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だっていやだったの!

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 クローディアは風呂に入りながらひとり、悩んでいた。

 ある日突然夫のランドリューがよそよそしくなり、夫婦の営みもなくなってしまってから、色々なことを考えた。

 先に嫁いでいた姉や妹にも手紙でそれとなく相談をしたりして。
 そうして返ってきた答えは『女といえど受け身のままではダメ!』というものだった。

 恐ろしい企みで街を危機に陥れたフィーリス教の法師を名乗る男も、その点については姉妹たちと同じ意見で、クローディアは彼から教えられたマッサージをランドリューに施してみたこともある。
 それはしかし、途中でランドリューが気分を害し出て行く結果も招いたのだが――。

「このままじゃ、また変な妄想にばかりかまけて私のことを忘れてしまいそうなのよね……」

 つい先日も、クローディアにとっては騎士団時代の上官であり、ランドリューにとっては同僚かつ友人であるグイードとのあらぬ妄想をされたばかりだ。

 夫婦生活がまともに戻れば、あの奇妙な妄想はなくなるものだとばかり思っていたが、どうもそうではないらしい。

「バカな妄想なんかしていられないくらい、身も心も虜にしなくちゃ」

 クローディアは静かに決意した。

――

「貴方、お帰りなさい!」

 この日、領地の端まで視察に出ていたランドリューは三日ぶりの帰宅であった。 

「あぁ、ただいま。クローディア」

 いつも通り執事のルーグが外套と杖を恭しく受け取り一礼して下がったのと入れ替わりに、クローディアは急ぎ足で出迎えた。ランドリューが常の険しい表情を穏やかに緩めてほほ笑む。ランドリューとクローディアの関係は、すっかり元に戻っていた。

 夫の微笑みに、クローディアは知らずほっと安堵の息を吐く。

「貴方、今日は……もう、お疲れですか?」

 躊躇いがちに尋ねるクローディアに、ランドリューは一瞬狼狽えたように見える。少しの間があった。

「あ、いや……うむ」

 それはなんとも煮え切らない答えだった。
 ランドリューはこの冬で四十になる壮年の男だ。広い領地を横断する旅路は、若いとはいえない体には酷だろう。

 クローディアは、ランドリューのシャツの袖先を摘んで見上げた。そうすると夫がますます狼狽えるのを知っている。

「く、クローディア……!?」
「貴方。お疲れでしょう? 貴方は、何もなさらなくて良いから……」

 ランドリューの指先に指を絡めて、クローディアはじっと見つめる。
 耐えかねたように視線を逸らしながら、ランドリューは。

「わ、わかった……湯浴みを、してから……」

 消え入るような声で答えた。

――

 湯を浴び、寝巻きにガウンを羽織ってランドリューが寝室に訪れたのは、日付けも変わろうという頃だった。

 しっとりと濡れた白橡色の髪を首の後ろで一つに纏めたいつもの姿。まだ少し石鹸の香りがする。

「随分と遅かったこと。もしかして、まだお仕事が?」
「今日のうちに、視察の結果と資料を纏めておいてしまいたかったのでな。待たせてしまったか……?」

 眠いか、と気遣うような眼差しを向けてくるランドリューに、クローディアはにっこりと笑った。

「いいえ、私は平気。それより、いらして」

 ランドリューの手を取り、ベッドへと促した。

「クローディア」

 戸惑いと躊躇いを見せるランドリューの様子に、クローディアはその手を顔の高さまで持ち上げ、指先に口付けして手のひらに頬をすりと寄せた。 

「貴方の疲れを、癒やして差し上げたいの。ランドリュー様、今夜は……このクローディアに全て任せてくださいませんか?」

 上目遣いに見つめる。それだけで、ランドリューは言葉を失ってしまうのをクローディアはわかっていた。
 そして、その沈黙が肯定であることも。
 



 下履きのみの姿でランドリューはベッドにうつ伏せになっていた。
 クローディアの手がランドリューの背中を指圧し、腰を押し、凝り固まった体をほぐすように撫でていく。
 いつかランドリューに施したマッサージと同じく。

「貴方、どう?」
「ん……ぅ、ぁあ、あぁ、気持ちいいよ」

 身体をほぐされ、すっかりリラックスした様子でランドリューは枕に半ば顔を埋めて答えた。目蓋は半分落ちかけて、微睡みに誘われているように見える。

 クローディアは微笑んで、うとうとするランドリューの耳に口付けを落とした。

「良かった……もっと、気持ちよくしてあげますね。今度は、怒って出て行っては嫌よ」
「っ……クローディア!?」

 耳元で囁くクローディアの言葉に、何か嫌な予感でもしたかのようにランドリューが身を起こそうとする。その上に乗り上げたまま、クローディアは宥めるように肩を揉み解した。

「私に任せてくださるのでしょう? 貴方」
「ぐぬ……。しかし、もうマッサージは、十分では」
「ダメ。いいから任せて!」

 問答に飽きたのか、短気を起こしたようにクローディアは有無を言わさぬ勢いで言い切った。ランドリューは困惑しつつも、しかし強く拒否する理由も思い付かなかったようで頷いた。

 諦観とも見えるその様子に満足して、クローディアは場所をずれ、うつ伏せのランドリューの足の間に身を捩じ込んだ。

 以前は下履きを引きずり下ろそうとしたところでランドリューが突然怒りだし、出て行ってしまったのだ。その理由はクローディアにも今はわかってはいる。

(私があの法師様もどきに淫らに弄ばれている、なんて……そんなこと考えて)

 ランドリューの妄想の日記の内容は全て読んだ。思い出すと奇妙な苛立ちにカッと身の内から燻る心地がする。

「もうっ、あんなこと! あんなことを!」

 怒りやら羞恥やらよくわからない感情に突き動かされ、パチンパチン! と剥き出しにしたランドリューの尻を叩いて鬱憤を晴らす。

「く、クローディア!? な、なんだ、何を突然怒って……!?」
「貴方のバカな妄想を思い出してしまったの!」

 そう言われてしまえば、ランドリューには負い目しかなく黙り込むしかできなかった。

 ふん、と鼻息を荒くしていたクローディアは、やがて落ち着くとペチペチと叩いた尻をやわやわと撫でる。それから手を伸ばし、ベッドサイドの引き出しを開けた。



 ピチャ、とオイルを手に垂らし手のひらで人肌に温めて、肌に刷り込むようにまたランドリューの腰を撫でていく。

「ぅ、こ、この香りは」
「ローリスはとんだ食わせ者でしたけれど、オイルに罪はないでしょう。香りは良いし、マッサージにも効果があるのは確かなのだから」

 難色を示すランドリューにそう言いながら、クローディアはオイルをたっぷりと垂らしてランドリューの肌に何重にも刷り込んだ。

「うっ、ぅうっ」

 擽ったいのか、ほぐれていく気持ちよさなのか、微かに漏れ聞こえる。
 クローディアは、オイルの入った瓶を逆さにして、ボトボトとランドリューの腰から尻までを浸すようにこぼしていく。

「っ……!」
「冷たかったですか、貴方。ごめんなさい、ちょっと出しすぎちゃった。……いっぱいこぼれて」

 クローディアはそう言いながら、ぐい、とランドリューの尻を左右に割り開いた。こぼれていくオイルがみぞを伝って下腹をすっかり濡らしている。

「ぁ、く、クローディア!? な、何をしている、そのような」
「あら、何だなんて。オイルですっかり濡れてしまったから、綺麗に拭いて差し上げたいのよ。なんにも、おかしなことなんてないでしょう? 貴方」

 クローディアの指が溝を伝ってオイルを掬い取りながら、閉ざされた穴の縁をなぞっていく。

 ランドリューの腰にゾッと鳥肌がたち、びくりと跳ねるのがわかった。

「そうだわ、思い出した! あの悪魔、貴方のここにも手を出していたわね!」
「は、なに……ま、待ちなさい! ちょ、ちょっと触られたくらいで、それ以上のことは……!」

 無かった、というランドリューに、クローディアの心がスッと冷えた。
 オイルに濡れた指で、にゅるにゅると窄まりを執拗に撫でる。

「く、クローディア!? 聞いているのか!? も、もう良い、マッサージは終わ――」

 慌てて身を起こそうと身体を浮かせたランドリューは、そこでヒュッと息を呑んだ。
 クローディアの指が、ずぷ、と穴の中に入り込んだせいだった。

「あっ」
「ぁあっ……く、ぁ、くろ、ぉ」
「や、やだ、そんな簡単に入っちゃうなんて! 貴方が突然動くから。でももっとここはゆっくりほぐさなきゃダメって聞いてたのに。貴方、実はこっちもご自分で!?」

 動揺のためか、捲し立てるクローディアに、ランドリューはふるふると首を小刻みに振った。

「ば、莫迦な……。そ、そのよう、な、真似っ、するわけ、な、ぁあ、は、はやく抜きなさいっ!」

 不名誉な疑いを向けられることの羞恥と悔しさを、いま身を持ってわからされたランドリューは、深呼吸をしながら言った。
 しかし、クローディアの指は、クチュ、とオイルを纏いながら更に穴を広げるように蠢いた。

「ぅ、あっ――!」

 ランドリューの腰からふいに力が抜け、がくりと身体がベッドに沈む。
 クローディアの細い指が、穴の縁をなぞりながらゆっくりと弧を描くようにして、更なる奥へと進められた。

「く、クローディア。クローディアっ! もう、や、やめ、っ」
「ダメ。あのおぞましい悪魔に汚されたところは、全部私が上塗りして消毒するって決めたのよ。それに……貴方も妄想で私の穴を好きにしたでしょう」

 正確にはランドリューの妄想の中の法師が、であったが。

「な、なにを……ぁ、クローディア! い、言った、ろう。そ、なか、なかには」

 悪魔の触腕は、確かにランドリューの穴をなぞりはした。あのままなら貫かれ、どうなっていたかはわからない。だが、そうなる寸前、誰あろうクローディア自身が助けに来たのだ。

 言ってしまえば間違いなく純潔であるともいえた。

 しかし、クローディアはランドリューの言葉に構うことなく、オイル瓶を逆さにして更に垂らすと、ぐにゅぐにゅとほぐしながら内壁を擦る。その指は、まるで何かを探すような動きで、くん、と軽く中で曲げられた。

「――ッぁあ!!」

 その時。
 一際高い声がランドリューの喉からこぼれ、びくんと腰が跳ねた。

「あ、やった! ここ? ここよね? ここが良いところね?」
「っっ、く、くろ、ぁっ、や、ぁあっ!」

 クローディアの弾んだ声と、ランドリューの焦ったような声は実に対照的だった。
 クローディアは探り当てたソコを嬉々として執拗に責め、グチュ、グチュ、と擦るように指を小刻みに動かす。

「ひっ、んンっぁっ、ぁあっ、っぁ、ゃ、ぁ、くぉ、で、ぁ……っ」

 ランドリューは枕に顔を埋め、堪えようのない声が漏れるのを必死に抑え込もうとしながら、無意識にか腰を高く上げて揺れる。

 中心で反り返るそれは硬く高まり腹に先端をつけながら、ダラダラと透明な汁を溢れさせている。

「すごい、貴方。こんなにずっとお汁が……気持ちいい?」

 クローディアは素直に感心したような声でそう言うと、もう一方の手で反り返る昂りの裏筋をツと撫でていった。

「――っんああっ、ぁ、はっ、ぅあ!」

 敏感な箇所をなぞられ、なお中を好き勝手に弄ばれて、ランドリューの口から漏れる声は切なげなものに変わっていた。

 びくんびくん、と微弱な電流でも流れているかのように小刻みに震えるその様子に、クローディアは愛おしげに張り詰めた膨らみに口付けした。

「く、くろ、で、ぁ……ぁっ、ンっんぅ! た、たのむ! ァっん! お、おねがいだ……も、もう、ゆるし……んんっ」

 ほぐされた後ろは、オイルでグチュグチュとよく滑り、このままなら二本三本とクローディアの指を受け入れてしまえそうなほど、いまやすっかり蕩けきっていた。

 ランドリューの声音は、快楽と恥辱とで染め上げられ、泣き言めいた懇願となってこぼれた。

「くろーであ……も、ぁあ、おねがいだ……」
「貴方……そんな声で言われたら、なんだか……ひどいことしてるみたいじゃない」

 クローディアが困ったように言って、ゆっくりとその指を引き抜いていく。
 キュウと穴が一瞬きつく締め付け、出て行くそれを惜しむようでもあった。

「あっ! は、は、はぁ、あ……!」

 ずる、と引き抜いたあとも、まだ名残惜しげにひくつくその穴に、クローディアはやはり愛しそうに口付けする。

「ふっ……ぅ、く、クローディア、き、君は、なにを……」

 考えているのだ、と。羞恥なのか怒りなのか顔を真っ赤にしながら、ランドリューはおもむろに身を起こしクローディアに向き直った。その眼差しは常よりなおきつく険しい。

「あ、貴方……そんな、怖い顔、しないで……きゃあっ」

 宥めるような、誤魔化すような笑みを浮かべるクローディアを、ランドリューの腕が捉えて引き倒し、形勢は逆転する。

「クローディア……」

 低い声で呼ばれる名に、クローディアはぞくりと粟立つ思いがした。

「だ、だって……。い、いやだったの。私以外の誰かが、貴方に触れて、それをそのままにするのも。それに、夫婦の営みはマンネリがよくないって」
「……。クローディア」

 ランドリューの声はまたもや低い。どんな感情か、そこから汲み取ることは難しく。

「ひゃ、ぁんっ」

 ランドリューはクローディアを組み敷いたまま、ナイトドレスの裾から手を入れると、下着を剥ぎ取り強引とも言える手つきでクローディアの秘所を暴き立てた。

 すでにしっとりと濡れたそこに、指が触れ、グチュグチュと擦り立てながら激しい水音を立てる。

「あっ、ンンっ、ゃあ、んっ! ゃ、あ、あなた……ら、らんどりゆ……ぁっ」
 いつもより性急で乱暴とも言える指に、しかしクローディアは堪らず脚を開いた。
「ら、らんどりゅ、さま……」
「クローディアっ」

 ランドリューもとっくに限界だったのだろう、昂る怒張をぐちゅりと押し付けると、そのままずぷっと中に押し込む。

「あっん――!」

 クローディアの体が弓なりに反り、びくりと跳ねた。ランドリューはその体に両腕とも回し、華奢な腰を強く抱きしめて奥深くまで穿つ。

 クローディアの息の整うのを待つこともせず、腰を揺すってパンパチュンパンッと肌を打ち合わせた。

「あっぁっらんどりぅさまっ……らんっ」
「クローディアっ」

 ランドリューが齧り付くようにクローディアの口を塞ぐ。
 クローディアの体がビクンッとまた一際大きく震え、爪先がピンと伸びる。
 ランドリューはその身体を強く抱きしめて、背を丸め、低く呻くように戦慄いた。

――

「クローディア……どこで、あのような知識を」

 ランドリューの腕の中、乱れた呼吸をゆっくりと整えながら、クローディアは汗に濡れる夫の細身にぎゅっと抱きついた。

「それは……レディには、レディの嗜みというものが……」

 ランドリューは眉を顰めた。

「性の探求が、殿方ばかりの専売特許だなんて思わないでくださいな。女だって色々考えているんです……! ……はしたないクローディアでも良いって、言ったじゃない」

 渋面で押し黙るランドリューの表情に、クローディアは泣き出しそうな気持ちになった。それに気付いたのか、慌てたそぶりでランドリューの手がクローディアの頭を撫でていく。

「い、言ったが! 言った、が。ま、まさか、あのようなことまで……」
「ごめんなさい……お嫌でした? 本当にお嫌だったのなら、金輪際二度とは致しませんから……」

 許してくださる? とランドリューを見上げるクローディアの瞳に、どこか狼狽えたような顔が見える。

「貴方……?」
「あ、う、いや。そ、そう、金輪際……あのよう、な……」

 クローディアは、じっと、泳ぎ出した鳶色の瞳を見つめ、視線を合わせるように首筋に腕を絡めて抱きしめた。

「お嫌では、なかった?」

 ランドリューは沈黙で答えた。
 クローディアは、啄むような口付けを渋面に曲がるランドリューの口にすると。

「貴方の、したいこと、して欲しいこと、なんでも叶えてあげたいの。……ねえ、まだ」

 クローディアは甘えるように上目遣いに見上げながら、下腹を押し付けるように擦り寄った。

「熱いの。貴方を、もっといっぱい、欲しい……ダメ?」
「……! く、っ、クローディア」

 再び高まる確かな熱。ランドリューの昂りがクローディアをぐりと割り開いていく。

「んっ……!」
「クローディアっ……」

 高められた官能は、もうしばらく冷める気配はなさそうだった。
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