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黒の帳 『一つ目の帳』
狙われる幼馴染み
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学校に着き、教室の前まで来ると、クリミツが大きなため息を吐いた。
「あーあ、何で俺だけ別のクラスなんだか」
「ホントそうだよな。来年は同じクラスになろうぜ」
「なろうと思ってなれるもんじゃねぇだろ馬鹿桐」
「馬鹿野は別のクラスでもいいな」
「二人とも馬鹿馬鹿言わないの。私から見たら両方おバカさんだよ」
「「鈴!?」」
そんな会話を交わし、私が一人で笑っていると、ある視線を感じた。クリミツの向こう側、A組の方だ。ずっと奥で、私のことを見ている子が居る。
「…横山君?」
よく確認しようとしたけど、私が気づいたことを察したらしく、その子はすぐに教室に入ってしまった。今のは横山君だ。今の視線の意味も、何となく分かる。
きっと、天野君のことだ。横山君は天野君が好きだから、遠くから眺めていたんだろう。彼の恋も応援したいな。
教室の前から二番目、真ん中の席に三人で座った私たちは、他のクラスメイトからの注目を集めていた。皆が話しかけたそうだけど、私には天野君に聞きたいことがある。
「ねえねえ天野君」
「あ?」
「天野君って、好きな人いるの?」
「……………こ、この前言っただろ。リンさんだ」
「…そっか」
天野君は素っ気なく答えると、そっぽを向いてしまった。何だか気まずそうだ。恥ずかしいのかもしれない。
…天野君への嘘は、いつまで突き通せるだろうか。
『りん』の正体がこんな情けない性格の男だと知ったら、ショックだろうなあ。何とかして『りん』への恋心を横山君への物にすり替えられないだろうか。
早く、天野君を解放してあげなくちゃ。
顔だけに惚れてもロクなことはない。顔がどうだからと言って中身まで理想通りとは限らない。暴力男かもしれないし、少々性格に難ありな子かもしれない。天野君がそれを知ってしまうのは酷だが、避けられないことだ。
何だかいたたまれなくなって顔を背けると、新村君が目の前に居た。
「…………す、鈴」
「おはよう新村君!」
「おっ、お、……ぉはよ……ぅ…」
「鈴に何か用あんなら俺が聞くぞ、金髪」
「俺も聞くぞー新村」
新村君が私に手を伸ばそうとしたけど、天野君がその手を叩き落とし、龍牙が私の前に庇うように手を出した。
新村君のことを警戒しているのかな。新村君は悪い人じゃないのに。
「こら、二人とも止めて」
「新村、鈴に話す時は俺を通せって約束だろ?」
「ああ、俺たちを通せ、だな」
龍牙と天野君は顔を見合せ、イェーイ!とハイタッチしている。えっ、凄く仲良いじゃん、いいなあ。
「ねえ、新村く」
「出席を手伝って頂けませんか、紫川くん」
「わぁっ!?」
「ひぃっ!?」
後ろから突然声が聞こえ、驚いて振り向くと如月先生が立っていた。驚いた私を見て、先生も驚いた。
…龍牙と天野君に笑われた。バカにされてる…!
先生は一刻も早く帰りたそうにしていたので、私は遅刻している人と欠席している人を伝えた。
「…ありがとうございます、紫川くん。ああそれと、今日の昼休みは職員室へ来てください。大切な話があるんです、君じゃないと絶対任せられないんです、絶対来てください、お願いです、分かりましたか?いいで」
「分かりました、分かりましたから、大丈夫です!」
先生の圧が凄い。相当大事な用事なんだろうな。うーん、紅陵さんと天野君と一緒に、お昼食べられるかなあ。
……でも、いいのかな、そっちの方が。
紅陵さんと一緒に居ちゃ、だめだから。行けない理由があることに感謝するべきかもしれない。
「おい二人とも、鈴が暗い顔をしているじゃないか。お前らが不甲斐ないからだ、鈴、俺と…」
「いや、天野君と龍牙は、なんにもないの、私が…悪いだけだから」
「だとしても、鈴」
「ごめん新村君ちょっと黙ってて」
頭がいっぱいになる。だめだ、紅陵さんのことは、今考えるべきじゃない。皆がいるここで、思考を他所にやるわけにはいかない。
「うっわ、鈴に黙れって言われるとか、新村お前相当だな」
「…へっ、コイツをいじめようったって俺が許さねーかんな。テメェらもよく聞け、コイツ…いや、紫川鈴は俺のダチだからな。こいつの喧嘩は全部俺が買う」
おお、知らないうちに天野君が男前なことを言っている。周りに居る人たちが顔面蒼白になっているが大丈夫だろうか。俺らの鈴ちゃんが…とか聞こえる。別に私は君たちの鈴ちゃんではない。
身勝手なクラスメイトに苦笑いしていると、聞き覚えのある声がした。
「そうか、俺の喧嘩も買うか?」
和やかな空気が、凍った。
その声は渡来さんのものだったから。
声のする方に目を向ければ、教室の入口から渡来さんがこちらを見ている。
渡来さんが見ている相手はたった一人だ。
私の、隣にいる。
クラスの皆も突然の渡来さんの登場に驚いているようで、一歩二歩後ずさっていく。黒宮君たちに至っては素早く教室の隅に行ってしまった。
「…えっ、………何すか、ほ、ほら、一年には手出し禁止っすよね?」
「……天野君、違う、私じゃなくて龍牙を守って」
天野君が私を庇うように前に出たが、渡来さんの狙いは違う。
だって、しっかりと龍牙を見ているんだ。
龍牙はきょとんとしてその目を見つめ返している。ダメだ、龍牙は何も分かってない。
私が守らないと。
「…どういうことだ?」
「そのままの意味」
「はァ?」
渡来さんが、龍牙に向かって歩いてくる。あっという間にこちらへたどり着いた渡来さんは、値踏みをするような目線でじっとりと龍牙を見ている。咄嗟に龍牙の前に立ち、庇うように両手を広げた。
「鈴?どっ、どういうことだよ、何してんだお前」
「……この子は私の友達です。貴方みたいな人には絶ッ…対渡しません」
「………ほう?こんなチビには守れそうに見えないがな」
「…体を張ってでも守りますから、殴るならどうぞご自由に」
ぴん、と糸のように張り詰めた空気が、教室を包む。渡来さんは、何をする気だ。一年生に手出しをするなと言ったらしい氷川さんの言葉を、無視しているのか。何があっても、龍牙は私が守る。
そう心に決めた時、突然、
『ぴーんぽーんぱーんぽーん♪』
と、この場に余りにも不釣り合いな、電子音が鳴り響いた。これは、校内放送?
『あー、あー、聞こえてる?多分聞こえてるかな、うん』
「氷川さん!?」
「何でアイツ……まさかっ!!」
校内放送の声は、氷川さんの声だった。一瞬怪訝な顔をした渡来さんだったが、何か思い当たる節があったらしく、顔を真っ青にした。
『えーえー、ただいま、1-Cの教室にて問題を起こしている、脳まで筋肉の3-B渡来賢吾くん。今すぐ僕のいる放送室へ来ること。繰り返しは面倒だからしないよ』
「……誰が行くかよ」
『因みに、三十秒以内に来なければ、全校生徒と教師たちが聞いているであろうこの放送で、
〔ドキッ☆ケンちゃんのときめき初恋メモリー~ほろ苦い失恋の味編~〕
を披露したいと思いまーす!』
「それだけは止めろっつっただろぉがあああああぁぁぁ!!!!!!」
渡来さんは大声を上げ、俊敏な動作で教室を走り出ていった。
嵐のように突然現れ、あっという間に出ていってしまった渡来さんに、皆が唖然としている。状況を全く理解していない龍牙だけが、楽しそうにくすくすと笑っていた。
「今の聞きてぇな、渡来の初恋だって!渡来間に合わなきゃいいのにな~」
「………」
「鈴ー、天野ー、どうしたんだ?」
「…………そ、そうだね」
「お前マジでアホすぎだろ…疲れるわ」
「どういう意味だ!」
「自分の胸に聞いてみな」
さっきのことがあって、そんなに呑気にいられるの、龍牙だけだと思うよ…。
龍牙を庇う、守るとは言ったが、正直怖かった。クリミツの足に残された痣を思い出すと、その気持ちはより一層強くなる。思わぬ助け舟で危機が去ったことにほっとしてしまい、私は机にもたれかかった。
「鈴っ!」
「新村は触るな」
「遠藤に同じく」
「何でだお前ら!!!」
いつも通りの三人組の騒ぎをどこか遠くに聞きながら、私は息を吐いた。少し、疲れているのかもしれない。毎日毎日、色々なことが起こりすぎだ。昨日だって、放課後、とんでもないことを知ってしまったばかりなのに。
渡来さんから龍牙を守らなきゃいけない。
紅陵さんに養子のことがバレないようにしなきゃいけない。
天野君に正体がバレないようにしなきゃいけない。
氷川さんや雅弘さんの態度も探らなきゃいけない。
熊谷さんと関係のある、ジャージの先生も探さなきゃいけない。
「…あ、はは、……私ねー…」
「……立てるか?ダチのためだからって気ぃ張りすぎだ。俺が喧嘩買うっつったろ」
「………うん、ちょっと、怖かった」
やることはいっぱいあるけど、私は一人しかいない。せめて体が強ければよかったが、無いものを欲しがっても仕方ない。皆が心配そうに私を見てくる。天野君まで私に手を差し伸べてきた。その手を取り、私は立ち上がる。
普通の高校とは全く違うこの生活。
楽しまなきゃ、損だ!
私はそう切り替え、席についた。
すると、先程の校内放送の続きが聞こえてくる。
〔んー来ないね、じゃあ話そうか。あれは…桜が綺麗な、新学年の話だった。まだ中学二年生だった彼は、桜の木の下で美しい女の子に会った。まだ不良でなかったケンちゃん、勿論その女の子にアピールしたさ。でも頻度が中々のものでね、毎〕
〔バンッッッ〕
〔氷川アアアアァァァ!!!!〕
〔おっと、ケンちゃんメモリーはまた今度だね。それでは全校生徒の諸君、今日もいい一日を!〕
「えー終わりかよ、つまんねーの」
「渡来の奴、恋とかすんのか…?」
不満げな龍牙の声と、困惑している天野君の声を聞きながら、私は自習用のノートを出した。
「あーあ、何で俺だけ別のクラスなんだか」
「ホントそうだよな。来年は同じクラスになろうぜ」
「なろうと思ってなれるもんじゃねぇだろ馬鹿桐」
「馬鹿野は別のクラスでもいいな」
「二人とも馬鹿馬鹿言わないの。私から見たら両方おバカさんだよ」
「「鈴!?」」
そんな会話を交わし、私が一人で笑っていると、ある視線を感じた。クリミツの向こう側、A組の方だ。ずっと奥で、私のことを見ている子が居る。
「…横山君?」
よく確認しようとしたけど、私が気づいたことを察したらしく、その子はすぐに教室に入ってしまった。今のは横山君だ。今の視線の意味も、何となく分かる。
きっと、天野君のことだ。横山君は天野君が好きだから、遠くから眺めていたんだろう。彼の恋も応援したいな。
教室の前から二番目、真ん中の席に三人で座った私たちは、他のクラスメイトからの注目を集めていた。皆が話しかけたそうだけど、私には天野君に聞きたいことがある。
「ねえねえ天野君」
「あ?」
「天野君って、好きな人いるの?」
「……………こ、この前言っただろ。リンさんだ」
「…そっか」
天野君は素っ気なく答えると、そっぽを向いてしまった。何だか気まずそうだ。恥ずかしいのかもしれない。
…天野君への嘘は、いつまで突き通せるだろうか。
『りん』の正体がこんな情けない性格の男だと知ったら、ショックだろうなあ。何とかして『りん』への恋心を横山君への物にすり替えられないだろうか。
早く、天野君を解放してあげなくちゃ。
顔だけに惚れてもロクなことはない。顔がどうだからと言って中身まで理想通りとは限らない。暴力男かもしれないし、少々性格に難ありな子かもしれない。天野君がそれを知ってしまうのは酷だが、避けられないことだ。
何だかいたたまれなくなって顔を背けると、新村君が目の前に居た。
「…………す、鈴」
「おはよう新村君!」
「おっ、お、……ぉはよ……ぅ…」
「鈴に何か用あんなら俺が聞くぞ、金髪」
「俺も聞くぞー新村」
新村君が私に手を伸ばそうとしたけど、天野君がその手を叩き落とし、龍牙が私の前に庇うように手を出した。
新村君のことを警戒しているのかな。新村君は悪い人じゃないのに。
「こら、二人とも止めて」
「新村、鈴に話す時は俺を通せって約束だろ?」
「ああ、俺たちを通せ、だな」
龍牙と天野君は顔を見合せ、イェーイ!とハイタッチしている。えっ、凄く仲良いじゃん、いいなあ。
「ねえ、新村く」
「出席を手伝って頂けませんか、紫川くん」
「わぁっ!?」
「ひぃっ!?」
後ろから突然声が聞こえ、驚いて振り向くと如月先生が立っていた。驚いた私を見て、先生も驚いた。
…龍牙と天野君に笑われた。バカにされてる…!
先生は一刻も早く帰りたそうにしていたので、私は遅刻している人と欠席している人を伝えた。
「…ありがとうございます、紫川くん。ああそれと、今日の昼休みは職員室へ来てください。大切な話があるんです、君じゃないと絶対任せられないんです、絶対来てください、お願いです、分かりましたか?いいで」
「分かりました、分かりましたから、大丈夫です!」
先生の圧が凄い。相当大事な用事なんだろうな。うーん、紅陵さんと天野君と一緒に、お昼食べられるかなあ。
……でも、いいのかな、そっちの方が。
紅陵さんと一緒に居ちゃ、だめだから。行けない理由があることに感謝するべきかもしれない。
「おい二人とも、鈴が暗い顔をしているじゃないか。お前らが不甲斐ないからだ、鈴、俺と…」
「いや、天野君と龍牙は、なんにもないの、私が…悪いだけだから」
「だとしても、鈴」
「ごめん新村君ちょっと黙ってて」
頭がいっぱいになる。だめだ、紅陵さんのことは、今考えるべきじゃない。皆がいるここで、思考を他所にやるわけにはいかない。
「うっわ、鈴に黙れって言われるとか、新村お前相当だな」
「…へっ、コイツをいじめようったって俺が許さねーかんな。テメェらもよく聞け、コイツ…いや、紫川鈴は俺のダチだからな。こいつの喧嘩は全部俺が買う」
おお、知らないうちに天野君が男前なことを言っている。周りに居る人たちが顔面蒼白になっているが大丈夫だろうか。俺らの鈴ちゃんが…とか聞こえる。別に私は君たちの鈴ちゃんではない。
身勝手なクラスメイトに苦笑いしていると、聞き覚えのある声がした。
「そうか、俺の喧嘩も買うか?」
和やかな空気が、凍った。
その声は渡来さんのものだったから。
声のする方に目を向ければ、教室の入口から渡来さんがこちらを見ている。
渡来さんが見ている相手はたった一人だ。
私の、隣にいる。
クラスの皆も突然の渡来さんの登場に驚いているようで、一歩二歩後ずさっていく。黒宮君たちに至っては素早く教室の隅に行ってしまった。
「…えっ、………何すか、ほ、ほら、一年には手出し禁止っすよね?」
「……天野君、違う、私じゃなくて龍牙を守って」
天野君が私を庇うように前に出たが、渡来さんの狙いは違う。
だって、しっかりと龍牙を見ているんだ。
龍牙はきょとんとしてその目を見つめ返している。ダメだ、龍牙は何も分かってない。
私が守らないと。
「…どういうことだ?」
「そのままの意味」
「はァ?」
渡来さんが、龍牙に向かって歩いてくる。あっという間にこちらへたどり着いた渡来さんは、値踏みをするような目線でじっとりと龍牙を見ている。咄嗟に龍牙の前に立ち、庇うように両手を広げた。
「鈴?どっ、どういうことだよ、何してんだお前」
「……この子は私の友達です。貴方みたいな人には絶ッ…対渡しません」
「………ほう?こんなチビには守れそうに見えないがな」
「…体を張ってでも守りますから、殴るならどうぞご自由に」
ぴん、と糸のように張り詰めた空気が、教室を包む。渡来さんは、何をする気だ。一年生に手出しをするなと言ったらしい氷川さんの言葉を、無視しているのか。何があっても、龍牙は私が守る。
そう心に決めた時、突然、
『ぴーんぽーんぱーんぽーん♪』
と、この場に余りにも不釣り合いな、電子音が鳴り響いた。これは、校内放送?
『あー、あー、聞こえてる?多分聞こえてるかな、うん』
「氷川さん!?」
「何でアイツ……まさかっ!!」
校内放送の声は、氷川さんの声だった。一瞬怪訝な顔をした渡来さんだったが、何か思い当たる節があったらしく、顔を真っ青にした。
『えーえー、ただいま、1-Cの教室にて問題を起こしている、脳まで筋肉の3-B渡来賢吾くん。今すぐ僕のいる放送室へ来ること。繰り返しは面倒だからしないよ』
「……誰が行くかよ」
『因みに、三十秒以内に来なければ、全校生徒と教師たちが聞いているであろうこの放送で、
〔ドキッ☆ケンちゃんのときめき初恋メモリー~ほろ苦い失恋の味編~〕
を披露したいと思いまーす!』
「それだけは止めろっつっただろぉがあああああぁぁぁ!!!!!!」
渡来さんは大声を上げ、俊敏な動作で教室を走り出ていった。
嵐のように突然現れ、あっという間に出ていってしまった渡来さんに、皆が唖然としている。状況を全く理解していない龍牙だけが、楽しそうにくすくすと笑っていた。
「今の聞きてぇな、渡来の初恋だって!渡来間に合わなきゃいいのにな~」
「………」
「鈴ー、天野ー、どうしたんだ?」
「…………そ、そうだね」
「お前マジでアホすぎだろ…疲れるわ」
「どういう意味だ!」
「自分の胸に聞いてみな」
さっきのことがあって、そんなに呑気にいられるの、龍牙だけだと思うよ…。
龍牙を庇う、守るとは言ったが、正直怖かった。クリミツの足に残された痣を思い出すと、その気持ちはより一層強くなる。思わぬ助け舟で危機が去ったことにほっとしてしまい、私は机にもたれかかった。
「鈴っ!」
「新村は触るな」
「遠藤に同じく」
「何でだお前ら!!!」
いつも通りの三人組の騒ぎをどこか遠くに聞きながら、私は息を吐いた。少し、疲れているのかもしれない。毎日毎日、色々なことが起こりすぎだ。昨日だって、放課後、とんでもないことを知ってしまったばかりなのに。
渡来さんから龍牙を守らなきゃいけない。
紅陵さんに養子のことがバレないようにしなきゃいけない。
天野君に正体がバレないようにしなきゃいけない。
氷川さんや雅弘さんの態度も探らなきゃいけない。
熊谷さんと関係のある、ジャージの先生も探さなきゃいけない。
「…あ、はは、……私ねー…」
「……立てるか?ダチのためだからって気ぃ張りすぎだ。俺が喧嘩買うっつったろ」
「………うん、ちょっと、怖かった」
やることはいっぱいあるけど、私は一人しかいない。せめて体が強ければよかったが、無いものを欲しがっても仕方ない。皆が心配そうに私を見てくる。天野君まで私に手を差し伸べてきた。その手を取り、私は立ち上がる。
普通の高校とは全く違うこの生活。
楽しまなきゃ、損だ!
私はそう切り替え、席についた。
すると、先程の校内放送の続きが聞こえてくる。
〔んー来ないね、じゃあ話そうか。あれは…桜が綺麗な、新学年の話だった。まだ中学二年生だった彼は、桜の木の下で美しい女の子に会った。まだ不良でなかったケンちゃん、勿論その女の子にアピールしたさ。でも頻度が中々のものでね、毎〕
〔バンッッッ〕
〔氷川アアアアァァァ!!!!〕
〔おっと、ケンちゃんメモリーはまた今度だね。それでは全校生徒の諸君、今日もいい一日を!〕
「えー終わりかよ、つまんねーの」
「渡来の奴、恋とかすんのか…?」
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