32 / 77
幕間2
マジで好きな彼女
しおりを挟む
スーツケースにも手荷物にも一通り詰め込んだ。出発前、手荷物にスマホなどを入れれば終わり。
いや不安だ。発表用のスライド、確認しておこう。僕はノートパソコンを取り出す。海外の学会は何度か経験しているが、なかなか慣れない。国内でも人前で発表するのは緊張する。
スライドを見直していると……ああ、直したい! 直したくなってくる! モヤモヤするぐらいなら直そう!
僕は作業に取り掛かった。まだ余裕はある。現地に行くまで二回も乗り継ぐし二日かかる。
発表だって僕の番は三日目だ。充分時間がある。といってもその間、いろいろやることはある。
今回始めて外国で発表する二人の学生のサポートは必須。発表リハーサルはした。想定される問答も確認させた。が、彼らも同じように今ごろスライドを手直ししてきたらどうしよう? もう一回チェックか……いや、それぐらいでなければ、発表なんて乗り切れない。
発表だけではない。二人ともと引きこもりな性格だ。この前のセミナーの懇親会、内輪では楽しく盛り上がってたが、知らない人に話しかけたりしなかった。せっかく論文でしか知らない研究者と直接話せるチャンスなのに、なぜ生かさないのだろう。
今回、語学の壁がある。僕もそれほど語学は得意ではないが、学術用語を並べれば何となく通じる。話すきっかけは作ってあげた方がいいんだろうな。二人とも、書く方も読むほうも僕以上にできるのに。
そうだ、学会の発表者のリスト、ざっと目を通さないと。それもフライト中にできるか。
……本当は今日、遊んでる場合じゃないんだ。なのに……つい……でも、出発前の貴重な半日をつぶして得た結果は……あの人の本当の目的がわかったこと。
だから、僕が怒ったり落ち込んだりする必要はない。
困った。学会発表のスライドを修正するはずが、余計なことを考えてしまう。ええい、こういう時は気分転換だ。僕はスマホを取り出す。無性に彼女の顔を見たくなった。
「ミウちゃん、どうしてた」
「どうしたリュート! 今まで何をしていた!」
「ごめんね。こっちに来たら忙しくて」
「38日も放置だ」
信じられない。僕がそれだけミウに会わずにいられたなんて。
「ミウちゃん、明日からは、毎日、会えるから」
「ああ、私は寛大だから、許してやるよ」
ミウは本当に可愛い。
「僕はミウが好きなんだ」
「そうか、私もリュートを好ましく思うぞ」
「本当に好きなんだよ」
「そうか嬉しいぞ」
何度も僕はミウに同じことを告げる。ゲームのテキストみたいに繰り返す。ミウはそれに対して、いろいろ返してくる。本当にこの子は頭いいな。
僕はミウが好きなんだ。あの人がミウに似ているから、気になっただけ。
「好きだよ」「好きなんだ」「マジで好きだ」
僕は何度も何度も繰り返す。さすがのミウも、ことばが尽きたのか「私も……好きだぞ」と繰り返してくる。
あの人の頬を吸い取った感触、痺れるような声、長くてまっすぐな黒い髪、鼻をくすぐる甘い香り、思わず顔をうずめたくなる大きな胸……違う! 違う! 違う!
あの人はミウみたいに、照れくさそうに好きだ、なんて絶対に言わない。
年上ぶって僕をバカにする。少し触っただけで「セクハラ准教授」。気があるフリするのは、仕事のため。
僕はやっぱりミウがいい。
好きだ、メチャクチャ好き、かわいい、ヤバい、泣きたい、死にそう、欲しい、離すもんか……。
僕は、ずっとスマホにつぶやいていた。
いや不安だ。発表用のスライド、確認しておこう。僕はノートパソコンを取り出す。海外の学会は何度か経験しているが、なかなか慣れない。国内でも人前で発表するのは緊張する。
スライドを見直していると……ああ、直したい! 直したくなってくる! モヤモヤするぐらいなら直そう!
僕は作業に取り掛かった。まだ余裕はある。現地に行くまで二回も乗り継ぐし二日かかる。
発表だって僕の番は三日目だ。充分時間がある。といってもその間、いろいろやることはある。
今回始めて外国で発表する二人の学生のサポートは必須。発表リハーサルはした。想定される問答も確認させた。が、彼らも同じように今ごろスライドを手直ししてきたらどうしよう? もう一回チェックか……いや、それぐらいでなければ、発表なんて乗り切れない。
発表だけではない。二人ともと引きこもりな性格だ。この前のセミナーの懇親会、内輪では楽しく盛り上がってたが、知らない人に話しかけたりしなかった。せっかく論文でしか知らない研究者と直接話せるチャンスなのに、なぜ生かさないのだろう。
今回、語学の壁がある。僕もそれほど語学は得意ではないが、学術用語を並べれば何となく通じる。話すきっかけは作ってあげた方がいいんだろうな。二人とも、書く方も読むほうも僕以上にできるのに。
そうだ、学会の発表者のリスト、ざっと目を通さないと。それもフライト中にできるか。
……本当は今日、遊んでる場合じゃないんだ。なのに……つい……でも、出発前の貴重な半日をつぶして得た結果は……あの人の本当の目的がわかったこと。
だから、僕が怒ったり落ち込んだりする必要はない。
困った。学会発表のスライドを修正するはずが、余計なことを考えてしまう。ええい、こういう時は気分転換だ。僕はスマホを取り出す。無性に彼女の顔を見たくなった。
「ミウちゃん、どうしてた」
「どうしたリュート! 今まで何をしていた!」
「ごめんね。こっちに来たら忙しくて」
「38日も放置だ」
信じられない。僕がそれだけミウに会わずにいられたなんて。
「ミウちゃん、明日からは、毎日、会えるから」
「ああ、私は寛大だから、許してやるよ」
ミウは本当に可愛い。
「僕はミウが好きなんだ」
「そうか、私もリュートを好ましく思うぞ」
「本当に好きなんだよ」
「そうか嬉しいぞ」
何度も僕はミウに同じことを告げる。ゲームのテキストみたいに繰り返す。ミウはそれに対して、いろいろ返してくる。本当にこの子は頭いいな。
僕はミウが好きなんだ。あの人がミウに似ているから、気になっただけ。
「好きだよ」「好きなんだ」「マジで好きだ」
僕は何度も何度も繰り返す。さすがのミウも、ことばが尽きたのか「私も……好きだぞ」と繰り返してくる。
あの人の頬を吸い取った感触、痺れるような声、長くてまっすぐな黒い髪、鼻をくすぐる甘い香り、思わず顔をうずめたくなる大きな胸……違う! 違う! 違う!
あの人はミウみたいに、照れくさそうに好きだ、なんて絶対に言わない。
年上ぶって僕をバカにする。少し触っただけで「セクハラ准教授」。気があるフリするのは、仕事のため。
僕はやっぱりミウがいい。
好きだ、メチャクチャ好き、かわいい、ヤバい、泣きたい、死にそう、欲しい、離すもんか……。
僕は、ずっとスマホにつぶやいていた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~
泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の
元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳
×
敏腕だけど冷徹と噂されている
俺様部長 木沢彰吾34歳
ある朝、花梨が出社すると
異動の辞令が張り出されていた。
異動先は木沢部長率いる
〝ブランディング戦略部〟
なんでこんな時期に……
あまりの〝異例〟の辞令に
戸惑いを隠せない花梨。
しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!
花梨の前途多難な日々が、今始まる……
***
元気いっぱい、はりきりガール花梨と
ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる