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50話 魔物(side:アレク)
しおりを挟む飛び出してきた魔物は人型だった。
体長は3メートルほどあり、体は筋骨隆々で血管が浮き出ている。頭には二本の角が生えていて口は吸血鬼の様な牙がむきだしていた。
アレクはその魔物の顔を見て驚愕した。
「ローガン……。」
俺が何故、ヴィクトリアの拉致を知ったのかは数刻前に遡る。
執務室で仕事をしていたら窓をトントンと叩くものがいる音がする方へ視線を向けると青い鳥が窓際にいた。
「初めて見る鳥だな。」
見たことのない綺麗な青い鳥に思わず窓を開けると青い鳥がいきなりしゃべりだした。
「ヴィクトリア。タイヘン! サラワレタ! テガミヲミテ。」
そう言うと青い鳥は俺の目の高さまで飛んで足首に結びつけられた紙を見せた。紙を開くとアンジュ様からの手紙でヴィクトリアが気分転換に街へ出かけた事、帰りが遅いため確認したところどうやら攫われたらしい。すぐにこの場所へ向かってくれとの内容が書かれてあり、手紙の最後には『たぶん犯人はローガンではないか』と書かれていた。
すぐに出動してアンジュ様が示した場所へと来たが、屋敷の者はそのようなひとはここにはいないと頑なに屋敷に入るのを拒むのでそろそろ無理矢理にも突入しようと決意した時にリュウがいきなり騒ぎ出した。
「きゅうう、きゅうううううううう!きゅううう!」
(アレク、ヴィクトリアがいるとこわかった!いっしょにいこう!)
「っ!? お、おい!!」
いきなり肩を掴まれてそのままリュウは屋敷の2階のある部屋へと一目散に飛んで行きそのまま窓に突っ込んだ。
すぐにヴィクトリアを見つけることができたのだが、ヴィクトリアへの暴行の傷跡を見てかつてないほど怒りがふつふつと湧いてきた。
絶対にローガンをこの手で捕まえる。奴にはヴィクトリアにした暴力の報いを受けてもらう。
そして俺の目に現れたローガンはもはや人とは呼べない異形の者となっていた。
「ローガン……。」
「ふっははははは!!! アレク・ハワード! 俺は最高の力を手に入れたぞ! 魔力がどんどんみなぎってくるのがわかる。今日こそ積年の恨みを晴らしてもらうぞ!」
「ローガン。お前、自分がどういう状態なのかわかっているのか?」
「はは、オークの力と竜族の魔力と私の知性があればお前など、すぐにひねりつぶしてくれる!!」
ローガンの血走った目はすでに常軌を逸しているのだろう。
「アレク。どうする?」
隣にいるロイが小声で話しかけてくる。
「お前の部隊は地下に行ってジャンという男を救出してくれ。スミス商会の息子だ。俺はローガンをなんとかする。他の騎士達には退避命令を。」
その言葉にロイは目を見開いた。
「おまえ一人でやるっていうのか!? ばかじゃねえの!? 今のあいつは俺でもヤバいってわかるぞ!!」
「大丈夫だ。リュウもやる気みたいだしな。なんとかなるさ。」
「ギュルルルルルル!!!」
(あいつすっごい嫌な感じ!!)
「お前‥‥。」
「俺達は大丈夫だ。ほら、早く行け!」
「ちっ…。わかったよ! 無理すんじゃねえぞ!!」
こういう時、何を言っても無駄だとわかっているロイは舌打ちしながらも俺の指示に従って離れて行った。
「話し合いは終わったのか?」
「ああ。」
その瞬間、ローガンはファイアを打ってきた。1メートルくらいの大きさのそれは避けることもできたが避けると俺の後ろの建っている屋敷にあたってしまう。
「ぎゅうううう!」
(しーるど!!)
リュウが俺の目の前に飛び出してシールド魔法でファイアを相殺する。
「リュウ、助かった。ありがとう。」
「きゅう、きゅうううう!!」
(うん、まにあってよかった!!)
「なるほど、そのドラゴンが少し邪魔だな…。」
ローガンは召喚魔法で魔物を召喚した。
「gyuuuuuu、&%$#&!!!!」
(ぎゃああ、&%$#&!!!!)
ドラゴンはムカデが苦手だと言い伝えにはあったのだが本当に苦手だったのか。百本足と言われる魔物が地中から長い胴体を這わせてリュウを追いかけまわしている。リュウはファイアブレスで抵抗しているが奴には効き目がないらしい。
「さあ、邪魔をするものはいなくなったな。じっくりと嬲り殺してやろう。ククク…。」
ローガンがニヤリと笑った。
リュウを早く助けてやりたいがまずは目の前のローガンを大人しくさせるのが先だ。
俺は腰に差した剣を抜いて構えた。
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