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七月七日の不運

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 七月七日。僕が十歳を迎えたその日は、亡くなったばあちゃんの一年目の命日だった。

 なんとなくいつもより早く目が覚めてしまった僕は、ばあちゃんが生きていた頃に寝起きしていた和室に置かれた仏壇の前に座って手を合わせた。

 僕の家は、父親が内科クリニックの開業医で、母親が看護師。自宅の隣に建てたクリニックで働く両親は毎日忙しく、僕と三つ上の兄は、同居していた父方のばあちゃんに育てられたようなものだった。

 しっかり者だった兄と違って、小さな頃の僕は泣き虫なおばあちゃんっ子で。ばあちゃんは孫の中でも僕のことを一番気にかけてくれていたように思う。

 そんなばあちゃんが、体調を崩して倒れたときはショックだったし、僕の九歳の誕生日の夜に息を引き取ったこともショックだった。

 あとから父さんに聞いた話だと、ばあちゃんは亡くなる一週間前から、いつ危篤になってもおかしくない状態だったらしい。でも、「あっちゃんの九歳の誕生日をお祝いするまではあの世に行けない」と頑張ってくれていたそうだ。

 そうして、七月七日の放課後に病院に会い行った僕の顔を見たあと、ばあちゃんは容態が急変して亡くなった。ばあちゃんが亡くなったあと、僕は冷たくなったばあちゃんの青白い手を握りしめてめちゃくちゃ泣いた。

 九歳の誕生日だけじゃなくて、十歳も、十一歳も、その次もずっと、ばあちゃんに誕生日をお祝いして欲しかった。

「ばあちゃん、僕、十歳になったよ」

 遺影の中で笑う、亡くなる何年か前のばあちゃんの顔。見つめて声をかけてみたところで、もちろん返事があるはずもない。

「おめでとう、あっちゃん」と、目尻のシワを深くして嬉しそうに笑いかけてくれたばあちゃん。今年はその笑顔が見られないことを淋しく思いながら、僕はいつもより三十分も早く学校に出かけた。


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