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黒の帳 『一つ目の帳』
裏切り者
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*未遂ですが無理やり表現があります。
━━━━━━━━━━━━━━━
「………えっ、…ぁ、あま、の…?」
龍牙もパーカーの男に気付いたようで、私たちは二人して呟いた。
「…………」
天野君と私の目が合った。天野君は気まずそうに斜め下を向いてしまう。
その様子を見て、我に返った龍牙がわあわあと騒ぎ始めた。
「おいっ、テメェ!!!天野っ!!!」
「うおっ、どうした、知り合い?」
「天野!!!鈴を守れよっ!!!そっ、そりゃ、リンさんだってびっくりしてるかもしんないけど、まっ、守れって!!!!」
私は今、顔を晒している。
ああ、自分から、思わぬタイミングでバラしてしまった。
呆然としながら、私はぽつんと呟いた。
「……龍牙を、守らなかったの?」
「…………」
「…龍牙、泣いてたよ?」
「………………」
「………三年生に、呼び出されてたよね。最初から分かってたの?」
「……………………」
天野君の方をちらっと見たけれど、天野君は俯いたままだった。
何、それ。
龍牙を、見捨てたの?
確かに、渡来さんは怖いかもしれないけど、でも、龍牙を見捨てたの?
「…………最低」
「……ぅ…………」
かすかな呻き声が聞こえたけど、知るもんか。
気まずい空気が漂っている。不良たちには天野君と私たちの関係が分からないらしい。少しして、渡来があっ、と声を出した。
「……リン、リンか!天野、お前が探してた美人ってコイツだったのか?」
「…………うす」
「なるほどな。こうやって顔隠してたならそりゃ気づかねぇわ。おい、天野、こっちこっち」
「……なんすか」
「お前が二番目って言っただろ~?」
そんな話、してたの?
私を犯す順番を、渡来と、相談してたの?
「……そっすね、あざっす」
「ノリ良いな~」
「よっ、天野童貞卒業おめ!!」
「いやいや童貞じゃないんで」
げらげらと周りが笑い、天野君が、苦笑いした。
ああ、なんだ。
天野君も、他の人と、一緒だったんだ。
顔が分かれば手のひら返し。
騙したな、お前がリンさんだったのか、そう拒絶される方がまだマシだった。
天野君は、そんな人じゃ、ないと思ってた。
顔だけで態度を変える人じゃないって。
他人を、こんな方法で、思い通りにしようとする人間だなんて、思ってなかった。
「……酷いよ」
リンさんリンさんと呼んでおいて、本当は、周りの不良と同じことしか考えていなかったんだろう。押し倒して抵抗を封じて、自分の好きなように汚してやりたいと。
でも、でも、顔を隠している時の私とは、友達のように接してくれた。それはとても嬉しかったし、嘘ではないのだろう。だからきっと、顔を知らない私のことは、『リン』ではなく『紫川鈴』のことは、友達だと思ってくれていたはず。
「…リンが私なんて、知らなかったんでしょ。だから、こんな、こと」
『紫川鈴』は天野君の、友達で___
「知ってた」
「……え?」
「つい最近だけど、……気付いてた」
どん、と崖から突き落とされた気分だった。
ああ、知ってたの。
知ってて、私に前と同じように接したんだ。
待って、もしかして…
……知ったから、裏切られたから、騙されたって分かったから、こんなこと、してるの?
私への、復讐? 報復?
そう、考えが行き着いた瞬間、急に視界が滲んだ。
「なっ、に、それ……」
「……ごめん」
「あはっ、ははっ、知ってたの、そう、知ってたんだ」
「おいおい天野、泣かしてんじゃねぇよ。仕方ねぇな……ん…」
「ひ、いっ……」
べろりと頬を撫でられ、全身に鳥肌が立った。びくりと体を震わせると、渡来が舌を見せてにやにや笑った。
「うわぁ…可愛いな」
「ちょっとーケンちゃん変態くせー」
「ケンちゃんテンション爆上がりじゃん。ケンちゃんもやっぱ男の子だな」
「超絶美人だよな~。早く賢吾代わってくれー!」
「あっ、撮影係ちゃんと撮ってる?」
「ちょい待ち、設定が…」
渡来の隣で、天野君が苦しそうな顔をしている。
何その顔。
私がこんな目に遭って、嬉しいんじゃないの?
違うの?
それとも、今更後悔した?
天野君への感情が、ぐつぐつと腹の中で煮えたぎっている。
ああ、ああ、裏切られたのは、どっちなんだろう。
ちらりと横を盗みみれば、龍牙は涙を流して呆然としていた。もう、騒ぐことも無い。ぽろぽろといくつもいくつも涙を零して、惚けている。それはそうだろう。
龍牙は天野君と仲が良かった。馬鹿騒ぎして、わあわあ言い合って、トランプで遊んだり、内緒話して、それはもう友達として楽しそうにしていた。
その、天野君が、今、渡来と同じ側にいるんだ。
肩に大きな手が添えられ、渡来が顔を近づけてくる。
私は心を串刺しにされる思いで、目を閉じた。
「ん、ん……」
「……ふっ……」
「うわあ、ケンちゃんがっつりいくじゃん」
「賢吾大興奮。賢吾ホイホイ」
「アホなこと言わないでよ。ビデオに声入るよ」
「やべやべ」
ゆっくり押し倒されるが、その間もずっとキスをされている。
荒い鼻息に顔を顰めないように気をつけながら、私は必死に大人しくしていた。いくら渡来が乗り気でも、私が素直でなければ龍牙に矛先が向くかもしれない。そう思うと、従順でいるしかなかった。
「口、開けろ」
言われるがままに口を開けると、生暖かい湿った物が口内に侵入してきた。ぐちゅぐちゅと口内を掻き回され、全身の血の気が引くのを感じながら、私は必死にマットを握りしめた。
急かされるような動きに翻弄され、呼吸が上手くできない。舌が動くのに合わせて呼吸をすると、男の息がより荒くなった。
「ふっ、ぁ、んッ、ン…、あ、あッ……う…」
「……ぇ、エロぉ…」
「やば、エロ……」
「超エッチじゃん」
「お前ら語彙力無さすぎ……エッロ」
唾液を送り込まれ、また急かすようにくちくちと掻き回される。意図を察して飲み込んだが、口端から飲み込めきれなかった唾液が垂れていった。
そろそろ苦しくなってきて、私は少し抵抗を始めた。ぺしぺしと大きな背中を叩くと、何を勘違いしたのか、口付けがより深いものになった。
「あぅ、やッ、ん、んーッ……、ん、んぅ」
「ふーっ、フーっ……、ン…」
「うっへぇ……ケンちゃんすげぇ興奮してんじゃん」
「そりゃそうっしょ。はー、マジシコい」
「えっろいベロチューだな、うはぁ…」
気持ち悪い。
今にも、吐きそうだ。
でも、でも、我慢しなきゃならない。
私が過剰に抵抗すれば、龍牙が危ない。
きつく閉じた目からいくつも涙が零れていく。その度に、周りが何か呟く。ああ、こういうのも相手を煽るんだろうなあ。
暫く耐えていると、漸く気が済んだらしく、口が解放された。ちゅぽんという音ともに渡来が離れていき、私はぼうっとした意識のまま目を開けた。
ずっと口を塞がれていたせいで、空気が足りない。必死に呼吸を繰り返すと、また周りが色めき立ったのが分かった。
「はあっ、はっ、ぁ……、はっ、くるし、ぁ…、う……、んん…」
「はァっ……おい天野、ハサミ貸せ、あークソっ、やべ、早くやりてぇ…、は……」
「ひっ…ぅ、ひッ……、ン、んぐっ…」
口端を伝う唾液までじっくりと舐められ、また私の目から涙が溢れた。
ああ、今から、天野君の目の前で、龍牙の、目の前で、汚されるんだ。
「…………あ……?」
口端だけじゃなく、首までべろりと舐められる。その嫌悪感にまた体を震わせた時、渡来が突然止まった。
顔を上げ、数秒して、彼は、不気味な呻き声を上げた。
「ぅ、お、うぐ……ッ……ぁ、あ"あ"あ"あ"っ、ヴ、ぉ……ッ」
「ひっ、なに、なっ……えっ…?」
酷く、苦しそうだ。痛みを堪えるような表情を浮かべている。訳が分からなくて固まっていると、周りの不良が一斉に騒ぎ始めた。
「けっ、ケンちゃん!?」
「天野、テメェ何してやがるっ!!な、一年っ、お前何ッ……」
「天野っ、よくやった!!一年二年、お前らやるぞっ!!」
「おう!!!」
「くそっ、おい三年!!クソガキがなんか言ってんぞ、思い知らせてやれ!!!」
何が、起きたの?
訳が、分からない。
周りの不良が突然喧嘩を始めた。
仲間割れ?どういうこと?
横を見れば、龍牙も涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔でぽかんとしている。
呆然としていると、目の前の渡来が蹴り飛ばされ、見慣れた青髪の男が私に手を差し伸べた。
「立てるか」
「ぅ、あ、何、何……??」
「…ちょっと我慢してろよ」
渡来に押し倒された体勢のまま、動けない。体が恐怖で固まっていたし、今の状況が全く理解できない。
私が硬直していると、天野君は私を抱き上げた。いわゆる、お姫様抱っこという形で。
何が起きてるか分からない。でも、抵抗する気力はさっきの恐怖で全て削られた。
天野君はそのまま歩き出そうとしたが、突然止まってしまった。
「天野っ、……待て、テメェ…」
私の目の前に、ぬうっと手が現れた。その手が天野君の肩を掴み、天野君は顔を顰めた。
「離せ」
「裏切りやがったな……ぐっ、こんな、モン……刺しやがって………」
天野君は手を振り払い、くるりと振り向いた。そこにはよろよろと立ち上がる渡来がいた。足には、刃渡りの大きいナイフが刺さっている。さっきの呻き声は、ナイフを刺された痛みを堪えていたのか。
「ハサミ貸せって言いましたよね、どーぞ、差し上げます」
「は……ぶっ殺してやる…」
「このっ!」
「天野行け!!」
渡来が構えようとした瞬間、後ろから他の不良が殴りかかった。渡来はそちらの相手に気を取られたようで、天野君はその隙に走り出した。
扉を乱暴に蹴り開け、天野君が走り出す。後ろから渡来が追ってきているのが見える。
「……っ……、は、……はぁっ、……」
「天野、君、これっ、どういうこと…??」
「黙っ、て、ろ」
「待てコラァァァァ!!!!」
私が走ってきた道とは別方向の道を走っている。渡来は足を怪我していて、中々上手く走れていない。でも、天野君も私を抱き上げているから、速く走れない。このままだと追いつかれる。
誰が味方かよく分からなくなったけれど、私は、自分を支えてくれるこの腕に縋りたくなった。
「天野、君っ、頑張って…」
「………任、せろ…」
ぎゅう、とパーカーを握りしめると、天野君が私を強く支えてくれたのが分かった。
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「………えっ、…ぁ、あま、の…?」
龍牙もパーカーの男に気付いたようで、私たちは二人して呟いた。
「…………」
天野君と私の目が合った。天野君は気まずそうに斜め下を向いてしまう。
その様子を見て、我に返った龍牙がわあわあと騒ぎ始めた。
「おいっ、テメェ!!!天野っ!!!」
「うおっ、どうした、知り合い?」
「天野!!!鈴を守れよっ!!!そっ、そりゃ、リンさんだってびっくりしてるかもしんないけど、まっ、守れって!!!!」
私は今、顔を晒している。
ああ、自分から、思わぬタイミングでバラしてしまった。
呆然としながら、私はぽつんと呟いた。
「……龍牙を、守らなかったの?」
「…………」
「…龍牙、泣いてたよ?」
「………………」
「………三年生に、呼び出されてたよね。最初から分かってたの?」
「……………………」
天野君の方をちらっと見たけれど、天野君は俯いたままだった。
何、それ。
龍牙を、見捨てたの?
確かに、渡来さんは怖いかもしれないけど、でも、龍牙を見捨てたの?
「…………最低」
「……ぅ…………」
かすかな呻き声が聞こえたけど、知るもんか。
気まずい空気が漂っている。不良たちには天野君と私たちの関係が分からないらしい。少しして、渡来があっ、と声を出した。
「……リン、リンか!天野、お前が探してた美人ってコイツだったのか?」
「…………うす」
「なるほどな。こうやって顔隠してたならそりゃ気づかねぇわ。おい、天野、こっちこっち」
「……なんすか」
「お前が二番目って言っただろ~?」
そんな話、してたの?
私を犯す順番を、渡来と、相談してたの?
「……そっすね、あざっす」
「ノリ良いな~」
「よっ、天野童貞卒業おめ!!」
「いやいや童貞じゃないんで」
げらげらと周りが笑い、天野君が、苦笑いした。
ああ、なんだ。
天野君も、他の人と、一緒だったんだ。
顔が分かれば手のひら返し。
騙したな、お前がリンさんだったのか、そう拒絶される方がまだマシだった。
天野君は、そんな人じゃ、ないと思ってた。
顔だけで態度を変える人じゃないって。
他人を、こんな方法で、思い通りにしようとする人間だなんて、思ってなかった。
「……酷いよ」
リンさんリンさんと呼んでおいて、本当は、周りの不良と同じことしか考えていなかったんだろう。押し倒して抵抗を封じて、自分の好きなように汚してやりたいと。
でも、でも、顔を隠している時の私とは、友達のように接してくれた。それはとても嬉しかったし、嘘ではないのだろう。だからきっと、顔を知らない私のことは、『リン』ではなく『紫川鈴』のことは、友達だと思ってくれていたはず。
「…リンが私なんて、知らなかったんでしょ。だから、こんな、こと」
『紫川鈴』は天野君の、友達で___
「知ってた」
「……え?」
「つい最近だけど、……気付いてた」
どん、と崖から突き落とされた気分だった。
ああ、知ってたの。
知ってて、私に前と同じように接したんだ。
待って、もしかして…
……知ったから、裏切られたから、騙されたって分かったから、こんなこと、してるの?
私への、復讐? 報復?
そう、考えが行き着いた瞬間、急に視界が滲んだ。
「なっ、に、それ……」
「……ごめん」
「あはっ、ははっ、知ってたの、そう、知ってたんだ」
「おいおい天野、泣かしてんじゃねぇよ。仕方ねぇな……ん…」
「ひ、いっ……」
べろりと頬を撫でられ、全身に鳥肌が立った。びくりと体を震わせると、渡来が舌を見せてにやにや笑った。
「うわぁ…可愛いな」
「ちょっとーケンちゃん変態くせー」
「ケンちゃんテンション爆上がりじゃん。ケンちゃんもやっぱ男の子だな」
「超絶美人だよな~。早く賢吾代わってくれー!」
「あっ、撮影係ちゃんと撮ってる?」
「ちょい待ち、設定が…」
渡来の隣で、天野君が苦しそうな顔をしている。
何その顔。
私がこんな目に遭って、嬉しいんじゃないの?
違うの?
それとも、今更後悔した?
天野君への感情が、ぐつぐつと腹の中で煮えたぎっている。
ああ、ああ、裏切られたのは、どっちなんだろう。
ちらりと横を盗みみれば、龍牙は涙を流して呆然としていた。もう、騒ぐことも無い。ぽろぽろといくつもいくつも涙を零して、惚けている。それはそうだろう。
龍牙は天野君と仲が良かった。馬鹿騒ぎして、わあわあ言い合って、トランプで遊んだり、内緒話して、それはもう友達として楽しそうにしていた。
その、天野君が、今、渡来と同じ側にいるんだ。
肩に大きな手が添えられ、渡来が顔を近づけてくる。
私は心を串刺しにされる思いで、目を閉じた。
「ん、ん……」
「……ふっ……」
「うわあ、ケンちゃんがっつりいくじゃん」
「賢吾大興奮。賢吾ホイホイ」
「アホなこと言わないでよ。ビデオに声入るよ」
「やべやべ」
ゆっくり押し倒されるが、その間もずっとキスをされている。
荒い鼻息に顔を顰めないように気をつけながら、私は必死に大人しくしていた。いくら渡来が乗り気でも、私が素直でなければ龍牙に矛先が向くかもしれない。そう思うと、従順でいるしかなかった。
「口、開けろ」
言われるがままに口を開けると、生暖かい湿った物が口内に侵入してきた。ぐちゅぐちゅと口内を掻き回され、全身の血の気が引くのを感じながら、私は必死にマットを握りしめた。
急かされるような動きに翻弄され、呼吸が上手くできない。舌が動くのに合わせて呼吸をすると、男の息がより荒くなった。
「ふっ、ぁ、んッ、ン…、あ、あッ……う…」
「……ぇ、エロぉ…」
「やば、エロ……」
「超エッチじゃん」
「お前ら語彙力無さすぎ……エッロ」
唾液を送り込まれ、また急かすようにくちくちと掻き回される。意図を察して飲み込んだが、口端から飲み込めきれなかった唾液が垂れていった。
そろそろ苦しくなってきて、私は少し抵抗を始めた。ぺしぺしと大きな背中を叩くと、何を勘違いしたのか、口付けがより深いものになった。
「あぅ、やッ、ん、んーッ……、ん、んぅ」
「ふーっ、フーっ……、ン…」
「うっへぇ……ケンちゃんすげぇ興奮してんじゃん」
「そりゃそうっしょ。はー、マジシコい」
「えっろいベロチューだな、うはぁ…」
気持ち悪い。
今にも、吐きそうだ。
でも、でも、我慢しなきゃならない。
私が過剰に抵抗すれば、龍牙が危ない。
きつく閉じた目からいくつも涙が零れていく。その度に、周りが何か呟く。ああ、こういうのも相手を煽るんだろうなあ。
暫く耐えていると、漸く気が済んだらしく、口が解放された。ちゅぽんという音ともに渡来が離れていき、私はぼうっとした意識のまま目を開けた。
ずっと口を塞がれていたせいで、空気が足りない。必死に呼吸を繰り返すと、また周りが色めき立ったのが分かった。
「はあっ、はっ、ぁ……、はっ、くるし、ぁ…、う……、んん…」
「はァっ……おい天野、ハサミ貸せ、あークソっ、やべ、早くやりてぇ…、は……」
「ひっ…ぅ、ひッ……、ン、んぐっ…」
口端を伝う唾液までじっくりと舐められ、また私の目から涙が溢れた。
ああ、今から、天野君の目の前で、龍牙の、目の前で、汚されるんだ。
「…………あ……?」
口端だけじゃなく、首までべろりと舐められる。その嫌悪感にまた体を震わせた時、渡来が突然止まった。
顔を上げ、数秒して、彼は、不気味な呻き声を上げた。
「ぅ、お、うぐ……ッ……ぁ、あ"あ"あ"あ"っ、ヴ、ぉ……ッ」
「ひっ、なに、なっ……えっ…?」
酷く、苦しそうだ。痛みを堪えるような表情を浮かべている。訳が分からなくて固まっていると、周りの不良が一斉に騒ぎ始めた。
「けっ、ケンちゃん!?」
「天野、テメェ何してやがるっ!!な、一年っ、お前何ッ……」
「天野っ、よくやった!!一年二年、お前らやるぞっ!!」
「おう!!!」
「くそっ、おい三年!!クソガキがなんか言ってんぞ、思い知らせてやれ!!!」
何が、起きたの?
訳が、分からない。
周りの不良が突然喧嘩を始めた。
仲間割れ?どういうこと?
横を見れば、龍牙も涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔でぽかんとしている。
呆然としていると、目の前の渡来が蹴り飛ばされ、見慣れた青髪の男が私に手を差し伸べた。
「立てるか」
「ぅ、あ、何、何……??」
「…ちょっと我慢してろよ」
渡来に押し倒された体勢のまま、動けない。体が恐怖で固まっていたし、今の状況が全く理解できない。
私が硬直していると、天野君は私を抱き上げた。いわゆる、お姫様抱っこという形で。
何が起きてるか分からない。でも、抵抗する気力はさっきの恐怖で全て削られた。
天野君はそのまま歩き出そうとしたが、突然止まってしまった。
「天野っ、……待て、テメェ…」
私の目の前に、ぬうっと手が現れた。その手が天野君の肩を掴み、天野君は顔を顰めた。
「離せ」
「裏切りやがったな……ぐっ、こんな、モン……刺しやがって………」
天野君は手を振り払い、くるりと振り向いた。そこにはよろよろと立ち上がる渡来がいた。足には、刃渡りの大きいナイフが刺さっている。さっきの呻き声は、ナイフを刺された痛みを堪えていたのか。
「ハサミ貸せって言いましたよね、どーぞ、差し上げます」
「は……ぶっ殺してやる…」
「このっ!」
「天野行け!!」
渡来が構えようとした瞬間、後ろから他の不良が殴りかかった。渡来はそちらの相手に気を取られたようで、天野君はその隙に走り出した。
扉を乱暴に蹴り開け、天野君が走り出す。後ろから渡来が追ってきているのが見える。
「……っ……、は、……はぁっ、……」
「天野、君、これっ、どういうこと…??」
「黙っ、て、ろ」
「待てコラァァァァ!!!!」
私が走ってきた道とは別方向の道を走っている。渡来は足を怪我していて、中々上手く走れていない。でも、天野君も私を抱き上げているから、速く走れない。このままだと追いつかれる。
誰が味方かよく分からなくなったけれど、私は、自分を支えてくれるこの腕に縋りたくなった。
「天野、君っ、頑張って…」
「………任、せろ…」
ぎゅう、とパーカーを握りしめると、天野君が私を強く支えてくれたのが分かった。
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