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黒の帳 『一つ目の帳』

可愛い可愛い幼馴染み

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屋上への階段を上がりきると、天野君が居るのが見えた。柵を背もたれに座り込んでいて、何かを考え込んでいる様子だ。

「あ、天野君!」
「うおおぉおおお!?」

天野君は大声を上げて驚いている。申し訳ないことをしてしまった。きっと、かなり考え込んでいたんだろう。
龍牙と一緒に屋上へ入り、天野君の隣に座った。私だけお昼を食べていない。私は弁当箱を開きながら、天野君と話をした。

「ず、随分遅かったじゃねぇか」
「まあ色々あってさ。それで、天野君はどうしたの?」
「何が?」
「悩んでたよね。考え事?悩みだったら相談に乗るよ」
「もしかして恋の悩みだったり?」

龍牙が横からそう呟いた。天野君に関するそういった人物は、『りん』と横山君くらいしか思い当たらない。朝聞いた時は、『りん』が好きだと言っていたなあ。

龍牙の方を見てから天野君の方へ振り向いた時、少し、驚いてしまった。

天野君の顔が少し赤くなっている。正確には、耳に赤みがさしているんだ。


本当に、恋の悩みなんだ!


こういうデリケートな話題で踏み込みすぎるのは良くないが、少しならいいだろうと私は天野くんに質問した。

「誰について?どんなお悩みなの?」
「……い、いや、お前に聞かれても…」
「どーせ、リンって奴だろ」
「………ちげーよ」
「えっ、マジで?」
「マジだ」

先程浮かべた二人の人物のうち、片方が否定された。ということは、残った横山君だ!

「…そっか、そっかあ…」
「…………あ?」
「絶対上手くいくよ。相手も天野君のこと好きだろうし」

横山君と初めて会った時、天野君について少し話した。好きなの?と聞いた時、彼は真っ赤になったんだ。あれは、図星だったからに違いない。

横山君は天野君が好きで、
天野君は横山君のことを気になり始めている。

これ、絶対上手くいくよ!

嬉しくて、ワクワクして、笑顔で天野君を見ると、天野君は勢いよく顔を逸らした。耳がさっきより赤い。やっぱり確実だ。

天野君、無自覚なだけで、もう横山君のことが好きなんじゃないか?

私たちの様子を不審に思ったらしく、龍牙が私に尋ねてきた。

「誰のこと話してんだ?」
「も~、天野君の好きな人に決まってるじゃん!」
「ばっ、調子乗んな!まだ好きってわけじゃ…」
「誰なんだよソイツ。リン以外に居んのか、おい天野」

龍牙はどうしても知りたいらしい。鈍感な龍牙には絶対分からないや。無事結ばれた時に言おう。

「私と天野君の秘密~、ね、天野君」
「………」
「天野君?」
「…うっせ。お前は……何も思わないのかよ」
「え?」
「……………俺だけかよ、クソ…」

天野君は何かを吐き捨てるように言うと、立ち上がって屋上の出口に向かってしまった。

「天野君?天野くーん」
「鈴、あんなの気にすんな。え~今日肉野菜炒めかよ!俺肉だけのやつがいい~」
「龍牙が食べるわけじゃないでしょ」

龍牙は私の弁当箱を覗き込み、おかしな文句を言い出した。一口あげるのが習慣のようになっているが、龍牙の好みに合わせる必要は無い。

「…俺にはくれないの?」
「野菜は嫌いなんでしょ~」
「………好き嫌いはダメって怒ってたくせに」
「龍牙は充分大きくなったよ」
「この前小さいって言っただろ」
「私よりは大きいんじゃなかった?」
「じゃあ何でこの前んぐっ……」

龍牙が何故ここまで拗ねるのかが分からない。何を言ってもぶつぶつと言い返すその姿には、成長というか、変化というか、龍牙らしくないものを感じた。でも、これが龍牙だからな。小学生とはまた違うだろう。
龍牙の口を塞ぐため、私は肉野菜炒めを龍牙の口に突っ込んだ。

「……おいしい」
「ふっふっふ、食べてみないと分からないでしょ?」
「…鈴が料理上手いから、野菜も旨いんだよ。母さんが作ったらこうはならねぇし」
「お父さんは上手でしょう?ほうれん草のパウンドケーキ、また食べたいな!龍牙も彩ちゃんも嫌い嫌いって言うから、私ばっかり頂いちゃって…それから……、龍牙?」

龍牙は目を見開いて私を見ている。間違えたかな。小学生の頃の記憶はかなり正確な自信があるのだけれど。

料理の上手なお父さん、妹の彩ちゃんとお母さんと龍牙は料理が下手で、手作りのご飯は大抵お父さんによるものだ。
彩ちゃんも龍牙も野菜嫌いが無くならなくて、ご両親は頭を悩ませていた。
遊びに行った時、お野菜を食べられる鈴ちゃんを見習いなさい!って龍牙が怒られていたなあ。

「…そんなこと覚えてんのか」
「だって、龍牙との思い出だよ?人生で初めて友達のお家に遊びに行った時のことだし、すごく、楽しかったからね、絶対忘れないよ!」
「……そっか、友達…うん。嬉しい、ありがとな、覚えててくれて」
「何でお礼言うの?」

友達との思い出を覚えているのは、当たり前のことだ。家族との思い出が無い私なら、尚のこと。龍牙は勿論クリミツだって、違う中学へ行った春樹君だって、小学二年生の時に引越していったまこと君だって、皆、みんな覚えている。

龍牙は照れくさそうに頭の後ろをかき、ぽつりと言葉を零した。

「……す、…すっ…好き…、だ、大好きだから」
「私も龍牙が大好きだよ…あ、ちょっと私気持ち悪いね」
「そんなことない」
「男友達で大好き大好き~♡なんてどうかと思うけど…」
「…ただの友達じゃないだろ」

龍牙はそこで言葉を切ると、私の肩に頭を乗せてきた。さらさらと顔の横にある髪が私にかかる。綺麗だなあ、この金髪。一本一本真っ直ぐで折れておらず、輝いていて、手入れがちゃんとなされていると分かった。髪が綺麗な人は惹かれる。

お弁当で残すところがあとデザートとなった私は、龍牙の髪が気になってきた。触っていいかな。

「……めっちゃ仲良い、幼馴染み、だろ?」
「うんそうだね。ねえ龍牙、髪触ってもいい?」
「お前っ、うんそうだねって流すな…つーか、何?」
「髪、触っていい?」
「……い、いい、け…ど…、何で触りたいんだよ」
「綺麗だから。龍牙は本当に綺麗になったよね。あ、小学生の時がだらしないとかそういうわけじゃないよ?」
「分かってる。い、いいぞ、触っても。ほら…」

龍牙は私の肩から頭を退けると、するすると髪留めを解き始めた。そこまでしてくれなくてもいいのに。止めようとしたが、ふわりと舞う髪を見て何も言えなくなった。

「…すごい、すごく、綺麗。太陽の光が反射しててさ、ドラマとか映画の人みたいにキラキラしてるよ!」
「………そりゃ、手入れしてるし?当然だし?ほら、めっちゃサラサラだから。何ならそこらの女子とか彩よりもサラサラだし、俺が一番綺麗な自信あるし」

龍牙は得意げにふふんと笑うと、髪を一房持ち上げた。本当に、綺麗なストレートヘアだなあ。私は、龍牙の髪に触らせてもらおうと手を伸ばした。

「おいそこ、何イチャついてやがる。まだここに居たのか…担任が探してんぞ」

後ろから聞こえたその声は、天野君のものだ。

「えっ、担任…如月先生!?」
「おう。つーか今授業中だぞ。昼休みは居たのに~私のせいでしょうか~って先公が大騒ぎしてる。うるせぇし、授業なんかダリーし、俺が来たんだ。他のクラスメイトは屋上に来れないからな」

午後一番の授業は数学だったんだ。というか、思い返してみれば、私…午後の授業をかなりの頻度ですっぽかしている気がする。

「すぐ行かなきゃ…、龍牙、龍牙も早く行こう!」
「え、えっ、髪は?」
「先生が心配してるんだから、今はこっちでしょ?龍牙の髪はいつでも触れるから、ほら早く!」
「………チッ」

私はまだ中身の残っている弁当箱を片付け、龍牙の手を引いて歩き出した。
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