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5 定番ですが、主人公は王子様
(22)造物主は、なぜトロイア戦争に手を出したのか?
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遥か彼方の天空で、造物主(作者)はヘタレていた。
「クロノスさん、もう無理っす~」
時の神――ここではなんでも都合よく解決する神クロノスが、造物主の召喚に応じて顕現した。『顕現』ってこういう使い方でいいのか知らない。単に使ってみたかっただけである。
「今回は、パリスはトロイアに行ったが、王子の暮らしに嫌気が指して、四日で出てったということか。それだけの話に長々と二十話もかかりおって」
「いやいや、今回、すごい女子度がアップしたよ。ワンシーンだけど主人公ハーレムしたよ。かわいい彼女もできたし、カメオの美人妻も登場! 画期的な回だったね」
「で、まだ第一章の次のネタが出てこないぞ」
●ヒポクラテスとパリスは王の病を治すため、王宮から呼び出される。
●パリスはヘルミオネという踊り子を連れて故郷に帰り結婚する。
「第一章は、ギリシャな名前を出しただけのサンプル文章なんだよ」
「お主がヘタレているのは、このネタに繋げられないからか?」
「それはなんとかする……それより自分、なんでトロイア戦争なんて超巨大コンテンツに、手を出しちゃったんだよ~!!」
造物主は机に突っ伏した。いや、マジに。
「それは『パリス』を主人公にしたからじゃろ?」
「チャラい美少年っていじりやすいじゃん。元ネタのキャラの雰囲気だけ借りて、全然関係ないファンタジーにするつもりだった」
「じゃが、今回の第五章で、トロイア戦争っぽくなってきたのお」
「失敗した~!! トロイア戦争って、私みたいな下っ端小説投稿者が手を出していいコンテンツじゃなかった」
またまた造物主は、さめざめと泣いた。「さめざめ」とはどういう状態なのかよくわからないが、ともあれ造物主は、嘆いた。
「歴史に残る文学者や画家が、トロイア戦争をネタに小説や絵画をたくさん作ってるんだよ。私には無理っす」
「そんなことも知らんかったか?」
「知らなかったよ。私、今まで小さいスケールのイチャベタ世界しか造ってないんだ。壮大な戦争ものなんて無理! 戦争物読むときも戦争シーン読み飛ばしてる」
「……戦記文学から戦争シーン飛ばしたら、なにが残るんじゃ?」
「戦記物だってイチャベタシーンあるよ。あと私、政治・外交・経済、全然わからないや。ずっと平社員で、数人のバイトさんや後輩を指導するぐらい。社長はもちろん、国のトップとか歴史に残る偉人の気持ち、謎すぎる」
「とはいえここまできたら、アキレウスにヘレネ、オデュッセウス、出さないわけにいかんのう」
「人多すぎ。無理っす。でも一番の失敗は、ヘクトルを出したことなんだよ~!!」
造物主は机をどんどん叩きだした。
「大昔、私『イリアス』読んで、ヘクトルにガチ恋したんだ」
『イリアス』とは、トロイアの物語が描かれた古代ギリシャ文学である。パリスやヘクトルも登場する。なお、この物語は本家とは全然違うので、『イリアス』についてはウェブを参照されたい。
「お堅いギリシャ古典文学のお堅い登場人物に、ガチ恋したもんなあ。アニメやゲーム・漫画からじゃないよ。文字情報だけで本気に好きになったもん」
「で、お主。焼け木杭に火が着いたと?」
「とっくに忘れてたのに、この世界を造り出したら……思い出しちゃった」
「それで第三章が唐突にBLになったんじゃな」
「BLを自分が書くなんて絶対ないと思ったのに……ヘクトル出しちゃったら、筆が滑った……違うな、キーボードが暴れだしたんだよ」
「第四章は、おもしろくない数学小説になったな」
「かっこいい謎が思いつかなかったからだけど、BLから軌道修正のつもりもあったよ」
「しかしお主、この第五章、また軌道を戻してないか? パリスが第三章BL回の記憶を、思い出しとるじゃろ? しつこいぐらいに」
「な、なにを言ってるのかなあ? クロノスさん」
造物主の額に汗がタラタラ流れる。
「わしがちゃんとBL話を終わらせてやったのに……人の、いや神の苦労を無碍にする気か?」
「そうだ、クロノスさん。『思う気持ちは二度と戻らない』って言っちゃったよね」
「あの展開からすれば、それしかないじゃろ!」
「うーん……まあファンタジーだから、謎の奇跡で復活ってありだよね。元気出た。がんばる! クロノスさん忙しいんでしょ? ばいば~い」
「おい、神にその扱いはあんまりじゃろう……ん、呼出しか? 『パソコンがトロイの木馬に感染して、ヤバい情報漏れちゃった。時間戻して』じゃと? そんなの聞きたくもないが……うっ! 念が強いから引っ張られる……や、やめるんじゃああああ」
時の神クロノスは、どこかに召喚され、造物主の前から消えてしまった。
なお、この世界は全年齢設定である。仮に軌道が外れても過激な表現はないので、ご懸念には及ばない。
「クロノスさん、もう無理っす~」
時の神――ここではなんでも都合よく解決する神クロノスが、造物主の召喚に応じて顕現した。『顕現』ってこういう使い方でいいのか知らない。単に使ってみたかっただけである。
「今回は、パリスはトロイアに行ったが、王子の暮らしに嫌気が指して、四日で出てったということか。それだけの話に長々と二十話もかかりおって」
「いやいや、今回、すごい女子度がアップしたよ。ワンシーンだけど主人公ハーレムしたよ。かわいい彼女もできたし、カメオの美人妻も登場! 画期的な回だったね」
「で、まだ第一章の次のネタが出てこないぞ」
●ヒポクラテスとパリスは王の病を治すため、王宮から呼び出される。
●パリスはヘルミオネという踊り子を連れて故郷に帰り結婚する。
「第一章は、ギリシャな名前を出しただけのサンプル文章なんだよ」
「お主がヘタレているのは、このネタに繋げられないからか?」
「それはなんとかする……それより自分、なんでトロイア戦争なんて超巨大コンテンツに、手を出しちゃったんだよ~!!」
造物主は机に突っ伏した。いや、マジに。
「それは『パリス』を主人公にしたからじゃろ?」
「チャラい美少年っていじりやすいじゃん。元ネタのキャラの雰囲気だけ借りて、全然関係ないファンタジーにするつもりだった」
「じゃが、今回の第五章で、トロイア戦争っぽくなってきたのお」
「失敗した~!! トロイア戦争って、私みたいな下っ端小説投稿者が手を出していいコンテンツじゃなかった」
またまた造物主は、さめざめと泣いた。「さめざめ」とはどういう状態なのかよくわからないが、ともあれ造物主は、嘆いた。
「歴史に残る文学者や画家が、トロイア戦争をネタに小説や絵画をたくさん作ってるんだよ。私には無理っす」
「そんなことも知らんかったか?」
「知らなかったよ。私、今まで小さいスケールのイチャベタ世界しか造ってないんだ。壮大な戦争ものなんて無理! 戦争物読むときも戦争シーン読み飛ばしてる」
「……戦記文学から戦争シーン飛ばしたら、なにが残るんじゃ?」
「戦記物だってイチャベタシーンあるよ。あと私、政治・外交・経済、全然わからないや。ずっと平社員で、数人のバイトさんや後輩を指導するぐらい。社長はもちろん、国のトップとか歴史に残る偉人の気持ち、謎すぎる」
「とはいえここまできたら、アキレウスにヘレネ、オデュッセウス、出さないわけにいかんのう」
「人多すぎ。無理っす。でも一番の失敗は、ヘクトルを出したことなんだよ~!!」
造物主は机をどんどん叩きだした。
「大昔、私『イリアス』読んで、ヘクトルにガチ恋したんだ」
『イリアス』とは、トロイアの物語が描かれた古代ギリシャ文学である。パリスやヘクトルも登場する。なお、この物語は本家とは全然違うので、『イリアス』についてはウェブを参照されたい。
「お堅いギリシャ古典文学のお堅い登場人物に、ガチ恋したもんなあ。アニメやゲーム・漫画からじゃないよ。文字情報だけで本気に好きになったもん」
「で、お主。焼け木杭に火が着いたと?」
「とっくに忘れてたのに、この世界を造り出したら……思い出しちゃった」
「それで第三章が唐突にBLになったんじゃな」
「BLを自分が書くなんて絶対ないと思ったのに……ヘクトル出しちゃったら、筆が滑った……違うな、キーボードが暴れだしたんだよ」
「第四章は、おもしろくない数学小説になったな」
「かっこいい謎が思いつかなかったからだけど、BLから軌道修正のつもりもあったよ」
「しかしお主、この第五章、また軌道を戻してないか? パリスが第三章BL回の記憶を、思い出しとるじゃろ? しつこいぐらいに」
「な、なにを言ってるのかなあ? クロノスさん」
造物主の額に汗がタラタラ流れる。
「わしがちゃんとBL話を終わらせてやったのに……人の、いや神の苦労を無碍にする気か?」
「そうだ、クロノスさん。『思う気持ちは二度と戻らない』って言っちゃったよね」
「あの展開からすれば、それしかないじゃろ!」
「うーん……まあファンタジーだから、謎の奇跡で復活ってありだよね。元気出た。がんばる! クロノスさん忙しいんでしょ? ばいば~い」
「おい、神にその扱いはあんまりじゃろう……ん、呼出しか? 『パソコンがトロイの木馬に感染して、ヤバい情報漏れちゃった。時間戻して』じゃと? そんなの聞きたくもないが……うっ! 念が強いから引っ張られる……や、やめるんじゃああああ」
時の神クロノスは、どこかに召喚され、造物主の前から消えてしまった。
なお、この世界は全年齢設定である。仮に軌道が外れても過激な表現はないので、ご懸念には及ばない。
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