ギリシャ神話ファンタジーを書いてます ~パリスの大冒険~

さんかく ひかる

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4 古代ギリシャで謎といったらスフィンクス!

(8)パワーアップしたスフィンクス

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 はじめにお断りしておく。
 ここから先は、小学生か中学生の算数・数学の地味な話が延々と続くだけなので、さらっと読み飛ばしていただいていっこうに差し支えない。


 謎の雷鳴に力を得たのか、先ほどまで落ち込んでいたスフィンクスは、美しい顔を輝かせ翼を広げた。
 ナウシカが目を吊り上げる。

「パリス! お前が変に励ましたから、スフィンクスが力を取り戻してしまったではないか」

「うーん、でもお姉さんが元気になったのはよかったよ。じゃ、次は僕が謎に答えるね。この流れで考えると、赤ちゃんの足は4本、大人は2本、お年寄りは3本でいいのかな……となると」

 パリスは「こんなの簡単だよ!」とドヤ顔を見せた。

「4本×4人+2本×3人+3本×2人=28本だよね?」

「そうじゃ。これはいわゆる導入問題って奴じゃ。いきなり本命の問題を与えると、みんな点が取れないじゃろ? 一問目は誰でもできる簡単な問いを用意してあげるのが親心ならぬ先生心って奴じゃ。さすれば、できない生徒も少しは点を取れるじゃろ?」

 スフィンクスの発言が妙に老人めいた言葉に変わっているが、だれも気に留めない。

「さて、これからが本番じゃ。よいな?」

 ヘクトルが「ったく、めんどくせーことになったじゃねーか」と舌打ちした。

「アゴラに家族連れが集まった。全部で5組じゃ。家族構成はばらばらじゃ。赤子がいるものいないもの、両親がそろっているもの、一人親だけのもの、赤子がいない家族もある。家族の中に、大人か老人、どちらかは必ず1人はいる」

 ナウシカは「よくわからぬ。お前たちに任せた」とソッポを向いた。

「赤子は4本足、大人は2本足、老人はみな杖をついており3本足じゃ。2本足で立つ者はみな大人とし、足を失ったものはいない」

 パーティーのリーダーは、チャラ男パリスの背中を叩いた

「お前が、ぐずぐずしていたせいだからな」

「アゴラには全部で15人。人の足の数は全部で40本。足の中には、杖が4本含まれておる。さあ、赤子と大人と老人は、それぞれ何人じゃ?」

 スフィンクスの目がランランと光っている。
 謎解きを託されたパリスは、怪物の問いを反芻した。
 それにしても先ほどのスフィンクスと違って、謎がどうも込み入ってるし、やたら長い。

「家族が5組なんだよね。で、大人か老人は最低1人はいるってことは……大人と老人合わせて5人以上いるってことか。となると赤ちゃんは10人以下ってことだよね」

「ほう? そこで戸惑っているようでは、真実には遠いのう」

 頭を抱え込んだチャラ男を、パーティーメンバーは「パリス、お前ならできるよ」「医者って俺とは違って頭いーよな?」と無責任に励ます。

「全部で15人。足は40本。全員、大人なら足は30本で、全員、赤ちゃんなら足は60本。いや、赤ちゃんは10人以下だから……あ、お年寄りもいるんだ」

 パリスは木の枝を広い、地面に、あーでもないこーでもない、と書き出した。

 と、その時。
 雲一つない空のどこからか、突然、竜巻が現れた。

「伏せろ!」

 ヘクトルが、パリスとナウシカの頭をグイっと地面に押し付ける。が、一瞬で竜巻は去った。
 三人が顔を上げると、見知らぬ中年男が立っていた。
 男は、竜巻にもかかわらず地面に残っていたパリスの落書きに視線を落とす。

「あーあ、親父のトラップにあっさりひっかかりやがって」

 男は腕くみして突っ立ったまま、鼻でフっと笑った。


 三人の前に現れた中年男は、町で見かける哲学者のように布を幾重いくえにも巻き付けている。
 パリスは、突然の来訪者に駆け寄った。

「ああ、おじさん。今、スフィンクスさんが元気になって、すごい謎を出しているんです。ちょっと待ってて」

「その程度なら、俺でも解ける謎だ」

 と、パリスの顔がぱあっと明るくなる。

「やったあ! おじさん、すごい頭良さそうだもん。じゃ、答え、教えて」

 が、中年男はパリスに答えず、スフィンクスをにらみ付けた。

「よお親父。こんなところにいたんだな。ここはアレクサンドリアじゃない。テーバイだ。しかも、今のテーバイじゃない……クロノス様がおっしゃるにはな」

 獅子の身体をもつ怪物は、美しい顔をゆがめた。

「息子よ。まだ生きておったのか! 執念深い奴じゃ」

 三人は声をあげた。

「なんだと!」「うっそー!」「マジか!?」

 スフィンクスが謎の中年男の親と聞き、パリスはショックを受ける。

「お姉さん、人妻でこんなに大きな息子さんまでいたんだあ」

 項垂れるパリスに、中年男は目を丸くした。

「おいおい! 俺は人間だ。スフィンクスの呼び声に、さまよっていた親父の魂が応え乗り移っただけだ。もちろん親父も普通の人間だ」

「……よくわからないけど、スフィンクスに乗り移るだけで、普通の人間じゃないと思う」

 ヘクトルとナウシカの二人は、口をあんぐり開けたまま突っ立っている。事態をそれなりに理解しつつあるパリスと違い、置いてきぼりにされていた。
 が、パーティーのリーダーは、王子の威厳を取り戻そうと、我に返る。

「私はヘクトルと申す。我らはトロイアを目指しているが、このテーバイの山で、見ての通り、スフィンクスに足止めをされた。貴殿は、旅人にもテーバイの方にも見えぬが、いかがされたか?」

 唐突に王子モードへシフトしたヘクトルは、謎の中年男に笑顔を向ける。
 中年男は、口をぱっくり開けて、王子を指さした。

「え、ヘクトル? ま、まさかトロイア戦争の? それで、こっちは?」

 パリスとナウシカも合わせて名乗りを上げた。

「うそだろ! やはり夢の世界だ! トロイアの英雄たちに会えるなんて! さすが親父、やるじゃねーか!」

 哲学者風の男がピョンピョンと跳びあがる。

「スフィンクスがいたから、てっきりオイディプス王の仲間と思ったが、夢の世界だから、なんでもありか。すげーよ。ヘクトルとパリスの兄弟に会えるんだぜ」

「兄弟!?」

 パリスとヘクトルは顔を見合わせた。ナウシカも二人を交互に見比べる。

「ヘクトルが僕の兄さん?」

「パリスが弟? いや、俺らは旅先で出会ったんだぞ」

 物語ではありがちの、実は生き別れの兄弟だった展開に、人間たちは盛り上がる。
 しかし、渾身こんしんの謎をスルーされたスフィンクスに、この展開は面白くない。

「お前ら! わしの問題を無視するではない!」

 誇り高き怪物は、雄叫おたけびを上げた。
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