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黒の帳 『一つ目の帳』
お昼ご飯
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買い物が終わると、龍牙がお腹空いたと言い出した。誰も昼食をとっていなかったし、時間もちょうどいい。五人でフードコートに行くことにした。
お昼時で人は多いが、何とか四人席を確保し、隣のテーブルから椅子を持ってくる。よし、席は確保した。
菊池君はハンバーガーセット、遠藤君と新村君はラーメンを食べることに決めた。龍牙はまだだ。三人は私達二人が決めるのを待ってくれている。私は…そうだな、うどんが食べたい。
だが、言わねばならないことがある。
「…龍牙、龍牙なら、バカにしないって、信じてるよ、信じてるからね」
「あ?鈴、急にどうした。何言おうとしてるかさっぱりだけど…言ってみろ、大丈夫だ」
深呼吸を一つ。
そう、大事なことだ。
「…ちゅ、注文って、どうやってするの…?」
「「「「………え?」」」」
皆、ぽかんとしている。
そう、そうだよね。そんな顔もするよね。ありえないよね。
だって…だって!
ファストフードが集まるこんなフードコートに来たのは小学生以来だ。しかも、龍牙とクリミツと一緒に来たし、二人のご両親も居た。中学生の時は行く友達が居なかった。彼女ともロクにデートだって行けなかった。クリミツめ…!
勿論、外食をしたことが無い訳ではない。その…所謂、高級レストランとか、そういう所ならある。外出はいつも雅弘さんが連れて行ってくれたし、極道の大親分がフードコートなんて場所で食べるわけが無い。
色々なお店に連れて行ってもらった。そう、どの店も、席に座ってウェイターさんを待つスタイルのお店だったんだ。
だから、分からない。
すごく恥ずかしい。
でも、分からないものは分からないんだ。さっき、見よう見まねでやろうかとも考えた。でも、それでもし間違えたら大恥だ!聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥という。恥を忍んで聞いたけど、皆の反応がない。あ、呆れないで…。
「なあ、やっぱお嬢様なのかよ、さきちゃんって。全然教えるけど?何食いたいの?」
「フードコート来たことないの?真面目だね…。あ、ポテトマジ旨いよ、俺のオススメ。」
「…………か、可愛すぎるッ…!!」
「…あー、保護者考えたら…分かるわ。仕方ないし、全然大丈夫だからな、気にすんな。何が食べたい?」
み、皆、なんて優しいんだ!!
誰も私をバカにしないとは。嬉しいなあ。
喜びで自然と口角が上がってしまう。
「…う、…うどんかな」
「おーいいな、俺もそれにするわ。じゃあ解散」
「あ、俺残っとくわ。新村、俺肉マシマシのやつな!」
「…ああ」
どうやら遠藤君が荷物を見ておいてくれるらしい。
「遠藤君、お願いします!」
「…うぃ」
顔は見えてないはずなんだけどな。何で顔が赤いんだろう。薄々思っていたのだけど、顔が赤くなる現象ってそこまで気にしなくていいのかな。龍牙や紅陵さん、周りの人達はよく顔が赤くなる。
うどんのお店に行くと、ちょっと人が並んでいた。並んでいる間、少し暇だな。今思った疑問を話してみようか。
「ねえ、さっき遠藤君顔赤かったよね」
「…それがどうした?よく赤くなるだろ、アイツ」
「人の顔ってよく赤くなるものなの?一々気にする私って変かなあ」
「嬉しい時とか、顔熱くなるだろ?それと一緒だ、って言いたいけど、鈴の周りは違う。鈴が可愛いからだ」
「でも、今の私は顔隠してるよ?だから何でかなーって」
そこまで話したところで順番がきた。う、分からない。大人しく隣で龍牙が注文しているのを待つ。龍牙は私の分まで注文してくれた。龍牙はお会計の後、何か受け取った。スマホみたいなサイズで、お店のロゴが書いてある。これはなんだろう。
「ね、龍牙。それ何?」
「んー?名前は知らねーけど、店の人が鳴らすんだ。これが鳴ったら、もう一回店に行けばいい。ほら、フードコートって広いだろ?注文した人に出来ましたよーって言いに行くの大変じゃん。だからだよ」
「へえ…」
席に戻り、龍牙にさっき払ってもらった私の分のお金を返す。龍牙は、別にいいのに…とちょっと不満げに受け取っていた。
ハンバーガー屋さんは空いていたらしく、菊池君はもう食べ始めていた。菊池君は持ってきた椅子に座っているので、私の左斜め前に居る。ハンバーガーとポテトとドリンクがトレーに乗っている。美味しそうだなあ。
ぼーっと見ていると、菊池君が私に気づいてにやっと笑った。
「なに鈴ちゃん、そんなに見ちゃって。欲しいの?ポテトあげるよ、ほら」
「えっ、ごめんね?別に食べたいわけじゃ」
「あーん」
菊池君は笑顔でポテトを差し出してくる。え、くれるの?そんな卑しい目で見ていただろうか。うーん、少し気まずいなあ…。
でもお腹が空いている。ポテトなんて、お屋敷に居た時に、名も知らない片目の無いおじさんにもらった時以来食べていない。美味しかったなあ、アレ。
このポテトも菊池君が賞賛していた。美味しいだろうな。ドキドキしながら手を伸ばした。
「ちょっと鈴ちゃん」
「え?」
あと少しで掴めるというところでひょい、と手をあげられてしまった。あれ、違ったかな。
「俺、なんて言った?あーんだよ、あーん。ほら、口開けて」
「えっ、え…?」
ちょっと恥ずかしい。龍牙や紅陵さんにやったけど、自分がやられるのは違う。
それに、ここは公共の場だ。いくら柳市の皆さんが恋愛に寛容だからといっても、限度があるだろう。
…でも、折角くれるって言ってるし、食べさせてもらおう。美味しい物には勝てない。
口を開くと、菊池君がポテトをこっちに持ってきてくれた。その時だ。
「いただきっ!」
「あっ」
「遠藤おおおおおぉぉっ…許すマジ…」
私の向かいに居る遠藤君が突然顔を伸ばし、ポテトを食べてしまった。
菊池君の静かな怒りの声が聞こえる。口元がピクピクしている。そんなに怒らなくても…大事なポテトならあげなきゃいいのに。
「いやあ邪魔して食う人の…ん、ポテトはうまいねぇ!!」
「鈴ちゃんっ、もう一回、もう一回!今度は食べて、いい?」
菊池君がもう一本差し出そうとしたところで、無機質な電子音が響いた。うどんのお店の、呼び出す機械(?)が鳴っている。龍牙と一緒に取りに行かなくちゃ。
龍牙と一緒にお店へ行ったけど、どうしたらいいか分からない。受け取り口に色々なトレーが並んでいる。龍牙は俺に任せろ、と笑って、私より先にうどんが乗ったトレーを取った。龍牙が指をさしてくれたので、そのトレーを取る。
龍牙に指示してもらって、店を出る頃にはお箸、それとネギが沢山かかったうどんのトレーを手にした!ネギを好きなだけかけていいって、限度はあるだろうけど…すごいなあ。
席に戻ると、新村君と遠藤君はラーメンを食べていた。菊池君もまだ食べている。龍牙が私の右隣に座り、うどんを食べ始めた。
「…さきちゃん、超嬉しそう」
「それね、あんなウキウキで帰ってくるとかホント可愛い」
「………ネギ好きか?」
「好き!」
新村君の質問に答えただけだが、三人が固まった。…回答を間違えたな。よく食べるんだよね、みたいなことを言えばよかった。
「…鈴ちゃん、あーん」
「ん」
菊池君が有無を言わさぬ様子でポテトを差し出してきたので、大人しく食べさせてもらった。さっきは遠藤君が食べちゃったけど、今度はちゃんと私の口に入った。うん、美味しい。塩気と油がすごいけど、病み付きになりそう。
久しぶりに食べたポテトは美味しい。ふと、右前に座っている新村君がソワソワしていることに気づいた。
「どうしたの、新村君」
「……鈴、ラーメンは好きか」
「うん、豚骨とか美味しいよね」
「こ、これ、…食うか?」
おずおずと、新村君が申し出てくる。フードコートに久しぶりに来たと言ったし、皆気を使ってくれている。…まあ下心があったとしても、楽しいので問題無い。
「フッ、新村原始人みたいだな」
「ホモ・ニイムラ」
「「「あははははは!!」」」
「いたいた、ゴリラみたいなやつな!」
「…………うるさい」
新村君と私を除く三人が大笑いする。からかわれた新村君は不機嫌になってしまった。龍牙達、それもしかしてホモ・サピエンスのこと?
「うん、食べたいな。くれるの?」
「……あ、ぁ…あ……ん…」
恐る恐る新村君が箸を差し出してくる。その箸は麺を掴んでいる。もしかして、新村君もあーんってしたいのか。でも麺はキツくないか。多分汁がぽたぽた垂れてしまう。まあでもやりたそうだしなあ。
そんな私たちに、遠藤君が話しかけてきた。
「おいおい新村、麺であーんは無理があるだろ。さきちゃん、はい!」
「…遠藤ッ……!!!」
私の口に入ってきたのは麺じゃなかった。遠藤君が私の口に何か入れたからだ。これは…お肉?
「チャーシューだよ。美味しい?さきちゃん」
「ん…ん!……美味しい!」
きちんと飲み込み、口の中を空にしてから感想を言う。遠藤君がそれを聞いて、嬉しそうな顔をした。隣の新村君は恐ろしい顔をしている。でも遠藤君は意に介さず、といった様子だ。遠藤君、何だか龍牙みたいだな。いたずらっ子みたいに無邪気に笑うところなんか、特に似ている。
「新村君、もやし頂戴?」
「!……ああ、…ほ、欲しいなら、ほら…あ、…ぁ、………あーん」
「ありがと、ん…」
麺だと少し食べづらいので、適当な具を言うと、新村君は私に差し出してくれた。シャキシャキしてて美味しい。新村君もいつもの無表情に戻った。新村君、無口だし、クリミツに似てるかも…?
「おい鈴、そろそろ食えよ。冷めるぞ」
「あ、そうだね。ありがと皆!…いただきます」
龍牙に言われ、座り直した。
ネギの沢山乗ったうどんを口に入れる。温かくて美味しいなあ。
菊池君は食べ終わったみたいで、さっきの仕返しなのか、遠藤君から箸を取り上げて何口か食べている。新村君もそれに習い、横から遠藤君のチャーシューを食べている。遠藤君は悲鳴をあげていた。遠藤君、お肉好きなんだな。龍牙はそれを見て、食べながら爆笑している。皆お行事が悪いなあ。
でも、家で一人きりで食べるご飯なんかより、ずっとずっと楽しい。
何だか、あの一人きりの部屋に帰りたくなくなってしまった。
お昼時で人は多いが、何とか四人席を確保し、隣のテーブルから椅子を持ってくる。よし、席は確保した。
菊池君はハンバーガーセット、遠藤君と新村君はラーメンを食べることに決めた。龍牙はまだだ。三人は私達二人が決めるのを待ってくれている。私は…そうだな、うどんが食べたい。
だが、言わねばならないことがある。
「…龍牙、龍牙なら、バカにしないって、信じてるよ、信じてるからね」
「あ?鈴、急にどうした。何言おうとしてるかさっぱりだけど…言ってみろ、大丈夫だ」
深呼吸を一つ。
そう、大事なことだ。
「…ちゅ、注文って、どうやってするの…?」
「「「「………え?」」」」
皆、ぽかんとしている。
そう、そうだよね。そんな顔もするよね。ありえないよね。
だって…だって!
ファストフードが集まるこんなフードコートに来たのは小学生以来だ。しかも、龍牙とクリミツと一緒に来たし、二人のご両親も居た。中学生の時は行く友達が居なかった。彼女ともロクにデートだって行けなかった。クリミツめ…!
勿論、外食をしたことが無い訳ではない。その…所謂、高級レストランとか、そういう所ならある。外出はいつも雅弘さんが連れて行ってくれたし、極道の大親分がフードコートなんて場所で食べるわけが無い。
色々なお店に連れて行ってもらった。そう、どの店も、席に座ってウェイターさんを待つスタイルのお店だったんだ。
だから、分からない。
すごく恥ずかしい。
でも、分からないものは分からないんだ。さっき、見よう見まねでやろうかとも考えた。でも、それでもし間違えたら大恥だ!聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥という。恥を忍んで聞いたけど、皆の反応がない。あ、呆れないで…。
「なあ、やっぱお嬢様なのかよ、さきちゃんって。全然教えるけど?何食いたいの?」
「フードコート来たことないの?真面目だね…。あ、ポテトマジ旨いよ、俺のオススメ。」
「…………か、可愛すぎるッ…!!」
「…あー、保護者考えたら…分かるわ。仕方ないし、全然大丈夫だからな、気にすんな。何が食べたい?」
み、皆、なんて優しいんだ!!
誰も私をバカにしないとは。嬉しいなあ。
喜びで自然と口角が上がってしまう。
「…う、…うどんかな」
「おーいいな、俺もそれにするわ。じゃあ解散」
「あ、俺残っとくわ。新村、俺肉マシマシのやつな!」
「…ああ」
どうやら遠藤君が荷物を見ておいてくれるらしい。
「遠藤君、お願いします!」
「…うぃ」
顔は見えてないはずなんだけどな。何で顔が赤いんだろう。薄々思っていたのだけど、顔が赤くなる現象ってそこまで気にしなくていいのかな。龍牙や紅陵さん、周りの人達はよく顔が赤くなる。
うどんのお店に行くと、ちょっと人が並んでいた。並んでいる間、少し暇だな。今思った疑問を話してみようか。
「ねえ、さっき遠藤君顔赤かったよね」
「…それがどうした?よく赤くなるだろ、アイツ」
「人の顔ってよく赤くなるものなの?一々気にする私って変かなあ」
「嬉しい時とか、顔熱くなるだろ?それと一緒だ、って言いたいけど、鈴の周りは違う。鈴が可愛いからだ」
「でも、今の私は顔隠してるよ?だから何でかなーって」
そこまで話したところで順番がきた。う、分からない。大人しく隣で龍牙が注文しているのを待つ。龍牙は私の分まで注文してくれた。龍牙はお会計の後、何か受け取った。スマホみたいなサイズで、お店のロゴが書いてある。これはなんだろう。
「ね、龍牙。それ何?」
「んー?名前は知らねーけど、店の人が鳴らすんだ。これが鳴ったら、もう一回店に行けばいい。ほら、フードコートって広いだろ?注文した人に出来ましたよーって言いに行くの大変じゃん。だからだよ」
「へえ…」
席に戻り、龍牙にさっき払ってもらった私の分のお金を返す。龍牙は、別にいいのに…とちょっと不満げに受け取っていた。
ハンバーガー屋さんは空いていたらしく、菊池君はもう食べ始めていた。菊池君は持ってきた椅子に座っているので、私の左斜め前に居る。ハンバーガーとポテトとドリンクがトレーに乗っている。美味しそうだなあ。
ぼーっと見ていると、菊池君が私に気づいてにやっと笑った。
「なに鈴ちゃん、そんなに見ちゃって。欲しいの?ポテトあげるよ、ほら」
「えっ、ごめんね?別に食べたいわけじゃ」
「あーん」
菊池君は笑顔でポテトを差し出してくる。え、くれるの?そんな卑しい目で見ていただろうか。うーん、少し気まずいなあ…。
でもお腹が空いている。ポテトなんて、お屋敷に居た時に、名も知らない片目の無いおじさんにもらった時以来食べていない。美味しかったなあ、アレ。
このポテトも菊池君が賞賛していた。美味しいだろうな。ドキドキしながら手を伸ばした。
「ちょっと鈴ちゃん」
「え?」
あと少しで掴めるというところでひょい、と手をあげられてしまった。あれ、違ったかな。
「俺、なんて言った?あーんだよ、あーん。ほら、口開けて」
「えっ、え…?」
ちょっと恥ずかしい。龍牙や紅陵さんにやったけど、自分がやられるのは違う。
それに、ここは公共の場だ。いくら柳市の皆さんが恋愛に寛容だからといっても、限度があるだろう。
…でも、折角くれるって言ってるし、食べさせてもらおう。美味しい物には勝てない。
口を開くと、菊池君がポテトをこっちに持ってきてくれた。その時だ。
「いただきっ!」
「あっ」
「遠藤おおおおおぉぉっ…許すマジ…」
私の向かいに居る遠藤君が突然顔を伸ばし、ポテトを食べてしまった。
菊池君の静かな怒りの声が聞こえる。口元がピクピクしている。そんなに怒らなくても…大事なポテトならあげなきゃいいのに。
「いやあ邪魔して食う人の…ん、ポテトはうまいねぇ!!」
「鈴ちゃんっ、もう一回、もう一回!今度は食べて、いい?」
菊池君がもう一本差し出そうとしたところで、無機質な電子音が響いた。うどんのお店の、呼び出す機械(?)が鳴っている。龍牙と一緒に取りに行かなくちゃ。
龍牙と一緒にお店へ行ったけど、どうしたらいいか分からない。受け取り口に色々なトレーが並んでいる。龍牙は俺に任せろ、と笑って、私より先にうどんが乗ったトレーを取った。龍牙が指をさしてくれたので、そのトレーを取る。
龍牙に指示してもらって、店を出る頃にはお箸、それとネギが沢山かかったうどんのトレーを手にした!ネギを好きなだけかけていいって、限度はあるだろうけど…すごいなあ。
席に戻ると、新村君と遠藤君はラーメンを食べていた。菊池君もまだ食べている。龍牙が私の右隣に座り、うどんを食べ始めた。
「…さきちゃん、超嬉しそう」
「それね、あんなウキウキで帰ってくるとかホント可愛い」
「………ネギ好きか?」
「好き!」
新村君の質問に答えただけだが、三人が固まった。…回答を間違えたな。よく食べるんだよね、みたいなことを言えばよかった。
「…鈴ちゃん、あーん」
「ん」
菊池君が有無を言わさぬ様子でポテトを差し出してきたので、大人しく食べさせてもらった。さっきは遠藤君が食べちゃったけど、今度はちゃんと私の口に入った。うん、美味しい。塩気と油がすごいけど、病み付きになりそう。
久しぶりに食べたポテトは美味しい。ふと、右前に座っている新村君がソワソワしていることに気づいた。
「どうしたの、新村君」
「……鈴、ラーメンは好きか」
「うん、豚骨とか美味しいよね」
「こ、これ、…食うか?」
おずおずと、新村君が申し出てくる。フードコートに久しぶりに来たと言ったし、皆気を使ってくれている。…まあ下心があったとしても、楽しいので問題無い。
「フッ、新村原始人みたいだな」
「ホモ・ニイムラ」
「「「あははははは!!」」」
「いたいた、ゴリラみたいなやつな!」
「…………うるさい」
新村君と私を除く三人が大笑いする。からかわれた新村君は不機嫌になってしまった。龍牙達、それもしかしてホモ・サピエンスのこと?
「うん、食べたいな。くれるの?」
「……あ、ぁ…あ……ん…」
恐る恐る新村君が箸を差し出してくる。その箸は麺を掴んでいる。もしかして、新村君もあーんってしたいのか。でも麺はキツくないか。多分汁がぽたぽた垂れてしまう。まあでもやりたそうだしなあ。
そんな私たちに、遠藤君が話しかけてきた。
「おいおい新村、麺であーんは無理があるだろ。さきちゃん、はい!」
「…遠藤ッ……!!!」
私の口に入ってきたのは麺じゃなかった。遠藤君が私の口に何か入れたからだ。これは…お肉?
「チャーシューだよ。美味しい?さきちゃん」
「ん…ん!……美味しい!」
きちんと飲み込み、口の中を空にしてから感想を言う。遠藤君がそれを聞いて、嬉しそうな顔をした。隣の新村君は恐ろしい顔をしている。でも遠藤君は意に介さず、といった様子だ。遠藤君、何だか龍牙みたいだな。いたずらっ子みたいに無邪気に笑うところなんか、特に似ている。
「新村君、もやし頂戴?」
「!……ああ、…ほ、欲しいなら、ほら…あ、…ぁ、………あーん」
「ありがと、ん…」
麺だと少し食べづらいので、適当な具を言うと、新村君は私に差し出してくれた。シャキシャキしてて美味しい。新村君もいつもの無表情に戻った。新村君、無口だし、クリミツに似てるかも…?
「おい鈴、そろそろ食えよ。冷めるぞ」
「あ、そうだね。ありがと皆!…いただきます」
龍牙に言われ、座り直した。
ネギの沢山乗ったうどんを口に入れる。温かくて美味しいなあ。
菊池君は食べ終わったみたいで、さっきの仕返しなのか、遠藤君から箸を取り上げて何口か食べている。新村君もそれに習い、横から遠藤君のチャーシューを食べている。遠藤君は悲鳴をあげていた。遠藤君、お肉好きなんだな。龍牙はそれを見て、食べながら爆笑している。皆お行事が悪いなあ。
でも、家で一人きりで食べるご飯なんかより、ずっとずっと楽しい。
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