ギリシャ神話ファンタジーを書いてます ~パリスの大冒険~

さんかく ひかる

文字の大きさ
上 下
7 / 101
3 旅の仲間と出会ったが……

(2)風の谷のお方とは別人です

しおりを挟む
 仕方なしにパリスは、自身を引きずる男に訪ねた。
「ねえ、お兄さん、何て呼んだらいいんですかあ?」

「俺? ああ、俺はヘクトルだ。お前みたいな男は好かんが、旅の間はよろしくな」

 マッチョは、引きずる男を立たせ、力強く手を握った。
 ここに来て、ようやくパリスの冒険が始まった。

 なお、ここの「ナウシカ」は、超有名な風の谷のナウシカとは全然関係ない。青い衣とか虫オタクとか、一切関係ない。実はナウシカ、古代ギリシャ叙事詩「オデュッセイア」に出てくる姫さまだったりする。

 ということで、マッチョとチャラ男は、風の谷じゃないナウシカの恋の病を治すため、旅に出ることとなった。

「ねえ、ヘクトル。もしかして、ナウシカってヘクトルの彼女?」

 パリスは、これまでの経緯から予想される結論の正誤の確認を求める。

「はあ!? んなわけねーだろ! あいつは戦友だ、俺のタイプじゃない」

「やっぱり好きなんだね。タイプじゃない戦友に恋するパターンって、すごーく多いんだよ」

「あああ、お前も、うぜーな。何でもかんでも色恋にするんじゃねーよ、大体、俺には妻と子どもがいるんだ!」

 そういってヘクトルは、首の鎖につけたカメオを取り出し、パリスに見せつけた。

「こいつだ。美人だろ? かわいいだろ?」

 楕円に象られた宝石に彫刻された二つの横顔。散々診療所でチャラいことをしてきたパリスも納得の美女が、赤子に向かって微笑んでいる。

「奥さんかあ。僕はまだいいや」

 だって結婚したらチャラいことできない。

「お前、女と遊んでたいんだろ? 気に入らねーな。ま、ガキにはわからねーよ。本気で一人の女に惚れたら、他の女なんかどーでもよくなる」

 ヘクトルは、パリスの背中をバンと叩いた。
 なお、カメオは古代ギリシャで盛んになり、神の姿を彫りお守りにしたらしい。家族の顔を彫ったかわからないが、なんちゃってファンタジーだから許してほしい。


 その夜、ヘクトルの言うところの戦友、ナウシカのいる宿に着いた。

「よお、ナウシカ。お前が惚れた男、連れてきたぞ」

 一階の酒場に、ヘクトルに勝るとも劣らない青衣のマッチョな女子がいた。風の谷のあの方とは別人だから、突っ込まないこと。
 顔は中々可愛らしいし、ルッキズムはよろしくないが、ヘクトルのカメオの美女と比べると、彼が「タイプじゃない、戦友だ」と言うのは、わからないでもない。

「お前かパリス!」

 そのナウシカが、優男に向かって突進して、軽々と持ち上げ投げ飛ばした。パリスは今日、二回も投げられた。

「や、やだな~、ナウシカさ~ん。僕、あなたに会いたくて、先生の診療所を辞めてここまで来たのに~」

「嘘つくな! どーせお前、チャラいことしてクビになったんだろ!」

「ね、ねえ、ナウシカさん、自分が倒すのは強い者だけ、って言ってたじゃない~。僕、あなたのそういうところ、好きなのにひどいなあ」

 パリスはひっくり返ったまま、仁王立ち……違う、軍神アテナのように立つナウシカに懇願する。

「お前のどこが弱いんだ! あたしも『かわいい』なんて言われたことないからうっかり騙されたが、お前、あたしだけじゃないだろ! 『かわいい』って言ったの」

「かわいいものにかわいいって言っちゃダメ?」

「八十歳のリュシストラテ婆さんにも言っただろ!」

「……だ、ダメ? かわいいって思ったから……」

「婆さん、お前に百ドラクマも貢いだらしいな」

「いや……診療所で薬を手に入れるのが大変って言ったら、お金で薬草取りを雇えばいいって……」

 ナウシカは、ひっくり返っているパリスのわき腹を小突いた。

「ヘクトル、止めるな」

 先ほどから黙りこくっていた男は大きく頷く。
 翌朝、パリスの顔は膨れ上がり、イケメンの面影はなかった。


「ナウシカ、お前、故郷に戻るのか?」

 ヘクトルが、パリスの首根っこを掴んだままの戦友に尋ねる。

「ああ、我が家のアリさんたちとキリギリス君が仲良くしているか心配だ。ま、コイツにはアテナの裁きを下してやった。この町に用はない」

 ナウシカは、ボコボコになった元イケメンの身を、投げるように男へ押しつけた。
 フラフラのパリスは、思わずヘクトルの肩にしがみ付く。

「おい! やめろ! 男に抱き着かれても嬉しくねーよ!」

「ズ、ズミマゼン……い、痛いんでズ……」

 勇者ナウシカは、二人の男に手を振る。

「ヘクトル、達者でな! パリス! 見境なく誰にでもチャラいことするんじゃないぞ」

 青い衣の勇者が去り、マッチョとヘタレが残される。

「俺は、これからラリサの町へ行く。お前は?」

「こ、こんなボコボコにされたままじゃ、先生の元には帰れません」

「……旅の邪魔するんじゃねーよ……ラリサへは、森を抜けるのが近道だ。武器が必要か……」

「あ、はい……それより痛いです……」

「わーったよ。薬屋にも行くぞ」

 ヘクトルとパリスは、市場に入った。
 武器屋でヘクトルは両刃の剣を、パリスは弓矢を購入、資金はヘクトルが出した。武器屋の親父には、壁ドンも顎クイも効き目がなく「気持ち悪いから、とっとと出てけ!」と叱られる。いつものイケメンではなくボコボコ顔だったからだろう。
 なお、市場は古代ギリシャにあったと思われるが、武器屋があったのか(筆者には)わからない。また古代ギリシャでは、刀狩りが行われたそうだ。つまり一般人も武器を持っていたということなので、現代日本人よりは簡単に武器が手に入った……かもしれない。

 さて薬や食料を買い求め、旅の準備を済ませ、宿に泊まる。
 ナウシカにボコボコにされたパリスは、ヘクトルの手当てを受けていた。

「お前さあ、医者の弟子なんだろ? 自分で怪我ぐらい治せないのか?」

 パリスの細い腕に包帯を巻き付けながら、ヘクトルはこぼす。

「はあ、ぼ、僕は、薬の調達専門だったし……」

「調達も、女たちに『壁ドン』でやらせてたしな……ったくスキルゼロかよ。しょーもねー奴、仲間にしちまったな」

 背中をバシンと叩かれた。


 何とも頼りなくスキルゼロのパリスは、ヘクトルに散々叱られる。
 が、森に入った途端、パリスは「あ……これ、田舎の森と同じだ」と、目覚めた。得意の弓で兎を次々と仕留める。パリスの地形属性は森らしく、スキルが発動したようだ。
 何匹ものウサギを手にするパリスに、ヘクトルは目を丸くする。

「お前、すげーな! ただのチャラ男じゃないんだな」

 また、背中を力強く叩かれた。が、これまでのしかめ面とは違い、満面の笑み。

「へへ、ま、まーね」

 思ってもみない笑顔に、パリスの胸が高鳴る。顔を赤らめそっぽを向いた。今までに生じたことのない感情の芽生えに、彼は戸惑うばかりだった。

 ……え? なに? 嫌な予感? はい、これまでは前振りです。国民の英雄ナウシカ様を前振りに使ってごめんなさい。今回、そういう展開です。あ、レーティングはちゃんと守ります。あくまでもプラトニックです。
 この先読むかどうかは……お任せしますが、付き合ってくださると嬉しいです、はい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...