ギリシャ神話ファンタジーを書いてます ~パリスの大冒険~

さんかく ひかる

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4 古代ギリシャで謎といったらスフィンクス!

(7)いよいよスフィンクス登場

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 パリスは、故郷の人々の制止を振り切って、再び一人で冒険の旅に出た。
 トロイアへポツポツと進むが、途中、テーバイのピキオン山に差し掛かった時、怪物に出会った。

 今まで怪物が登場する展開がなかったので唐突にみえるが、勇者の冒険に怪物との格闘はつきもの。
 彼はナウシカのように動物と会話するスキルは持っていない。
 狩りなら得意だ。さっと弓矢を引き絞る。
 しかし、パリスは弓を閉まってしまった。
 なぜならその怪物は、美しい女の顔と乳房を持っていたからだ。

「うーん、僕、女の子には弱いんだよね」

 しかし怪物には違いない。胸から上は美女だが、身体はライオンで大きな翼を生やしている。

「あ、これって、もしかして伝説のスフィンクス?」

「よく知ってたのお。若者よ」

「うわあ、声も好みだなあ」

 パリスは、得意のスーパーチャームを発動してみた。下半身は怪物だが胸から上が女なら、充分勝算はある。

「お姉さんさあ、壁ドンとかあごクイとか、スペシャルセットでどう?」

 周りは岩で切り立っており、壁には事欠かない。

「女は誰もが壁ドンと顎クイでどうにかなる、というのは発想が貧しいのう、若者よ」

「うわあ、恥ずかしいなあ。本当は僕、女の人って見た目より中身が大切だって思うんです。だって、どんな美人でもいずれおばあちゃんになっちゃいますよ。でも、中身の美しさは変わりませんから」

 なおパリスは、容姿が微妙な女子にはここぞとばかりに「かわいい」を連発する。

「我は、年取ることはないぞ」

「すごーい。見た目も変わらず、中身はどんどんパワーアップ。お姉さん最強だ」

 よし行けるぞ! 怪物でも女子には変わらない。

「僕も、お姉さんみたいになりたかったな。そしたらずっと一緒にいられるのに」

 微妙な攻撃だったかとパリスは不安になる。万が一チャームが効きすぎて、怪物に変身させられたらたまらない。
 スフィンクスは、美しく微笑んだ。

「我はかつて、エジプトの地ではファラオをお守りする尊い存在として崇められておった。が、長いことピラミッドの前にいるのも飽いて、つい、ふらふらと海を渡って北に向かったら……このテーバイの奴らは、我を化け物とさげすむのじゃよ!」

「えー、それは可哀相。お姉さん、そんなに美しいのに」

「悔しいから、我を化け物扱いするほどの知性があるか、試したのじゃよ……どいつもこいつも間抜けばかりでの……」

 スフィンクスは長い尻尾を揺らしている。

「僕はお姉さんを化け物とは思わないよ。エジプトってどこか知らないけど、もしかして、お姉さんも故郷に戻りたいのかな?」

 怪物は、美しい頭を寂しげに横に振る。

「それは叶わぬことよ。我が去った後、新たな守護者が現れ、そのものが務めを果たしておる。長いことこの地におり、我はすっかりただの怪物に成り果てた」

「えええ! 故郷に戻れないなんて……それなら、怪物じゃなくて、テーバイの守護者になれないかな?」

「それは無理なことじゃ……だから……そなたも知性を試すのじゃ!」

 パリスのスーパーチャームは失敗に終わった。


「さあ、わが問いに答えるのじゃ! 朝は四本足、昼間は二本足、夕べには三本足になるものはなんじゃ? 答えられなければそなたには、『死』あるのみ!」

「えー、あー、それね」

 パリスが口を開いた瞬間だった。

「人間に決まってんだろ!」「パリス! 人間だよ」

 背中から、二つの声が鳴り響いた。


 パリスの後ろから聞こえてきた馴染みの声。

「あれ? ヘクトル! ナウシカ! トロイアに戻ったんだろ?」

 大男がドヤ顔を見せつけた。

「俺はな、お前はトロイアに来ると信じてた。だからトロイアに戻ってから引き返し、ここで待ってたんだ」

 大女も得意げだ。

「ああ、お前のことだからスフィンクスの謎に困るだろうってな」

 パリスは拳を握りしめた。

「ひどいよー! 僕だって答えが『人間』って知ってたのに、なんで貴重な活躍の場を取るんだよ」

 ヘクトルがスフィンクスを指さした。

「怪物とはいえ、あれは豊満な乳房を持つ美人だ。お前がチャラいことしてスフィンクスが騙された! と暴れたら、せっかく平和になったテーバイの人が苦しむだろ?」

 せっかく三人パーティーが復活したのに、パリスは散々な言われようだ。

「その通りだヘクトル。もしスフィンクスが泣きだしたら、私は彼女に加勢するよ」

 滅多にない主役の出番を奪われたパリスは、口を尖らせいじけている。
 いじけた狩人をスルーして、リーダーヘクトルは、怪物に宣言した。

「さ、スフィンクス殿よ。謎は解けたぞ。通らせてもらうぞ」

「我は口惜しいぞ。なぜどいつもこいつも、あっさり答えるのじゃ」

 パリスは声をあげた。

「お姉さん、その手の謎はね、一度答えがバれちゃうと、どうしようもないんだよ。新しい謎を考えないと」

 ナウシカも進み出る。

「お前、本当に節操ないなあ。いくら美女でも怪物だ。親切に助言してどうする?」

「だって可哀相だよ。エジプトってところでは王様の立派な守護者だったのに、こっちに遊びに来たら怪物になっちゃったんだよ」

 ヘクトルが首を振った。

「それはこいつが悪いだろ? 立派な役目を放棄したんだから、自業自得って奴だ」

「うるさいうるさい黙るのじゃ!」

 獅子の身体が震えた。

「今では、子どもらに『ワンパターンで飽きた』『カエルでも知ってらあ』と、馬鹿にされる。このファラオの守護者である我が、なぜこんな屈辱に耐えねばならぬ」


「お姉さん、美人なんだから泣かないで」

 いくらパリスがなだめても、スフィンクスは嘆きをやめない。

「我は、人間どもを苦しめる新たな謎が欲しいぞ!」

 その時だった。
 快晴の空があっという間に雲に覆われ、雷鳴がとどろいた。


『わしなら、いくらでも謎を作ってやれるぞ』

 老人のような声が天から響き渡る。
 とっさに三人は武器を放り投げ、頭を伏せた。
 ちなみにとあるゲームでは、雷が鳴りだしたら金属の武器の装備を解除しないとひどい目に遭うので、注意しよう。

「うくおおおおお!」

 怪物のうめきとともに、雷鳴は収まり、あっという間に雲は消え去った。
 空は、青く輝いている。
 三人は首をひねりつつ、武器を回収する。

「今の雷鳴はよくわからないが、もう大丈夫だな。パリス、お前はスフィンクスが美人で未練あるんだろうが、謎は解けた。旅を続けるぞ」

 リーダーのヘクトルに促されても、狩人は動かない。

「うーん、でも……そうだ、ナウシカ、動物と話せるよね? なんとかならない?」

「パリス、残念だが、これは動物ではない。虫でもない。あの子らは私が話せば素直に聞くが、こいつは、いくら説得しても聞かないではないか。つまり人と同じだ」

 二人に説得され、パリスは渋々と歩き出すこととした。
 が、彼らはスフィンクスの叫びに足を止めた。

「待つのじゃ! 新たな謎を解いてみよ。赤子が四人、大人が三人、老人が二人、さて、足の数はいくつじゃ!」
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