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黒の帳 『一つ目の帳』
+ 天野視点 どうも怪しい
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俺は屋上で裏番と二人きりになってしまった。無理だ、コイツ、マジで無理だって。怖ぇもん。
「…まあそう緊張すんなって」
「………」
「昨日ビビらせすぎたか~困ったなぁ」
小馬鹿にしたように言われるのはムカつくが、口答えすることは恐ろしい。俺が黙り込んでいると、裏番はぽつりと話し始めた。
「……リンはな、臆病…っつーか、自分のことを知られるのが怖いんだよ。あの顔だろ?揉め事に巻き込まれたり、レイプ未遂なんか数え切れない程遭ってる。だから、自分の情報は極力抑えたいワケ。例え好きな奴でも、ダチでも、知り合いでもな」
裏番は知り合いと言いながら俺を見た。俺はダチ以下だと言いたいのか。
眉間にシワを寄せて裏番を見ると、裏番は心底愉快そうな視線を俺に向けた。
「…お前はビビりなのか男前なのか、はたまた恋に狂ったナルシストなのか、一体何なんだ?」
「俺は俺だ。意味わかんねぇのはそっちだろ」
「はは、言えてる。さあ、俺の答えられる範囲で答えてやるよ。何か聞いてみろ」
張り付きそうな喉から出した声は、果たして震えていただろうか。俺には分からないが、裏番はお気に召したらしい。
何か聞いてみろ?
たった今、リンさんは自分の情報を抑えたいのだと伝えたばかりじゃないか。何で俺に情報を与えようとするんだ。訳が分からなかったが、俺は良い質問を思いついた。
「…お前は、リンさんとどういう関係なんだよ」
「両思い♡」
「真面目に答えろ!」
ふざけた解答に、つい反射で命令口調で喋ってしまった。しまった、と思ったが、裏番は特に気にすることなく言葉を続けた。
「………まあ、今はお友達だな。勿論、お前よりは仲が良いぜ?」
裏番はドヤ顔で俺に言い返してきた。ムカつく。だが、裏番は俺よりリンさんのことを知っているだろう。恐らく、本名も、それ以上のことも。
昨日、声が可愛いのにそれを聞けない天野は勿体ないことをしている、というようなことも言っていた。裏番はリンさんの声も知っているんだ。
…分かっている。
このモヤモヤは、嫉妬だ。
恋人じゃない、まだ自分の思いを伝えていない、あの人のハッキリとした声を知らない、名前さえ、知らない。それなのに、俺は目の前のこの男に嫉妬している。
俺が今すべきことは、こんなつまらない感情に振り回されることじゃない。
俺が信頼に足る人物だとリンさんに示し、リンさんから直接、リンさんのことを教えてもらい、交流を深めること、これだ。
「…いいね、お前」
「何だよ」
「多分、俺や栗田、片桐、その誰よりも真っ直ぐだ。正直で、思いやりがあって、大事な物をちゃんと分かってる」
「…急に何だ、気色悪ぃ」
突然俺の事を褒めだした。意味が分からない。
そう、意味が分からないんだ、裏番は。
最初から最後まで、ずっと、意味の分からない行動ばかりだ。コイツがどういう人間かがさっぱり分からない。まるで、演劇にでも放り込まれたみたいだ。
コイツ、何か怪しいんだよな。リンさんの件を抜きにしても、何か、おかしい。中身が空っぽの人間みたいだ。
ところどころ役者じみている語り口調や態度。ほぼ完璧に役者を演じて、本心を隠しているように見える。この行動は、何なんだ?
裏番は、何を隠してんだ。
裏番は立ち上がり、俺に背を向けた。
「……天野」
「あ?」
「お前は、俺に勝てるか?」
「…………はァ?勝てるわけないだろ。つーかさっきから意味分かんねぇんだよ、中二病みたいなこと言ってないで分かりやすく言ったらどうなんだ」
「…俺もクロちゃんを探しに行く。クロちゃんが屋上に来るかもしれないから、お前は残っとけ」
「おい、そういう意味じゃねぇよ、おい!」
裏番は俺の話を聞かず、一方的にそう告げると、階段を下りていってしまった。分かりやすく言えと言ったのは奴の伝えたいことについてだ。それなのに、今からの行動だけを説明してアイツは話をぶった切りやがった。
遠ざかる足音を聞きながら、俺は項垂れた。
リンさんについて教えてやる、なんて豪語していたのに、何だよあれ。
リンさんは恐ろしいことや厄介なことに巻き込まれたくなくて、自分のことを話さない。それなら、俺が裏番から聞き出すのはマナー違反だ。裏番が知っていたとしても、それを俺が聞いてしまうのは違う。リンさん本人から無理やり聞き出すのと同じくらい、ダメなことだと思う。
次、リンさんに会ったら、もっと自分のことを話そう。リンさんは俺と一緒に飯を食ってくれたんだ、望みはある。俺は頼りになる、無理強いをしない、優しくてかっこいい男というところを…いや、かっこいいは要らないか。と、とにかく、俺の良いところを沢山見せよう!
…俺の良いところ?そんなのあるか?
い、いや、どうにかなる。とにかくたまごサンドは毎日買おう。いつ会えるか分かんねぇしな。
そういや栗田も遅い。栗田はトイレで、片桐と裏番は鈴を探しに行ったんだよな。
鈴は…先公と話があるんだっけか?あのオドオドしている先公じゃ、マトモに話が出来なさそうだ。まあ、鈴なら出来るのかもな。アイツ、片桐の話じゃ…クラスの不良を手懐けたっぽいし。
俺も手懐けられた、ということだろうか。
ダチみたいに…いや、もうダチか。鈴と喋るのは、中々面白い。学力の差か、たまに分からない言葉が混じるが、それでも充分楽しい。
鈴は、どう思ってるんだろう。
ボコられそうになって、パシリ認定してきた不良と、友達だなんて、考えられない話だ。
…ああ、そうだ。
大事なことが残ってるじゃないか。
『私…天野君のこと』
昨日の昼前、何を、言おうとしたんだろう。
『これで一歩近づいたね!』
今朝、何に近づいたんだ?
お前は俺とどうなりたいんだ、何を目指してるんだ。
それで、何で俺は、こんなに気になってんだ。
…いやいやいや、俺が好きなのはリンさん!
アイツじゃねぇよ!
「…まあそう緊張すんなって」
「………」
「昨日ビビらせすぎたか~困ったなぁ」
小馬鹿にしたように言われるのはムカつくが、口答えすることは恐ろしい。俺が黙り込んでいると、裏番はぽつりと話し始めた。
「……リンはな、臆病…っつーか、自分のことを知られるのが怖いんだよ。あの顔だろ?揉め事に巻き込まれたり、レイプ未遂なんか数え切れない程遭ってる。だから、自分の情報は極力抑えたいワケ。例え好きな奴でも、ダチでも、知り合いでもな」
裏番は知り合いと言いながら俺を見た。俺はダチ以下だと言いたいのか。
眉間にシワを寄せて裏番を見ると、裏番は心底愉快そうな視線を俺に向けた。
「…お前はビビりなのか男前なのか、はたまた恋に狂ったナルシストなのか、一体何なんだ?」
「俺は俺だ。意味わかんねぇのはそっちだろ」
「はは、言えてる。さあ、俺の答えられる範囲で答えてやるよ。何か聞いてみろ」
張り付きそうな喉から出した声は、果たして震えていただろうか。俺には分からないが、裏番はお気に召したらしい。
何か聞いてみろ?
たった今、リンさんは自分の情報を抑えたいのだと伝えたばかりじゃないか。何で俺に情報を与えようとするんだ。訳が分からなかったが、俺は良い質問を思いついた。
「…お前は、リンさんとどういう関係なんだよ」
「両思い♡」
「真面目に答えろ!」
ふざけた解答に、つい反射で命令口調で喋ってしまった。しまった、と思ったが、裏番は特に気にすることなく言葉を続けた。
「………まあ、今はお友達だな。勿論、お前よりは仲が良いぜ?」
裏番はドヤ顔で俺に言い返してきた。ムカつく。だが、裏番は俺よりリンさんのことを知っているだろう。恐らく、本名も、それ以上のことも。
昨日、声が可愛いのにそれを聞けない天野は勿体ないことをしている、というようなことも言っていた。裏番はリンさんの声も知っているんだ。
…分かっている。
このモヤモヤは、嫉妬だ。
恋人じゃない、まだ自分の思いを伝えていない、あの人のハッキリとした声を知らない、名前さえ、知らない。それなのに、俺は目の前のこの男に嫉妬している。
俺が今すべきことは、こんなつまらない感情に振り回されることじゃない。
俺が信頼に足る人物だとリンさんに示し、リンさんから直接、リンさんのことを教えてもらい、交流を深めること、これだ。
「…いいね、お前」
「何だよ」
「多分、俺や栗田、片桐、その誰よりも真っ直ぐだ。正直で、思いやりがあって、大事な物をちゃんと分かってる」
「…急に何だ、気色悪ぃ」
突然俺の事を褒めだした。意味が分からない。
そう、意味が分からないんだ、裏番は。
最初から最後まで、ずっと、意味の分からない行動ばかりだ。コイツがどういう人間かがさっぱり分からない。まるで、演劇にでも放り込まれたみたいだ。
コイツ、何か怪しいんだよな。リンさんの件を抜きにしても、何か、おかしい。中身が空っぽの人間みたいだ。
ところどころ役者じみている語り口調や態度。ほぼ完璧に役者を演じて、本心を隠しているように見える。この行動は、何なんだ?
裏番は、何を隠してんだ。
裏番は立ち上がり、俺に背を向けた。
「……天野」
「あ?」
「お前は、俺に勝てるか?」
「…………はァ?勝てるわけないだろ。つーかさっきから意味分かんねぇんだよ、中二病みたいなこと言ってないで分かりやすく言ったらどうなんだ」
「…俺もクロちゃんを探しに行く。クロちゃんが屋上に来るかもしれないから、お前は残っとけ」
「おい、そういう意味じゃねぇよ、おい!」
裏番は俺の話を聞かず、一方的にそう告げると、階段を下りていってしまった。分かりやすく言えと言ったのは奴の伝えたいことについてだ。それなのに、今からの行動だけを説明してアイツは話をぶった切りやがった。
遠ざかる足音を聞きながら、俺は項垂れた。
リンさんについて教えてやる、なんて豪語していたのに、何だよあれ。
リンさんは恐ろしいことや厄介なことに巻き込まれたくなくて、自分のことを話さない。それなら、俺が裏番から聞き出すのはマナー違反だ。裏番が知っていたとしても、それを俺が聞いてしまうのは違う。リンさん本人から無理やり聞き出すのと同じくらい、ダメなことだと思う。
次、リンさんに会ったら、もっと自分のことを話そう。リンさんは俺と一緒に飯を食ってくれたんだ、望みはある。俺は頼りになる、無理強いをしない、優しくてかっこいい男というところを…いや、かっこいいは要らないか。と、とにかく、俺の良いところを沢山見せよう!
…俺の良いところ?そんなのあるか?
い、いや、どうにかなる。とにかくたまごサンドは毎日買おう。いつ会えるか分かんねぇしな。
そういや栗田も遅い。栗田はトイレで、片桐と裏番は鈴を探しに行ったんだよな。
鈴は…先公と話があるんだっけか?あのオドオドしている先公じゃ、マトモに話が出来なさそうだ。まあ、鈴なら出来るのかもな。アイツ、片桐の話じゃ…クラスの不良を手懐けたっぽいし。
俺も手懐けられた、ということだろうか。
ダチみたいに…いや、もうダチか。鈴と喋るのは、中々面白い。学力の差か、たまに分からない言葉が混じるが、それでも充分楽しい。
鈴は、どう思ってるんだろう。
ボコられそうになって、パシリ認定してきた不良と、友達だなんて、考えられない話だ。
…ああ、そうだ。
大事なことが残ってるじゃないか。
『私…天野君のこと』
昨日の昼前、何を、言おうとしたんだろう。
『これで一歩近づいたね!』
今朝、何に近づいたんだ?
お前は俺とどうなりたいんだ、何を目指してるんだ。
それで、何で俺は、こんなに気になってんだ。
…いやいやいや、俺が好きなのはリンさん!
アイツじゃねぇよ!
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