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25 国王の願い
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「これより、陛下からお言葉を賜ります」
王室広報官の言葉は、音声拡声装置を通して、ホールに響く。見知らぬ装置の登場で、客席の人々は互いに顔を見合わせる。
父が頷き、壇上の王族と閣僚は席に着いた。
「急ぎ、この場にお集まりいただき、感謝を述べる」
型通りの礼のあとに父が続けた言葉は、僕の予想とは違っていた。
「皆に尋ねよう。ネールガンド国民とは誰か? 私は長い間、自明に見える問いを考えてきた」
父は、ネールガンドの国際交流について語った。
この国は長年、他国と積極的に交流してこなかった。
しかし百年前、ラテーヌで革命が勃発し、隣国から王族や貴族が亡命してきた。
更に五十年前の戦争で、我が国はマラシア大陸から傭兵を集めた。戦後は、さらに多くの移民を受け入れている。
これは、我が国の工業化が進み、労働力を必要としているからだ。
「言うまでもなく、ネールガンドで働きネールガンドに納税するものは、我が国の民である。他国に生まれ『聖王紀』の存在すら知らない民も、我らの国民に他ならない」
ホールは騒めきに包まれた。
表向き、移民への差別は禁止されているが、現実、王立大学でも移民や留学生は、言葉の発音や民族衣装など些細な違いを嘲笑されてきた。僕は、差別を目撃するたびに注意してきた。学長に訴えたところ、父から王太子の立場を乱用するなと叱られたが。
「聖王アトレウスは、貧しきもの弱きものを守るためにゴンドレシア大陸を治められた。二千年経った現在も、この真理は変わらない」
父の意図が見えてきた。移民のサイ・クマダ博士が起こした事件をきっかけに、差別が加速することを懸念しているのだ。
「他国で生まれたネールガンド国民よ。山脈を超え大河を渡り、そして大海の波に揺られて来た者よ。このネールガンドを生きる場に選んでくれたことを、私は喜ばしく思う」
拡声器を通して、父の声がホール中に響き渡る。
「しかし、せっかく希望を持って来たのに報われることなく、苦しんでいるのなら、ただ耐えるのではなく、親しいもの、信頼できるものに打ち明けてほしい」
父の言葉はこのホールだけではなく、遠くの実験施設の研究者、そして宮殿の侍従や侍女たちも耳にしている。
「信頼できるものがいないなら、近くの教会の史司たちに話すがよい。エリオン教徒である必要はない。なぜなら」
父は大きく息を吐いた。
「史師エリオンは、困難にある者を救おうと立ち上がった。奉ずる神がなんであろうと、救われたであろう。史師の意思を受け継ぐ史司たちも、他教徒の苦しみに寄り添う者たちに間違いない」
教会の史司たちは、国王の発言を無視できないだろう。
「しかし他国から来たネールガンド国民よ。苦しみが多くとも、決して功を焦ってはならない。焦るあまり法を犯してはならない」
父は、サイ・クマダ博士が移民であるゆえ功を焦り、非人道的行為に手を染めたと考えたのか。
「かつて我が国は閉ざされていたが、現代は国を開き国同士が助け合う時代である。かように、国のあり方は変化する。同じように教会のあり方も変わってくる」
今、タミュリスは父の言葉を記録している。
「以前は、魔王復活を阻止するためと称して、悪魔祓いが行われていた。しかし、今は法で禁じられている。このように、正義は変化する」
父は、今も続いている悪魔祓いについて糾弾した。
「新しい医学では、生まれ変わりは悪魔つきではなく脳の病気だと言う。ならば必要なのは、過酷な儀式ではなく、正しい治療だ。哀れな病人が救われるよう、医学が発展することを望む」
そうか。父は、クマダ博士の問題で、脳科学そのものが衰退することを懸念しているのか。
「史師エリオンが、魔王の偽りを暴いたのは、ネクロザールが圧政を敷いたからだ。もし真実の聖王が生まれ変わり、民を幸福に導いたのなら、史師エリオンは聖王を讃えたであろう」
正義は変化する……メアリは、魔王ネクロザールとは、聖王アトレウスの真の生まれ変わりだと考えた。今度こそ彼女と、聖王と魔王の関係について、落ち着いた気持ちで語り合いたい。
「私は、ひとりのネールガンド人としての思いを述べた。全ての国民に感謝する」
割れんばかりの拍手が、拡声器を通じてホールに響き渡った。
王室広報官の言葉は、音声拡声装置を通して、ホールに響く。見知らぬ装置の登場で、客席の人々は互いに顔を見合わせる。
父が頷き、壇上の王族と閣僚は席に着いた。
「急ぎ、この場にお集まりいただき、感謝を述べる」
型通りの礼のあとに父が続けた言葉は、僕の予想とは違っていた。
「皆に尋ねよう。ネールガンド国民とは誰か? 私は長い間、自明に見える問いを考えてきた」
父は、ネールガンドの国際交流について語った。
この国は長年、他国と積極的に交流してこなかった。
しかし百年前、ラテーヌで革命が勃発し、隣国から王族や貴族が亡命してきた。
更に五十年前の戦争で、我が国はマラシア大陸から傭兵を集めた。戦後は、さらに多くの移民を受け入れている。
これは、我が国の工業化が進み、労働力を必要としているからだ。
「言うまでもなく、ネールガンドで働きネールガンドに納税するものは、我が国の民である。他国に生まれ『聖王紀』の存在すら知らない民も、我らの国民に他ならない」
ホールは騒めきに包まれた。
表向き、移民への差別は禁止されているが、現実、王立大学でも移民や留学生は、言葉の発音や民族衣装など些細な違いを嘲笑されてきた。僕は、差別を目撃するたびに注意してきた。学長に訴えたところ、父から王太子の立場を乱用するなと叱られたが。
「聖王アトレウスは、貧しきもの弱きものを守るためにゴンドレシア大陸を治められた。二千年経った現在も、この真理は変わらない」
父の意図が見えてきた。移民のサイ・クマダ博士が起こした事件をきっかけに、差別が加速することを懸念しているのだ。
「他国で生まれたネールガンド国民よ。山脈を超え大河を渡り、そして大海の波に揺られて来た者よ。このネールガンドを生きる場に選んでくれたことを、私は喜ばしく思う」
拡声器を通して、父の声がホール中に響き渡る。
「しかし、せっかく希望を持って来たのに報われることなく、苦しんでいるのなら、ただ耐えるのではなく、親しいもの、信頼できるものに打ち明けてほしい」
父の言葉はこのホールだけではなく、遠くの実験施設の研究者、そして宮殿の侍従や侍女たちも耳にしている。
「信頼できるものがいないなら、近くの教会の史司たちに話すがよい。エリオン教徒である必要はない。なぜなら」
父は大きく息を吐いた。
「史師エリオンは、困難にある者を救おうと立ち上がった。奉ずる神がなんであろうと、救われたであろう。史師の意思を受け継ぐ史司たちも、他教徒の苦しみに寄り添う者たちに間違いない」
教会の史司たちは、国王の発言を無視できないだろう。
「しかし他国から来たネールガンド国民よ。苦しみが多くとも、決して功を焦ってはならない。焦るあまり法を犯してはならない」
父は、サイ・クマダ博士が移民であるゆえ功を焦り、非人道的行為に手を染めたと考えたのか。
「かつて我が国は閉ざされていたが、現代は国を開き国同士が助け合う時代である。かように、国のあり方は変化する。同じように教会のあり方も変わってくる」
今、タミュリスは父の言葉を記録している。
「以前は、魔王復活を阻止するためと称して、悪魔祓いが行われていた。しかし、今は法で禁じられている。このように、正義は変化する」
父は、今も続いている悪魔祓いについて糾弾した。
「新しい医学では、生まれ変わりは悪魔つきではなく脳の病気だと言う。ならば必要なのは、過酷な儀式ではなく、正しい治療だ。哀れな病人が救われるよう、医学が発展することを望む」
そうか。父は、クマダ博士の問題で、脳科学そのものが衰退することを懸念しているのか。
「史師エリオンが、魔王の偽りを暴いたのは、ネクロザールが圧政を敷いたからだ。もし真実の聖王が生まれ変わり、民を幸福に導いたのなら、史師エリオンは聖王を讃えたであろう」
正義は変化する……メアリは、魔王ネクロザールとは、聖王アトレウスの真の生まれ変わりだと考えた。今度こそ彼女と、聖王と魔王の関係について、落ち着いた気持ちで語り合いたい。
「私は、ひとりのネールガンド人としての思いを述べた。全ての国民に感謝する」
割れんばかりの拍手が、拡声器を通じてホールに響き渡った。
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