ギリシャ神話ファンタジーを書いてます ~パリスの大冒険~

さんかく ひかる

文字の大きさ
上 下
44 / 101
5 定番ですが、主人公は王子様

(11)憂鬱な夜を解決する方法

しおりを挟む
「こんなつもりじゃなかったのに。王子ってもっと楽しいんじゃないの?」

 パリスは寝台に腰かけ、頭を抱えていた。
 二十年ぶりの親子の対面。トリファントスから不吉の子として捨てられたと聞かされたが、それでも感動で胸がつまり、泣き叫び、硬く抱き合う展開を期待していた。
 王妃には泣かれた。が、彼女の腕に包まれても、パリスは当惑するだけだった。
 そして王は捨てた息子に、怪物キマイラでも見るような眼差しを向けた。未来人の予言通り、パリスは不吉の子だから捨てられたのだ。

 石壁に穿たれた穴から差し込む満月の光が、豪奢な部屋を照らす。パリスの寝場所は、客間から王族の部屋に移った。
 彼は、羊毛が敷き詰められた柔らかな寝台に身体を横たえたが、眠れなかった。
 ポツンと取り残され、さみしさが押し寄せてくる。いや、さみしさだけではない。底知れぬ大きな不安が、パリスを圧し潰そうとする。

 トロイア王宮のこの部屋に案内されたとき、パリスは幸せだった。四人ものかわいい女の子が笑顔を向けてくれた。そんな毎日なら王子ってサイコーじゃん!
 今ごろ、その女の子の一人、上手くいけば二人ぐらいと仲良くしていたはずなのに、だれも来てくれない……そうだ! こっちから、あの子たちを探しに行けばいいんだ!

 新たな目標を得て、パリスは気力を取り戻す。大きな問題は変わらないが、今夜ぐらい楽しく過ごしたい。
 部屋の入り口にはご丁寧にもヘクトルと同じ体格のごつい男が突っ立っている。

 間違いなくヘクトルの仕業だ。昼間も侍女たちと楽しく遊んでたら、あいつは邪魔しやがった。
 ――ずるいよなあ、あいつ。部下に見張りなんて面倒な仕事押し付けて、自分は今ごろ美人妻アンドロマケさんとイチャイチャしてるに決まってるんだ!
 どんな口実で部屋を出よう? ごつい親父にスーパーチャームは発動したくないが、ひとりでいるのは耐えられない……。

 しかし、問題はあっさり解決する。

「パリス様、もうお休みでしょうか?」

 パリスが立ち上がった途端、若い女の声が薄暗い室内に響いた。聞き覚えのあるかわいらしい声。
 昼間、パリスたちを楽しませてくれた四人の侍女の一人が、部屋に入ってきた。
 若者の切なる願いを叶えてくれる救いの女神の訪れ。

「やったあ! 向こうからやってきた! 神様、本当にありがとう!」

 パリスは心の底から神に感謝を捧げ、さっそく行動に移した。娘の腰に手を伸ばし小さな身体をフワッと持ち上げる。

「えっ、うわ!? う、嘘? いきなり!?」

 突然持ち上げられた娘は困惑するしかない。娘の困惑など構わず、パリスはいわゆるお姫様抱っこを敢行する。
 この段階で、娘の顔をのぞきこむ。

「君は昼間、笛を吹いてくれた子だよね」

 若者に運ばれたまま、娘はカクカクと頷いた。

「かわいいよ。名前なんていうの?」

「あ……オイノネです」

 娘は縮こまって震えつつも、しっかり名を名乗った。日本の平安時代では、男が女に名を尋ねるのはプロポーズだったらしい。古代ギリシャのプロポーズ事情は知らないが、もちろん、チャラいパリスにそんなつもりはない。

「オイノネか、名前もかわいいね」

 パリスは娘の身体を寝台に横たわらせた。


 若い侍女が目を閉じ、身を固くして震えている。
 パリスはオイノネの頬を優しく撫でて、唇をそっと触れ合わせた。続けて娘の瞼や鼻の頭にキスを繰り返す。

「オイノネは、こういうの慣れてないのかな?」

 ささやきながら、パリスの腕は徐々に首から下に伸びていく。

「だ、だいじょうぶです……気にしないで……な、慣れてますから……好きにして……」

 チャラ男のパリスはすぐわかった。オイノネのファーストキスを奪ったのは自分だと。

「パ、パリス様……今夜だけでいいから、お願い……私を……」

 パリスは、なぜオイノネがこの部屋に来たのか理解した。彼女はパリスと親密な関係を結びたくなったようだ。四人の侍女たちはパリスをめぐって「抜け駆け禁止」協定を結んだが、そんな協定を真面目に守っていたら、幸せはやってこない。

(この子、本当に僕を……。こういう子の『今夜だけ』は嘘なんだ。『今夜だけ』が、いつの間にか『嫁にして』に変わるんだ)

 いつものパリスなら、ウブで本気の女子は、額や頬にキスをしてサヨナラする。一度本気の子と遊んだら、ニンフのようにストーキングされた。もちろんナウシカにも頬のキスで終わらせたが、ヘクトルに怒鳴り込まれた。

 しかしこの夜のパリスはいつもと違った。純情な乙女の貞操を奪う危険性をわかっているのに止められない。
 感動の親子対面どころか、自分を汚物扱いする実の父。頼りにしていた兄は冷たく変わってしまった。
 こんな夜、ひとりでいるのは嫌だ。だれかに慰めてほしい。温めてほしい。

「ああ、パリス様。私は幸せです……」

 オイノネの目から一滴の涙が落ちる。パリスは娘の帯に手を伸ばした。これ以上進むと、レーティングの危機だ! その時だった。

「おーい、まだ用事終わらねーの?」

 月明かりに照らされた室内に、だみ声が響き渡る。入り口で見張ってるごつい男が邪魔してきた。お約束の展開だ。

「げっ!」「あ、今、戻ります」

 娘はパッと身を起こし寝台から抜け出し、パタパタと去っていった。

「なんだよ! いいところだったのに!」

 パリスは頬を膨らませる。邪魔が入ったのは、ぜーったいにヘクトルの仕業に決まっている。あいつは今ごろ美人のアンドロマケさんとイチャイチャしてるくせに! ずるい! 卑怯だ!
 しかしひととき、布地越しでも女の体温と匂いに包まれたためか、重苦しい気持ちはどこかへ消えた。パリスはいつの間に寝息を立てていた。

 繰り返すが、この物語は全年齢設定である。これ以上進めるとレーティングに抵触するので、ご了承いただきたい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...