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47話 拉致されました
しおりを挟むあれから、アレクと私は『カトレア』を出た。
アレクは具合が悪くなったリュウを私に預けてまた騎士団へと戻って行った。
「しばらく忙しくなる。騎士団で寝泊まりすることになるから食事の用意はいい。」
「わかりました。」
それからアレクは本当に忙しいらしく。1週間も屋敷に戻ってこなかった。お爺様もお父様も忙しいらしく、以前はみんなで食べていた食事もお祖母様とエマ様と私の3人で食事することが増えた。
「なんだか、リアちゃんは最近寂しそうね。」
「いえ…、前は大人数で食事していたものですから少しだけ寂しいです。でもお祖母様達がいらっしゃるので大丈夫です!」
「そう……。もう少ししたら、またみんなで食べられるようになるわよ!」
「はい!」
私を元気づけるように明るく言ったアンジュお祖母様に笑顔で返した。
「そうだ、今日は魔法の練習をお休みして、買い物に行って来たら? いい気分転換になるわよ?」
お祖母様が思いついたように言った。
「いいのですか?」
最近、暇を持て余している私にお祖母様達からいろいろな魔法を教えてもらっている。なかなかのスパルタだけど、いろんな魔法を覚えられるから楽しい。特に攻撃魔法とか習得した時はうれしかった。
今度、アレクに会ったときに披露しようと楽しみしている。
「いいわよ~。その代わり今日は『ヴィクトル』くんで行きなさい。新しい洋服を買ってきたのよ~、絶対に似合うから!」
エマ様が目を輝かせて言う。あれから男装姿の私がエマ様のお気に入りになったらしく時々、洋服を買ってきては着せ替え人形のごとく着替えさせられている。まあ、私もいろいろ服が着られて楽しいけど。
「わかりました。では、お言葉に甘えて少し街に行ってみます。お祖母様とエマ様にもお土産買ってきますね。」
「そんなこと気にしないで、楽しんでらっしゃい。」
そう言ってお祖母様は笑った。
それから『ヴィクトル』に変装した私は街へと出かけた。
今日の洋服は水色のカッターシャツに紺のベストを着てチェック柄のベージュ色のパンツをはいている。
街を歩いていると、出店が少しずつ増えて行っている。
1か月後には建国祭があるのでそれに向けて王都は出店などが増える。そして祭りを見るために地方からの人たちもどんどん集まってくる。
活気がある街並みを歩くのは楽しい。街の人たちの表情も心なしかウキウキしているような気がする。
そんな街の風景を眺めながら、私はお祖母様達のお土産を何にしようかと考えていた。
「あ、あの!」
後ろから声をかけられて振り返ると7、8歳くらいの少年が立っていた。少年の体系にしてはだぼだぼのシャツにズボンは所々破れている。貧しい家庭の少年のようだった。
「どうした?」
何やら思いつめた表情で私を見つめている少年に優しく声をかける。
「い、いもうとが、おなかがいたいって。倒れて、それで、あの…。」
「妹さんはどこにいる? その場所に連れて行ってくれない?」
「う、うん。」
お腹が痛いという事は、すぐにお医者さんに見せなければ大変なことになるかもしれない。私は少年の後をついて行った。
路地裏の道をくねくねと曲がってしばらく歩くと少年が路地の行き止まりで立ち止まった。
「つ、連れてきたぞ! 早く妹を返せ!!」
「それは、よくやった。」
幼い女の子を連れて奥から出てきたのは、ローガンだった。
ローガンは、アレクが冤罪の証拠を集めて今は騎士団から追われている身だとお父様から聞いていた。
そのローガンが私をおびき寄せたのは何か目的があるに違いない。
「やあ、また会ったね。ヴィクトルくん。君にはちょっと私についてきてもらいたいんだ。なあに、君が抵抗しなければ何もしないさ。」
「断ると言ったら?」
「そうだねえ~、この子供たちが可哀想なことになるかもなぁ。」
片手に持っているナイフをわざと女の子の前でちらつかせた。
「‥‥わかった。その子供たちを無事に帰すのならついて行く。」
「聞き分けが良くて、助かるよ。」
そしてローガンの影に隠れていた男が私に魔法封じの手錠をかける。
「さあ、では行こうか。」
そう言って笑ったローガンの目は狂気が宿っていた。
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