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3 旅の仲間と出会ったが……
(3)この先は、そういう展開です
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一応、医師の弟子をやってたパリス、森で薬草を集め、ヘクトルの傷の手当てをするなどして、徐々にスキルを高める。スキルだけでなく、二人の間に友情が育ってきた。
何かと互いに顔を見合わせ微笑みあう。そのたびにパリスは、胸のドキドキがとまらない。
「ヘクトルって、本当に奥さん一筋なんだ」
フクロウの声がこだまする夜の森。眠りに着こうとする男に、パリスは聞いてみた。
「当たり前だ。俺の生涯は、こいつに捧げている」
ヘクトルは首のカメオを握りしめる。
「他の女は、どーでもよくなる?」
「もちろんだ……ま、お前は若いから、わからねーよ」
ほどなくヘクトルは、スヤスヤと寝息を立てはじめた。
月明かりが男の顔を照らす。太い眉毛に整った鼻筋。パリスとは違った精悍な顔つき。
若者は吸い寄せられるように、眠る男の耳元に口を寄せる。
「わかるよ……本当に、他の女はどーでもよくなるんだね」
そっと顔に触れ、唇を寄せる。
「僕は何やってるんだ!」
慌ててパリスはヘクトルに背中を向け丸くなった。その夜、一睡もできなかった。
旅は進み、ようやく森を抜けようとするところ、パリスの胸に悪寒が走った。
茂みの中で何かがキラっと光る。
「ヘクトル! 危ない!」
パリスは瞬時に矢を番え、茂みに向かって放った。
それと同時に茂みから矢が放たれるが、ヘクトルは剣で矢を打ち払う。
茂みから人が飛び出し、一目散に逃げだした。
パリスはまた弓矢を構える。
「逃げるな!」
が、ヘクトルがパリスを制す。
「深追いするな。森で逃げられたら、まず追いつけない」
「で、でも……」
「いいんだ……しかし、こんなところまで追いやがって……」
「え? 何か心当たりあるの?」
「まーな」
マッチョはチャラ男の頭をポンポンと撫でた。
その夜、森を抜けた先の宿に泊った。
ヘクトルは、森で狙われた心当たりについて、語り始めた。
「お前は仲間だからな、本当のことを言うよ……俺はな、トロイア王家の生き残りなんだ」
「えっ!」
男の言葉にパリスは目を丸くする。
「確かトロイアって……」
ずっと東にある大きな国で……随分前に滅亡したと聞いている。
「俺がガキの頃、トロイア王国はアカイア軍に滅ぼされた。王と王妃……親父とお袋も殺された。俺は覚えてないが、乳母が城から俺を連れ出してくれた。俺は乳母の家で普通の農民として育ち、隣の家の娘を娶った。それがコイツ、アンドロマケだ」
ヘクトルに何度も見せられたカメオの美女。パリスの胸にチクリと痛みが刺す。
「息子が生まれて、オリーブの木を育てて……それで俺は幸せだった……なのに……」
ヘクトルがカメオをぎゅっと握りしめる。
「ある日、俺がオリーブの収穫から戻ると……あいつと息子が殺されていた……」
衝撃の告白に、パリスは言葉を失う……カメオの美女と赤ん坊は、もう、この世の人間ではないのだ。
「俺は王家の復活なんてこれっぽっちも考えてなかった。妻と息子の三人で静かに暮らしたかった……なのに奴らは、トロイア王の血筋が邪魔らしい」
パリスはそっと、ヘクトルの背中に手を添えた。
「俺は、家族の仇を取るために旅に出た。一人ではどうにもならないが、ラリサの町にトロイア人が集まってると聞いて目指している……が、奴ら、こんなところにも来ていたとはな……」
男は拳を握りしめ、肩を震わせている。
パリスは、ヘクトルのどうにもならない悲しみを、少しでも癒したくなった。
「待って!」
と、部屋を出る。宿の階段を駆けおり、しばらくすると戻ってきた。
「はい、ヘクトル! 宿の女将からもらってきた。ここのワインは、美味しいんだって」
パリスはガラスのワインボトル……ではなく、ワインを湛えた陶器の壺を持ってきた。 ガラスは古代エジプトからあったらしいが大変高価で、酒は甕に保存した。今のようなワインボトルはずーっと後、今から二百年前に出来たらしい……話を戻そう。
「……パリス……はは、お前、いい奴だな」
グイっとヘクトルはその逞しい腕で、パリスの肩を抱き寄せた。
「いや、僕が飲みたかったんだよ」
飲む前から顔が赤いパリスは、ワイングラス……ではなく陶器の酒杯に、壺からワインを注ぎ、ヘクトルに渡す。
古代ギリシャの酒杯は、お皿タイプやボウルタイプなど色々あるらしい。彼らがどんな器を使ったかは……読者の想像に任せよう。もちろん、これは筆者が知らないからではなく、あくまでも物語のテクニックだ。
ともあれ二人の男は、壺の酒が空になるまで、ひたすら飲み明かした。
何かと互いに顔を見合わせ微笑みあう。そのたびにパリスは、胸のドキドキがとまらない。
「ヘクトルって、本当に奥さん一筋なんだ」
フクロウの声がこだまする夜の森。眠りに着こうとする男に、パリスは聞いてみた。
「当たり前だ。俺の生涯は、こいつに捧げている」
ヘクトルは首のカメオを握りしめる。
「他の女は、どーでもよくなる?」
「もちろんだ……ま、お前は若いから、わからねーよ」
ほどなくヘクトルは、スヤスヤと寝息を立てはじめた。
月明かりが男の顔を照らす。太い眉毛に整った鼻筋。パリスとは違った精悍な顔つき。
若者は吸い寄せられるように、眠る男の耳元に口を寄せる。
「わかるよ……本当に、他の女はどーでもよくなるんだね」
そっと顔に触れ、唇を寄せる。
「僕は何やってるんだ!」
慌ててパリスはヘクトルに背中を向け丸くなった。その夜、一睡もできなかった。
旅は進み、ようやく森を抜けようとするところ、パリスの胸に悪寒が走った。
茂みの中で何かがキラっと光る。
「ヘクトル! 危ない!」
パリスは瞬時に矢を番え、茂みに向かって放った。
それと同時に茂みから矢が放たれるが、ヘクトルは剣で矢を打ち払う。
茂みから人が飛び出し、一目散に逃げだした。
パリスはまた弓矢を構える。
「逃げるな!」
が、ヘクトルがパリスを制す。
「深追いするな。森で逃げられたら、まず追いつけない」
「で、でも……」
「いいんだ……しかし、こんなところまで追いやがって……」
「え? 何か心当たりあるの?」
「まーな」
マッチョはチャラ男の頭をポンポンと撫でた。
その夜、森を抜けた先の宿に泊った。
ヘクトルは、森で狙われた心当たりについて、語り始めた。
「お前は仲間だからな、本当のことを言うよ……俺はな、トロイア王家の生き残りなんだ」
「えっ!」
男の言葉にパリスは目を丸くする。
「確かトロイアって……」
ずっと東にある大きな国で……随分前に滅亡したと聞いている。
「俺がガキの頃、トロイア王国はアカイア軍に滅ぼされた。王と王妃……親父とお袋も殺された。俺は覚えてないが、乳母が城から俺を連れ出してくれた。俺は乳母の家で普通の農民として育ち、隣の家の娘を娶った。それがコイツ、アンドロマケだ」
ヘクトルに何度も見せられたカメオの美女。パリスの胸にチクリと痛みが刺す。
「息子が生まれて、オリーブの木を育てて……それで俺は幸せだった……なのに……」
ヘクトルがカメオをぎゅっと握りしめる。
「ある日、俺がオリーブの収穫から戻ると……あいつと息子が殺されていた……」
衝撃の告白に、パリスは言葉を失う……カメオの美女と赤ん坊は、もう、この世の人間ではないのだ。
「俺は王家の復活なんてこれっぽっちも考えてなかった。妻と息子の三人で静かに暮らしたかった……なのに奴らは、トロイア王の血筋が邪魔らしい」
パリスはそっと、ヘクトルの背中に手を添えた。
「俺は、家族の仇を取るために旅に出た。一人ではどうにもならないが、ラリサの町にトロイア人が集まってると聞いて目指している……が、奴ら、こんなところにも来ていたとはな……」
男は拳を握りしめ、肩を震わせている。
パリスは、ヘクトルのどうにもならない悲しみを、少しでも癒したくなった。
「待って!」
と、部屋を出る。宿の階段を駆けおり、しばらくすると戻ってきた。
「はい、ヘクトル! 宿の女将からもらってきた。ここのワインは、美味しいんだって」
パリスはガラスのワインボトル……ではなく、ワインを湛えた陶器の壺を持ってきた。 ガラスは古代エジプトからあったらしいが大変高価で、酒は甕に保存した。今のようなワインボトルはずーっと後、今から二百年前に出来たらしい……話を戻そう。
「……パリス……はは、お前、いい奴だな」
グイっとヘクトルはその逞しい腕で、パリスの肩を抱き寄せた。
「いや、僕が飲みたかったんだよ」
飲む前から顔が赤いパリスは、ワイングラス……ではなく陶器の酒杯に、壺からワインを注ぎ、ヘクトルに渡す。
古代ギリシャの酒杯は、お皿タイプやボウルタイプなど色々あるらしい。彼らがどんな器を使ったかは……読者の想像に任せよう。もちろん、これは筆者が知らないからではなく、あくまでも物語のテクニックだ。
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