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1章 アラサー女子、年下宇宙男子と出会う
1-4 年下男子との出会い
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ロビーに立つ少年は、灰色のパーカーと同色のスウェットパンツを着ている。丸顔で頬が赤みを帯びている。クセのある髪はボサボサして、眉を覆い耳に少しかかっている。背も私とあまり変わらず男子にしては小柄だ。
丸い大きな目でじっとこちらを見ている。知らない子だ。塾のフロアにいるということは入塾希望者だろうか。彼が近づいてきた。
こちらから声をかけてみよう。
「今日の授業はもう終わりましたよ」
少年は見た目通りの甲高い声で尋ねてきた。
「ここに真智拓弥っ人ていますか?」
うわあ、よりによって、チャラ男講師の名前をここで聞くとは。
彼は、真智君に憧れた入塾希望者なのかな? 西都科技大の院生は、名前で生徒を集めるほどの人気講師みたい。
苦手な真智君の名前を聞いて微妙な気分になる。しかし目の前の彼は、憧れの真智先生の授業を切実に望んでいるに違いない。
ただでさえ生徒が減っている。入塾希望者には親切にしないと。
私は受付に戻りA4サイズのパンフレットを取り出して、彼に渡した。
「真智先生の授業は数学に物理に化学。火曜と木曜の夜と土曜日ね。お父さんとお母さんに相談してくださいね」
少年は渡された資料と入塾申込書を見つめ「週に三日もここに来てるんですね」と確認してきた。
「熱心な先生ですよ。西都科学技術大学って宇関に新しくできた大学でね、宇宙の勉強をしてるんですって」
目の前の少年は貴重な入塾希望者だ。真智君は苦手だが、彼の講師としての能力は認めざるを得ない。
「真智さんのスケジュール、教えてくれてありがとうございます」
少年は表情を変えることなく頭を下げた。
「もう遅いから気をつけて帰ってくださいね。歩いて帰れますか?」
「大丈夫です。バスで帰りますから」
「え? もう夜の九時三十分よ。バスはないわ」
「いや、あるはずです。大学行きのバスが」
パーカーの少年は、バスがあるはずだと主張する。
「このあたりのバスは、都会と違ってすぐ終わっちゃうし、一日に二-三本がいいとこ。もしかして、あなたは都会から宇関に引っ越したばかりかな?」
「引っ越して一週間です」
それでは田舎のバス事情を知らないのも仕方ない。
少年は「大学行きのバス」と言っている。
宇関で大学といえば、真智君が通う西都科学技術大学しかない。となると、彼の両親は西都科学技術大学に勤めているのだろうか。ひょっとすると教授の息子とか?
少年の大きな丸い瞳を見つめる。あどけなさの中に、知性を感じられるような気がしないでも……気のせいか。
とにかく貴重な入塾希望者だ。少しでもいい印象を持ってほしい。
「私も今から帰るの。良かったら車で送りますよ」
普段ならそんなこと言わない。見ず知らずの高校生を車に乗せるなんて。
少年はパーカーのポケットに手をつっこみ、私を睨みつけた。
「……あなたは誰ですか?」
彼は私を警戒している。悪役面のおばさんが車に乗れなんて言ったらドン引きするだけよね。
「ごめんなさい。知らないおばさんの車になんて怖くて乗れませんよね。はい、これ。この塾で講師をしているの」
名刺を渡した。
「モトアシナツミさん? 変わった名前ですね」
少年が笑った。笑うと可愛い。
彼が変わった名前というのも無理はない。私も親戚以外の「素芦さん」に会ったことがない。
宇関町で「素芦」を名乗る人間は、もう私だけ。
この町に代々暮らす人たちは「素芦」の名を知っている。私の先祖は中世からこの宇関にいた。でも彼のように外から宇関にやって来た人は、知るはずがない。
少年は名乗り返した。
「僕のこと知ってるかもしれないけど、アサカワリュウトと言います」
『知ってるかもしれない』? 初めて会う子なのに?
ヤバい。私はあまりテレビを見ないから、芸能人や有名人がわからない。
アイドル? スポーツ選手? いや、囲碁将棋の天才かも。そんな感じだ。
「ごめんなさい。私、田舎者なので、あなたのこと知らないんです」
正直に謝った。
「いや……はは、普通そうですよね。マイナーな世界だし……僕、自意識過剰でした。恥ずかしいな」
アサカワ君はうつむき、頭をかいている。
「落ち込まないでください。私、ドラマもバラエティもクイズ番組も見ないから、有名人が全然わからないの。タイフーンのメンバー、区別つかないレベル」
国民的美少年アイドルグループを出してフォローしてみたが、アサカワ君はさらに慌てた。
「いやいやいや、僕、芸能人とか有名人じゃないです! ただ、素芦さんは、僕のことを知ってるから乗っけてくれるのかって思って……」
アサカワ君はまたうつむいた。
「入塾希望の子に夜遅く何時間も歩いて帰れなんて、申し訳ないわ」
彼が二十代~六十代の男性だったら乗せないだろう。タクシーの電話番号を教えて終わりだ。
が、タクシー代など払えない未成年にそれは可哀相でしょ。
助手席のドアを開け、シートに散らかしてあるボックスティッシュと雑誌を後部座席に移した。
「助手席に誰かを乗せるのは十一年ぶりかな。あなたで二人目よ」
十一年前、父に運転を教えてもらった。助手席はそれ以外使われたことがない。この車は一人で移動する時しか使わない。二人以上で移動する時、私は助手席に座る。そして運転手は、父、またはタクシーの谷さん、そして……もう一人のドライバーを思い出しムカついてきた。
「え? そうなんですか」
ルームライトの心もとない光の下で呟く少年が、戸惑っている。彼のその表情を見ているうちに、ムカつきが治まった。
「大学に行けばいいんですよね。二十分ぐらいで着きますよ」
少年はコクンとうなずいた。
車をゆっくり加速させ、大通りをまっすぐ進む。
「真智先生の噂はどこで聞いたんですか?」
「僕は、真智さんの後輩です」
そういうことね。なぜ真智君の授業を希望したのか、塾のホームページに講師の名前を載せていないので不思議に思ってた。
「先輩に憧れてうちの塾に来たのね」
「えーと、そういうわけでは……」
消え入るような声。先輩への憧れを宣言するのは恥ずかしいのだろう。
「あなたも真智先生みたいに宇宙に興味あるのかしら?」
視界の端にいるアサカワ君が首をピクっと上げた。
「ありますよ」
「すごいなあ。真智先生はよく宇宙の難しい話をしてるんです。あなたも宇宙を研究するなら、難しい勉強しないとね。理科や数学だけじゃなくて、外国語も大切って……」
「素芦さん」
話の途中で遮られた。それまでボソッとしゃべっていた少年の声が、狭い車内に高らかに響く。
私は思わず身をすくめる。
「宇宙って一つだと思いますか?」
突然、何を言い出すんだろう、この子は。大体、宇宙って一つじゃないの?
もしかして、暗黒皇帝陛下のいらっしゃる別世界のことを彼は言ってるの? ダメダメ! 地味で真面目そうな高校生を前に、十八禁乙女ゲームを思い出すなんて。
「今いる世界と全然違う世界、勇者が魔王を倒し世界を救う宇宙がリアルにあったら面白いでしょうね」
クスッと小さな笑い声が聞こえた。ああ、彼は私を馬鹿にしている。
「どうなんでしょうね。宇宙が複数あることを、一つの宇宙=ユニバースに対してマルチバースというんですが、この説を支持する研究者は多いんです。この宇宙が生まれたとき、多くの宇宙が生まれたと考えられ……10の500乗個の宇宙のうちほとんどは生命も誕生しないけど、僕らがいるぐらいだから、魔王と勇者がいても全然おかしくないか……」
話長いよ。
マルチバース? 10の500乗?ってなに? 地雷を踏んだみたい。ただ、私の耳には、暗黒皇帝陛下が実在する可能性は無きにしも非ずって聞こえたんだけど、違うのかな? でも、聞けない。恥ずかしくて聞けない。
陛下から離れよう。私は記憶を呼び起こしてみた。この七年、宇宙とは遠ざかっていたが、かつては宇宙に関わっていたのだ。
「そうなんですか。私もね昔、宇宙のこと調べてたんです。古い宇宙なんだけど」
「僕も古い宇宙、というか、宇宙の始まりについて勉強しているんです。どんな歴史学者よりも最強に古いよね。宇宙が生まれたのは138億年前ですから」
私の言う「古い」宇宙とは別の意味らしい。
宇宙が138億年前に生まれたということは、私を虜にする暗黒皇帝陛下は138億歳となる。究極の年上男子……だ・か・ら! 汚れない少年を送っている時に陛下のことを考えるのはやめようね。
「138億年ね。私のは千年前だから、かなり新しいのかな?」
「千年前の宇宙? もしかして、古い記録にある超新星爆発のこと?」
うわあ。千年前というだけで、当てられてしまった。アサカワ君は、なかなか宇宙オタクだ。
「すごいなあ。その通りよ。私は文学部なんだけど、学生の時、千年前の天体現象が書かれた中世の日記を調べてたんです」
私は、大学の研究を思い出した。古典に書かれた天文記録を考察していたことを。
超新星爆発とは、太陽よりずっと巨大な星が最後、とてつもない爆発をして一生を終えることだ。そのあたりは卒論のテーマにしたので、宇宙入門書で調べた。
千年前に起きた超新星爆発は、天体観測の記録として貴重だ。
中世の日記によると、空に突然星が光り、昼間でも明るかったという。
「そのころはね、古代から中世に変わろうという時代で、すごい不安定だったの。そういう天体現象で、ますます人は不安になったと思うの。今では、うーんと遠い星が爆発したって何も起きないってわかってるけどね」
古典には、流れ星や日食に月食など、様々な天体現象が書かれている。当時の人たちにとってそれは不吉の前兆で、未来を予測する手段だった。千年前よりもっと昔、この国の話ではないが、残虐に多くの政敵を葬ってきた帝国の支配者が日食を見て「私のせいだ」と言ったという記録もある。
うん。この話題ならいける、と油断してたらアサカワ君がとんでもないことを口にした。
「いや、超新星爆発によるガンマ線バーストが直撃したら、地球の生物が全滅してもおかしくありません」
「全滅? だってもう千年前にあったのよ! 私たち全滅しちゃうの?」
やめてやめて。地球全滅なんて怖いこと言わないで!
丸い大きな目でじっとこちらを見ている。知らない子だ。塾のフロアにいるということは入塾希望者だろうか。彼が近づいてきた。
こちらから声をかけてみよう。
「今日の授業はもう終わりましたよ」
少年は見た目通りの甲高い声で尋ねてきた。
「ここに真智拓弥っ人ていますか?」
うわあ、よりによって、チャラ男講師の名前をここで聞くとは。
彼は、真智君に憧れた入塾希望者なのかな? 西都科技大の院生は、名前で生徒を集めるほどの人気講師みたい。
苦手な真智君の名前を聞いて微妙な気分になる。しかし目の前の彼は、憧れの真智先生の授業を切実に望んでいるに違いない。
ただでさえ生徒が減っている。入塾希望者には親切にしないと。
私は受付に戻りA4サイズのパンフレットを取り出して、彼に渡した。
「真智先生の授業は数学に物理に化学。火曜と木曜の夜と土曜日ね。お父さんとお母さんに相談してくださいね」
少年は渡された資料と入塾申込書を見つめ「週に三日もここに来てるんですね」と確認してきた。
「熱心な先生ですよ。西都科学技術大学って宇関に新しくできた大学でね、宇宙の勉強をしてるんですって」
目の前の少年は貴重な入塾希望者だ。真智君は苦手だが、彼の講師としての能力は認めざるを得ない。
「真智さんのスケジュール、教えてくれてありがとうございます」
少年は表情を変えることなく頭を下げた。
「もう遅いから気をつけて帰ってくださいね。歩いて帰れますか?」
「大丈夫です。バスで帰りますから」
「え? もう夜の九時三十分よ。バスはないわ」
「いや、あるはずです。大学行きのバスが」
パーカーの少年は、バスがあるはずだと主張する。
「このあたりのバスは、都会と違ってすぐ終わっちゃうし、一日に二-三本がいいとこ。もしかして、あなたは都会から宇関に引っ越したばかりかな?」
「引っ越して一週間です」
それでは田舎のバス事情を知らないのも仕方ない。
少年は「大学行きのバス」と言っている。
宇関で大学といえば、真智君が通う西都科学技術大学しかない。となると、彼の両親は西都科学技術大学に勤めているのだろうか。ひょっとすると教授の息子とか?
少年の大きな丸い瞳を見つめる。あどけなさの中に、知性を感じられるような気がしないでも……気のせいか。
とにかく貴重な入塾希望者だ。少しでもいい印象を持ってほしい。
「私も今から帰るの。良かったら車で送りますよ」
普段ならそんなこと言わない。見ず知らずの高校生を車に乗せるなんて。
少年はパーカーのポケットに手をつっこみ、私を睨みつけた。
「……あなたは誰ですか?」
彼は私を警戒している。悪役面のおばさんが車に乗れなんて言ったらドン引きするだけよね。
「ごめんなさい。知らないおばさんの車になんて怖くて乗れませんよね。はい、これ。この塾で講師をしているの」
名刺を渡した。
「モトアシナツミさん? 変わった名前ですね」
少年が笑った。笑うと可愛い。
彼が変わった名前というのも無理はない。私も親戚以外の「素芦さん」に会ったことがない。
宇関町で「素芦」を名乗る人間は、もう私だけ。
この町に代々暮らす人たちは「素芦」の名を知っている。私の先祖は中世からこの宇関にいた。でも彼のように外から宇関にやって来た人は、知るはずがない。
少年は名乗り返した。
「僕のこと知ってるかもしれないけど、アサカワリュウトと言います」
『知ってるかもしれない』? 初めて会う子なのに?
ヤバい。私はあまりテレビを見ないから、芸能人や有名人がわからない。
アイドル? スポーツ選手? いや、囲碁将棋の天才かも。そんな感じだ。
「ごめんなさい。私、田舎者なので、あなたのこと知らないんです」
正直に謝った。
「いや……はは、普通そうですよね。マイナーな世界だし……僕、自意識過剰でした。恥ずかしいな」
アサカワ君はうつむき、頭をかいている。
「落ち込まないでください。私、ドラマもバラエティもクイズ番組も見ないから、有名人が全然わからないの。タイフーンのメンバー、区別つかないレベル」
国民的美少年アイドルグループを出してフォローしてみたが、アサカワ君はさらに慌てた。
「いやいやいや、僕、芸能人とか有名人じゃないです! ただ、素芦さんは、僕のことを知ってるから乗っけてくれるのかって思って……」
アサカワ君はまたうつむいた。
「入塾希望の子に夜遅く何時間も歩いて帰れなんて、申し訳ないわ」
彼が二十代~六十代の男性だったら乗せないだろう。タクシーの電話番号を教えて終わりだ。
が、タクシー代など払えない未成年にそれは可哀相でしょ。
助手席のドアを開け、シートに散らかしてあるボックスティッシュと雑誌を後部座席に移した。
「助手席に誰かを乗せるのは十一年ぶりかな。あなたで二人目よ」
十一年前、父に運転を教えてもらった。助手席はそれ以外使われたことがない。この車は一人で移動する時しか使わない。二人以上で移動する時、私は助手席に座る。そして運転手は、父、またはタクシーの谷さん、そして……もう一人のドライバーを思い出しムカついてきた。
「え? そうなんですか」
ルームライトの心もとない光の下で呟く少年が、戸惑っている。彼のその表情を見ているうちに、ムカつきが治まった。
「大学に行けばいいんですよね。二十分ぐらいで着きますよ」
少年はコクンとうなずいた。
車をゆっくり加速させ、大通りをまっすぐ進む。
「真智先生の噂はどこで聞いたんですか?」
「僕は、真智さんの後輩です」
そういうことね。なぜ真智君の授業を希望したのか、塾のホームページに講師の名前を載せていないので不思議に思ってた。
「先輩に憧れてうちの塾に来たのね」
「えーと、そういうわけでは……」
消え入るような声。先輩への憧れを宣言するのは恥ずかしいのだろう。
「あなたも真智先生みたいに宇宙に興味あるのかしら?」
視界の端にいるアサカワ君が首をピクっと上げた。
「ありますよ」
「すごいなあ。真智先生はよく宇宙の難しい話をしてるんです。あなたも宇宙を研究するなら、難しい勉強しないとね。理科や数学だけじゃなくて、外国語も大切って……」
「素芦さん」
話の途中で遮られた。それまでボソッとしゃべっていた少年の声が、狭い車内に高らかに響く。
私は思わず身をすくめる。
「宇宙って一つだと思いますか?」
突然、何を言い出すんだろう、この子は。大体、宇宙って一つじゃないの?
もしかして、暗黒皇帝陛下のいらっしゃる別世界のことを彼は言ってるの? ダメダメ! 地味で真面目そうな高校生を前に、十八禁乙女ゲームを思い出すなんて。
「今いる世界と全然違う世界、勇者が魔王を倒し世界を救う宇宙がリアルにあったら面白いでしょうね」
クスッと小さな笑い声が聞こえた。ああ、彼は私を馬鹿にしている。
「どうなんでしょうね。宇宙が複数あることを、一つの宇宙=ユニバースに対してマルチバースというんですが、この説を支持する研究者は多いんです。この宇宙が生まれたとき、多くの宇宙が生まれたと考えられ……10の500乗個の宇宙のうちほとんどは生命も誕生しないけど、僕らがいるぐらいだから、魔王と勇者がいても全然おかしくないか……」
話長いよ。
マルチバース? 10の500乗?ってなに? 地雷を踏んだみたい。ただ、私の耳には、暗黒皇帝陛下が実在する可能性は無きにしも非ずって聞こえたんだけど、違うのかな? でも、聞けない。恥ずかしくて聞けない。
陛下から離れよう。私は記憶を呼び起こしてみた。この七年、宇宙とは遠ざかっていたが、かつては宇宙に関わっていたのだ。
「そうなんですか。私もね昔、宇宙のこと調べてたんです。古い宇宙なんだけど」
「僕も古い宇宙、というか、宇宙の始まりについて勉強しているんです。どんな歴史学者よりも最強に古いよね。宇宙が生まれたのは138億年前ですから」
私の言う「古い」宇宙とは別の意味らしい。
宇宙が138億年前に生まれたということは、私を虜にする暗黒皇帝陛下は138億歳となる。究極の年上男子……だ・か・ら! 汚れない少年を送っている時に陛下のことを考えるのはやめようね。
「138億年ね。私のは千年前だから、かなり新しいのかな?」
「千年前の宇宙? もしかして、古い記録にある超新星爆発のこと?」
うわあ。千年前というだけで、当てられてしまった。アサカワ君は、なかなか宇宙オタクだ。
「すごいなあ。その通りよ。私は文学部なんだけど、学生の時、千年前の天体現象が書かれた中世の日記を調べてたんです」
私は、大学の研究を思い出した。古典に書かれた天文記録を考察していたことを。
超新星爆発とは、太陽よりずっと巨大な星が最後、とてつもない爆発をして一生を終えることだ。そのあたりは卒論のテーマにしたので、宇宙入門書で調べた。
千年前に起きた超新星爆発は、天体観測の記録として貴重だ。
中世の日記によると、空に突然星が光り、昼間でも明るかったという。
「そのころはね、古代から中世に変わろうという時代で、すごい不安定だったの。そういう天体現象で、ますます人は不安になったと思うの。今では、うーんと遠い星が爆発したって何も起きないってわかってるけどね」
古典には、流れ星や日食に月食など、様々な天体現象が書かれている。当時の人たちにとってそれは不吉の前兆で、未来を予測する手段だった。千年前よりもっと昔、この国の話ではないが、残虐に多くの政敵を葬ってきた帝国の支配者が日食を見て「私のせいだ」と言ったという記録もある。
うん。この話題ならいける、と油断してたらアサカワ君がとんでもないことを口にした。
「いや、超新星爆発によるガンマ線バーストが直撃したら、地球の生物が全滅してもおかしくありません」
「全滅? だってもう千年前にあったのよ! 私たち全滅しちゃうの?」
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