リコの栄光

紫蘇ジュースの達人

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ロキ・キーン

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モモが暴走したせいで、大ピンチだ。
モモと一緒にいると、いつも何かトラブルが起こるから嫌なんだ。

その時、店の奥で今まで新聞を読んでいた男が、ゆっくりと立ち上がったのが見えた。
新聞を丁寧に折りたたんでテーブルの上に置き、レジのほうに歩き出す。

「おいお前、動くなと言っているだろう。撃つぞ!」

アルカディアの男が大声で言うが、男に足を止める気配はない。

「貴様!」

アルカディアの男は、歩き続けるその男の顔面にパンチを浴びせた。
パンチは顔面をとらえ、男のサングラスがはじけ飛んだ。が、男は微動だにせずレジのほうに歩き続ける。

その男の顔には大きな古傷があって、只者ではない眼光を放っている。

「俺の生徒に手を出すな。」

「ロキ教官!」
モモが言った。

その男は、ケルト軍訓練学校の教官、鬼のロキ・キーンであった。

「どうやら死にたいらしいな。」
アルカディアの男はロキに銃口を向けた。
客たちから悲鳴が上がる。
ロキは眉一つ動かさず、歩く足を一切止めようとはしない。
「待て!」
もう一人のレジにいたアルカディアの男が言った。
「その顔と腕の傷、見覚えがある。こいつは・・・ケルト軍レンジャー部隊統括隊長のロキ・キーンだ。」
「ロキ・キーン?!戦場で会ったら最後と言われる「死神」。なんてこった!相手が悪すぎますよ。」
「行くぞ!」
「はい!」
男たちは慌てて転がるように店を出て行った。

「お前たち、ここで何をしている。」
ロキは鋭い眼光でふたりを睨みつけている。
「すみません!」
「店に入って来た時、俺がいたことにも気が付かなかったな。」
「すみません。話に夢中で。」
モモが言った。
「非番の日でも、軍人は常に周りの状況を見ておくことが必要だと、あれほど訓練で言っているだろう。」
「俺がいつも訓練でお前たちに厳しくしているのはなぜだと思う。」
「戦場は厳しいから、ですか?」
リコが言った。
「強くならなければ、自分の命も人の命も守れないからだ。今日、お前たちだけでは民間人の命を守ることは出来なかった。自分の命さえもだ。」
「今日はもう家に帰れ。明日から学校で鍛えなおしてやるから覚悟しておけ。」


帰り道の電車の中で、リコは今日の出来事を思い返していた。
自分もいつかロキのような人間になりたいと。人の命を守れる存在になるのだと決意した。
「俺明日からまた頑張るわ。やっぱロキ教官はすげーよな。」
「・・・」
「おいモモ、聞いてる?」
となりを見ると、モモは泣いていた。
今日の自分のミス、ロキの言葉が胸に刺さったのだろう。モモはああ見えて、頑張り屋で根はまじめなのだ。

「気にするなよ。また明日から一緒にがんばろうぜ。」
「え?ごめん何?」
イヤホンを外すモモ
「今ケータイでドラマ見ててさ。恋愛列車の最終回泣けるよねー。」
「?」
そういえば、今日のロキ教官鬼こわかったね。」
「明日から学校で覚悟しておけ!ってさ。こんな顔で(笑)」

「・・・。」
前言を激しく撤回だ。

「そういえば、リコのお父さんってレオ・バルトなんでしょ?びっくり!」
「まあ、そうだけど。」
「だからリコは射撃がうまいのね。伝説のスナイパーの血を引いているから。」
「まぐれだよ。父さんから教えてもらったことはないんだ。」
「そんなことよりモモ、さっき裏切り者の話をしていたよね。」
「ケルト軍を裏切ってアルカディアの夜明けを率いているって人の話?」
「そう。それ聞いて父さんが言ってたこと、うっすら思い出したんだよな。」
「俺がまだ小さかった頃、父さんと一緒に風呂に入ってたんだ。」


「リコ、学校で仲のいい友達はいるか?」
「いるよ。ブッチとか、カルバーニとか。」
「自分の周りの人たちの些細な変化に気づける人になるんだぞ。」
「うん。」
「父さんは仲間の変化に気づけなかったんだ。いや、気づいたときにはもう遅かったといったほうがいい。」
「どうゆうこと?」
「お前には少し難しいかもしれないが、要は父さんの信頼していた仲間が裏切ったんだ。
情報と金を持って敵国に寝返った。でもそいつにもそれだけの事情があったんだ。」
「よく分からないよ。」
「リコ、今は分からないかもしれないが、これだけは覚えておいてくれ。もしどこかで左の手首に六芒星の入れ墨が入っている男を見かけたら、決して近づいてはダメだ。すぐに母さんに知らせるんだぞ。いいな。」
「分かったけど、六芒星って何?」
「三角形を上下に組み合わせた星印だな。こんなやつだ。」

「そう言って、父さんは風呂場の鏡に六芒星を描いて見せてくれたんだ。」
「そんなことがあったのね。その入れ墨の男、アルカディアの夜明けと関係があるかもしれないわね。」
「どうして?」
「六芒星って、アルカディアの夜明けのシンボルマークだからよ。」

二人が話しているうちに、電車はリコが降りる駅に停車した。
「そうだったのか。じゃあモモ、また明日な。」
「また明日ね。」
リコは電車を降りた。

リコが電車から降り、扉が閉まる寸前、一人の男が電車から降りた。
背は高く、帽子を目深に被り、左の手首に包帯を巻いている。
「リコ・バルト・・。」
小声で呟きながら、改札を出て家路を急ぐ人々の波と夜の暗闇の中に、その男は消えていった。
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