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黒の帳 『一つ目の帳』

+ 天野視点『気の抜けないお昼』

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外でどこかいい場所を探そう。

そう思った俺は校舎外に出た。地面は濡れていたが、空は晴れている。これなら外で食う場所が見つかりそうだ。渡来のせいでおちおち校内外を歩くことも出来なかったし、折角だから色々な所を歩こう。

色々な部屋があるからな。職員室とか生徒指導室とかはどうでもいいけど、保健室は知っておきたい。怪我したらそこに色々せびりにいこう。俺ん家に救急箱なんざあるわけねーだろ。


暫く歩くと、それっぽい部屋がちらりと見えた。白いカーテンとベッド。冷蔵庫っぽいやつとか薬を入れる棚とかが見えた。保健室はここっぽいな。

…ん?
背もたれの無いソファに、一人の男子生徒が座っている。


あの後ろ姿は、見覚えがある…気がする。

もっとよく見ようと窓に近づき、彼の背中を凝視した時、彼が振り向いた。



伏せられた睫毛、憂いげに煌めく瞳、
艷めく黒髪にはシンプルな黒い髪留め、
ふっくら色付いた頬、美しく整った顔の真ん中に可愛らしく乗った形のいい鼻、
極めつけは、あの日、聖女のような笑みを浮かべた桜色の唇。

あの人だ、リンさんだ。

でも、どうしてこんなところに?
俺が見てるの、本当にリンさんだよな?


何度瞬きをしようと、深呼吸しようと、目の前の景色は変わらない。
間違いない、リンさんが目の前に居る。

リンさんは、ずっと俺の目を見ている。俺を見ても驚かず、逃げる素振りも見せない。この人は、俺にどういう印象を持っているのだろう。恐怖や怯えではない、のか?

俺はこの人に伝えないといけないことがある。
三年のクソ野郎に、リンさんのことを喋ってしまったということ。
リンさんを探しても、一年生にリンさんは居なかった、ということ。


とにかく、近くに行って話がしたい。


俺は咄嗟に保健室の窓を開けた。目の前に入口があるなら誰だって開けるだろ。あーでも、靴を履いていたら行儀が悪いな。よし、脱ごう。
靴を脱いで窓から保健室に入り、意を決してリンさんに話しかけた。

「…こ、こんにちは」

バカ俺、もっとスムーズに喋れるだろ!

「あの、えっと、俺のこと覚えてますか?」

やばい、クソダサい。
あの、とか、えっと、とか、ダサさの極みだ。

心臓の鼓動が速くなったまま戻らない。
一周まわって冷静になったおかげか、俺の顔は赤くならなかった、よし。見てわかるような動揺もダッセーからな。

リンさんは、頷いてくれた。

よかった、俺のこと、覚えてくれている。まあモールで追いかけ回したし、恐怖で覚えられているのかもしれないが。その証拠と言わんばかりに、今だって口を開いてくれない。でも無関心より全然いい。大丈夫だ。
嬉しくて笑顔になりそうだが、我慢しよう。だが、口角が上がるのだけはどうしても我慢出来なかった。お、俺、だせぇっ…。

リンさんの周りをちらりと見る。腰ほっそ…じゃなくて!リンさんのすぐ脇に弁当箱が置いてある。これから食べるのか?それとも、食べ終わったのか?そもそも何で貴方はここに……、あっ。

俺はそこで初めて気づいた。
リンさんの腫れ上がった頬に、テープで湿布が貼ってある。その箇所以外も少し腫れている。

…これ、誰かに殴られたな?

……誰だ、ぶっ殺す。


俺は思わずビニール袋を握りしめた。
怒るな、俺。
リンさんを怯えさせるな。

リンさんから直接事情を聞こう。

「…これからお昼ですか?もしよかったら、一緒に食べません?」

がさっと音を立て、ビニール袋を揺らした。なるべく気軽に見えるように、軽く笑うのも忘れない。
…俺の顔引きつってないよな?大丈夫だよな?

どうやら俺の顔は変じゃなかったらしい。リンさんはこくんと頷いてくれた。あー、頷く度に揺れる髪まで綺麗だ。
昼食を一緒に食べさせて頂く許可をもらえた俺は、意気揚々とリンさんの隣への足を進めた。だが、その座る場所に困った。

どれだけの距離をとればいい?
近かったらキモいと思われ、遠かったら嫌いなのかなとか思わせてしまう。
そもそも俺はリンさんと同じ椅子に座っていいのか?


どうしようどうしようと悩んでいると、ぽんぽんと叩く音がした。見れば、リンさんが自分の隣をぺちぺち叩いている。手、小さい、可愛い…。

めっちゃ近いけど、リンさんが勧めてくれたのなら、遠慮する必要は無い。体がぶつからないように、そーっと腰を下ろした。万が一、ぶつかってしまって、この人触ってくる…変態…とか思われたら最悪だからな。

俺が袋からおにぎりを出すと、リンさんは弁当箱の蓋を開けた。うわっ、手作りっぽいな。リンさんが作ったのかな、リンさんの親が作ったのかな。
色々なものが入っていたが、その中でも俺は、ウィンナーに刺さった可愛い猫のピックにキュンとした。か、可愛い、それを使うリンさんが可愛い。

リンさんは可愛いというより綺麗だ、と言ったが、あれは撤回した方が良さそうだ。だって、めっちゃ可愛いもん。

…俺は、この人のことをリンさんと呼ぶが、果たしてその呼び名は合っているのだろうか。だって、偽名の可能性が浮かんでいる。
そもそもこの人、本当に一年生か?襟には一年を示す学年章があるけれど、全ての教室を探し回り、名前も調べきった今では、嘘っぽく見えてしまう。

…聞いて、みようか。

「……俺、リンさんを探したんです。そしたら見つかりました、リンって名前の人。でもソイツ、リンさんじゃありませんでした。横山凛って名前なんです。一年生でリンなんて名前、アイツしか居ませんでした」

息を吸い、先程とは違うドキドキを感じながら、疑問を吐き出した。

「貴方は……誰なんですか?」


教えてください、あなたのことを。




…ああ。
リンさんは、首を横に振った。


なら、俺は、もうどうしたらいいのか。
リンさんの正体を突き止めるのは、止めた方がいいのか。リンさんは、やはり嫌がるだろうか。バラしたくない何かがあるんだろうか。喋らないのも、きっとバレたくないからだ。


リンさんが、好きだ。
好き、だから、許してくれないだろうか。
他の奴らとは違うんだ、俺は。
貴方と純粋に、仲良くなりたい。
友達でいい、知り合いでいいんだ。

それなのに、名前も知らないのは、寂しすぎる。


俺は、名前についてそれ以上聞くのを止めた。
俺の感情で、彼を困らせてはいけない。



俺にはもう一つ気になることがある。

奇跡的な美しさを持つその顔に、あまりにも不釣り合いな傷。
それ、誰がつけたんだ?

「あの、聞いていいですか」

リンさんが頷いたのを確認し、質問をした。

「その頬の傷、どうしたんですか。…誰かにやられたんですか」

リンさんは、こくりと頷いた。

は?そいつ殺してやる。

全身の血が沸騰するくらいの怒りを感じたが、それをこの人に悟られるわけにはいかない。体の奥底からふつふつと湧く怒りをグッと抑え、極めて冷静に、俺は話しかけた。

「誰がそんな酷いことを……俺、ソイツのことボッコボコにしますよ。教えてください」

リンさんは首を横に振った。気のせいだろうか、勢いが強かったように見えた。

そっか、この人優しいもんな。仕返しなんてしないんだ。何か、俺の言ったことがどれだけ馬鹿なことかが分かるな。

俺は、自分の馬鹿さに呆れ、リンさんの優しさに触れ、自然と笑みが零れていた。

リンさんが不思議そうに俺を見ている。
説明しなきゃな。

「優しいんですね。俺を助けてくれた時と、一緒だ」

リンさんは、俺の言葉を聞いた途端、ぶんぶんと首を横に振った。

そうか、自分は優しくないよ、そんな謙遜だろう。
優しくて、謙虚で、可愛くて、綺麗で…、
リンさんは、関われば関わるほど、好きなところしか見えてこない。

あー、やべ。
めっちゃすきだ。




「あの、リンさん」
「?」
「卵、好きなんですか?」

リンさんがびくっ、と身体を震わせ、目を見開いた。驚いた反応も可愛いですね…あぶねえ、言いそうになった。

分からないわけがないだろう。
弁当箱を見る目自体幸せそうだったが、卵焼きになると少し目が細くなる。笑うように、目だけが細くなるんだ。しかも、食べ物を箸で口に運ぶ時、他の物はすぐに口に入れてしまうのに、卵焼きだけは落とさないようにそ~っと口に入れている。時間にして恐らく1秒…0.5秒くらいか?それくらい時間が違う。あと、食べた時も超可愛い顔するし、モグモグしてる時間も長い。
どっからどう見ても、分かるだろ。

あんまり言うとキモイかもな。
ここはスマートに伝えよう。

「へへ、卵焼きを見る目が可愛…えっと、真剣、あー、真面目、だったんで。あと、食べた時の顔が嬉しそうでした」

や、やべえ、全然スマートじゃねえ。
リンさんだって俯いてしまった。ドン引きされたかな、やっちまったか?

だが、リンさんはドン引きしていなかった。

照れていたんだ。

めっ……ちゃ可愛い。
少しひそめられた薄い眉、恥ずかしそうに潤む瞳、口元は何かを堪えるようにきゅっと締められていて、桃色に色付いた頬なんかマジでやばい。
それに、………唇ちょっとエロいな。


…!!!
ばかっ、俺何考えてんだ!?
リンさんが知ったらそれこそ絶交モンだろう。

顔がどんどん熱くなってくる。やばい、このままだと俺が変態ってことがバレる。いや、マジでそういう意図は無かった。無かったんだって!

何とかして誤魔化そう。この赤面の意味を聞かれなんてしたら俺は爆散してしまいそうだ。
えっとえっと、さっきまで話していたこと…卵が好きなんだ、そう、リンさんは卵が好き。

そこで俺は閃いた。俺が買ったたまごサンドを渡してみよう。そしたら今のことを誤魔化せるし、たまごサンドにはリンさんの好きな卵が入っている。

よし、何気な~い感じで、思い出した感じで、たまごサンドを渡すんだ、俺!

「あっ、ああ、そうだ。卵が好きなら、これどうぞ」

クソ、何で声が震えるんだよ!?

リンさんは首を横に振った。俺は申し訳ないがそれをガン無視し、たまごサンドを膝の上に置かせてもらった。こういうの、優しいリンさんは断るもんな。強引にいかなくちゃ。

…当たり前だが、押し付けがましい真似は絶対しない。俺が渡したくて渡しただけだ。お礼なんて求めないからな!
卵を食べた時の嬉しそうな笑顔。あれが見られたら、それでいいんだ。

リンさんはしばらくたまごサンドを見ていたが、徐に弁当箱を持ち上げた。何をするんだろうと見ていたら、俺の方に弁当の中身を見せてきた。

え、えっ、何だ?
考えても分からない。
お弁当美味しそうでしょ~ってことか?
ここは素直に聞こう、マジで分からん。

「…ん、何ですか?」

リンさんは、俺が渡したたまごサンドに手を向けた後、リンさん自身にも手を向けた。その後、俺に見せてくれた弁当箱と、俺にも似たような動作をした。

俺は、リンさんにたまごサンドを食べてもらいたくて、たまごサンドを渡した。そしてリンさんの今の手が意味すること。
も、もしかして、俺に、弁当のおかずを…???

「……え、えっ、俺に?」

リンさんは、頷いてくれた!

や、やったーーーッ!!!

好きな人からお弁当のおすそ分けなんて嬉しすぎる。どうしよう、何がいいかな。卵焼きはダメだ、リンさんの好物だからな。うーん、行儀悪いけど、指で摘めるようなやつ。あ、このコロッケがいいな。美味しそうだ。
…まあ全部美味しそうだけどな!

「じゃあ…、この、コロッケが欲しいです」

俺はそう言って、手を伸ばそうと思った。
行儀悪いけど、俺、箸持ってないしな。

…リンさんは、衝撃の行動を見せた。

なんと、箸でコロッケを掴み、俺に差し出してきた!!

「へっ、え?」


ちょ、まてまてまて、これはもしかしなくても、
かっ、間接キスというやつだっ…!!
しかも『あーん』まで…!?

意識する俺は多分最高にキモイだろう。でも、好きな人にこんなことをされて意識しないのもおかしい。俺のこの反応は普通だ…多分。

でもリンさんは箸を引っ込めない。つぶらな瞳が俺をじっと見てくる。あーそんな目で見つめないでくれっ…。

全く引く様子のないリンさんに俺は根負けし、大人しく口を開くことにした。

「……あ、あー…」

口にコロッケを入れてもらったが、違和感を感じた。思っていた食感と違ったからだ。

「……ん、うまッ!?」

これ、コロッケじゃねぇ!なんか…コロッケの中身が肉バージョンのやつだ。名前は忘れた。コロッケだと思ってたのに、肉が入っていたのが嬉しくて、つい叫んでしまった。

「…ぃ……です、へへ。手作り…ですか?」

叫んだのが恥ずかしくて、誤魔化すように質問した。
リンさんはまた、こくりと頷いた。弁当手作りとか凄すぎるし可愛すぎる。もう、何してても可愛いって思う。

「マジすかー!……俺、マジで幸せ者です、マジですよ。…リンさん、ありがとうございます」


リンさんの食べる仕草はめちゃめちゃ綺麗でお上品だ。でも、好きなものを食べた時は口元が嬉しそうに綻ぶ。その少し子供っぽいところと、見た目の大人っぽさのギャップでもう俺は死にそうだ、めっちゃ好き。

俺が先に食べ終わったので、弁当を食べるリンさんを横から何となく見ていた。勿論、ガン見してる…キモっ、て思われない程度に抑えた。
…頬の傷は、やはり痛々しい。食べる時に口を動かすが、傷に響くらしく、たまに顔を苦しそうに歪める時がある。

……そういや俺、
朝、根暗野郎のこと、殴っちまったなあ…。

根暗野郎も、メシを食う度に大変な思いをしているのだろうか、俺のせいで。
…ちゃんと、謝ろう。リンさんを見ていて、そう思った。ひねくれ者だから無理とか言っていられない。悪いことをしたら謝るべきだ。


悪いこと、か。
俺は渡来に、リンさんのことを喋った。
それを言わなきゃな。

でも俺は、考え直した。
だってリンさんはとっても臆病な人だ。今は俺と昼飯を食ってくれるが、この前は全力で逃げられて撒かれた。
今日は頬に傷が付いている。もしかしたら、さっき仕返ししないといったのは、優しさもあるだろうが、その殴ってきた不良の逆恨みに怯えているのかもしれない。

そんな人に、恐ろしい真実を伝えるわけにはいかない。

俺が陰ながら守るんだ。俺自身が渡来に適わなくても、他の奴らに協力してもらえばいい。いざとなったら土下座でも何してでも、裏番や番長に助けを求める覚悟だ。



リンさんが最後の一欠片を口に入れた。最後はデザートのリンゴだ。うさぎのように皮が剥いてあって、最初に見た時は可愛さで死ぬかと思った。

…もう、終わりか。結構、いや、かなり、最ッ高に、楽しくて幸せな時間だった。正体は明かしてもらえなかったが、隣に居ることを許されただけで満足だ。

お礼を言わなきゃな。
本当は、俺と食うの嫌だったかもしれないし。

「…俺、こんなに落ち着いた感じで誰かとメシ食ったの、久しぶりなんです。家で食う時は誰も居ないし、こんな俺には…メシを一緒に食うダチもいませんし。だから、俺、今めっちゃ嬉しいです!」

全部、素直な感想だ。
飯も作らねぇクソババアと食うわけがない。仲のいいダチなんざいない。俺は乱暴者で捻くれ者で、馬鹿だから、誰も相手にしない。

久しぶりに一緒に食べる人が、リンさんで本当に良かった。
めっちゃ好きな人だし、落ち着いて食べられたし、おかずをあーんまでしてもらった。


俺なんかと居てくれて、ありがとうございました。


そんな思いを込めて言ったのだが、リンさんは怪訝そうな顔をした。そして首を横に振ったかと思えば、なんと、その小さな可愛らしい手で、しかも両手で、俺の手を包んでくれた。小さいので包みきれていないが、すべすべで、ふんわり柔らかな肌を感じてもう堪らない。

いや、舞い上がっている場合じゃない。

リンさんは何故こんなことをしているんだ?
リンさんは両手で、俺の手をきゅっきゅっと握ってくれている。目は真剣で、口も引き結んでいる。これ、何かを伝えたいのか。

…さっき、リンさんは首を振ったな。
俺なんかとー、とか、俺にダチなんざいねぇ、みたいなことを言ったから、同情して…?
いや、これはそんな憐れみの目じゃない。


多分、この目は…、


「励まして、くれてるんですか?」


リンさんは、頷いた。


「はは、本当……マジで、優しいっすね」


どうして、そんなことをしてくれるんだ。
俺は、貴方を追いかけ回した、ろくでもない奴なのに。

そんなことない、
貴方はそんな人じゃないよ、
そんな声が聞こえてきそうな顔だ。

こんな目、姉ちゃんくらいにしか向けてもらえなかった。

この人は、本当に優しい。
俺に寄り添ってくれるようなこの空気は、余りにも、心地良い。

こんなに人を好きになったのは、マジで、初めてだ。
姉ちゃんとは全然違う。姉ちゃんより、ずっと、何倍も、何百倍も好きだ。
何か恥ずかしいけど、これが恋ってやつなのかな。

「…なんか泣きそうです」

昂った感情のせいか、俺は鼻の奥がツンとしてきた。やべ、泣くな、男だろ。リンさんの前で泣くなんて恥ずかしすぎる。
あーでも、涙が溢れてくる。これはもう零れないように上を向くしかない。上を向いて、蒸発するのを待ってしまおうか。

ふと、頭に何か触れた。

一瞬何だと考えたが、すぐに答えが見つかった。

リンさんが、俺の頭を撫でている。
酷く切ない、苦しそうな顔で俺を見ていた。

そんな、何で俺が泣きそうなのを見て、リンさんがそんな顔するんだよ。そんな顔、しないで欲しいし、させたくないのに。


胸がきゅ、と締まって、俺が言葉に詰まっていると、何か物音が聞こえてきた。廊下の方から、人の足音がする。急に現実に引き戻されたせいか、涙が引いていく。よし、もう顔戻しても大丈夫だな。
顔を戻し、扉を見た。足音がその扉で止まったからだ。がらりと扉が開き、足音の主の間延びした声が保健室に響く。

「包帯おなしゃーっす…あれ?クロちゃん。何してんのこんなとこで」

そいつの外見は、町中で会ったら誰もが二度見するような、派手な外見だった。

襟には二年生の学年章、
燃えるような赤髪、無気力な緑の目、
そして、2mを超えるだろう長身。

俺は、その特徴と合致する人間を知っている。



…こいつ、裏番だ!!
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