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5 定番ですが、主人公は王子様
(15)王子の修行
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ヘクトルの三人の旅仲間は、トロイア国の重鎮に引き合わされた。
未来人トリファントスは、王族アイネイアスの監視の元、王宮に留められることとなった。
アカイアの船乗りスエシュドスの願いは、パリスの説得の功があったのか、聞き届けられる。ポセイドンの神殿は、王子デイポボスの指揮で建てられることとなった。
パリスは、死んだはずの王子アレクサンドロスと認められた。ヘクトルは、パリスを自身の跡継ぎにと主張するが、プリアモス王は斥けた。
客人の目通りが終わり、場は散会となった。パリスは、スエシュドス老人と「どんな神殿がいいかなあ?」と盛り上がり、王宮の道をフラフラ歩く。
が、門に差し掛かると、パリスの前に、王子デイポボスが立ちはだかった。
「アレクサンドロスはそこまでだ。この老人は海の宿で働いてもらう」
「あ、神殿を建てろって言われた王子様だね。おじいさん、働かせるのかわいそうだよ……このお城に住めないの?」
「ただのアカイアの老人を、王宮に住ませるわけにいかないだろ。ヘクトル兄上に言われたんだよ」
パリスは渋々承知した。自分がここで寝泊まりできたのは、王子だからだ。正式に王子と認められて一日だから、ピンとこないが。
「わかったよ。じゃ、夜までに戻るから、おじいさんと一緒に宿に行くよ」
が、王子デイポボスは譲らない。
「父上に言われたよな。王宮から出るなって」
デイポボスは神官たちを引きつれ、スエシュドス老人と共に宮の門から出ていった。
パリスは、二人の兵士に阻まれ、町へ消えていく一行を見つめるしかなかった。
「アレクサンドロス様は、こちらへ」
パリスは落ち込む間もなく二人の兵士に両側を囲まれ、王宮の中庭に連れていかれた。
庭には石畳が敷かれている。奥の建物から何人もの少年が、剣・兜・鎧そして盾を持ってきた。
少年たちが防具一式を、兵士に手渡す。
「これでどうでしょう? アレクサンドロス様に合いますか?」
兵士の一人が「いずれ王子様専用の防具を仕立てなければならないが、今日のところはいいだろう」と応える。
パリスは、鎧と兜を着けさせられた。
「な、なに? 見えないよ」
青銅の鎧は重く、立っているのもままならない。兜も重く頭が痛くなる。剣と盾を持たせられた。
パリスは不満で口を尖らせる。自分は戦士タイプじゃなくて長距離攻撃専門の狩人だ。装備がスキルに合ってない。
「では、参ります」
兵士はいきなり剣を抜き、パリスに降り被ってきた。
「ちょ、ちょっと待てよ! やめて!」
「アレクサンドロス様! トロイアの王子様はみな戦士として、幼いころから鍛えられています。あなたもトロイアの戦士。王子様が、私みたいなモブキャラにやられるようでは、先が思いやられます!」
「や、やだああああ! 助けてええええ!!!」
王子の修行が始まった。「スパルタ教育」という言葉を使ってもいいのだが、スパルタはトロイアの敵陣営の町なので、やめておく。
「やだ、もうやだ……王子なんていい……田舎に帰りたい……」
傷だらけのパリスは、寝台の上でぐったり横たわっている。
前触れもなく、剣で戦わされた。鎧を装備したことのないパリスは、歩くのもままならない。
世話する侍女は、今朝と同じ老婆だ。
「王子様、大変でしたね」と、パリスの腕に着いた傷や汚れを拭ってくれる。
おばあちゃんだって優しくされれば嬉しい。でも今のパリスは、優しさ以上のナニカを求めていた。
昨晩抱き合った、愛らしい娘。
「オイノネ……会いたい……そうだ!」
パリスはガバっと跳ね起きた。先ほどの退屈な時間で思いついたアイデアを実行しよう。
「おばあちゃん。僕、アンドロマケさんにすごく世話になったんだ。だから、お礼したいんだ」
「えーと……では、聞いてみましょうかね」
「いいよ、おばあちゃんに着いていくから。そうだ、これ持っていこう」
パリスは、まだほどいていない自分の荷袋からアカイアの笛を取り出し、老女と共に部屋を出た。老女が通路を歩く使用人を呼び止め耳打ちする。使用人は奥へ走り去った。
「若奥様もアレクサンドロス様を迎えるのにお支度がいるでしょうから、それまで王宮を案内しましょうか」
「支度なんて気にしなくていいのに。うん、おばあちゃん、案内頼むね」
パリスは老女の案内で、王宮の機織り部屋や厨房などを見て回った。広い部屋で何人もの女たちが一斉に作業する様子に、パリスは感動を覚えた。
女たちは新しく王宮に入った美しい王子の訪れに、黄色い歓声を上げる。パリスはパリスで、歓声の主のだれかと仲良くするのもありかな? と、テンションが上がる。
王宮ツアーの後、老女はパリスに奥の一室を指し示し「では、私はこれで」と去っていく。
室内は明るい。正面奥がバルコニーと開けているため、はるか遠くに海が見渡せる。
カメオの美女が、バルコニー手前の椅子に座っていた。
それはいいが、美女のとなりに、子供を膝に乗せた男が座っていた。今、一番会いたくない男だった。
「げっ、ヘクトル、なんでいるの?」
未来人トリファントスは、王族アイネイアスの監視の元、王宮に留められることとなった。
アカイアの船乗りスエシュドスの願いは、パリスの説得の功があったのか、聞き届けられる。ポセイドンの神殿は、王子デイポボスの指揮で建てられることとなった。
パリスは、死んだはずの王子アレクサンドロスと認められた。ヘクトルは、パリスを自身の跡継ぎにと主張するが、プリアモス王は斥けた。
客人の目通りが終わり、場は散会となった。パリスは、スエシュドス老人と「どんな神殿がいいかなあ?」と盛り上がり、王宮の道をフラフラ歩く。
が、門に差し掛かると、パリスの前に、王子デイポボスが立ちはだかった。
「アレクサンドロスはそこまでだ。この老人は海の宿で働いてもらう」
「あ、神殿を建てろって言われた王子様だね。おじいさん、働かせるのかわいそうだよ……このお城に住めないの?」
「ただのアカイアの老人を、王宮に住ませるわけにいかないだろ。ヘクトル兄上に言われたんだよ」
パリスは渋々承知した。自分がここで寝泊まりできたのは、王子だからだ。正式に王子と認められて一日だから、ピンとこないが。
「わかったよ。じゃ、夜までに戻るから、おじいさんと一緒に宿に行くよ」
が、王子デイポボスは譲らない。
「父上に言われたよな。王宮から出るなって」
デイポボスは神官たちを引きつれ、スエシュドス老人と共に宮の門から出ていった。
パリスは、二人の兵士に阻まれ、町へ消えていく一行を見つめるしかなかった。
「アレクサンドロス様は、こちらへ」
パリスは落ち込む間もなく二人の兵士に両側を囲まれ、王宮の中庭に連れていかれた。
庭には石畳が敷かれている。奥の建物から何人もの少年が、剣・兜・鎧そして盾を持ってきた。
少年たちが防具一式を、兵士に手渡す。
「これでどうでしょう? アレクサンドロス様に合いますか?」
兵士の一人が「いずれ王子様専用の防具を仕立てなければならないが、今日のところはいいだろう」と応える。
パリスは、鎧と兜を着けさせられた。
「な、なに? 見えないよ」
青銅の鎧は重く、立っているのもままならない。兜も重く頭が痛くなる。剣と盾を持たせられた。
パリスは不満で口を尖らせる。自分は戦士タイプじゃなくて長距離攻撃専門の狩人だ。装備がスキルに合ってない。
「では、参ります」
兵士はいきなり剣を抜き、パリスに降り被ってきた。
「ちょ、ちょっと待てよ! やめて!」
「アレクサンドロス様! トロイアの王子様はみな戦士として、幼いころから鍛えられています。あなたもトロイアの戦士。王子様が、私みたいなモブキャラにやられるようでは、先が思いやられます!」
「や、やだああああ! 助けてええええ!!!」
王子の修行が始まった。「スパルタ教育」という言葉を使ってもいいのだが、スパルタはトロイアの敵陣営の町なので、やめておく。
「やだ、もうやだ……王子なんていい……田舎に帰りたい……」
傷だらけのパリスは、寝台の上でぐったり横たわっている。
前触れもなく、剣で戦わされた。鎧を装備したことのないパリスは、歩くのもままならない。
世話する侍女は、今朝と同じ老婆だ。
「王子様、大変でしたね」と、パリスの腕に着いた傷や汚れを拭ってくれる。
おばあちゃんだって優しくされれば嬉しい。でも今のパリスは、優しさ以上のナニカを求めていた。
昨晩抱き合った、愛らしい娘。
「オイノネ……会いたい……そうだ!」
パリスはガバっと跳ね起きた。先ほどの退屈な時間で思いついたアイデアを実行しよう。
「おばあちゃん。僕、アンドロマケさんにすごく世話になったんだ。だから、お礼したいんだ」
「えーと……では、聞いてみましょうかね」
「いいよ、おばあちゃんに着いていくから。そうだ、これ持っていこう」
パリスは、まだほどいていない自分の荷袋からアカイアの笛を取り出し、老女と共に部屋を出た。老女が通路を歩く使用人を呼び止め耳打ちする。使用人は奥へ走り去った。
「若奥様もアレクサンドロス様を迎えるのにお支度がいるでしょうから、それまで王宮を案内しましょうか」
「支度なんて気にしなくていいのに。うん、おばあちゃん、案内頼むね」
パリスは老女の案内で、王宮の機織り部屋や厨房などを見て回った。広い部屋で何人もの女たちが一斉に作業する様子に、パリスは感動を覚えた。
女たちは新しく王宮に入った美しい王子の訪れに、黄色い歓声を上げる。パリスはパリスで、歓声の主のだれかと仲良くするのもありかな? と、テンションが上がる。
王宮ツアーの後、老女はパリスに奥の一室を指し示し「では、私はこれで」と去っていく。
室内は明るい。正面奥がバルコニーと開けているため、はるか遠くに海が見渡せる。
カメオの美女が、バルコニー手前の椅子に座っていた。
それはいいが、美女のとなりに、子供を膝に乗せた男が座っていた。今、一番会いたくない男だった。
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