をSNSで見かけたこともある。

 宇宙論が隠されている? そして、メーカーは流斗君と付き合いがある。一つの大きな疑念が膨らみ、その疑念は私を動かす。
 ゲームを起動し、チャプター一覧を表示させた。一番シンプルな「赤いパイロット」ルートのエンディングを選択する。
 何度もエンディングのスタッフスクロールは見ている。といってももちろん、いつもは文字を細かくチェックせずスルーする。ああ、終わったんだな、と、エンディングの余韻を味わうためだけだ。

 しかし今は違う。
 ゲームのスタッフスクロールをこんなに真剣にチェックしたことなどない。
 そこに知った名前はなかった。少なくとも「アサカワリュウト」を連想させる名前は。

 一つの疑念。
 流斗君と付き合いのある企業が、宇宙を舞台にしたゲームを作るのだ。自然「それでは朝河先生もスタッフに」なんて話が持ち上がってもおかしくない。
 いやいや、待てよ?
 このゲームは一年前に出ている。ゲームの制作のころは、流斗君は修士課程の大学院生だ。「先生」ではない。
 とはいえ流斗君は、高校生のころから宇宙関係では有名人だ。私には未だによくわからない宇宙論を、高校生の時に雑誌に発表したんだもの。
 いやいやいやいや、あの流斗君が十八禁乙女ゲームの制作に加わると思う?
……否定できない。

 彼には好きな女の子がいる。今までの様子からすると、好きな子がまだ子どもだからプラトニックどまりらしい。
 しかもラブホテルに関心があるようだった。挨拶の練習とはいえ、私の頬にキスした。そんな彼なら十八禁乙女ゲームのスタッフに加わったとしても、おかしくない?

 落ち着こうよ。
 万が一、流斗君がゲームに関係したとしても、関係ないじゃない。あの広告担当の人さえ黙っていれば、大丈夫。
 私が、十八禁ゲームで遊んでいることがバレなければ、問題ないんだ。あのゲームに流斗君が関わろうが関わるまいが、どうでもいいことなんだ。
 だって、友人ですらなくなった。仕事以外のメールはこないんだから。
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