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黒の帳 『一つ目の帳』
林間学校ですって!
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いつも通り、不良さんたちのどんちゃん騒ぎ、それと、先生が音もなく書いて去っていく自習の文字がある黒板。
たまに彼らを見ては、私はひたすら自習していた。
分からないところは全て別のノートへ教科ごとにメモしてある。きちんと教えてくれそうな先生、それと教えてもらう時間、この二つを確保出来た時に、是非この問題は解消したいな。理系だから、担任の如月先生…教えてくれるかな。他の不良さんに邪魔されたら真面に出来なさそうだなあ…。
天野君は私の近くにいたけれど、時たま近づいてきたクラスメイトと言葉を交わし、笑いあっていた。良かった、天野君にも友達が沢山出来そうだ。もし上手くいかなくても、龍牙が仲良くなってくれるだろう。そうは思っていたけど、色々な人と楽しそうに話す天野君を見れて良かった。
そんなことを考えていたらあっという間に昼になった。如月先生に呼ばれていたから、行かなくちゃ。
「裏番と飯食うの怖ぇー……、俺やっぱ片桐たちと食おうかな」
「あ、ごめん。もう紅陵さんに連絡したから、私は遅れてきて、クリミツと龍牙と天野君の三人ってことになってるんだけど…」
「マジかー、…まあ、栗田が居んならいいか」
「おし、天野行くぞー」
天野君は紅陵さんを怖がっているみたいだ。まあ、首を押さえられて手首を握り潰されそうになったのだから、当然か。そのことを知っているのは『りん』だから、私は言わないように気をつけなきゃな。
教室から出て行く龍牙と天野君を見送ろうとしたら、天野君に腕を掴まれた。
「…お前は、職員室に行く間に何か起きそうだ」
「お、天野もそう思った感じ?」
「ああ。この前だって赤と黒のクソ雑魚に連れてかれそうになってたからな、だろ?」
「…ご、ごもっともです」
反論しようのない事実だ。
天野君と龍牙の二人が連れて行ってくれるのだろうか。でも、どうやら違うみたいで、龍牙はクラスメイトに手を振った。相手は、遠藤君、新村君、菊池君の三人組だ。
「どしたの片桐」
「鈴を職員室まで送ってってくれ」
「えっ?そんな、いいよ。そこまで大事みたいに…」
「鈴が攫われるのは大事だと思うんだが?」
「さきちゃん俺らに任して。全然引き受けるよ、気にしないで」
「……サキチャン?」
遠藤君が私に勝手につけたあだ名を呼ぶと、天野君が訝しげに繰り返した。遠藤君がぴしりと固まっている。あっちゃあ…。
「…どういう意味だ?」
「えーっと、紫川でしょ?紫川の紫は紫だから、さきちゃん」
多分天野君が聞いているのはそれじゃないと思う。遠藤君は焦っているのが丸わかりだ。せめてもう少し隠した方がいいんじゃないのかな。
「……成程な。関係ないように見えてちゃんと考えてたのか。連想ゲームみたいだ」
えっ、それでいいんだ。てっきり、たかが一生徒を女の子のようなあだ名で呼んでいるのは何故だ、みたいな疑問かと思ったんだけど…。
二人と別れ、私は三人組と一緒に職員室に向かった。途中、他の一年生数人がじっと見てきたけど、絡んでくることはなかった。三人が強そうだからだろうなあ。
別に私もそうなりたいわけではない。でも、強いことはただ単に男の子として憧れてしまう。もう一回雅弘さんに、護身術教えてもらおうかな。
職員室の前にたどり着き、三人には入口で待ってもらうことにした。
「失礼します、一年C組の紫川鈴です。如月先生はいらっしゃいますか?」
「うわ、すごいね鈴ちゃん…」
「俺あんなの言ったことねーよ」
「……真面目だな」
ただ職員室へ入る時の言葉を言っただけなのに、どうしてここまで褒められるのだろうか。雑用を任されることが多かった中学生、その時に覚えた言葉を言っただけなんだけど。
奥の方のデスクに居た如月先生が立ち上がり、私に手招きした。如月先生のデスクまで行くと、先生は机の上から冊子を手に取り、私に手渡しながら話し出した。
冊子の表紙には、『中央柳高校 林間学習』とある。
「来てくれてありがとうございます。話というのはですね…この高校には五月に、一年生で二泊三日の林間学習があるんですよ。それについてのことをクラスで決めなければいけないんですが、その……私には出来そうにないので、紫川くんにお願いしたいんです」
「……分かりました。何を決めればいいんですか?」
私が返事をすると、如月先生は顔を輝かせて続きを話した。
「……えっとですね、まずは泊まる部屋のメンバーです。四人部屋なので、五グループ決めてください。二泊三日なので、二日目の夜は変えても構いません」
「…あ、本当だ、書いてありますね」
「ええ、それから…」
私は如月先生から資料を見ながら説明を受けた。自分たちで決めるグループの他に、先生たちが無作為に選んだグループがあるらしい。どうやらそのグループで、山を散策するみたいだ。
私のメンバーは誰かなぁ、と、ページを開いた。
「………先生」
「はい?」
「………………いや、なんでもないです」
無作為に選んだグループでは、A組からE組、それぞれのクラスから一人ずつ選ばれた五人グループとなっている。私のグループに渡来慎吾と見えたが…、まあ、仲良くなれるチャンスだと思っておこう、うん。
話が終わった私は、職員室を出て、待っていてくれた三人に冊子を見せた。
「…ん?何これ」
「林間学習って…虫いるじゃん。俺行きたくなーい」
「…………す、鈴、誰と同室になるんだ」
三人の反応はそれぞれだったが、新村君が部屋のことを口にした瞬間、皆が顔を見合せた。
「………俺らとか…た、楽しいんじゃね?」
「…四人部屋でしょ?あと三人でしょ…?」
「……………鈴」
「教室で皆で決めようね」
何か言いたげな三人の言うことには取り合わず、私はそう言い切った。
同室になる人達か。私は誰とでも楽しめる自信がある。でも、昨日の朝、教室で聞いたあの会話…、あの三人は止めた方がいいだろうな。あの三人は目の前の三人組と違って、私をそういうモノとしてしか見ていないから、友達になるならない以前の問題だ。やっぱり、同室になるなら龍牙や天野君だ。黒宮君たちと一緒になるのも楽しそうだなあ。
二泊三日の、林間学習。
まだまだ先らしいけど、色々な楽しいことがありそうだ。お昼はカレーを作って、皆で山に入って、夜は皆で枕投げとか…?一年生全員で行くみたいだし、他のクラスの人とも仲良くなれたらいいな!
たまに彼らを見ては、私はひたすら自習していた。
分からないところは全て別のノートへ教科ごとにメモしてある。きちんと教えてくれそうな先生、それと教えてもらう時間、この二つを確保出来た時に、是非この問題は解消したいな。理系だから、担任の如月先生…教えてくれるかな。他の不良さんに邪魔されたら真面に出来なさそうだなあ…。
天野君は私の近くにいたけれど、時たま近づいてきたクラスメイトと言葉を交わし、笑いあっていた。良かった、天野君にも友達が沢山出来そうだ。もし上手くいかなくても、龍牙が仲良くなってくれるだろう。そうは思っていたけど、色々な人と楽しそうに話す天野君を見れて良かった。
そんなことを考えていたらあっという間に昼になった。如月先生に呼ばれていたから、行かなくちゃ。
「裏番と飯食うの怖ぇー……、俺やっぱ片桐たちと食おうかな」
「あ、ごめん。もう紅陵さんに連絡したから、私は遅れてきて、クリミツと龍牙と天野君の三人ってことになってるんだけど…」
「マジかー、…まあ、栗田が居んならいいか」
「おし、天野行くぞー」
天野君は紅陵さんを怖がっているみたいだ。まあ、首を押さえられて手首を握り潰されそうになったのだから、当然か。そのことを知っているのは『りん』だから、私は言わないように気をつけなきゃな。
教室から出て行く龍牙と天野君を見送ろうとしたら、天野君に腕を掴まれた。
「…お前は、職員室に行く間に何か起きそうだ」
「お、天野もそう思った感じ?」
「ああ。この前だって赤と黒のクソ雑魚に連れてかれそうになってたからな、だろ?」
「…ご、ごもっともです」
反論しようのない事実だ。
天野君と龍牙の二人が連れて行ってくれるのだろうか。でも、どうやら違うみたいで、龍牙はクラスメイトに手を振った。相手は、遠藤君、新村君、菊池君の三人組だ。
「どしたの片桐」
「鈴を職員室まで送ってってくれ」
「えっ?そんな、いいよ。そこまで大事みたいに…」
「鈴が攫われるのは大事だと思うんだが?」
「さきちゃん俺らに任して。全然引き受けるよ、気にしないで」
「……サキチャン?」
遠藤君が私に勝手につけたあだ名を呼ぶと、天野君が訝しげに繰り返した。遠藤君がぴしりと固まっている。あっちゃあ…。
「…どういう意味だ?」
「えーっと、紫川でしょ?紫川の紫は紫だから、さきちゃん」
多分天野君が聞いているのはそれじゃないと思う。遠藤君は焦っているのが丸わかりだ。せめてもう少し隠した方がいいんじゃないのかな。
「……成程な。関係ないように見えてちゃんと考えてたのか。連想ゲームみたいだ」
えっ、それでいいんだ。てっきり、たかが一生徒を女の子のようなあだ名で呼んでいるのは何故だ、みたいな疑問かと思ったんだけど…。
二人と別れ、私は三人組と一緒に職員室に向かった。途中、他の一年生数人がじっと見てきたけど、絡んでくることはなかった。三人が強そうだからだろうなあ。
別に私もそうなりたいわけではない。でも、強いことはただ単に男の子として憧れてしまう。もう一回雅弘さんに、護身術教えてもらおうかな。
職員室の前にたどり着き、三人には入口で待ってもらうことにした。
「失礼します、一年C組の紫川鈴です。如月先生はいらっしゃいますか?」
「うわ、すごいね鈴ちゃん…」
「俺あんなの言ったことねーよ」
「……真面目だな」
ただ職員室へ入る時の言葉を言っただけなのに、どうしてここまで褒められるのだろうか。雑用を任されることが多かった中学生、その時に覚えた言葉を言っただけなんだけど。
奥の方のデスクに居た如月先生が立ち上がり、私に手招きした。如月先生のデスクまで行くと、先生は机の上から冊子を手に取り、私に手渡しながら話し出した。
冊子の表紙には、『中央柳高校 林間学習』とある。
「来てくれてありがとうございます。話というのはですね…この高校には五月に、一年生で二泊三日の林間学習があるんですよ。それについてのことをクラスで決めなければいけないんですが、その……私には出来そうにないので、紫川くんにお願いしたいんです」
「……分かりました。何を決めればいいんですか?」
私が返事をすると、如月先生は顔を輝かせて続きを話した。
「……えっとですね、まずは泊まる部屋のメンバーです。四人部屋なので、五グループ決めてください。二泊三日なので、二日目の夜は変えても構いません」
「…あ、本当だ、書いてありますね」
「ええ、それから…」
私は如月先生から資料を見ながら説明を受けた。自分たちで決めるグループの他に、先生たちが無作為に選んだグループがあるらしい。どうやらそのグループで、山を散策するみたいだ。
私のメンバーは誰かなぁ、と、ページを開いた。
「………先生」
「はい?」
「………………いや、なんでもないです」
無作為に選んだグループでは、A組からE組、それぞれのクラスから一人ずつ選ばれた五人グループとなっている。私のグループに渡来慎吾と見えたが…、まあ、仲良くなれるチャンスだと思っておこう、うん。
話が終わった私は、職員室を出て、待っていてくれた三人に冊子を見せた。
「…ん?何これ」
「林間学習って…虫いるじゃん。俺行きたくなーい」
「…………す、鈴、誰と同室になるんだ」
三人の反応はそれぞれだったが、新村君が部屋のことを口にした瞬間、皆が顔を見合せた。
「………俺らとか…た、楽しいんじゃね?」
「…四人部屋でしょ?あと三人でしょ…?」
「……………鈴」
「教室で皆で決めようね」
何か言いたげな三人の言うことには取り合わず、私はそう言い切った。
同室になる人達か。私は誰とでも楽しめる自信がある。でも、昨日の朝、教室で聞いたあの会話…、あの三人は止めた方がいいだろうな。あの三人は目の前の三人組と違って、私をそういうモノとしてしか見ていないから、友達になるならない以前の問題だ。やっぱり、同室になるなら龍牙や天野君だ。黒宮君たちと一緒になるのも楽しそうだなあ。
二泊三日の、林間学習。
まだまだ先らしいけど、色々な楽しいことがありそうだ。お昼はカレーを作って、皆で山に入って、夜は皆で枕投げとか…?一年生全員で行くみたいだし、他のクラスの人とも仲良くなれたらいいな!
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