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それから

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 まだ夜も明け切らぬころ。
 ニザの街のただひとつの教会に暮らす司祭ヘルムート・クローヴェルは目を覚ます。

 ぎし、と寝台を軋ませて身を起こす彼の顔は、血色の悪い蒼白。痩せこけてやつれた頬に目の周りを黒々と縁取る濃い隈。もともと不健康そうだったその顔は、ここ数日でますます状態を悪い方に加速させているようだった。

「ぅっ……!」

 起き抜けに、頭痛を堪えるようにその手をこめかみに持ち上げ、クローヴェルは低く呻く。身じろぎ腰を上げようとすれば、ジワリと股の間から垂れ落ちる白いモノ……。

「は……ぁ……お、おのれ……あ、悪魔、め……」

 一層低く苦悶の呻きが喉から絞り出される。 

 “契約”を交わしたあの日から、クローヴェルは夜ごと日ごと休む間もなく悪魔にその身を蹂躙されていた。

 嫌らしく鼓膜を揺さぶるねっとりとした声音でクローヴェルを揶揄し、愚弄し、あざ笑いながら何度も何度も、悪魔は彼を犯した。 

 長くざらついた舌で耳を舐めその穴を擽り、鋭い爪の伸びた指先がクローヴェルの薄い胸板の先を飾る小さな実を抓んではねじり、甚振り、潰して弄んだ。

 硬く雄々しい剛直をしゃぶらされながら、悪魔の爪先は愉しそうにクローヴェルの股間を踏みつけ、その指の間で硬く勃ち上がるモノを擦って嗤った。

 そうして無理矢理に教え込まれ、開かされた体は、悪魔の逞しいイチモツを咥え込むこともすっかり馴らされつつある。

 昨夜。
 四つん這いで高く尻を突き上げた恥ずかしい姿で貫かれながら、何度となく尻を叩かれその刺激で繰り返し果てた。堪えようにも堪えきれない声で喉は嗄れ、抑えられない生理的な涙が頬を伝って流れるのを拭うこともできずに。

 その結果が今だ。

 とろとろと太股を伝う悪魔の残滓に、クローヴェルは苦々しく顔を顰めて身を清めにいく。ここ最近は、すっかり朝の水浴びが日課になっていた。

◆◆◆

「やぁや、今日もお早いですなァ、司祭様」
「……! き、貴様、なんの用だ……!」

 ザパ、と冷たい水を浴びて念入りに身を清めるクローヴェルの元に、ノックもせずに入ってきたのは、人の姿に化けた悪魔だった。

 クローヴェルは狼狽え、警戒して水桶を構えた。その姿が滑稽と映ったのか、彫りの深い甘い顔立ちの男の顔で、悪魔は笑うように肩を揺らす。

「なぁに、朝起きて助祭が司祭様にご挨拶に伺うのは、なぁんにも……おかしくなどありますまい? ……寝汗でもかかれましたか司祭様。そんなに念入りに身をお清めになられて……なんでしたらァ……お手伝い、して差し上げようかァ?」

 ニヤニヤと笑いながら紡がれる言葉は慇懃無礼そのもので、クローヴェルは至極不愉快そうに顔を歪ませた。

「で、出て行け……。朝起きて身を清めるのは、ただの日課だ。神と信徒の前に出るのに、それは当然のこと……」

 質素な浴室には湯船などもなく、水浴び用の水瓶と桶があるばかり。それゆえにとても狭い。痩せているとはいえかなりの上背のあるクローヴェルと、それより少しばかり低いとはいえ代わりに筋骨逞しい体つきの人に化けた悪魔ふたりでは、かなり狭苦しいのが実情だ。

 クローヴェルは早く出て行けと言うようにしっしっと手を払う。せめて水浴びくらいは心穏やかに終えたいという本音もそこにはあった。

(いつも遅くまで寝ているくせに……なぜ今日はこんなに早いんだ……この悪魔は……)

 助祭のふりをして教会に住み着いた悪魔は、しかし、昼近くまで惰眠を貪りいつもはちっとも起きてこないのだ。

 それは、クローヴェルにとって、朝から昼までの短い時間だけが安穏だということでもあった。それが今日は崩されたとあって、言い知れぬ不安が沸き起こる。

 虫でも払うような仕草で追い払われた悪魔はといえば、しかしクローヴェルのそんな言葉に従う気は欠片もないようだった。

 相変わらずニヤニヤと笑いながら、狭い浴室内にずいっと入っていく。そうして逞しい腕でクローヴェルの細い腰を掴むと、力強く引き寄せた。

「っう……な、なにを……! よせ、離せっ」

 滑る床の上でいきなり引き寄せられて、長い足を縺れさせるようにクローヴェルは悪魔の腕の中におさめられる。不服を全面に押し出しもがくその体は、だが悪魔の力に敵うべくもない。

「ククッ……なにをそう慌てておいでなのですか、司祭様。……ンン? ……なんのかんの言って、実は期待しているんじゃありませんか、私に犯されるのを……。えぇ? ここはまだまだ蕩けているようだ」

 悪魔の分厚い胸板を押し返そうと強張るクローヴェルの腕を掴みながら、ねっとりした低くざらついた声で悪魔は耳元に囁いた。

 腰に回したもう片方の手が、ぐちゅ、と昨夜散々犯して弄んだ孔に至り、節の目立つ四角張った指をずぷりと差し込む。

「んっぁあ……! ぁ、や、やめ……」

 すっかり馴らされきったそこは、クローヴェルの意思とは無関係に、その指に吸い付くように咥え込んで歓喜すらした。拒絶の声もどこか甘ったるくくぐもる。

「やめろって言う割には、こっちはもっともっとって私の指を悦んで咥えてくれるじゃありませんか……ねェ、司祭様……嘘はついちゃいけませんよ。もっと正直にならないと。子ども達にもそう教えているのでしょう? 嘘を、ついては、いけません……ってェ。ヒヒッ!」
「んっ、ふぁ……ぁ……ち、違うッ……う、嘘など、……は、ぁ……よせ、早く……その、指を……抜け……。わ、私には、勤めが……」

 悪魔の指がぐりぐりと中を抉るたび、クローヴェルの腰から力が抜けていく。自力で立っていられないほど蕩けて、悪魔の硬い腹筋にはクローヴェルのすっかり勃ち上がったモノが擦りつけられていた。それでも一向に、クローヴェルの口は拒絶を唱え続ける。

「……ほぉ。勤め、ねェ。……いやいや、確かに確かに。司祭様の大事なお勤めだ、疎かにする訳には参りませんな。……でも、嘘つきも感心できませんねェ」

 中を蠢く悪魔の指は、クローヴェルの良い所を的確に突いていく。

「んっ……ぁ、ぁ、ぁあっ……ふ」

 びくんと跳ねる細い腰を掴んで、悪魔は低く笑った。

「早くしないと、早起きの信徒が扉を叩き出しますよ。……ねェ、司祭様。ちゃんとお勤めできるように、私も協力致しますから……ねェ?」

 ずる、と指を引き抜きながら、悪魔は囁いた。

「んっ……ぁ! ……は、はぁ……は……」

 中を散々弄ぶ指が突然引き抜かれ、クローヴェルの腰がまたびくりと跳ねる。すっかり解れ開かれたその孔を、未だに悪魔の指が撫でながら。その手が尻全体を撫でさすり、そして。

「みものだねェ……いつまで、耐えられるか、よォ……」

 ククッと密やかに笑うと、再び悪魔のその手がクローヴェルの尻を割り開く。撫で回したその孔に、ぬちゅぅ……と押し込まれるモノ。

「……ッぅあ……! っあ、んぁあ! や、ゃ……はぁ、やめ……ぁ、なにを……!」

 ぐちゅぐちゅ、ぬちゅり、と。それは悪魔の可愛がる眷属の一匹。頭も尻もない蛭のような形をしたそれが、ぬめぬめと粘液を染み出させながらクローヴェルの孔の中に入り込んでいく。

 ぐにゅ、ぬちゅ、ぐりぐりぐり、と身をよじらせ体を震わせながら、狭く暗く熱い中を割り開き進んで、どこか居心地の良い寝床を探すかのようにうごうごと蠢く。

「ぁっ……あ、く……ぅあ……ゃ、ぁ……」

 圧迫感と、掻痒感と、さざ波のように伝わる止め処ない快感とにクローヴェルの体はますます力が抜け、くたりと悪魔の体に支えられる。その細い背を、悪魔の手のひらがするりと撫でた。それだけで、クローヴェルの口からは切なげな熱い吐息が漏れる。

「ほら、しっかり立ってください司祭様。そんなじゃァお勤めになりませんよォ……? それともなんです、今日はお勤めを休んで一日中私に犯され尽くしたい……って?」

 青白い顔がすっかり赤く上気するクローヴェルの顔を下から覗き込み、悪魔がニヤニヤと笑った。

 クローヴェルは、ギリ、と歯を食い縛り。

「は、早く、抜け……っ……なんの、つもり……」
「今日一日、それを入れたままお勤めに励むんだよ司祭様。……ちゃんと良い子に勤め上げたら、今夜は休ませてやる……俺に、犯されるのは御免なんだろ? ヒヒッ」

 ぞわり、と彫りの深い甘い顔立ちが歪み、黒く靄がかる邪悪な悪魔の顔が揺らめき浮かんだ。クローヴェルは悪魔のその言葉に呻き、苦々しげに臍を噛むと。

「……い、いまに、見ていろ……悪魔め……」

 新たな取引に、乗るしかないことに苦悶しながらもそう零すのだった。
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