皆と仲良くしたい美青年の話

ねこりんご

文字の大きさ
上 下
131 / 153
黒の帳 『一つ目の帳』

+ 天野視点『彼氏いたんだ…』

しおりを挟む
「あはは、はは……ふふっ…」

1-Cの教室に乾いた笑いが響き、それを聞いた奴らが心配そうな顔をした。

鈴がくすくすと笑っているんだ。諦めたような、笑い声。

いつもはしゃんと背を伸ばして、俺達にはとうてい分からない問題を解いている鈴。しかし今は机に顔を突っ伏し、シャーペンをコロコロと転がしている。

「……はあ」

鈴が、何度目になるか分からないため息をつく。
その音を聞き、俺と教室に入った雑魚はとうとう耐えられなくなったらしい。ピアスをつけたソイツは、ゆっくりと鈴に近づいた。

「さ、さきちゃん」
「………ああ、遠藤君?お兄さんにありがとって言っといて。紅陵さんの彼氏があんなにかっこいいなんて思いませんでした、お似合いですね、って」
「そのことなんだけどさ、言いたいことがあって…」
「なに…」
「あれ、兄ちゃんの勘違いなんだよ」
「慰めはいらない」
「慰めなんかじゃないって、本当なんだよ」
「いい、もういいって」

白虎の弟であるピアスは、鈴をどうにか慰めようとしているらしい。いや、真実を伝えようとしているんだな。しかし一度思い込んだことは中々覆せないだろう。

鈴はぶっきらぼうにあしらい、またため息をついた。

その様子を見ていられなかったのか、片桐までピアスに加勢した。

「鈴、遠藤が言ってんのガチだぞ」
「龍牙まで…、もう止めて。…ふーんだ、もういいよ、いいよ」
「鈴……」

取り付く島がない、だったか。
幼馴染みさえ跳ね除ける今の鈴は、まさにその状態だ。

その様子を黙って見ていたら、段々と周りが騒がしくなってきた。鈴は自分のことで騒がれるのは、あまり好きじゃない。こうなると絶対教室を出て行く。今の鈴の状態じゃ何をするか分からない。そうなったら着いていこう。

「鈴ちゃん、俺なら幸せにしてあげられ」
「黙れお前ら、好き勝手言うな」
「そうだ!お前らそれでこの前も」
「片桐、大声出すな。鈴が嫌がる」

俺は騒がしい奴らをどうにか収めようと声をかけた。片桐も分かってくれるだろうと考えたのだが、どうやら違ったらしい。

片桐は俺をギロリと睨みつけ、悔しそうに歯ぎしりした。

「っ……な、なんだよそれ、鈴のこと分かってるみたいな…」
「幼馴染みだからって何でも分かるわけじゃないだろ」
「お前よりは分かってる!」
「分かったから大声は止せ」

片桐の大声を聞いた途端、ガタリと椅子の動く音がした。その方に目を向ければ、鈴が立ち上がって教室を出て行くところだった。
やっぱりな。
今から昼飯だってのに、アイツ、鞄置いていってんな。俺は鈴の鞄と自分の鞄を持ち、立ち上がった。

「…お前ら着いてくんなよ」

雑魚どもは当然目を逸らした。俺より雑魚だから、ビビってんだな。


だけど、片桐は違った。

寂しそうに、俺を見るだけだった。

「何だよ、その目」
「…………………」

俺が問いかけると、片桐は気まずそうに俯いてしまった。一体なんなんだ。

「…とにかく、着いてくんなよ」



俺はそう言い残し、鈴を追って教室を出ていった。


廊下を出ると、鈴の姿はすぐに見つかった。とぼとぼ歩くその小さな背中に、俺は言葉ではなく鞄をぶつけた。

「自分の鞄くらい自分で持て」
「天野君が勝手に持ってきたんでしょ」
「いいから持て」

鈴は、前の俺なら間違いなく手が出るようなことを言う。それは、俺を遠ざけたいからか、嫌な感情を抱えているのか、どちらだろうか。
どちらにしろ、いつもの鈴ではないんだ。
ならこの言葉を真に受ける必要は無い。

この様子じゃ、もう教室には戻らないだろう。なら、別の場所で昼食をとるはず。俺もそこで昼食をとろう。
ストーカーでは、ない、と思う。

無言で鈴の前を歩くと、鈴は大人しく俺の後ろを着いてきた。
…やっぱり鞄、持ってやっても良かったかな、なんて。



階段裏なら、他の生徒から見られないから絡まれないだろう。明らかにいじめられっ子の食べる場所だが、いい場所は取られているだろうから諦めよう。落ち込んでいる鈴を連れ回すわけにもいかない。

俺の隣にいる鈴は立ち尽くしていて、座る素振りを見せない。相当精神にきているのだろう。空腹も重なっているだろうから、尚更だ。だったらまずは飯を食うべきだ。
俺は、鈴の好みである卵が入っている、たまごサンドを袋から出し、何となく頭の上に乗せた。最近金欠だから、そろそろ飯が危うい。…バイトでもするか?

「やるよ。卵好きなんだろ?それ食って落ち着け」
「食べ物なんかで、騙されないから」
「何に騙されんだよ。意味分かんねぇこと言ってないで食え」

鈴はそっけない口ぶりだが、俺の渡したたまごサンドをしっかり手に持っている。騙されない、とか言っておきながら、ちゃっかり食べるのか。

俺はやれやれとため息をつき、鈴より先に座った。しかし鈴はまだ突っ立っている。座ることを促すために床を叩くと、鈴が漸く動いた。
しかし、電子音が鳴り始め、鈴は足を止めてしまった。携帯の着信音だろうか。

「あっ」
「電話か?」
「うん」

鈴は携帯を取り出したが、操作する素振りを見せない。俺に遠慮しているのだろうか。

「出てもいいぞ、どうした?」

俺の言葉は聞こえているはずなのに、鈴は動かない。鈴の様子を不審に思った俺は、鈴の携帯を覗き込んだ。

そのパネルには、『紅陵さん』とあった。


鈴の知り合いで、紅陵という名字なんて、アイツしかいないだろう。

紅陵、零王。

鈴を見ていた冷たい目を思い出し、俺は何だか嫌な予感がした。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

BlueRose

雨衣
BL
学園の人気者が集まる生徒会 しかし、その会計である直紘は前髪が長くメガネをかけており、あまり目立つとは言えない容姿をしていた。 その直紘には色々なウワサがあり…? アンチ王道気味です。 加筆&修正しました。 話思いついたら追加します。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

処理中です...