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討ち取れ!

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 ――偉大なる光の神ルクスよ。
 ――慈愛深く世を照らし出すその光。
 ――遍く全てに降り注ぐ優しき癒しの燐光とならん。

「不死の王よ! 驕り高ぶる愚か者よ! いかに死を遠ざけ永遠を手に入れたと嘯いても、神は貴様を見逃してはくれんぞ! 今こそ貴様に、ルクスの光の鉄槌を!」

 私は、猛然と叫んだ。
 不死王の、ゾッとするような恐ろしい瞳が、ギラッと私を見る。

「――ほう。常に、勇者の影に隠れ、口ばかり達者の神官風情が。勇者亡き後は、神の威を借ろうてか。ふ、ふ。そう急くな、慌てるな。おまえもちゃんと……我の手駒にしてあげますよ」

 勇者が床に落ちて行く。
 不死王の意識が私に向く。
 血に濡れた、蜘蛛の脚のように広がり開いた肋骨は、まるで翼のようだ。
 これこそ、告死の御使そのもののよう。

 私は、ごくりと息を飲む。

「ふ、ふふん! 私には、光の神ルクスの加護がある! 貴様如きに、敬虔なる神のしもべたる私をどうこうできるわけ、なかろうが!」
「……。……ふ。おまえが、なんのつもりか知りませんが。良いでしょう。そのつまらぬ挑発に乗ってあげましょう。後悔するがいい、己の浅はかさを……」

 来た。
 不死王が。
 来――

 そう、思った時には。
 不死王の手が私の首を捉え、開かれたあぎとのような骨の鋭い先端がザクザクと私の体を貫いていく。

「が、ァ――!」

 息が止まる。
 ごぼりとせりあがるのが、胃液なのか血なのかもわからない。
 だが。

 ――神よ!
 ――遍く降り注ぎ給え、癒しの光を!

 私の祈りが、光を呼ぶ。
 聖印が強い光を放ちながら、宙を舞う。

 カッ――!

 眩くも優しい光が、不死王から広がって部屋を満たしていた闇を再び払っていく。
 その光は。

 ベルラに。マレフィアに。そして勇者に。
 降り注ぐ。

「……っち、なんの真似です?」

 不死王が、その光に不快そうに顔をしかめたのは見えた。
 そして。

「目覚めよ……強く正しき者たちよ……!」

 不死王が、ハッとしたように私の体から骨を引き抜く。

 あっ……これ抜けたらヤバいやつでは!?

 私の医療的知識と生存本能が働く。
 抜けそうな骨をがしりと両手で掴んで、ぐっと体を曲げたのだ。抜けないように!

「おまえ……」

 不死王の困惑気味の声。
 そして――

「うがぁぁぁぁあ――!!」

 響く。
 ベルラの、猛々しい怒りの雄叫び。

「絶え間なく降り注ぐ光よ、そのマナよ。汝の名は――“神の威光ルクスのひかり”」

 マレフィアの、伸びやかな凛とした詠唱が聴こえてくる。

「不死王ぉおおおお――!」

 勇者の、裂帛の気合いを込めた怒りの声が高らかに伸びる。

「なに……馬鹿な……なぜ、おまえたち……」
 
 起き上がる余力などなかったはず。
 と、不死王は驚いたことだろう。
 確かにそうだった。
 倒れ伏した勇者たちには、もはや、起き上がる余力など残ってはいなかった。

 しかし。

「“めっっっっった裂き”!!」

 ベルラの鋭い爪が、不死王の体に縦横無尽に走っていく。

 マレフィアの放った魔法は、鋭い閃光の矢となって不死王の体を射抜いた。

「……おまえたち……が、なにを……しようと……我の不死の身を滅ぼすことなどできはしません。無駄な足掻きを……」
「さぁ、どうかしらね……? あなたのアンデッドたちには、ルクスの光は効果絶大だったわよ?」

 マレフィアが、あの、いつも通りのいやみったらしく高慢ちきな声で言った。
 その言葉通りだった。

 不死王の体は、ベルラとマレフィアの攻撃を受けた所から、ボロボロと崩れていく。

「……なに……なんだ……これは……なぜ!?」

 その事実に、不死王は狼狽ているように見えた。
 不死王がいかにして不死たる身になったかはしれないが、そうなってからは久しく手傷を負うことそのものがなかったのかもしれない。

「不死王……!」

 勇者が、狼狽える不死王に、剣を振りかぶり飛び込んで行く。

「まさか……馬鹿な……そんなはずはない……おまえたち如きに……この我が……口先の神官如きの光に……我が……!?」

 不死王は失礼だった。
 私を口先の神官などと!

「レリジオさんは……確かにそういうところもある、けれど……でも……!」

 勇者が……

「信仰は……本物なんです……! 不死王……! レリジオさんが作ってくれたチャンス、逃しはしない! “闇を貫く光テネブラス・トライキエンス”!」

 ルクスフルーグが……

「ば……――」

 ドッ――!!

 と、不死王を貫く。
 そこからカッと光が弾け、不死王の体を。その身を取り巻く呪いを。闇を。一切合切打ち払っていく。

 眩しい、眩しい、光の爆発が……起こった。
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