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6 主人公は、あっさりワナにはまる
(8)すいません。おじいさん二人の書き分け、できないんです。
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パリスは気だるさのなかで目覚めた。昨晩、王女の乳母と飲んだワインが、抜けきれていない。
目覚めてすぐ侍女が部屋に入り、パリスを広間に案内した。
「ヒポクラテス先生!」
師匠は大きなテーブルの前に座っていた。侍女の勧めでパリスは隣に腰掛ける。テーブルには、パンにチーズを乗せた皿が並んでいる。
「おやおやパリス、飲んだんか? 酒はほどほどになー」
「すいません。王女様の乳母と盛り上がっちゃって……」
パリスは気まずさに頭を掻いた。
「王女様の乳母殿か……難しいなー」と、ヒポクラテスは頭をひねる。
「僕、王様に昨晩会いました。先生に話を聞いてもらって、元気になったみたいですよ」
「いくらわしでも、一晩で病気を治すことなどできないよん。王の病は、どんな薬も効き目ないだろうなあ」
「え! そんなにひどいんですか?」
「いやー、時間をかけるしかないってこと。王が自分の力で治すしか……さて、褒美をもらいに行くよ~」
ヒポクラテスが立ち上がったので、パリスもパンを齧りながら合わせて腰を上げる。
「先生の褒美って、王宮の裏庭散策だっけ?」
名医は顔をくしゃっとさせて笑った。
「いや~、王宮の森って、普通行けないんよ。そういう場所にはね、薬になる珍しい草やキノコがあるんだなあ」
侍女が二人を裏庭に案内しようと誘った途端、「パリス様! あの老人から」と使いの男が入ってきた。
ヒポクラテスが王宮の裏庭で薬草採取に励む間、パリスはスエシュドス老人に会いにいった。何日ぶりだろう。
城近くの小さな宿に案内された。大部屋の片隅でスエシュドスは身を縮こまらせている。
「おじいさん! 知らせがなくて心配してたんだよ」
「パリスさん、すまんのう。わしは、アカイアの王様や城が怖くて怖くて……」
ヘクトルのいう通り、老人は、アカイアの王に理不尽な目に合わされた戦士だったのか? パリスは老人が受けたであろう傷に、悲しみを覚える。
この老人に何かしてあげたいと、パリスは頭を巡らす。
「いいこと思いついた! おじいさんの身体、僕の先生に診てもらおうよ!」
しかし老人は杖を握りしめ、体を震わせた。
「わしは医者が大っ嫌いじゃ! 息子が小さいとき病気になったんじゃが、黄金のリンゴでないと治せないと医者がいう。そんなもの貧しいわしに買えるわけもなく……」
以前も老人から聞かされていた。病の息子を助けたくとも、貧しさでどうにもならなかったと。
「わかったよ……せめて先生と一緒に旅できない?」
スエシュドスは首を振るばかりだ。パリスは、老人にあまり歩かせるのも酷だと思い直す。
「じゃ、僕はこれから、先生に田舎のことお願いして友達に会ってくる。終わったら、ここに戻るね」
束の間の再会の後、二人は別れることとなる。パリスとスエシュドスは、二ヶ月後に、この宿で落ち合うこととなった。
この別れは、造物主が年寄り二人の書き分けができず、同じパーティーにするのが厳しい、という話の都合からではない!
王宮の広間に戻ったパリスを、王女ヘルミオネと乳母のガイアが出迎えた。
ガイアは昨晩のことなどなかったかのように「よくお休みになれましたか?」と涼しげな顔を見せる。
パリスは、昨晩乳母と盛り上がったことを思い出す。何もなかったとはいえ、気まずい。頭を掻いて目を反らす。
一方、少女は頬を膨らませ目を吊り上げていた。
「ヘルミオネ、どうしたの? 昨日は楽しく踊っていたのに」
もしかして、ガイアとふたりで飲んで盛り上がっていたことがバレたのだろうか? 不安な若者は、乳母にチラチラと視線を送る。が、中年女は涼しい顔を崩さない。
「ガイアが言ってた。トロイアの女と結婚するんでしょ? ずるいよパリス」
なんで余計なことをこの乳母はしゃべるんだ? と思わないでもないが、少女の機嫌が悪い理由はわかった。
「ず、ずるいかなあ? 大人になれば、みんな結婚するよ」
「パリスの彼女って、すごい美人なの?」
「ま、まあね……ああ、ヘルミオネは大人になったら、すごい美人になるよ」
「パリスは美人と結婚できるのに、私は、私は……」
王女が泣き出した。
パリスは少女の頭をそっと撫でる。ヘルミオネはパリスの腰にしがみついた。
「私、ミノタウロスと結婚させられるの!」
目覚めてすぐ侍女が部屋に入り、パリスを広間に案内した。
「ヒポクラテス先生!」
師匠は大きなテーブルの前に座っていた。侍女の勧めでパリスは隣に腰掛ける。テーブルには、パンにチーズを乗せた皿が並んでいる。
「おやおやパリス、飲んだんか? 酒はほどほどになー」
「すいません。王女様の乳母と盛り上がっちゃって……」
パリスは気まずさに頭を掻いた。
「王女様の乳母殿か……難しいなー」と、ヒポクラテスは頭をひねる。
「僕、王様に昨晩会いました。先生に話を聞いてもらって、元気になったみたいですよ」
「いくらわしでも、一晩で病気を治すことなどできないよん。王の病は、どんな薬も効き目ないだろうなあ」
「え! そんなにひどいんですか?」
「いやー、時間をかけるしかないってこと。王が自分の力で治すしか……さて、褒美をもらいに行くよ~」
ヒポクラテスが立ち上がったので、パリスもパンを齧りながら合わせて腰を上げる。
「先生の褒美って、王宮の裏庭散策だっけ?」
名医は顔をくしゃっとさせて笑った。
「いや~、王宮の森って、普通行けないんよ。そういう場所にはね、薬になる珍しい草やキノコがあるんだなあ」
侍女が二人を裏庭に案内しようと誘った途端、「パリス様! あの老人から」と使いの男が入ってきた。
ヒポクラテスが王宮の裏庭で薬草採取に励む間、パリスはスエシュドス老人に会いにいった。何日ぶりだろう。
城近くの小さな宿に案内された。大部屋の片隅でスエシュドスは身を縮こまらせている。
「おじいさん! 知らせがなくて心配してたんだよ」
「パリスさん、すまんのう。わしは、アカイアの王様や城が怖くて怖くて……」
ヘクトルのいう通り、老人は、アカイアの王に理不尽な目に合わされた戦士だったのか? パリスは老人が受けたであろう傷に、悲しみを覚える。
この老人に何かしてあげたいと、パリスは頭を巡らす。
「いいこと思いついた! おじいさんの身体、僕の先生に診てもらおうよ!」
しかし老人は杖を握りしめ、体を震わせた。
「わしは医者が大っ嫌いじゃ! 息子が小さいとき病気になったんじゃが、黄金のリンゴでないと治せないと医者がいう。そんなもの貧しいわしに買えるわけもなく……」
以前も老人から聞かされていた。病の息子を助けたくとも、貧しさでどうにもならなかったと。
「わかったよ……せめて先生と一緒に旅できない?」
スエシュドスは首を振るばかりだ。パリスは、老人にあまり歩かせるのも酷だと思い直す。
「じゃ、僕はこれから、先生に田舎のことお願いして友達に会ってくる。終わったら、ここに戻るね」
束の間の再会の後、二人は別れることとなる。パリスとスエシュドスは、二ヶ月後に、この宿で落ち合うこととなった。
この別れは、造物主が年寄り二人の書き分けができず、同じパーティーにするのが厳しい、という話の都合からではない!
王宮の広間に戻ったパリスを、王女ヘルミオネと乳母のガイアが出迎えた。
ガイアは昨晩のことなどなかったかのように「よくお休みになれましたか?」と涼しげな顔を見せる。
パリスは、昨晩乳母と盛り上がったことを思い出す。何もなかったとはいえ、気まずい。頭を掻いて目を反らす。
一方、少女は頬を膨らませ目を吊り上げていた。
「ヘルミオネ、どうしたの? 昨日は楽しく踊っていたのに」
もしかして、ガイアとふたりで飲んで盛り上がっていたことがバレたのだろうか? 不安な若者は、乳母にチラチラと視線を送る。が、中年女は涼しい顔を崩さない。
「ガイアが言ってた。トロイアの女と結婚するんでしょ? ずるいよパリス」
なんで余計なことをこの乳母はしゃべるんだ? と思わないでもないが、少女の機嫌が悪い理由はわかった。
「ず、ずるいかなあ? 大人になれば、みんな結婚するよ」
「パリスの彼女って、すごい美人なの?」
「ま、まあね……ああ、ヘルミオネは大人になったら、すごい美人になるよ」
「パリスは美人と結婚できるのに、私は、私は……」
王女が泣き出した。
パリスは少女の頭をそっと撫でる。ヘルミオネはパリスの腰にしがみついた。
「私、ミノタウロスと結婚させられるの!」
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