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4 古代ギリシャで謎といったらスフィンクス!
(16)その後のトリファントス
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アレキサンドリアの大数学者、ディオファントスの息子トリファントスは、異世界に転移し、トロイアの英雄パリスやヘクトルと共に、大活躍をする。
その活躍については、機会があれば語ろう。機会があれば、だ。
今は、冒険を終え、パリスやヘクトルと別れたトリファントスのその後を語る。
仲間と別れたトリファントスは、しばらくしてから、この異世界で結婚した。子供にも恵まれ、穏やかに暮らした。
長い結婚生活の後、彼は妻に先立たれる。
すっかり老いたトリファントスは、誰もいない屋敷で俯き、ボソッと呟いた。
「親父、ちゃんと84歳で死んだんだろうな……」
「気になるか?」
周囲に誰もいなかったはずなのに、突然、声を掛けられた。
顔を上げると、目の前で、時の神が笑っている。
「ああ、クロノス様!」
「よくがんばったのう。そろそろ元の世界に戻りたいか?」
老人は大きく頷いた。
と、彼を囲むように砂嵐が舞い上がる。トリファントスは固く目をつむった。
砂嵐が収まったところで目を開ける。
そこは墓地だった。
トリファントスは、周囲を見渡す。
見慣れない光景だが、刺すような日差しと乾いた空気の匂いで、彼は確信した。
「間違いない。ここはアレキサンドリアだ」
足元の墓石に目を止めた。
「これは! クロノス様、感謝します!」
墓石に刻まれた言葉を、男は読み上げた。
ディオファントスは一生のうち
6分の1を少年として過ごし
その後、12分の1はあごひげを生やしていた
さらに7分の1を経て結婚式を挙げ
5年後に子どもをもうけた
しかし息子は、父の一生の半分しか生きずに世を去った
子を失って4年後にディオファントスも亡くなった
「ははは、親父、ちゃんと約束通り84歳で死んだんだな」
偉大な数学者ディオファントスは、84歳で亡くなった。それが自然死か、数学者の意志なのか、トリファントスにとっては、どちらでもよいことだった。
老人は、墓の前で歌った。
ディオファントスの息子が世を去り
彼の一生の7分の1が経ってから
ある男が、結婚した
ディオファントスの一生の12分の1が経ち、
その男に子が生まれた
しかし3分の1が経って、男は妻に先立たれ
ディオファントスの墓の前に立った
「さて、この男は、ディオファントスより長生きしただろうか?」
──Thinking Time──
墓の前で老人はカラカラと笑った。
「答えは……わからない、が正解さ、ははははは」
しゃがれた笑い声は止まることを知らない。
「ははは、その男が何歳で結婚したかわからないから、答えようがない。そいつが『息子』とは、言ってないからな」
トリファントスはしゃがみ込んだ。
「……ディオファントスの息子は、とっくに死んでいるからな」
長年の異世界の暮らしで痛めつけられた男の肉体は、限界に近づいていた。
「84歳か……親父は本当に大したもんだ。この数は、7でも12でも割り切れる」
男は座るのも苦痛になり、地に寝そべった。
「残念ながら、俺は、親父と違って割り切れない男になりそうだ」
トリファントスは目を閉じた。
彼は89年……割り切れない数、素数年の生涯を、父の墓の前で終えた。
その活躍については、機会があれば語ろう。機会があれば、だ。
今は、冒険を終え、パリスやヘクトルと別れたトリファントスのその後を語る。
仲間と別れたトリファントスは、しばらくしてから、この異世界で結婚した。子供にも恵まれ、穏やかに暮らした。
長い結婚生活の後、彼は妻に先立たれる。
すっかり老いたトリファントスは、誰もいない屋敷で俯き、ボソッと呟いた。
「親父、ちゃんと84歳で死んだんだろうな……」
「気になるか?」
周囲に誰もいなかったはずなのに、突然、声を掛けられた。
顔を上げると、目の前で、時の神が笑っている。
「ああ、クロノス様!」
「よくがんばったのう。そろそろ元の世界に戻りたいか?」
老人は大きく頷いた。
と、彼を囲むように砂嵐が舞い上がる。トリファントスは固く目をつむった。
砂嵐が収まったところで目を開ける。
そこは墓地だった。
トリファントスは、周囲を見渡す。
見慣れない光景だが、刺すような日差しと乾いた空気の匂いで、彼は確信した。
「間違いない。ここはアレキサンドリアだ」
足元の墓石に目を止めた。
「これは! クロノス様、感謝します!」
墓石に刻まれた言葉を、男は読み上げた。
ディオファントスは一生のうち
6分の1を少年として過ごし
その後、12分の1はあごひげを生やしていた
さらに7分の1を経て結婚式を挙げ
5年後に子どもをもうけた
しかし息子は、父の一生の半分しか生きずに世を去った
子を失って4年後にディオファントスも亡くなった
「ははは、親父、ちゃんと約束通り84歳で死んだんだな」
偉大な数学者ディオファントスは、84歳で亡くなった。それが自然死か、数学者の意志なのか、トリファントスにとっては、どちらでもよいことだった。
老人は、墓の前で歌った。
ディオファントスの息子が世を去り
彼の一生の7分の1が経ってから
ある男が、結婚した
ディオファントスの一生の12分の1が経ち、
その男に子が生まれた
しかし3分の1が経って、男は妻に先立たれ
ディオファントスの墓の前に立った
「さて、この男は、ディオファントスより長生きしただろうか?」
──Thinking Time──
墓の前で老人はカラカラと笑った。
「答えは……わからない、が正解さ、ははははは」
しゃがれた笑い声は止まることを知らない。
「ははは、その男が何歳で結婚したかわからないから、答えようがない。そいつが『息子』とは、言ってないからな」
トリファントスはしゃがみ込んだ。
「……ディオファントスの息子は、とっくに死んでいるからな」
長年の異世界の暮らしで痛めつけられた男の肉体は、限界に近づいていた。
「84歳か……親父は本当に大したもんだ。この数は、7でも12でも割り切れる」
男は座るのも苦痛になり、地に寝そべった。
「残念ながら、俺は、親父と違って割り切れない男になりそうだ」
トリファントスは目を閉じた。
彼は89年……割り切れない数、素数年の生涯を、父の墓の前で終えた。
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