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4 古代ギリシャで謎といったらスフィンクス!
(2)偉大な数学者、ディオファントスの一生
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「情けない。この歌はな、チョー簡単な一次方程式だ。そんなのもわからないとは」
柱にくくり付けられた老人は、愚かな息子に失望する。
「わからねーのは、俺が死ななきゃいけねーワケだ!」
ディオファントスは、また先ほどの歌を繰り返す。
ディオファントスは一生のうち
6分の1を少年として過ごし
その後、12分の1はあごひげを生やしていた
さらに7分の1を経て結婚式を挙げ
5年後に子どもをもうけた。
しかし息子は、父の一生の半分しか生きずに世を去った
子を失って4年後にディオファントスも亡くなった
「子どもの時、屋敷の奴隷から聞いた歌じゃ。12月の祭では奴隷も好きにできるから、浮かれとったんだろう。この屋敷に売られる前に、親から聞いたとか、奴隷は言っとったな」
「その奴隷は、ふざけて親父の名前をくっつけて歌ったんじゃねーの?」
「かもしれん。が、わしは目覚めたよ。これは……わしの歌だと。わしにはこの歌の通り生きる必要がある、とな……だから、わしは数学を極めることにした。偉大なる先人たち、ピタゴラス、エウクレイデス、アルキメデスに続こうとな……」
「悔しいが、親父も偉大な先人のひとりに間違いねえよ」
息子は父から離れ、寝室の棚に積み上げられた一本の巻物を手に取った。
「親父が書いた『算術』十三巻……すげーよ。何書いたかわからねーけど、てめーが天才だってことは、わかる」
老いた数学者、ディオファントスは、息子の賛辞が聞こえたのか聞こえなかったのかわからないが、ただ懐かしそうな顔をした。
「14歳の誕生日、わしは何度もあごをこすった。薄っすらだが、ひげが生えていた。わしは決意を固くした。この歌の通り生きてみせる、と」
息子は父親に顔を向けず、『算術』の巻物を広げた。
「だから33歳で結婚し、38歳でお前を産ませた。息子が産まれて本当に嬉しかったぞ」
嬉しかったと言われた息子は、父の著作を棚に戻した。
「結婚や出産まで、親父は予定通りってわけか」
「なに、それはお前の母を少し待たせただけで済んだ。男を産ませる方法はいろいろ試したがな」
「はは、それで親父は俺に何度も、俺が男でよかった……とな」
「お前には、なんとしてでも生きてほしかったぞ」
息子は頭をクシャクシャにかきむしった。
「だから親父は、俺になーんにも期待しなかったんだな。ただ、生きてさえいればいいって……」
「わかってくれたかのう……だから」
ディオファントスを縛っていたはずの縄がハラリと床に落ちた。老人は突然立ち上がり、プギオ-短剣-を手にして息子に襲いかかる。
「死んでくれ! お前が43歳になったら意味ないんじゃ!」
「やめろ! このボケジーサン!」
息子は、突進する父親を突き飛ばした。
大理石の床に足を滑らした父は、頭をしたたかに打つ。
「いい加減にしろ! 絶対、俺は死なねーからな! クソ親父め……おい!」
床に転がったディオファントスは、目を開けたまま天井を向いて、微動だにしない。
「う、うそだろ! 親父……こんなとこで死ぬんじぇねーよ! てめー、84歳まで生きる予定だろ! な、なあ!」
息子は父の身体を激しく揺さぶった。しかし父が動き出すことはなかった。
「こんなことなら、俺が死ねばよかったのか? ああ! 時の神クロノスよ! 時間を戻してくれ!」
男は、その叫びが無駄だと知っていた。無駄だと知っていたが、何度もクロノスを呼んだ。
柱にくくり付けられた老人は、愚かな息子に失望する。
「わからねーのは、俺が死ななきゃいけねーワケだ!」
ディオファントスは、また先ほどの歌を繰り返す。
ディオファントスは一生のうち
6分の1を少年として過ごし
その後、12分の1はあごひげを生やしていた
さらに7分の1を経て結婚式を挙げ
5年後に子どもをもうけた。
しかし息子は、父の一生の半分しか生きずに世を去った
子を失って4年後にディオファントスも亡くなった
「子どもの時、屋敷の奴隷から聞いた歌じゃ。12月の祭では奴隷も好きにできるから、浮かれとったんだろう。この屋敷に売られる前に、親から聞いたとか、奴隷は言っとったな」
「その奴隷は、ふざけて親父の名前をくっつけて歌ったんじゃねーの?」
「かもしれん。が、わしは目覚めたよ。これは……わしの歌だと。わしにはこの歌の通り生きる必要がある、とな……だから、わしは数学を極めることにした。偉大なる先人たち、ピタゴラス、エウクレイデス、アルキメデスに続こうとな……」
「悔しいが、親父も偉大な先人のひとりに間違いねえよ」
息子は父から離れ、寝室の棚に積み上げられた一本の巻物を手に取った。
「親父が書いた『算術』十三巻……すげーよ。何書いたかわからねーけど、てめーが天才だってことは、わかる」
老いた数学者、ディオファントスは、息子の賛辞が聞こえたのか聞こえなかったのかわからないが、ただ懐かしそうな顔をした。
「14歳の誕生日、わしは何度もあごをこすった。薄っすらだが、ひげが生えていた。わしは決意を固くした。この歌の通り生きてみせる、と」
息子は父親に顔を向けず、『算術』の巻物を広げた。
「だから33歳で結婚し、38歳でお前を産ませた。息子が産まれて本当に嬉しかったぞ」
嬉しかったと言われた息子は、父の著作を棚に戻した。
「結婚や出産まで、親父は予定通りってわけか」
「なに、それはお前の母を少し待たせただけで済んだ。男を産ませる方法はいろいろ試したがな」
「はは、それで親父は俺に何度も、俺が男でよかった……とな」
「お前には、なんとしてでも生きてほしかったぞ」
息子は頭をクシャクシャにかきむしった。
「だから親父は、俺になーんにも期待しなかったんだな。ただ、生きてさえいればいいって……」
「わかってくれたかのう……だから」
ディオファントスを縛っていたはずの縄がハラリと床に落ちた。老人は突然立ち上がり、プギオ-短剣-を手にして息子に襲いかかる。
「死んでくれ! お前が43歳になったら意味ないんじゃ!」
「やめろ! このボケジーサン!」
息子は、突進する父親を突き飛ばした。
大理石の床に足を滑らした父は、頭をしたたかに打つ。
「いい加減にしろ! 絶対、俺は死なねーからな! クソ親父め……おい!」
床に転がったディオファントスは、目を開けたまま天井を向いて、微動だにしない。
「う、うそだろ! 親父……こんなとこで死ぬんじぇねーよ! てめー、84歳まで生きる予定だろ! な、なあ!」
息子は父の身体を激しく揺さぶった。しかし父が動き出すことはなかった。
「こんなことなら、俺が死ねばよかったのか? ああ! 時の神クロノスよ! 時間を戻してくれ!」
男は、その叫びが無駄だと知っていた。無駄だと知っていたが、何度もクロノスを呼んだ。
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