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第2話 失敗しないAV選び
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二兎追う者は一兎も得ずである。
その点、僕はと言えば、終始一貫しAV道を貫いている。
別にそれをライフワークだとか、一生の大事業だとか、極めることを是としているわけではない。
誰だって楽しい事、うれしい事は好きだ。
そういう次元で僕は足蹴無くレンタルビデオ店に通う。
バイト先からアパートまでの最短ルート上にその店はある。途中深夜営業しているラーメン屋に立ち寄ってラーメンと餃子のセットを注文する。別に腹が減っているとか、ここのラーメンのスープがめちゃくちゃ美味いとか、そういうことはない。
アルバイトをしていた自分を食事でリセットし、頭の中を空っぽの状態でアダルトコーナーの暖簾をくぐる。"失敗しないため"の儀式、ルーチンワークと言っていい。
ここに通うようになってもうどれだけの月日が経つだろうか。人類が滅亡するまでの日数をカウントダウンする物語を3往復できるだけの旅路を僕はしてきたことになる。
感無量とは言わないまでも、そんな生活もあと数カ月で終わるかと思うと、やはりこみあげてくる思いはあった……がしかし、それも過去のことである。
冒頭でも述べたとおり、僕は大学4年生。最大のイベントは就活である。
しかし僕には勝算があった。コネだろうと縁故だろうと使える物はなんでも使う。
それが僕の主義だ。
だからその"悪い知らせ"が来るまでは、まるで緊張感のない日々を過ごしてきた。
父の知り合いの会社への就職は大学に入学した当時から半ば既定路線になっていたのだし、年始の挨拶ではよろしく頼みますということに、なっていたのだから。
しかし風向きと言うのは突然変わるものである。
事情はよくわからないが、何やら事業で大きな失敗があったらしい。まだ表には出ていないが、会社の存続も危ぶまれるような危機的状況にあり、大規模なリストラ計画がいずれ発表されるという連絡が実家にあったそうだ。
よくよく話を聞くと、その連絡は3日前に父宛てにあったそうなのだが、いろいろと事実確認をしてくれた結果、これはなるほど、就職は諦めるべきだという話になった。
正直に言えば、困った。困り果てた。
就職ができないだとか、どうしてもその会社に入りたかったからとか、そういう話ではない。
ただただ、自分が思い描いていた大学卒業までの残りの時間の過ごし方について、仕切り直さなければいけないという億劫さに正直笑うしかなかった。
気落ちはしていないが、気分はすぐれない。
すぐれない気持ちをスッキリさせさえすれば、あとはなんとかなる。
自慢ではないが、自分はそうやって生きてきたのだ。できないとは思わないがやりたいとも思わない。
ひっきょう覚悟を決めさえすればなんとでもなる。
ただ、それが億劫なだけだ。
振り返って思えば、あの時の僕は気に迷いはあったのかもしれない。
淀んではいなかったが、聡明ではなかったし、暗くはなかったが、軽やかではいられなかった。
そんなわけで、その夜、僕が手に取るAV作品は、いつもと違うテイストの作品に気が赴き、手が伸びたことに関しては、あったのかもしれないし、何もなくてもいずれ手にした作品であったかもしれないが、僕はその夜、運命的にその作品を手にしたのだと、今なら思えるのである。
『天使か悪魔か』
僕は偶然、そのDVDを手に取った。いや、正確に言うと他のDVDを取ろうとして手を滑らせ、他のDVDが数枚床に落ちてしまったのである。
旧作であれば作品は棚に本を並べるように収納されているが、新作や話題作はパッケージが見えるように陳列棚に斜めに立てかけるように置いてある。
たまに客が手に取った後、適当に戻すもどのだから不安定になっていることは、ままあるのである。拾い上げた一つの作品に目が留まる。
そのパッケージは文字通り光と闇、正義と惡、真実と嘘、白と黒の関係。
相対するキャラクターのダブルキャスト。
白くて、白々しくて、清廉で潔白な天使、黒くて、黒々としていて、妖艶で魅惑の悪魔。
表の白、裏の黒、パッケージには露骨な性描写はいっさいない。
それがかえて興味を引いたのか、ともかくその時僕はそのDVDを魅入られるように手に取り、レジカウンターに持って行った。いつもとレジの動きが違う。何か問題でもあるのだろうか?
「お客様、こちらはサービス商品になっておりまして、レンタル料無料となっております。返却期日は1週間となっておりますので、期日を過ぎますと延長料金が新作と同様にかかりますので、ご注意を願います」
確か連続ドラマの1作目は無料とか、そういうサービスはあった気がするが、さて、これはどうしたものか。
"世の中、タダより高くつくものはない"
かといって今更いらないですと言える僕ではなかった。
まぁ、いい。保険は掛けてある。
僕は必ず3作同時に借りる。
好みの女優枠、企画枠、冒険枠。
失敗しないAV選びには自信がある。打率3割以上はここ数年キープしている。
大丈夫だ、問題ない。
3本を選ぶのに使用した時間37分。
まずまずか。長い時は1時間を優に超える時間を費やし、それでも外すときは外すのである。何を持って"当たり"とか何をもって"ハズレ"なのかについては、ここでは触れないでおこう。
そして僕はその夜、保険であるその他2本の作品については、見ることはなかった。
保険はあくまでも保険なのだから。
その点、僕はと言えば、終始一貫しAV道を貫いている。
別にそれをライフワークだとか、一生の大事業だとか、極めることを是としているわけではない。
誰だって楽しい事、うれしい事は好きだ。
そういう次元で僕は足蹴無くレンタルビデオ店に通う。
バイト先からアパートまでの最短ルート上にその店はある。途中深夜営業しているラーメン屋に立ち寄ってラーメンと餃子のセットを注文する。別に腹が減っているとか、ここのラーメンのスープがめちゃくちゃ美味いとか、そういうことはない。
アルバイトをしていた自分を食事でリセットし、頭の中を空っぽの状態でアダルトコーナーの暖簾をくぐる。"失敗しないため"の儀式、ルーチンワークと言っていい。
ここに通うようになってもうどれだけの月日が経つだろうか。人類が滅亡するまでの日数をカウントダウンする物語を3往復できるだけの旅路を僕はしてきたことになる。
感無量とは言わないまでも、そんな生活もあと数カ月で終わるかと思うと、やはりこみあげてくる思いはあった……がしかし、それも過去のことである。
冒頭でも述べたとおり、僕は大学4年生。最大のイベントは就活である。
しかし僕には勝算があった。コネだろうと縁故だろうと使える物はなんでも使う。
それが僕の主義だ。
だからその"悪い知らせ"が来るまでは、まるで緊張感のない日々を過ごしてきた。
父の知り合いの会社への就職は大学に入学した当時から半ば既定路線になっていたのだし、年始の挨拶ではよろしく頼みますということに、なっていたのだから。
しかし風向きと言うのは突然変わるものである。
事情はよくわからないが、何やら事業で大きな失敗があったらしい。まだ表には出ていないが、会社の存続も危ぶまれるような危機的状況にあり、大規模なリストラ計画がいずれ発表されるという連絡が実家にあったそうだ。
よくよく話を聞くと、その連絡は3日前に父宛てにあったそうなのだが、いろいろと事実確認をしてくれた結果、これはなるほど、就職は諦めるべきだという話になった。
正直に言えば、困った。困り果てた。
就職ができないだとか、どうしてもその会社に入りたかったからとか、そういう話ではない。
ただただ、自分が思い描いていた大学卒業までの残りの時間の過ごし方について、仕切り直さなければいけないという億劫さに正直笑うしかなかった。
気落ちはしていないが、気分はすぐれない。
すぐれない気持ちをスッキリさせさえすれば、あとはなんとかなる。
自慢ではないが、自分はそうやって生きてきたのだ。できないとは思わないがやりたいとも思わない。
ひっきょう覚悟を決めさえすればなんとでもなる。
ただ、それが億劫なだけだ。
振り返って思えば、あの時の僕は気に迷いはあったのかもしれない。
淀んではいなかったが、聡明ではなかったし、暗くはなかったが、軽やかではいられなかった。
そんなわけで、その夜、僕が手に取るAV作品は、いつもと違うテイストの作品に気が赴き、手が伸びたことに関しては、あったのかもしれないし、何もなくてもいずれ手にした作品であったかもしれないが、僕はその夜、運命的にその作品を手にしたのだと、今なら思えるのである。
『天使か悪魔か』
僕は偶然、そのDVDを手に取った。いや、正確に言うと他のDVDを取ろうとして手を滑らせ、他のDVDが数枚床に落ちてしまったのである。
旧作であれば作品は棚に本を並べるように収納されているが、新作や話題作はパッケージが見えるように陳列棚に斜めに立てかけるように置いてある。
たまに客が手に取った後、適当に戻すもどのだから不安定になっていることは、ままあるのである。拾い上げた一つの作品に目が留まる。
そのパッケージは文字通り光と闇、正義と惡、真実と嘘、白と黒の関係。
相対するキャラクターのダブルキャスト。
白くて、白々しくて、清廉で潔白な天使、黒くて、黒々としていて、妖艶で魅惑の悪魔。
表の白、裏の黒、パッケージには露骨な性描写はいっさいない。
それがかえて興味を引いたのか、ともかくその時僕はそのDVDを魅入られるように手に取り、レジカウンターに持って行った。いつもとレジの動きが違う。何か問題でもあるのだろうか?
「お客様、こちらはサービス商品になっておりまして、レンタル料無料となっております。返却期日は1週間となっておりますので、期日を過ぎますと延長料金が新作と同様にかかりますので、ご注意を願います」
確か連続ドラマの1作目は無料とか、そういうサービスはあった気がするが、さて、これはどうしたものか。
"世の中、タダより高くつくものはない"
かといって今更いらないですと言える僕ではなかった。
まぁ、いい。保険は掛けてある。
僕は必ず3作同時に借りる。
好みの女優枠、企画枠、冒険枠。
失敗しないAV選びには自信がある。打率3割以上はここ数年キープしている。
大丈夫だ、問題ない。
3本を選ぶのに使用した時間37分。
まずまずか。長い時は1時間を優に超える時間を費やし、それでも外すときは外すのである。何を持って"当たり"とか何をもって"ハズレ"なのかについては、ここでは触れないでおこう。
そして僕はその夜、保険であるその他2本の作品については、見ることはなかった。
保険はあくまでも保険なのだから。
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