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黒の帳 『一つ目の帳』
+ 天野視点 腰巾着
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購買についた俺は、おにぎり三つとたまごサンドを買った。特にこだわりは無いが、カツサンドが無いのは少し残念だったな。
…やばっ。
購買から出た俺は、とある人物を発見し、近くにあった柱に急いで隠れた。
間違いない、渡来だ。
あの身長のせいで人混みから一つ頭が飛び出しているから、絶対見間違えない。奴に見つかっても問題は無いかもしれないが、見つからないに越したことはない。パシられたり、絡まれたり、話しかけられでもしたら最悪だ。
視認してすぐ柱に隠れたから、絶対大丈夫なはずだ。と、思っていたが、次の瞬間声が聞こえた。
「………あ?お前…」
渡来の声が、俺のすぐ後ろで聞こえる。
これバレたんじゃね?
だが、その焦りはすぐ安心に変わった。
「あ、ケンちゃん…」
「久しぶりじゃねぇか、真央。どこ行ってやがった」
「…ケンちゃんには関係無いよ」
お、俺じゃなかった~良かった~~~。
渡来と真央…渡来と付き合ってた二年生だ、その二人は会話を始めた。よし、これで気付かれずに抜け出せる。二人の会話は少々怪しいものに変わっていったが、生憎俺は部外者だ。話したことも無い奴を助ける義理はない。
適当な場所でメシを食おう。どこがいいだろう。
体育館前は根暗野郎が行くっつってたからな。盗み聞きは良くねえ、無しだ。
リンさん探しでもしてみるか?だが、これといった手がかりが無い以上、無闇矢鱈に探すのは時間の無駄だ。
…俺はある事実に気づき、全身の血の気が引いた。
ポケットに入れておいたはずの財布が、無くなっている。
やばい、あれ俺の全財産入ってんだよ。クソババアは飯も作らねぇから、俺自分で買ってんのに。
この学校はほぼ不良しかいねぇ。俺の財布の中身は、一切保証されない。
どうしよう。
前の俺だったらこんなに焦っていない。そこらの適当な奴からカツアゲするか、ボコって負かした奴から金を巻き上げりゃいい。
でも、その現場をリンさんに見られたら?
リンさんは心優しい人なんだ。そんな俺の姿を見たら、間違いなく距離を置かれる。俺のことを嫌いになってしまう。リンさんが怖がることをやるわけにはいかない。
でも、金が無きゃ、俺には今晩の飯さえない。
空腹は、一番嫌いだ。
何にも出来なかった小学生の俺を思い出すから。
自分でメシの用意が出来なくて、それなのに、クソババアは何にも作らねぇし買わねぇから、小六の時なんて本当に死ぬかと思った。
…今は違う。もう、ピーピー泣くこたねぇ。
何で俺は大事な財布を無くしたんだよ。ちゃんとチェーンつけてんのに。ポケットから出ても簡単に落ちないようになってんのに。
俺が若干、若干だが、泣きそうになっていると、誰かに肩を叩かれた。
「ねえ、これ君のでしょ」
「…!!!」
目の前に差し出されたのは、紛れもなく俺の財布だ。…?チェーンが不自然に千切れている。何でだろう。
とにかく、拾ってくれた奴に感謝だ。態々渡してくれるってことは中身もきっと無事だ。
「…あざー」
「拾ったお礼が欲しいなあ」
礼を言って受け取ろうとしたら、ひょいっと財布を上げられた。財布で丁度見えなかった相手の顔が見える。
「てっ、てめぇ…」
「おー、思い出してくれた?」
「腰巾着…!!」
「えっ?」
コイツ、廃工場で渡来の隣にいた腰巾着だ。見かけは全く違うが、声が一緒だ。騙されねぇぞ。
廃工場の時は、クッシャクシャの天パを後ろに全部無理やり流して、オールバックにしていた。今はそれを大爆発させている。おかげで、眼鏡をかけた目元に影が差していて、目も殆ど見えない。眼鏡の意味あんのか、その目。
「えっ、僕腰巾着なの?もしかして渡来の腰巾着?」
「そうだよ馬鹿野郎」
「失礼だね。僕先輩だよ?」
「じゃあ後輩の財布返してください」
影のかかった目が、キラリと光った。ウッザ。
早く財布返せ。
「ふふふ、この不良校、財布を落とせばほぼ100%の確率で中身がすっからかんで返ってくる。それなのに、この僕が君の財布を拾ったおかげで、中身は無事だ。とんでもない恩じゃない?」
なんて押し付けがましいんだ。
すんなり渡してくれりゃあ良かったのに。
「そんなに怯えないでよ」
「は?」
「大丈夫、体で払ってもらうとかそういうエロ同人的なことは全然するつもりないし寧ろそういうことするならちゃんと攻めと結ばれて欲しいっていうか僕的には結ばれた上で」
「黙れ」
意味がわからん。海外の言葉でも話しているかのような意味の分からなさだ。付き合うだけ時間の無駄だな。
要するにこいつは、財布を拾った礼をしろと言っているんだ。それをさっさと済ませて財布を返してもらおう。
「用事は何なんだ。それをやったら、財布返してくれるんだろ」
「おっ、話が早くていいね~。実は僕、とある部活の部長をやっているんだ」
「…部活?」
こんな不良校で、部活動が真面に機能するとは思えない。部活なんざあるわけがないと思っていたが、腰巾着の様子を見る限り、あるらしい。
美術部っぽい横山の先輩は勿論勘定にいれない。あんな頭のおかしい奴らの部活なんて、部活じゃないからな。
「…ふっふっふ、君が聞きたいと言うなら教えてやらないでもな」
「俺は何をやればいいんだ」
「そこは聞こうよ~先輩何してるんですかぁ~ってえ」
「先輩何してるんですかア"ァ?」
「それは脅しだよ~。もーいいや。とにかく着いておいで。部室で説明するよ」
こうして俺は、財布を返してもらうため、腰巾着に…、そういやこいつの名前はなんだ。
「…お前、名前は?」
「……悟」
「名字は?」
「自分の名字嫌いなんだ。僕は悟。それで許して」
「…わーったよ」
そう語った腰巾着…悟の顔は暗い。名字は親からもらうものだ。コイツも親が嫌いなのかもな。
「あと敬語使って」
「それは断る」
「酷いよ~」
くだらない会話を交わしながら、俺は部室へ向う。暫くして、俺は一、二、三年の教室が揃う棟とは、別の棟に来ていた。
「ふっふっふ、見て驚け。ここが僕、いや、僕と僕の同志たちの部室さ!!」
「へいへい」
そう言って悟は仰々しく扉を開けた。入口の札には視聴覚室、とある。
扉が開いた途端、学校じゃ考えられねぇ音と音楽が聞こえてきた。
「おっ、おお……何と素晴らしい作品でしょうかッ…」
「僕の読みは間違っていなかったね。これを貸すから、今週末にでも巡回するといい」
「黒宮氏、千田先輩が笹宮ちゃんのグッズ持ってるって!」
「なんとっ!それは誠でありますかっ!?」
「………オタクか」
「まあ一概に言ってしまうならばそうだね」
視聴覚室では、モニターを使ったアニメ鑑賞が行われており、何かよく分からんフィギュアを並べた机があった。他にもポスターだのキーホルダーだの…ダメだ、訳が分からん。
そんな物の数々を、個性的な奴らが眺めて楽しんでいる。見るからにオタクの奴らもいれば、一見アウトドア系に見える奴らも居た。奴らの中には、C組のメガネ共もいた。
なるほど、悟がこんな髪型にしているのは、オールバックで不良感マシマシだと、コイツらに怖がられるからか。
「この高校には、趣味に没頭し過ぎた挙句、学力が地に落ちてしまった悲しいオタクたちが居る。それと、とある才能を持つ者。その双方が、この部室で安全に暮らしている」
「とある才能…?」
何かそれっぽく話してるが、俺は財布を返してもらえればそれでいいんだ。
でも、それはそれとして部活は気になる。それに、安全と言った。あの暴君の渡来の隣についていた悟なら、実力も頭脳も相当なものだろう。
渡来から、逃れられるんじゃねぇか…?
渡来は今は番長の命令で大人しいが、それが覆らないとは限らない。今の内に、身を守る術、逃げる方法を色々考えておくべきだ。
「あ、そうだ。君はこのどちらでもない。オタクでもなければ、才能がある訳でもない。よって入部は認めないよ。それに君、強いし。一人でも暮らせるだろう?」
「何だよそれ…」
俺の入部は認められないらしい。
いや、別にいいし。
こんなオタク共の仲間入りなんてだっせーし?
……別にいいし。
「んで、俺がやることって何なんだよ」
「そうだったね。千田ー、ちょっとこっち!」
「…おう。黒宮、落とすなよ」
「勿論ですぞ!」
千田と呼ばれた男がこっちに歩いてきた。
で、デケェ。渡来までとはいかずとも、栗田よりは背が高ぇ。筋肉だってかなりある。だって、学ランの上から分かる程だ。コイツが悟の言う、とある才能を持つ奴だろうか。とある才能って何なんだよ。
「この子がお手伝いさん。一年の天野だよ」
「…よろしく。オレは二年の千田だ」
「俺は何やればいいんだ。こちとら早く昼メシ食いてぇんだよ」
「はいはい。こっちに来て」
俺は視聴覚室の奥の方へ案内された。この部屋はかなり広い。普通の教室の二、三倍はありそうだ。昔は合同授業とかやってたんだろうな。今じゃ面影もねぇけど。
案内された場所には、何かの準備をしているような道具や、紙が散らばっていた。
「今日は貴重な貴重な部活見学者が来るんだ。是非とも入部してもらいたくてね、僕としても全力を尽くしたいんだ」
「…オレがその用意をしているが、時間が足りん。朝に言われて間に合うわけが無いからな。なァ部長。プレミア物、本当に見せてくれるんだよな」
「勿論!約束だからね。とにかく、そういうわけだから、君は部活見学の準備を手伝ってくれ。後は頼んだよ~!」
その後、俺はよく分かんねぇながらに頑張った。
だって、千田…、いや、千田先輩めっちゃ怖ぇもん。サボりも手抜きも許さない、という目で俺は睨まれ続けていた。
最後に、この文字の周りをなぞってくれ、と青いペンと共に渡された紙には、楽譜っぽいやつと、めちゃめちゃ上手い字で曲のタイトルが書いてあった。
タイトルは、『いくぞ、白亜紀戦隊!』
聞いたことがあるな。
確か、俺が小学生の時の特撮ヒーローだ。あれのオープニングをピアノで弾くのか?
部活見学者は、ピアノが弾ける特撮ヒーロー好き…?
何だそのミスマッチ。ちょっと気になるな。
だが、待つことは出来ない。俺の腹が限界だからだ。昼飯の時間からどんだけ経ったと思ってやがる。
ずっと部屋の中に居たから気が滅入りそうだ。
今日は外で食うことにするか。
全部の物事は、繋がってるってよく言う。
俺が財布を落としたのも、悟が財布を拾ったのも、そのお礼で俺が準備に駆り出されたのも、更に言えば、どこかの誰かが悟の部活を見学しようと決めたのも、全部が全部、
この後の最ッ高な出来事に、繋がってたんだと思う。
…やばっ。
購買から出た俺は、とある人物を発見し、近くにあった柱に急いで隠れた。
間違いない、渡来だ。
あの身長のせいで人混みから一つ頭が飛び出しているから、絶対見間違えない。奴に見つかっても問題は無いかもしれないが、見つからないに越したことはない。パシられたり、絡まれたり、話しかけられでもしたら最悪だ。
視認してすぐ柱に隠れたから、絶対大丈夫なはずだ。と、思っていたが、次の瞬間声が聞こえた。
「………あ?お前…」
渡来の声が、俺のすぐ後ろで聞こえる。
これバレたんじゃね?
だが、その焦りはすぐ安心に変わった。
「あ、ケンちゃん…」
「久しぶりじゃねぇか、真央。どこ行ってやがった」
「…ケンちゃんには関係無いよ」
お、俺じゃなかった~良かった~~~。
渡来と真央…渡来と付き合ってた二年生だ、その二人は会話を始めた。よし、これで気付かれずに抜け出せる。二人の会話は少々怪しいものに変わっていったが、生憎俺は部外者だ。話したことも無い奴を助ける義理はない。
適当な場所でメシを食おう。どこがいいだろう。
体育館前は根暗野郎が行くっつってたからな。盗み聞きは良くねえ、無しだ。
リンさん探しでもしてみるか?だが、これといった手がかりが無い以上、無闇矢鱈に探すのは時間の無駄だ。
…俺はある事実に気づき、全身の血の気が引いた。
ポケットに入れておいたはずの財布が、無くなっている。
やばい、あれ俺の全財産入ってんだよ。クソババアは飯も作らねぇから、俺自分で買ってんのに。
この学校はほぼ不良しかいねぇ。俺の財布の中身は、一切保証されない。
どうしよう。
前の俺だったらこんなに焦っていない。そこらの適当な奴からカツアゲするか、ボコって負かした奴から金を巻き上げりゃいい。
でも、その現場をリンさんに見られたら?
リンさんは心優しい人なんだ。そんな俺の姿を見たら、間違いなく距離を置かれる。俺のことを嫌いになってしまう。リンさんが怖がることをやるわけにはいかない。
でも、金が無きゃ、俺には今晩の飯さえない。
空腹は、一番嫌いだ。
何にも出来なかった小学生の俺を思い出すから。
自分でメシの用意が出来なくて、それなのに、クソババアは何にも作らねぇし買わねぇから、小六の時なんて本当に死ぬかと思った。
…今は違う。もう、ピーピー泣くこたねぇ。
何で俺は大事な財布を無くしたんだよ。ちゃんとチェーンつけてんのに。ポケットから出ても簡単に落ちないようになってんのに。
俺が若干、若干だが、泣きそうになっていると、誰かに肩を叩かれた。
「ねえ、これ君のでしょ」
「…!!!」
目の前に差し出されたのは、紛れもなく俺の財布だ。…?チェーンが不自然に千切れている。何でだろう。
とにかく、拾ってくれた奴に感謝だ。態々渡してくれるってことは中身もきっと無事だ。
「…あざー」
「拾ったお礼が欲しいなあ」
礼を言って受け取ろうとしたら、ひょいっと財布を上げられた。財布で丁度見えなかった相手の顔が見える。
「てっ、てめぇ…」
「おー、思い出してくれた?」
「腰巾着…!!」
「えっ?」
コイツ、廃工場で渡来の隣にいた腰巾着だ。見かけは全く違うが、声が一緒だ。騙されねぇぞ。
廃工場の時は、クッシャクシャの天パを後ろに全部無理やり流して、オールバックにしていた。今はそれを大爆発させている。おかげで、眼鏡をかけた目元に影が差していて、目も殆ど見えない。眼鏡の意味あんのか、その目。
「えっ、僕腰巾着なの?もしかして渡来の腰巾着?」
「そうだよ馬鹿野郎」
「失礼だね。僕先輩だよ?」
「じゃあ後輩の財布返してください」
影のかかった目が、キラリと光った。ウッザ。
早く財布返せ。
「ふふふ、この不良校、財布を落とせばほぼ100%の確率で中身がすっからかんで返ってくる。それなのに、この僕が君の財布を拾ったおかげで、中身は無事だ。とんでもない恩じゃない?」
なんて押し付けがましいんだ。
すんなり渡してくれりゃあ良かったのに。
「そんなに怯えないでよ」
「は?」
「大丈夫、体で払ってもらうとかそういうエロ同人的なことは全然するつもりないし寧ろそういうことするならちゃんと攻めと結ばれて欲しいっていうか僕的には結ばれた上で」
「黙れ」
意味がわからん。海外の言葉でも話しているかのような意味の分からなさだ。付き合うだけ時間の無駄だな。
要するにこいつは、財布を拾った礼をしろと言っているんだ。それをさっさと済ませて財布を返してもらおう。
「用事は何なんだ。それをやったら、財布返してくれるんだろ」
「おっ、話が早くていいね~。実は僕、とある部活の部長をやっているんだ」
「…部活?」
こんな不良校で、部活動が真面に機能するとは思えない。部活なんざあるわけがないと思っていたが、腰巾着の様子を見る限り、あるらしい。
美術部っぽい横山の先輩は勿論勘定にいれない。あんな頭のおかしい奴らの部活なんて、部活じゃないからな。
「…ふっふっふ、君が聞きたいと言うなら教えてやらないでもな」
「俺は何をやればいいんだ」
「そこは聞こうよ~先輩何してるんですかぁ~ってえ」
「先輩何してるんですかア"ァ?」
「それは脅しだよ~。もーいいや。とにかく着いておいで。部室で説明するよ」
こうして俺は、財布を返してもらうため、腰巾着に…、そういやこいつの名前はなんだ。
「…お前、名前は?」
「……悟」
「名字は?」
「自分の名字嫌いなんだ。僕は悟。それで許して」
「…わーったよ」
そう語った腰巾着…悟の顔は暗い。名字は親からもらうものだ。コイツも親が嫌いなのかもな。
「あと敬語使って」
「それは断る」
「酷いよ~」
くだらない会話を交わしながら、俺は部室へ向う。暫くして、俺は一、二、三年の教室が揃う棟とは、別の棟に来ていた。
「ふっふっふ、見て驚け。ここが僕、いや、僕と僕の同志たちの部室さ!!」
「へいへい」
そう言って悟は仰々しく扉を開けた。入口の札には視聴覚室、とある。
扉が開いた途端、学校じゃ考えられねぇ音と音楽が聞こえてきた。
「おっ、おお……何と素晴らしい作品でしょうかッ…」
「僕の読みは間違っていなかったね。これを貸すから、今週末にでも巡回するといい」
「黒宮氏、千田先輩が笹宮ちゃんのグッズ持ってるって!」
「なんとっ!それは誠でありますかっ!?」
「………オタクか」
「まあ一概に言ってしまうならばそうだね」
視聴覚室では、モニターを使ったアニメ鑑賞が行われており、何かよく分からんフィギュアを並べた机があった。他にもポスターだのキーホルダーだの…ダメだ、訳が分からん。
そんな物の数々を、個性的な奴らが眺めて楽しんでいる。見るからにオタクの奴らもいれば、一見アウトドア系に見える奴らも居た。奴らの中には、C組のメガネ共もいた。
なるほど、悟がこんな髪型にしているのは、オールバックで不良感マシマシだと、コイツらに怖がられるからか。
「この高校には、趣味に没頭し過ぎた挙句、学力が地に落ちてしまった悲しいオタクたちが居る。それと、とある才能を持つ者。その双方が、この部室で安全に暮らしている」
「とある才能…?」
何かそれっぽく話してるが、俺は財布を返してもらえればそれでいいんだ。
でも、それはそれとして部活は気になる。それに、安全と言った。あの暴君の渡来の隣についていた悟なら、実力も頭脳も相当なものだろう。
渡来から、逃れられるんじゃねぇか…?
渡来は今は番長の命令で大人しいが、それが覆らないとは限らない。今の内に、身を守る術、逃げる方法を色々考えておくべきだ。
「あ、そうだ。君はこのどちらでもない。オタクでもなければ、才能がある訳でもない。よって入部は認めないよ。それに君、強いし。一人でも暮らせるだろう?」
「何だよそれ…」
俺の入部は認められないらしい。
いや、別にいいし。
こんなオタク共の仲間入りなんてだっせーし?
……別にいいし。
「んで、俺がやることって何なんだよ」
「そうだったね。千田ー、ちょっとこっち!」
「…おう。黒宮、落とすなよ」
「勿論ですぞ!」
千田と呼ばれた男がこっちに歩いてきた。
で、デケェ。渡来までとはいかずとも、栗田よりは背が高ぇ。筋肉だってかなりある。だって、学ランの上から分かる程だ。コイツが悟の言う、とある才能を持つ奴だろうか。とある才能って何なんだよ。
「この子がお手伝いさん。一年の天野だよ」
「…よろしく。オレは二年の千田だ」
「俺は何やればいいんだ。こちとら早く昼メシ食いてぇんだよ」
「はいはい。こっちに来て」
俺は視聴覚室の奥の方へ案内された。この部屋はかなり広い。普通の教室の二、三倍はありそうだ。昔は合同授業とかやってたんだろうな。今じゃ面影もねぇけど。
案内された場所には、何かの準備をしているような道具や、紙が散らばっていた。
「今日は貴重な貴重な部活見学者が来るんだ。是非とも入部してもらいたくてね、僕としても全力を尽くしたいんだ」
「…オレがその用意をしているが、時間が足りん。朝に言われて間に合うわけが無いからな。なァ部長。プレミア物、本当に見せてくれるんだよな」
「勿論!約束だからね。とにかく、そういうわけだから、君は部活見学の準備を手伝ってくれ。後は頼んだよ~!」
その後、俺はよく分かんねぇながらに頑張った。
だって、千田…、いや、千田先輩めっちゃ怖ぇもん。サボりも手抜きも許さない、という目で俺は睨まれ続けていた。
最後に、この文字の周りをなぞってくれ、と青いペンと共に渡された紙には、楽譜っぽいやつと、めちゃめちゃ上手い字で曲のタイトルが書いてあった。
タイトルは、『いくぞ、白亜紀戦隊!』
聞いたことがあるな。
確か、俺が小学生の時の特撮ヒーローだ。あれのオープニングをピアノで弾くのか?
部活見学者は、ピアノが弾ける特撮ヒーロー好き…?
何だそのミスマッチ。ちょっと気になるな。
だが、待つことは出来ない。俺の腹が限界だからだ。昼飯の時間からどんだけ経ったと思ってやがる。
ずっと部屋の中に居たから気が滅入りそうだ。
今日は外で食うことにするか。
全部の物事は、繋がってるってよく言う。
俺が財布を落としたのも、悟が財布を拾ったのも、そのお礼で俺が準備に駆り出されたのも、更に言えば、どこかの誰かが悟の部活を見学しようと決めたのも、全部が全部、
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