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小話1 「アレクとリュウの最初の出会い」

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じぃーーーーーーーーーーーーーー。




アレクとレッドドラゴンは庭で互いを見つめあってだいぶ時が流れている。


それを、ヴィクトリアの父親ルイス祖父パトリックは期待に満ちた目でアレクとレッドドラゴンのリュウのやり取りを眺めていた。

(どうか、リュウが口から火を噴いて目の前の憎いあの小僧を燃やしてくれ!)



なぜこうなったかというと半時ほど前まで遡る。
話し合いもきりがいいからとお昼の食事の準備を始めるとヴィクトリアが言い出した。

「リアちゃん、お料理できるの?」

「もちろんですわ! アレク様も太鼓判を押すほどですの。」

と無邪気にアレクの足元にある地雷を踏むヴィクトリア。

「まあ、それは素敵ね~。私達も久しぶりに料理しようかしら、ね? 姉さま。」

「いいわねえ~、孫娘と料理って夢だったのよ。そうだ! 領地からいっぱいお野菜持ってきたのよ、それを使いましょう。」

「わあ~、いいですねえ。私も誰かと料理するのは初めてなので楽しみです!」

きゃっきゃっとはしゃいでいる様子を見ながら、ルイスはアレクの肩に手をかけた。

「ほぉ~、私は娘の手作りの料理を食べたことがないのですが、アレックス殿下はすでに食べられたことがあると?」

満面の笑みを張り付かせている。

「俺も、孫娘の料理を食べたことないぞ! 殿下だけズルいですぞ!!」

パトリックも一緒になって責める。

「これは少し話し合いが必要ですね。ここではなんですから、外に出ましょうか?」

その笑みが深くなる。

青くなるアレクを外に連れ出して行こうとするパトリックとルイスに妻と娘から声がかかった。

「パット。アレックス殿下に手を出したりイジメたりしたらどうなるかわかっているわよね。」

にっこりと笑う笑顔にパトリックはたじろぐ。

「も、もちろんだよ。少し話し合うだけだよ!」

「お父様もそんなことしませんよね?」

アンジュと同じ笑顔でにっこりと笑うヴィクトリアにルイスもコクコクと何度も頷く。

「もちろんだ! 男同士の話があるのだよ。」

メイスフィールド家の男たちは妻と娘の言う事には逆らえなかった。

そうやってアレクを外へ連れ出したのはいいが、手が出せないのでは腹の虫が治まらない。
どうしたものかと思っている時にパトリックは庭でふよふよ飛んでチョウチョを追っかけているリュウを見つけた。


なるほど、これだ!

「アレックス殿下。メイスフィールド家には代々言い伝えがあるのをご存知でしょうか。」

「いや、聞いたことはないがなんだ?」

「あそこにいるレッドドラゴンは、代々、このメイスフィールド家の守護竜なのです。あのドラゴンに気に入られなければメイスフィールド家の婿としてお迎えできませんなあ~。」

とスラスラ嘘を並べ立てる父親パトリックにルイスは目を見開いた。
そんな話は聞いたこともないし、しかもあのリュウは何年か前にヴィクトリアの誕生日プレゼントとして母親アンジュがどこからか連れてきたのだ。
パトリックはそんなルイスを見て。

(まあ、見とけば分かる )

と目で合図をした。
リュウは人見知りが激しく、人の選り好みもするので懐くのに時間がかかるし、知らないやつが近づくと威嚇のために火を吐いたりする。
一発で気に入られたのはアンジュとヴィクトリアくらいだろう。
だからアレクにすぐに懐くわけはないとパトリックは予想していた。

「わかった。あのドラゴンと仲良くなればいいのだな。」

そう言って、アレクはドラゴンに近づいて行く。


そうしてアレクとドラゴンが見つめあっていた。
レッドドラゴンはまだ子供とはいえ実際の大きさは高さ20メートル近くになる。今は縮んで80センチくらいになっているが見た目はドラゴンそのものだし頭に生えている二つの角と鋭い目つきが初めて見る人には恐怖心を煽るだろう。

最初に動いたのはアレクだった。

「お手。」

アレクは右手を差し出しながら言った。

「キュイキュイ?」
(てをおけばいいの?)

ドラゴンは首を傾げながらもアレクの手のひらに自分の手を置いた。

「おお! お前は賢いな! いい子だ。」

「きゅっー!きゅきゅい♪」
(やったー!ほめられちゃった♪)

アレクは楽し気にドラゴンの頭を撫でている。ドラゴンも気持ちよさそうにされるがままだ。

「お前、名前はなんて言うのだ?」

「キュイ!」
(リュウだよ!)

「なるほど、『リュウ』かいい名だ。…そうだ、干し肉があるが食べるか?」

「きゅ~~~!」
(たべる~~~!)

「そうか。ほら食べてみろ。」

「きゅうーーーー!」
(おいしーーーー!)

「はは、そんなに慌てて食べるな、まだ沢山あるからゆっくり食べるんだぞ。」

「きゅきゅ。」
(もぐもぐ)

やがて干し肉を食べ終えたことに満足したのか、リュウは体を縮めてアレクの肩へと乗った。

「きゅきゅきゅーい?」
(あなたの名前はなんていうの?)

「そうか、まだ名乗ってなかったな。アレックス・オースティンだがアレクと呼んでくれ。」

「きゅ、きゅきゅーいきゅい!」
(決めた、あれくは今日からぼくのご主人様にしてあげるよ!)

「いいのか?」

「きゅっい!」
(いいよ!)

「というわけで、懐いたみたいですが。」

アレクとリュウのやり取りを呆然と見ていた二人が正気に戻った。

「ドラゴンをテイムしただと? そんな馬鹿な……。」

「しかも、殿下はドラゴンの言葉を理解しておられるようですよ……。」


こうして、アレクとリュウのコンビが結成されたのだった。


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