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81話 戻ってきました!

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「エマ夫人、今の話は本当ですか?リュウが、その、古代竜の……。」

「ええ、本当よ。リュウちゃんは古代竜の『白龍パイロン』の子供よ。少し事情があって私とアンジュが預かっていたのだけど、貴方があの子をテイムしたのは予想外だったわ。まあ、落ち着いたら話そうと思っていたのだけど。」

朗らかに微笑みながら話すエマに、アレクは思わずため息をつきそうになるのをなんとか堪えた。
そんな重要な事は早く話してほしかった。

「こんな、おばさんが聖女のワケないじゃない!私が本物の聖女よ!!」

この期に及んでもクララはまだそんなことを喚いていた。

「あら?貴女が噂の聖女候補ちゃんね。……なるほど、確かにだけど光属性ではあるわね。だけど、で魔力を増幅させるのはいただけないわ。こんな事をしていたらすぐに死んでしまうわよ。」

エマはそう言ってクララの首に飾られている虹色の宝石を扇で軽くトントンと叩いた。

「死ぬってなによっ、これは私の力を十分に発揮できるお守りなんだって聞いたわ!」

「確かに、貴女の力を多く引き出すことができるわね。ただ、このの対価は持ち主の生命力よ。貴女が力を使えば使うほどその分、命が削られているってことよ。」

「嘘よ!!そんなことっ、ザカリー様は何も言っていなかったわ!!」

「それはそうよ。誰も命が削られると聞いてコレを使いたがる人なんていないでしょう?」

「そんな……。」

告げられた事実に動揺したのか、クララの瞳が揺れていた。

「団長!魔法陣が!!」

騎士の一人が魔法陣を指さしている。再び、魔法陣が光始めている。

「あら、随分早いわね。もしかしてパイロンも一緒なのかしら。皆さん、少しそこから離れた方がいいわ。」

「全員、魔法陣から離れろ!!」

エマの言葉を聞いたアレクは頷いて、騎士達に聞こえるように大声で指示を出した。

間もなくして光が強さを増したときに突如として魔法陣の中から一匹の巨大な白い竜が姿を現した。
胴体は蛇のように長く、飛び出したときは木々の遥か上まで上昇したがやがてその頭を地上にいるアレク達の所へと下ろした。

「アレクさまーっ!!」

「リアッ!!」

竜の頭の上にはなんと、リアが掴まっていた。驚きと共に嬉しさがこみ上げてきて思わずアレクはリアに向かって両手を広げた。ヴィクトリアもその意図に気づいて一瞬、顔を赤らめたがその後、すぐにアレクに向かって飛び降りた。そしてアレクはヴィクトリアを両手でしっかりと抱きとめた。

「心配したぞ。」

「ごめんなさい。」

アレクに強く抱きしめられて、ヴィクトリアもその背中に手を回した。



『ほう、これがお前のあるじなのか?』

「きゅうー!!」
(そうだよー!!)

すっかり二人の世界に入っていたアレクとヴィクトリアは古代竜とリュウの声で我に返って慌てて距離を取った。古代竜は興味深げにアレクを見下ろしていた。

『名はたしか、アレックスだったか?我はリュウの親であるパイロンじゃ。』

「パイロン様、お初にお目にかかります。アレックス・オースティンと申します。この度は、ヴィクトリアを助けていただきありがとうございます。何かお礼をさせてくださいませんか?」

アレクはそう言って、パイロンに向かって深々と頭を下げた。

『よいよい。たいしたことしておらぬわ。我が子がお世話になっていると聞いたのでな、この娘を送るついでにお主に挨拶に来ただけじゃ。』

「しかし、それでは私の気がすみません。何でもお申し付けください。」

『律儀な奴よのう。うむ、それだな…では、娘から聞いたのじゃが、お主が与える食べ物が旨いらしいな。それを我にも食べさせてもらえぬか。』

「きゅっ!きゅう、きゅうう!!」
(あれく、あれだよ、カンヅメ!!)

確かにリュウは魚の缶詰が大好物だが、生憎、今は持っていなかった。

「アレク様、缶詰なら持っていますわ。」

ヴィクトリアはそう言うと、魔法のアイテムボックスに手を入れると缶詰を取り出した。

「ヴィクトリア、助かった。ありがとう。」

「いえ、私もパイロン様に助けられましたから、本当ならもっと美味しいものを御馳走させていただきたかったですのけど。」

「きゅうう、きゅきゅきゅーい!」
(りあの、つくったごはんもおいしいんだよ!)

『ほう、それも気なるが、今はそのカンヅメとやらを食してみようか。』

パイロンは興味深げに大きな顔を寄せてヴィクトリアが手にもっている缶詰の匂いを嗅いでいる。

「きゅきゅ、きゅきゅきゅい、きゅいきゅいきゅう!」
(おかあさま、そのおおきさだったらすぐなくなっちゃうよ。ぼくくらいのおおきさになったほうがいっぱいたべられるよ!)

リュウがそうアドバイスすると、『うむ』と頷いてパイロンは巨大な体をみるみる縮めていき、普通の蛇くらいの大きさになった。

アレクは皿の代わりに使えそうな大きな葉の上に缶詰を開けて中身を出した。
最初は匂いを嗅いでいたがすぐに食べ始め、あっという間に平らげた。

『なかなか美味ではないか!もっとないのかえ?』

パイロンは舌をペロペロさせながら催促した。

「缶詰ならあと2つとそれからジャーキーが何本かあります。」

それも全部食べると満足したようだった。


「あらあら、随分と気に入られてようね。」

その声にヴィクトリアははっとして振り向くとそこにはエマがにこにこと微笑んでいた。

「エマ様!!ご無事だったのですね!!」

今まで古代竜に目が行っていて周りが見えてなかった。ヴィクトリアはエマに駆け寄り抱き着いた。

「私達はこの通り、ピンピンしているわよ。」

「ご無事で何よりです。馬車が崖の下から発見されたと聞いたときは心臓が止まるかと思いましたわ。」

「あらあら、心配させてしまったかしら。ごめんなさいね。少し姿を隠す必要があったものだから。」

「いいえ、皆様がご無事であれば何よりですわ。でも、御祖父様おじいさまがおられないようですが。」

エマとアンドリューはいるが一緒にいたはずのパトリックがいない事に気づいた。

「ああ、パトリック様は、御姉様と一緒にいるわよ。心配しないで。」

「そうだったのですね。よかった…。」

エマからそう聞いてヴィクトリアは胸をなでおろすのであった。






~~あの夜の裏側では~~


あの夜、エマ達は先に山で待機させていた荷馬車に乗り、入れ替わるようにセバスチャンは御者に変装して無人の馬車で山道を走らせた。その隙にエマ達は別のルートを使って領地へと戻っていった。


「セバスは大丈夫かしら?」

エマが心配そうに夫であるアンドリューに聞いた。

「あいつはそう簡単にやられはしないよ。」

アンドリューはセバスチャンに、表と裏の仕事を全て叩きこんできた。セバスチャンが失敗するようなことはしないと確信していた。

その頃、セバスチャンは矢に撃たれたをして谷底に落ちていくのをワザと暗殺者に見せた。そして谷に落ちる瞬間に隠し持っていた縄を使って木に掴まった。
雷雨によって視界や音が遮られているので見破られるようなことはない。

「やれやれ、人使いの荒い人達だよ。まったく。」

セバスチャンは相手の気配が無くなると崖をよじ登り、王都へと悠々と帰っていったのだった。


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