ハコハコの家

紫蘇ジュースの達人

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ハコハコの家

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小さなまちのまちはずれに、ハコハコのいえとよばれている古びたおやしきがありました。
はこをいくつもかさねたようなふしぎなかたちをしているので、いつのまにかそうよばれるようになったのです。今ではあきやになっていて、にわはあれほうだい、おやしきのかべもところどころはがれおちていて、おとなたちはみんな「ハコハコのいえにはちかづいてはいけないよ。」とこどもたちにいってきかせていました。

エリザとチオルはなかよししまいです。
木よう日に小学校がおわると、いっしょにジョゼット先生のいえにピアノのおけいこにいきます。
「おかあさんいってきます!」
「きをつけてね。よりみちしちゃダメよ。」
きょうはふたりでおけいこの日です。

お花が大すきなエリザはみちばたにかわいいお花がないかさがしながらあるきます。
こんちゅうが大すきなチオルは、めずらしいこんちゅうがいないか、さがしながらあるきます。
ふたりはしぜんや生きものが大すきです。
「あ、チョウチョ!」
今までにみたこともないような、大きくて青いチョウチョがひらひらとんでいるのをチオルが見つけました。
チョウチョは二人のあたまの上をクルクルと回るようにとんでから、せまいろじのおくのほうへゆっくりとんでいきました。
「まって!」

チョウチョは大きなおやしきのにわに入っていきました。
くろいこうしでできた大きな門は少しだけあいていて、にわの中に入れそうです。
「あれ、どこ行っちゃった。」
ふたりは大きなおやしきのにわで、チョウチョを見うしなってしまいました。

おやしきにはだれもいないのか、あたりはしーんとしずまりかえっていました。
大きくてとてもきれいなおやしきです。にわのまんなかにはだいりせきでできたふんすいがあり、にわきはきれいにととのえられ、花だんには色とりどりのバラがうえられ、大きなオークの木のこもれびで、にわがかがやいて見えました。
ふたりはきれいなにわに見とれて、おけいこのことなどすっかりわすれてしまっていました。


「あ、いた!」
チョウチョがひらひらとおやしきのげんかんのほうへ。そしてすこしあいているげんかんのドアから、おやしきの中へと入っていくのがみえました。
「こんにちは!」
エリザがドアのまえでいいました。が、へんじはありません。
「こんにちは!」
こんどはチオルがいいました。が、へんじはありません。
こんどはふたりでいっしょに大きなこえで
「こんにち・・」
といいかけたそのとき、

ドアがいきおいよくひらいて中から人がでてきました。
「こんにちは。」
くろいスーツをきて、シルクハットをかぶったおじいさんが立っていました。
「チョウチョがいえの中に入っていくのがみえたの。」
エリザがいいました。
「青くて大きいんだよ」
チオルもまけずにいいました。

「この子のことですかな。」
よくみると、おじいさんのかたにさっきの青いチョウチョがとまっていました。
「ようこそいらっしゃいました。おふたりとも、おまちしておりました。」
「おふたりに、どうしてもおつたえしたいことがあるのです。」
「どうゆうこと?」
エリザがいいました。
「もうしおくれました。わたくしはこのやしきのかんりをしているハコゼット13せいともうします。おふたりのみちあんないを、このチョウにさせたのはこのわたくしでございます。」
「ちょっとよくわからないんですけど。」
エリザはすこしふきげんそうにいいました。
「ちょっとよくわからないんですけど。」
チオルもまねしていいました。

「じかんはかぎられています。こうしているあいだにもどんどんすくなくなっているのです。」
「さあ、はやく。これをごらんください。」
おじいさんはふかいみどりいろのはこをもってきて、ふたりの目のまえであけました。


すると中からせかいじゅうのたくさんのチョウチョがいっせいにとび出してきました。
「わあきれい。」
ふたりはあまりのできごとにびっくりしてしまいました。
「このおやしきのへやには、それぞれ1つずつはこがあります。そのはこの中には、このせかいのすべてがわかれて入っているのです。」
おじいさんは、こんどはいちばんてまえのへやから大きな青いはこをもってきました。
「これをみてください。」
おじいさんがはこをあけると、

青くひかりかがやくほしが出てきました。
「わあ!とってもきれい。」
エリザとチオルは青くてうつくしいほしにみとれてしまいました。
「みしめがねでみてください。もりや生きものたちがみえますよ。」
おじいさんにいわれたとおりみてみると、みずべからとびたつとりたちや、まっさおなうみをおよぐさかなのむれがみえました。いろとりどりの虫たちが、ふかいみどりのもりの中でいきいきとしています。
「これは、いまみなさんがすんでいるちきゅうでございます。」
おじいさんは、こんどはいちばんおくのへやから大きなきいろいはこをもってきました。
「つぎにこれをみてください。」
おじいさんがはこをあけると、

青いちきゅうがでてきました。
「だれかがないているこえがする。」
エリゼがいいました。
「ないているのはだれ?」
チオルがいいました。
「やはり、おふたりにはこのこえがきこえるのですね。むしめがねでよくごらんになってください。」
いわれたとおりにしてみると、さっきとはようすがまったくかわっていました。
もりはきぎがきりたおされてなくなり、すみかをうしなった虫たちやとりたちがないていました。
うみはよごされ、さかなのむれはすがたをけしていました。
にんげんたちはおたがいにけんかをしたり、ものをとり合ったりしていました。こどもたちはないていました。
「これは、100ねんごのちきゅうでございます。にんげんたちがじぶんのよくのためだけにいきるようになり、あらそいあい、生きものたちがめいわくしています。」
「ひどいわ。」
エリゼとチオルの目から、なみだがこぼれました。

おじいさんはふたりのなみだをハンカチでやさしくふいてから、あたたかいこうちゃをいれてくれました。
「どうぶつやさかなや虫たち、くさばなたちのこえがきこえる人たちは、むかしはたくさんいました。」
「しかし、かがくのしんぽでものがふえ、べんりなよのなかになればなるほど、どういうわけかほんとうにたいせつなことがなんだったのか、わすれてしまう人たちがふえていったのです。」
そういうと、おじいさんはいちばんおくからひとつてまえのへやにいき、まっ白いはこをもってきました。
「このはこのなかには、すこしだけみらいのちきゅうがはいっております。」
「どんなちきゅうなの?」
チオルがききました。
「それは、まだわかりません。これからのにんげんたちしだいなのです。」
「エリゼさん、チオルさんのよきこころがいまのにんげんたちにはひつようなのですよ。」
そういうと、おじいさんはポケットからかいちゅうどけいをだしました。
「ほんとうにざんねんですが、じかんがなくなってしまいました。そろそろいかなければ。」
「もうあえないの?」
エリゼがさみしそうにききました。
「おふたりがきょうのことをわすれてしまわなければ、またおあいすることができます。もし、おわすれになったとしても、いつでもわたくしはおふたりのみかたでございますから、しんぱいごむようでございますよ。」
「これはおまもりでございます。おふたりをおまもりするようねがいがかけられています。」
そういって、おじいさんはふたりに1つずつ小さな白いはこをわたしました。
「ありがとう。おじいさんもげんきでね。」
ふたりはおじいさんにやさしくハグをしました。

ことりのこえがしました。こもれびがまぶしくて、エリゼは目をさましました。
なんだかながいあいだねむっていたような、ふしぎなきもちです。
「チオル。チオルおきて!」
チオルも目をさましました。
大きなオークの木のしたで、ふたりはねむってしまっていました。
目のまえには古い大きなおやしきがあります。かべはところどころはがれおちていて、にわはあれほうだいでざっそうがのびていました。
「なにをしていたんだろう。」
「あ、ピアノ。」
チオルがいいました。
ピアノのおけいこにいくのをすっかりわすれてしまっていたのです。
「いそがなきゃ。ジョゼット先生がまっているのに。」
古くてくろいこうしでできた大きなもんをでて、ふたりははしりだしました。

ピアノのおけいこがおわり、いえにかえると、おかあさんがゆうごはんのしたくをしてまっていました。
「きょう、ちょっとピアノおくれてごめんなさい。ジョゼット先生なにかいってなかった?」
エリザがおかあさんにききました。
「なにもいってなかったわよ。なにかあったの?」
「とくにないけど。」
「そんなことより、おちゃどうぞ。」
おかあさんはふたりにあたたかいおちゃをいれてくれました。
「ありがとうおかあさん。」
ふたりはいいました。
リビングのいすにこしかけたとき、ふたりはなにかおしりにあたるものにきがつきました。
「なんだろう。」
ポケットのなかに、ちいさな白いはこがはいっていました。
はこをあけてみると、
ちいさなちきゅうのキーホルダーといっしょにてがみがはいっていました。
「よきこころをわすれないで。おふたりとちきゅうにしあわせがありますように。ハコゼット13せい」

小さなまちのまちはずれに、ハコハコのいえとよばれている古びたおやしきがありました。
そのむかし、ハコゼットというふしぎなきぞくがずんでいたとかいないとか。
あるふたりのこどもがにわそうじをはじめたたおかげで、むかしのようなきれいなおやしきになり、まちのひとたちのいこいのばになったそうですよ。

おしまい
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