87 / 92
78話 甘く見られていたものだな(side:ロイ)
しおりを挟む「ところでロゼちゃん。どこまで行くのかな?」
人の居ない落ち着いた場所で話したいと言われ、彼女について歩いているが一向に足を止まる気配を見せない。ひたすら前を見て目的の場所に向かって歩いている彼女に話しかけてみた。
「もう少し、で、着きます。」
彼女はさっきからこの調子で歩き続けている。
まるで、何かに引き寄せられているかのように。
俺も彼女が案内する場所に興味があったのでそのままついて行くことにした。
「ここです。」
彼女の足がようやく止まった。そこは大きな邸の門の前だった。
「なるほど……。この邸の持ち主と知り合いなのかい?」
「…はい、ここで話を、したらいいと、言われ、ました。」
俺の質問にさっきとは打って変わって虚ろな表情で彼女が答えた。
「…そうか。辛い思いさせてごめんね。リザさん。」
「…っ、どう、して…」
「最初から気づいていたよ。」
ロゼと言うのは偽名で、本当の名前は「リザ」という。彼女は恋人と共に行方不明になっていた女性だ。髪の色や髪型、服装で雰囲気を変えたら俺の目をごまかせると思われていたのか。
随分、俺も甘く見られていたものだな。
「ごめんね。ちょっと辛いかもしれないけど。すぐに良くなるから。」
そう言って、リザの首筋に持ってきた香水瓶にいれた薬を吹きかけた。これは、出撃する前にアレクから借りたものだ。できたばかりの魔法薬と言っていたが……。
「あっ!!」
吹きかけると彼女のうなじの部分からポトリと何かが落ちた。みると白く発行した蜘蛛だった。ひっくり返ったまま苦しそうに足をバタつかせていたがやがて動かなくなりそれから体ごと霧散した。
「大丈夫かい?」
倒れかかった彼女に腕を伸ばして支える。
「ごめん、なさ、い。言う事を聞かないと彼が…、カイが酷い目に合うぞと脅されて……。」
「そう言う事だったんだね。もう大丈夫だよ。君を脅した奴はどんな奴か覚えている?」
「はい、小太りの男の人です。いつもにこにこ笑っていて、それが気味悪くて……。」
リザの話を聞きながら、ローガンの騒動の時に地下室にいたあの男だろうとすぐにわかった。
それからロイが後ろを見て右手を上げて手招きをすると物陰に隠れてロイ達を追跡していた部下が2人、走り寄って来た。ロイはそれぞれに指示を出す。
「彼女を王立の病院へ、話はつけてあるからすぐに受けいれてもらえるだろう。お前は俺と来い。」
「はっ!!」
門を開けて玄関まで歩くが、邸には一切の光がなく、誰も住んでいないように見える。
慎重に玄関を開けようとしたら鍵はかかっておらず、すんなりと扉が開いた。
「気を抜くなよ。」
「はい。」
ロイ達が邸に踏み入れるとバチンという音と共に光がともされた。
広いエントランスの中心に階段がありその階段の上にはあの男と……。
「アルフレッド殿下!!マーガレット様!!ご無事ですか!!」
体を縄で縛られたアルフレッドとマーガレットが見せつけるように長椅子に座らされていた。二人は座らされてまま目を閉じている。そしてその後ろに薄気味悪い笑みを浮かべる男が立っている。
「貴様っ!!」
「おっと、今は寝てもらっているだけですが、あまり近づくとお二人がどうなってもしりませんよ。」
「チッ。」
嫌な汗が背中を流れる。
「お前は、お前たちは何が目的なんだ?」
「すべては我が主君の為です、そして主君が本懐を遂げる時が来たのです!!だからこそ邪魔をして欲しくないのですよ。」
クソッ。どうすりゃいい。この状況はこっちの分が悪すぎる。
「そうだ、いいことを思いつきましたよ!!」
男が楽しそうに話し出した。
「そこの彼は、貴方の部下ですか?」
「…そうだが。」
「王子とこちらのお嬢さんをお返ししてもいいですよ。但し、一人につき貴方の腕一本でどうでしょう。で、それをそちらの部下にやってもらってください。人がどれだけの痛みに耐えられるか楽しみです!!」
「「なっ!!」」
目をランランと輝かせて、とんでもないことを言い出した男にロイ達は言葉を失った。
「さて、どうします?あなた次第で、このお二人の運命が変わるかもしれませんよ。」
どっちにしろこの男は俺達を生きて返すつもりはないのだろう。しかし、今はこの男が機嫌を損ねてアルフレッド殿下達に危害を加えかねない。
「……分かった。殿下を救えるのなら腕一本安いものだ。」
「副団長!!」
「いいからやれ、俺からの命令だ。いいな。」
部下の罪悪感を少しでも軽くさせようと『命令』を出す。
「さあさ!!早く早く!!血がぴゅーと飛ぶのかどばどばと流れるのか楽しみなんだ!!」
男は子供のように楽しそうにピョンピョンと体を揺らして子供のように跳ねている。
俺は床に膝をつき腕を横に伸ばした。悩んでいる様子の部下にもう一度、指示をだす。
やがて剣を抜く音が後ろから聞こえた。俺は覚悟を決めて目を閉じた。
「おやおや、これはまた、何事でしょうか?」
そんな声と共に俺の前に人がいる気配がして目を開けると。燕尾服をきた男が立っていた。
「セバスチャンさん!!」
「いやはや、お嬢様を追いかけてきたはずなのにこんな場面に出くわすとは、驚きました。」
セバスチャンはヴィクトリアが行方不明と聞きすぐに、ヴィクトリアのブレスレットに施されていた追跡魔法の後を追ってきたのだ。ヴィクトリアがいないのは気になるが、彼女には最終兵器がいるから大丈夫だろう。
そう考えると、ブレスレットをヴィクトリアがワザとアルフレッドのポケットなどに忍び込ませたのかもしれない。そしてそれを目印にセバスチャンが来ることも予想していたに違いない。
自分の事よりアルフレッドの身を案じての行動だったのだろう。彼女らしいといえば彼女らしいのだが。
「おまえ~~、ぼくの楽しみをよく邪魔したな~!!もう許さない!!先にこの二人から死んでもらう…っ、あれ?いない。」
確かに先ほどまで長椅子に座らされていたアルフレッドとマーガレットが同じ大きさの人形にいつの間にかすり替わっていた。
「セバスチャン様、お二人はこの通り我らが保護致しました。」
全身を黒の衣装を来た者が二人それぞれにアルフレッドとマーガレットを抱えていた。
「さすがですね。では、お二人はメイスフィールド家へお連れするように、何かの薬品が使われているかもしれないので医者も呼ぶように。」
「承知。」
そう言うとまた霧のように消えた。
「くそっ、くそっ、くそうっ!!ぼくの楽しみを奪いやがって、もう許さない。お前たちはここで死ね!!」
「やれやれ、子どもがそのまま大人になったような方ですね。ロイ様、動けますか?」
「もちろん。だが、奴は強いぞ。」
「そうですねえ、まあ、私達なら何とかなりますよ。さて、では早くあのブタを黙らせますか。」
セバスチャンの言葉に頷いて、ロイは剣を構えた。
0
お気に入りに追加
3,636
あなたにおすすめの小説
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
乙女ゲームに転生した世界でメイドやってます!毎日大変ですが、瓶底メガネ片手に邁進します!
美月一乃
恋愛
前世で大好きなゲームの世界?に転生した自分の立ち位置はモブ!
でも、自分の人生満喫をと仕事を初めたら
偶然にも大好きなライバルキャラに仕えていますが、毎日がちょっと、いえすっごい大変です!
瓶底メガネと縄を片手に、メイド服で邁進してます。
「ちがいますよ、これは邁進してちゃダメな奴なのにー」
と思いながら
盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです
斎藤樹
恋愛
事故で盲目となってしまったローナだったが、その時の衝撃によって自分の前世を思い出した。
思い出してみてわかったのは、自分が転生してしまったここが乙女ゲームの世界だということ。
さらに転生した人物は、"ラスボス令嬢"と呼ばれた性悪な登場人物、ローナ・リーヴェ。
彼女に待ち受けるのは、嫉妬に狂った末に起こる"断罪劇"。
そんなの絶対に嫌!
というかそもそも私は、ローナが性悪になる原因の王太子との婚約破棄なんかどうだっていい!
私が好きなのは、幼馴染の彼なのだから。
ということで、どうやら既にローナの事を悪く思ってない幼馴染と甘酸っぱい青春を始めようと思ったのだけどーー
あ、あれ?なんでまだ王子様との婚約が破棄されてないの?
ゲームじゃ兄との関係って最悪じゃなかったっけ?
この年下男子が出てくるのだいぶ先じゃなかった?
なんかやけにこの人、私に構ってくるような……というか。
なんか……幼馴染、ヤンデる…………?
「カクヨム」様にて同名義で投稿しております。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる