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57話 聖女候補のクララ(side:アレク)

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陛下との謁見が終わり、ヴィクトリアが今日から過ごすことになる部屋へと案内する。俺の腕に手を添えて初めて歩く王宮を俺に気づかれないようにチラチラと興味深げに周りを見ている仕草が可愛くて、いつもよりゆっくりと歩いた。
そこに場違いな明るい女の声が廊下に響き渡った。

振り返ると髪がピンク色の若い女が立っていた。歳からしてヴィクトリアと同じくらいだろう。
俺と同じく後ろを振り向いたヴィクトリアが一瞬固まったがすぐに笑顔で挨拶をした。
なるほど、彼女がくだんのヒロインという者か。
改めてクララヒロインを見ると容姿は、一般的に整っている部類に入るのだろう。しかし歳のわりにマナーが伴ってない、学園を卒業した今、彼女よりヴィクトリアの身分は上となる。友人というわけではないだろうに敬称が『さん』なのはいただけないな。

すこし傍観してみることにした。

「やっぱり、ヴィクトリアさんは私のこと、お嫌いなんですね。そんな嫌な目で見られると傷つきますわ…。」

なぜかいきなりクララがそんなことを言いだした。ヴィクトリアは完璧な淑女として対応している。とんだ言い掛かりだ。それどころかクララは俺に助けを求めるように潤んだ瞳で見上げてきた。

……なるほどな。

男の庇護欲をかきたてるためにワザとそういう立場にいるように思わせるのか。たしかにプライドが高くて無駄に自信過剰な子息達ではこういうタイプに弱いだろうな。自分が守ってやらなくてはと思うに違いない。
こんな娘にアルフレッドが引っかかったのかと思うと兄として情けないと思うのだが……。
先ほどからクララから放たれる異様なが気になる。
ヴィクトリアはそれに気づいていないようだ。これは早々に離れた方がいいな。
そう思っていると、クララを追いかけてきたらしい王弟のザカリー大公が現れた。

俺はこの人が昔から苦手だった。
いつもこの男の周りには得体のしれない何かが渦巻いていて、あまり近づきたくなかった。だが、叔父上はどうやら俺の事が気に入っていたらしく俺がまだ幼く王宮に住んでいた頃は、何かにつけて現れては話しかけられていた。その内容はあまり覚えていないが俺にとっては不快な話ばかりだったような気がする。それから避けるようになり、その後はマーカス団長の屋敷に住むようになってこれで会わなくて済むと安心した記憶がある。

少し会話をしただけなのに緊張していたらしい、ヴィクトリアが心配そうな目で俺を見上げてきた。俺は大丈夫だという意味で笑うと顔を真っ赤にさせている。

可愛い。
正直、すぐにでも結婚したいのだが宰相ルイスたちとの約束もあるので今は我慢する。

この幸せをもう少し噛みしめたかったのに横から不快な言葉が聞こえた。
わざわざ言わなくていい卒業パーティーの婚約破棄の件を持ち出してきた。
なるほど、売られた喧嘩は高値で買ってやろう。ヴィクトリアに何かあったらタダじゃおかないぞと釘を刺した。

今更、あわてても遅い。俺の中でクララは観察対象から危険人物へと格上げされたのだが、その後に叔父上が間に入ってとりなしてきたので今日はこのくらいでやめておく。 

しかし何故、クララを伴って王宮ここに来たのか気になっていたので聞いてみる。

そこで聞いたのは、教会がクララを聖女候補としたということだ。
陛下が聖女と認めないことに焦れてそういう形を取ったらしい。教会らしい強引さに内心辟易する。恐らく、いや確実に裏でそう仕組んだのは目の前にいる叔父上だろう。昔から教会の司教たちの中には王弟派が多く存在していた。さて今度は何を企んでいるのやら……。

「そこで、陛下とアレックス殿下にご相談したいことがありまして本日、参ったのです。」

という叔父上に俺は先に陛下に会っていただくよう護衛の一人に謁見の間へと案内をさせた。
それからヴィクトリアを部屋まで送り届ける。
心配そうに俺を見ているヴィクトリアを大丈夫だと安心させるように抱きしめた。

「あ、あのっ! さ、最近、アレク様は変ですっ。」

「変かな?」

「だって、急にこんな風に抱きしめたりとか……。」

「嫌?」

「い、いやじゃないですけど! 私はどうすればいいのかわからなくなります。」

「どうもしなくてもいいよ。ヴィクトリアが気付くまで俺が勝手にするだけだから。」

だから、早く気づいて。

「は、はあ…。」

分かったような分からないような顔で頷く鈍感な彼女に少し笑って彼女の手を取って手の甲にキスを落とす。

「話が終わったらまた来る。」

顔を真っ赤にさせた彼女を置いて部屋を出る。
アンジュ様がもう少しで到着する予定だったので着いたらすぐにヴィクトリアの部屋に案内させるように侍女に言って俺は再び謁見の間へと向かった。


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