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閑話 とある少女の話(side:???)
しおりを挟むわたしには物心ついたころから父親という存在がいなかった。
お母さんは父親の話をしたがらなかったので生きているのか、死んでいるのかも知らない。
そしてお母さんは仕事ばかりしていて家にいることはほとんどなかった。お金だけは置いていくので食べ物にも困らなかったし、お願いしたら欲しい物はなんでも買ってもらえた。
だけど、家に一人でいるのは寂しかった。お母さんに居てほしいとお願いしたこともあるけど困ったような悲しい表情を浮かべたので、それからはそれも言えなくなった。そして、少しずつ人の顔を伺うようになりうまく立ち回れる術も覚えた。
「あなたは手がかからなくて本当によかったわ。」
母にある時、そう言われた。
『そういうふうに育てたのはお母さんなのに。』
そう言いたかったけど機嫌を損ねるのが恐くて母が好きないい子を演じ続けた。
そんな母と一緒に暮らしていくのが苦しくなって高校は実家から離れた所を選んだ。最初は一人暮らしを渋っていたけど有名な進学校だと言ったら、母は喜んですぐに許可してくれた。
高校にいったら何か変わるかと思ったけど、何も変わらなかった。相手の顔色を常に窺ってばかりの空虚のような日々。
『あの子と友達?んなわけねーじゃん!あの子の家、金持ちらしくてさー、遊びに行くときいつも奢ってもらえるから側においているだけだよ~。』
友達と思っていた子が裏でそう言われていても一人になるのが恐くて『友達』を続けた。そして上辺だけの『友達』が増えていく。
そんな時、『友達』の一人に勧められたのが乙女ゲームだった。話題作りの為に最初は仕方なく始めたのだが、すぐにはまってしまった。
ヒロインの女の子はいつもかっこいい男の子たちに囲まれてちやほやされていた。時には助けてもらい、時には悪役令嬢から守ってもらっていた。プレゼントをしてくれたり、愛を囁いてくれたり、いろんな男の子のルートを何週もしたし、グッズも買いあさった。いつしかそれが楽しみになっていった。
「あ、やっぱりネットの情報は当たっていたのね!次のヒーローは第一王子のアレックスか。絶対に買わなきゃ。」
学校帰りに買ってきた雑誌を隅々まで読み始める。一人暮らしのマンションの部屋の中はマジラバのポスターやグッズに埋め尽くされている。
“ピンポーン”
「あれ?宅配便くる予定だったかなあ?」
インターホンを出ると宅配業者の服を着ている男が立っていた。少し不思議に思いつつも、通販で買ったグッズの何かが早めに届いたのかもしれないと思って扉を開けるといきなりその男は扉をこじ開けて部屋に無理やり入って来た。
「騒ぐなよ。」
口を塞がれて、もう片方の手にはナイフみたいなものが握られていた。
「~~~っ。」
殺される!!恐怖でガクガクと体が震え出した。
私が大人しくしているからか男は少し手を緩める、今しかない。
「だ、誰かー!!たすけてっー!!!」
「あ、くそっ!!黙れよ!!!」
男の隙をついて大声を上げた。部屋の窓は開けているから外に誰かがいたら聞いてくれるかもしれない。そんなことを考えながらも逃げ出そうとして男ともみ合いになる。そしてとうとう男にのしかかられて首に手をかけられた。
「くっ…う、う。」
「黙れって言ってんだろ!!!」
顔を真っ赤にさせた男は私の首を強く締め続ける。
ああ、こんなところで私は死ぬのか。あのゲームみたいに都合よく助けてくれる人なんていない。
もし、もし生まれ変われたら……今度は…。
遠ざかる意識と共に私は目を閉じた。
そして、気が付くと私は見覚えのある学園の前に立っていた。
「うそ!ここって……。」
慌てて学校の中に入り、入り口の窓ガラスを除くとあのゲームのヒロインと全く容姿の女の子が立っていた。
「これってもしかして……。」
マジラバの世界に転生したってこと?
これってもしかして、不幸な私の為に神様が用意したプレゼントのかもしれない。
「すごい!」
多分、これはプロローグの入学式なのね。ゲームの内容はすべて入っているから問題ないわ。
ここはヒロインの為だけの世界。
今度は、絶対に幸せになってやる。
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