15 / 30
榊 柚乃・1
1
しおりを挟む授業後のホームルームが終わってすぐに、わたしの机のそばに男子生徒がやってきた。
捲ったシャツの袖から伸びた、少し日に焼けた腕。その左手首には、シルバーのトップスが付いた青色のコードブレスレットが嵌められている。それは、わたしが彼を識別するための大切な目印だ。
「榊、帰ろ」
わたしが顔を上げるのとちょうど同じタイミングで声をかけてきたのは、時瀬 蒼生くん。
最近の彼は、わたしに声をかけるときに手首の目印が見えやすいように正面に立つ。そして必ず、「榊」と最初にわたしの名前を呼んでから話し始める。それらは全部、わたしが彼のことを少しでも識別しやすくなるようにと考えてくれた気遣いだ。
「優しい」と言ったら、時瀬くんは否定するけど、彼は初めて話したときからずっと、わたしに優しい。
そんな時瀬くんから、突然の告白を受けたのは一ヶ月前。
驚いたし信じられない気持ちでいっぱいだったけど、時瀬くんからの告白は素直に嬉しくて。現在、わたしと彼は付き合っている。
時瀬くんは、わたしにとって生まれて初めてできた彼氏だ。
恋愛シロウトのわたしは、男の子との付き合い方がそもそもあまりよくわかっていないのだけど……。時瀬くんは、たぶん初めてじゃない。
確かめたわけではないけれど、なんとなく、女の子の対応に慣れている気がする。
教室でもわたしがひとりでいると、さりげなく近寄ってきて声をかけてくれるし、週三日ある美術部の活動日以外は、必ず時瀬くんのほうから「一緒に帰ろう」と誘ってくれる。
時瀬くんの態度がそんな感じだから、告白をオッケーした一週間後には、わたしたちの関係はクラス公認になっていて。しばらくのあいだは、これまで話したこともないクラスメートたちから声をかけられて戸惑った。
突然複数人に囲まれて一気にしゃべられたりすると、相手が誰だか認識するのに時間がかかって、一瞬頭が混乱してしまうのだ。
「今日、帰りにどこか寄る?」
並んで教室を出ると、時瀬くんがわたしのほうを向いて首を傾げた。
「いいよ」
そう答えた瞬間に、時瀬くんの口角が上がるのがわかる。
「じゃあ、マックでちょっとしゃべってから帰ろ」
時瀬くんの綺麗な薄茶の髪が跳ねるようにふわりと揺れ、誘いかけてくる彼の声が弾む。
笑ってくれてるのかな……。
肌に感じる雰囲気や弓状にしなる口の動きでその気配はわかるけど、実を言うと、わたしは自分の彼氏がどんな顔をしているのか、その全貌がわからない。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
黄昏は悲しき堕天使達のシュプール
Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・
黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に
儚くも露と消えていく』
ある朝、
目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。
小学校六年生に戻った俺を取り巻く
懐かしい顔ぶれ。
優しい先生。
いじめっ子のグループ。
クラスで一番美しい少女。
そして。
密かに想い続けていた初恋の少女。
この世界は嘘と欺瞞に満ちている。
愛を語るには幼過ぎる少女達と
愛を語るには汚れ過ぎた大人。
少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、
大人は平然と他人を騙す。
ある時、
俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。
そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。
夕日に少女の涙が落ちる時、
俺は彼女達の笑顔と
失われた真実を
取り戻すことができるのだろうか。
真夏の温泉物語
矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
僕たちのトワイライトエクスプレス24時間41分
結 励琉
青春
トワイライトエクスプレス廃止から9年。懐かしの世界に戻ってみませんか。
1月24日、僕は札幌駅の4番線ホームにいる。肩からかけたカバンには、6号車のシングルツインの切符が入っている。さあ、これから24時間41分の旅が始まる。
2022年鉄道開業150年交通新聞社鉄道文芸プロジェクト「鉄文(てつぶん)」文学賞応募作
(受賞作のみ出版権は交通新聞社に帰属しています。)
青天のヘキレキ
ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ
高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。
上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。
思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。
可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。
お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。
出会いは化学変化。
いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。
お楽しみいただけますように。
他コンテンツにも掲載中です。
物語の始まりは…
江上蒼羽
青春
***
自他共に認める学校一のイケてる男子、清原聖慈(17)
担任教師から与えられた課題をきっかけに、物語が動き始める。
男子高校生目線の青春物語として書きました。
所々不快に思われる表現があるかと思いますが、作品の中の表現につき、ご理解願いします。
R5.7月頃〜R6.2/19執筆
R6.2/19〜公開開始
***
ちんちろちん -辰陵編-
穂高ハジメ
青春
高知は田舎、辰陵市。瀬戸内拓海(通称:タク)が市立辰陵中学校へ入学してはや1年と少し。このまま卒業まで帰宅部を貫き通すつもりのタクであったが、ふとしたことから股間のイチモツでしのぎを削り合う不思議な競技、「陰道」の世界へと足を踏み入れることとなる――。
第26回文学フリマ東京にて出品しましたコピ本、『ちんちろちん辰陵編』の掲載分を加筆・修正して投稿していきます。
【続編鋭意執筆中、次回の文学フリマ東京にてコピ本として出品予定です】
※全編通して下ネタの塊です。苦手な方はブラウザバック推奨※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる