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黒の帳 『一つ目の帳』
頼る恐怖
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「すずぅううううっ!!!」
「…心配したぞ、鈴。怪我は無いか」
二人の親友が屋上で私を待っていてくれた。龍牙はわあわあと騒ぎ、クリミツは冷静に私の具合を尋ねる。二人は私が連れ去られたことを知っていたのだろうか。よく分からなくて、紅陵さんを見ると、説明してくれた。
「…ああそうそう、二人に連絡したんだよ。クロちゃんが絡まれたから、助けに行く、屋上で待っててねって」
「裏番が場所教えねえからさ、裏番なら大丈夫なのに龍牙がずっとうるさ」
「すずっ!すず、大丈夫か?大丈夫なのか?なぐられたりとか、け、けられたりとかぁ」
紅陵さんが呆れたように笑いながら私を降ろした。すぐさま龍牙が私に駆け寄り、怪我が無いかと体を確認する。余りにも必死な様子に見ていられなくなった私は、龍牙の肩をがっしりと掴み、視線を合わせた。
龍牙は悪くない。
悪いのは私でも、彼らでもない。
私の運が、最悪だっただけだ。
どちらの階段を上がるかなんていう些細な二択を間違えてしまっただけ。
龍牙に罪悪感を与えないように、顔は前髪で見えないから、せめて口元だけでもと渾身の力を込めて笑顔を浮かべる。
「龍牙」
「なに…、つーか、ごめん、俺がトイレ行ったからぁ…」
「……心配してくれて、ありがとう。でも私は大丈夫だよっ、全然平気!」
龍牙の不安そうな顔が、突然怪訝な顔に変わった。後ろのクリミツも、私の言葉を聞いて、眉間に皺を寄せる。二人が私ではなく紅陵さんに顔を向けた。
「…紅陵先輩」「裏番」
「ガチ泣きだった。本当に怖がってたぞ」
「紅陵さん!?」
紅陵さんがあっさり事実をバラしてしまった。大丈夫だったら泣かないだろう。怖かったし、まだ口にあの感覚が残っている。でも、それを言って何になるだろう。龍牙達を困らせてしまうだけだ。だって、そんなこと言われたって、どうしたらいいか分からないだろう。
元々、こんな顔だから、仕方ないんだ。私が勝手に面倒事に巻き込まれているだけ。それを態々、龍牙のように心配してくれたり、クリミツのように気にかけてくれたり、はたまた、紅陵さんのように助けてくれたり。そんな人は居るだけで、充分だ、それ以上はいいのに。
そんな人は貴重なんだから。
中学の時だって、クリミツ以外にもう頼れる人は居なかったし、作れなかった。そんな中クリミツにも突き放され、私は心身共に限界がきていた。ところが、高校に上がると、龍牙は帰って来たし、クリミツは元に戻ったし、紅陵さんや黒宮君という新しい友人が出来た。
一気にこんな幸せが訪れたのだから、調子に乗ってはいけない。新しい環境が与えてくれたものを一つ一つ数えて、失わないように努力しなきゃいけない。
だから、これ以上頼ったり、弱音を吐くのはいけないという判断だったのに、紅陵さんは呆気なく話してしまった。
「な、何で言っちゃうんですか。隠そうとしてたの、分かってましたよね?」
「隠すことじゃないだろ?ダチが心配してんだ、素直に甘えろよ」
「鈴、お前また…はぁ、たまにあるよな。そうやって俺らに隠すとこ。言う時もあんのに…何でだよ、なあ」
「……俺もそう思う。辛そうな声で大丈夫とか言われると、寂しい」
皆に一斉に責められた。私は、また、何か間違えただろうか。皆がジト目で私を見つめてくる。
どうしよう。
私が意地を張って強がったから、呆れられているのだろうか。弱いくせに、強がるなと。
私、だって、頑張れるのに。
でも、私の肩が、腰が、口が、あの恐怖の時間を覚えている。
私は、頑張りたい、いや、頑張らなきゃいけない。
何もしなければ、何も出来なければ、
失ってしまうから。
名前も顔も知らない両親。
彼らは、今、どうしているのだろうか。
『紫川鈴を よろしくお願いします』
何も出来ない、幼い私。
私に添えられた、か細い字が綴られた置き手紙。
…嫌だ。
何か、しなきゃ。
何も出来なかったら置いていかれる。
置いていかれるのはもうごめんだ。
ああそうだ。何考え事してるんだ、私。
皆に何か言わなきゃ、謝らなきゃ、意地張ってごめんなさいって、それから、甘えて…あれ、甘えるってどうしたらいいんだっけ、私は
「鈴、大丈夫か?」
トントンと肩を叩かれていることに気づき、驚いて顔を上げれば三人が心配そうに私を見ていた。龍牙は、クリミツと紅陵さんに喋らないようにと手で合図すると、私を抱きしめた。
ゆったりと私の体重を支えてくれるからか、安心感が生まれ、意識がぼんやりしてきた。散々泣いたから、疲れてしまったんだろうか。
「…ごめん。皆で、一気に喋ったから、混乱したんだな。大丈夫、大丈夫…だから」
背中を優しくさすりながら、意識が少し混濁している私にも分かるように、ゆっくりと一語ずつ言葉を発してくれる。
待って、そんなに、落ち着かされると、
「…鈴、ゆっくり、ゆっくりだ。サンミオの、シナノンちゃんは、まだ好きだろ?」
「…うん、すきぃ」
「だから、今日は、帰りに………鈴、鈴ー?」
「…寝た?」
眠りに落ちた私には、龍牙の声が聞こえていなかった。
「…心配したぞ、鈴。怪我は無いか」
二人の親友が屋上で私を待っていてくれた。龍牙はわあわあと騒ぎ、クリミツは冷静に私の具合を尋ねる。二人は私が連れ去られたことを知っていたのだろうか。よく分からなくて、紅陵さんを見ると、説明してくれた。
「…ああそうそう、二人に連絡したんだよ。クロちゃんが絡まれたから、助けに行く、屋上で待っててねって」
「裏番が場所教えねえからさ、裏番なら大丈夫なのに龍牙がずっとうるさ」
「すずっ!すず、大丈夫か?大丈夫なのか?なぐられたりとか、け、けられたりとかぁ」
紅陵さんが呆れたように笑いながら私を降ろした。すぐさま龍牙が私に駆け寄り、怪我が無いかと体を確認する。余りにも必死な様子に見ていられなくなった私は、龍牙の肩をがっしりと掴み、視線を合わせた。
龍牙は悪くない。
悪いのは私でも、彼らでもない。
私の運が、最悪だっただけだ。
どちらの階段を上がるかなんていう些細な二択を間違えてしまっただけ。
龍牙に罪悪感を与えないように、顔は前髪で見えないから、せめて口元だけでもと渾身の力を込めて笑顔を浮かべる。
「龍牙」
「なに…、つーか、ごめん、俺がトイレ行ったからぁ…」
「……心配してくれて、ありがとう。でも私は大丈夫だよっ、全然平気!」
龍牙の不安そうな顔が、突然怪訝な顔に変わった。後ろのクリミツも、私の言葉を聞いて、眉間に皺を寄せる。二人が私ではなく紅陵さんに顔を向けた。
「…紅陵先輩」「裏番」
「ガチ泣きだった。本当に怖がってたぞ」
「紅陵さん!?」
紅陵さんがあっさり事実をバラしてしまった。大丈夫だったら泣かないだろう。怖かったし、まだ口にあの感覚が残っている。でも、それを言って何になるだろう。龍牙達を困らせてしまうだけだ。だって、そんなこと言われたって、どうしたらいいか分からないだろう。
元々、こんな顔だから、仕方ないんだ。私が勝手に面倒事に巻き込まれているだけ。それを態々、龍牙のように心配してくれたり、クリミツのように気にかけてくれたり、はたまた、紅陵さんのように助けてくれたり。そんな人は居るだけで、充分だ、それ以上はいいのに。
そんな人は貴重なんだから。
中学の時だって、クリミツ以外にもう頼れる人は居なかったし、作れなかった。そんな中クリミツにも突き放され、私は心身共に限界がきていた。ところが、高校に上がると、龍牙は帰って来たし、クリミツは元に戻ったし、紅陵さんや黒宮君という新しい友人が出来た。
一気にこんな幸せが訪れたのだから、調子に乗ってはいけない。新しい環境が与えてくれたものを一つ一つ数えて、失わないように努力しなきゃいけない。
だから、これ以上頼ったり、弱音を吐くのはいけないという判断だったのに、紅陵さんは呆気なく話してしまった。
「な、何で言っちゃうんですか。隠そうとしてたの、分かってましたよね?」
「隠すことじゃないだろ?ダチが心配してんだ、素直に甘えろよ」
「鈴、お前また…はぁ、たまにあるよな。そうやって俺らに隠すとこ。言う時もあんのに…何でだよ、なあ」
「……俺もそう思う。辛そうな声で大丈夫とか言われると、寂しい」
皆に一斉に責められた。私は、また、何か間違えただろうか。皆がジト目で私を見つめてくる。
どうしよう。
私が意地を張って強がったから、呆れられているのだろうか。弱いくせに、強がるなと。
私、だって、頑張れるのに。
でも、私の肩が、腰が、口が、あの恐怖の時間を覚えている。
私は、頑張りたい、いや、頑張らなきゃいけない。
何もしなければ、何も出来なければ、
失ってしまうから。
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…嫌だ。
何か、しなきゃ。
何も出来なかったら置いていかれる。
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ああそうだ。何考え事してるんだ、私。
皆に何か言わなきゃ、謝らなきゃ、意地張ってごめんなさいって、それから、甘えて…あれ、甘えるってどうしたらいいんだっけ、私は
「鈴、大丈夫か?」
トントンと肩を叩かれていることに気づき、驚いて顔を上げれば三人が心配そうに私を見ていた。龍牙は、クリミツと紅陵さんに喋らないようにと手で合図すると、私を抱きしめた。
ゆったりと私の体重を支えてくれるからか、安心感が生まれ、意識がぼんやりしてきた。散々泣いたから、疲れてしまったんだろうか。
「…ごめん。皆で、一気に喋ったから、混乱したんだな。大丈夫、大丈夫…だから」
背中を優しくさすりながら、意識が少し混濁している私にも分かるように、ゆっくりと一語ずつ言葉を発してくれる。
待って、そんなに、落ち着かされると、
「…鈴、ゆっくり、ゆっくりだ。サンミオの、シナノンちゃんは、まだ好きだろ?」
「…うん、すきぃ」
「だから、今日は、帰りに………鈴、鈴ー?」
「…寝た?」
眠りに落ちた私には、龍牙の声が聞こえていなかった。
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