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33話 酒は飲んでも飲まれるな(side:アレク)

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※本編に入る前に少しだけ説明させてください。ヴィクトリア達が住む世界では18歳から成人と扱われますので飲酒してもOKなのです!
あくまでフィクションなのでご理解下さい。

**********************************************





「聞いています~かぁ~? アレ…ヒックさまあ~……。」

「ああ、聞いているがお前は少し飲みすぎだ!」

明らかに酩酊状態のヴィクトリアを見て俺は呆れながら酒をあおった。
どこが酒に強いのか。時が戻るのなら酒を飲む前のヴィクトリアに聞いてやりたい。





なぜ彼女がこういう状態になっているのかというと、遡ること数時間前、アルフレッド達を見送った後、少し俺は落ち込んでいた。
アルフレッドに知らないうちに重荷を背負わせてしまっていたこと、それを気付いてやれなかったこと。

いや、違うな。

俺は逃げていただけだ。いろんな事から目を逸らして勝手に自分でそれが正しいと決めつけていただけだ。
弟が俺を慕ってくれることに付け込んでとんでもない兄貴バカだ。

「俺は部屋に戻る。今日はヴィクトリアもゆっくり休め。」

「あ、でも夕飯は…。」

時刻は夕暮れ時となっていたが、飯を食う気にもなれなかった。

「今日はいい。腹がへったら自分で何か作るから、いいからお前も休め。いろいろあって疲れただろう?」

「…… かしこまりました。」

ヴィクトリアは何か言いたそうにしていたが階段を登り始めると俺の背にその返事が返ってきた。


1時間程経った頃だろうか、部屋をノックする者がいた。
まあ、この屋敷には俺とヴィクトリアしかいないから誰かはすぐに分かったが。

「…何だ。」

「あの、ちょっとおつまみを作りすぎたので一緒にどうかと思いまして。」

入室の許可を出すと、ひょっこりと扉から顔を出した彼女の髪形に驚いてしまった。

「っ!? おまえっ、なんだその頭は!?」

貴婦人たちがする髪の結い方はだいたい綺麗にキッチリと結ばれているのだが、ヴィクトリアは頭の天辺に髪をくるくると雑に結ばれていて、ほつれ毛も何本か飛び出ている。

「あ、しまった! 髪を解くの忘れていました。でも、これ楽ですよ『お団子結び』っていう髪型なんですけど、髪が邪魔にならないし料理するとき便利なんです。」

ぽんぽんと結んだ天辺の髪を叩いている。

「おだんごむすび…。」

それを見ていたら何だか脱力してきた。

「まあそれはいいとして、俺は飯はいらないって言わなかったか?」

「ご飯じゃないです! おつまみです!!」

「何の違いが?」

「おつまみはお酒を飲むための食べ物です! 今日はちょっと飲みたい気分なんです。アレク様もよろしかったら一緒に飲みませんか? いいお酒を実家から盗……貰ってきたので!」

今、盗んでといいそうにならなかったか?

「お前、最近、成人したばっかりだろう、酒飲めるのか?」

「もちろんですよ! あ、前世でも立派な成人でしたし『うわばみ』って言われるくらい、お酒強かったです!!」

「はは、うわばみねぇ。」

「む。信じていませんね、あ、もしかしてアレク様ってお酒が飲めないとか? それなら仕方ありませんけど。」

ニヤリと笑うヴィクトリアにムッとした。

「馬鹿言うな、酒は普通に飲める。お前が酔って暴れて物壊されるのはごめんだが、まあ少しだけなら付き合ってやる。」

「やった! 実はもう用意してきているんです!」

ヴィクトリアはそう言って廊下に出て食事を運ぶ用のワゴンと一緒に入ってきた。
そのワゴンには大きな皿が数枚乗せられていた。

「お前、こんなにたくさん一人で食う気だったのか?」

「いやあ、最初は3種類くらいに抑えようと思ったのですけど久しぶりにおつまみを作っていたら、アレも作ろうコレも作ろうって思っちゃってついつい種類が増えちゃいました。」

「見たことないのがあるな…。」

「まあまあ、まずは一杯飲みましょうよ。作っている間ずっーと、飲みたくてウズウズしていたんです!」

「まったく、何がいい?」

一応、俺の部屋には寝酒用にいくつかワインなどが置いてあった。

「いえ、アレク様の家のワインも気になりますが…。まずは、これ飲みましょう!」

収納空間に手を突っ込んでいた彼女が引っ張り出したのはワインボトルよりも二回り程大きな瓶で色は透明な色をしていた。ラベルを見るとこの国の文字ではないようだ。

「これは、なんて読むのだ?」

「ああ、これは『鬼嫁』ですね。御祖父様おじいさまの領地で作っている地酒です。でもこれって『漢字』っていう文字で私の前世の日本の文字なのですけど、不思議ですよね~。」

「ああ、お前のばあさん達は前世持ちらしいぞ。」

「あ! なるほど、どうりで変わった方達だと小さい頃から思っていましたわ。それで納得しました。」

「順応力たけーな。」

「まあまあ、細かいことは気にするなってことですよ! ささ、飲みましょう」

「どんだけ飲みたいんだよ。」

「私、前の生では仕事終わりの一杯が楽しみだったんです。」

そう言いながらワイングラスに砕いた氷と酒を入れて水差しから水を注いだ。自分の分も用意するとワイングラスを俺の手に持たせた。

「では、今日も一日お疲れさまでした! かんぱーい。」

そう言って互いのグラスに軽く当てた。

チーン

ゴクゴクゴク

「ふわっー、美味しい! まろやかで舌触りが良くてそれでいて体があたたまるこの感じ、サイコー。」

「お、おう。」

俺も一口飲む、たしかにワインの様な苦みが少なく飲みやすい。アルコール度数もそんなに高くはなさそうだ。

「これは、なかなかうまいな。」

「ですよねー、さすがは御祖父様おじいさまですわ。領民も優秀な方が多いのです。」

「なるほどな。で、おつまみも食べていいか?」

「はい! どうぞどうぞ。これがポテトフライで、唐揚げに枝豆、キュウリの和え物にハムチーズに焼きおにぎり! お好きなものから食べてみてください。」

先ほどから気になっていた『ヤキオニギリ』というものをフォークで割って食べてみた。
ご飯が三角の形に整えられていて香ばしい香りがする。外側はカリっとして内側はふっくらとしていた。

「うまい! お前は料理の天才か?」

「えへへ、そう言われると照れちゃいます。まあ、小さい頃から料理していたので慣れているというか…。まあ、こうして喜んでもらえると嬉しいです。」

彼女の料理はどれもこれも美味しい。この一週間作ってもらった料理に不味いものなんて一つもなかった。『小さい頃から』と言ったが彼女は前世では苦労していたのだろうか。

「ヴィクトリアの前世の話を聞いてもいいか?」

「いいですよ~。別に普通の人でしたけどねえ。」


空けたグラスに酒を追加しながら彼女の前世の話を聞いた。

「私の家は、父と兄2人と私の4人家族でした。母は私が2歳の時に病気で亡くなったそうです。父は刑事で兄達は医者と弁護士でした。」

「刑事とは?」

「あー、国内の犯罪を取り締まる人ですね。この国でいう騎士様や警備隊のようなものです。私も一応、刑事でしたよ。」

「おまえがっ!?」

女性でもそのような仕事をしているとは、信じがたい。

「失礼ですね~、あの国では男女平等、職業選択の自由がありました。私もなりたくて刑事になったんです。」

「そうだったのか。」

「で、ですね~。やっと刑事になれたのに1年で殉職してしまいました。」

「は?」

さらっと言った彼女の言葉の重大さに思わず固まってしまった。

「ちょっと、ヘマしちゃって逃げた犯人追いかけている途中に犯人が子供を人質に取ろうとしたのでそれを助けようとしたら、グサッとナイフで刺されてしまいました。で、気づいたらあの断罪イベント真っ只中にいたというわけです。」

「…歳はいくつだったのか?」

「24歳でした。まあ死んでしまったものはしかたないしまた生まれ変わってここにいるので、いいかなーと。」

俺と同じ年だったのか。
なんて言っていいのかわからず酒をグイっと飲みほす。

「ああ! 変な空気にしてすみません、でも私、今、すっごい楽しいですよ。前世ではあまり着ることがなかったドレスとか着ちゃっているし、魔法とか使えるのも便利ですし! この世界に生まれ変わってよかったと思っていますよ。」

「そうか。」

「さあさあ、飲みましょうよ! 水で割ったお酒にライム入れてみたんですけど、どうです?」

「む。…… お、これもいけるな。」

「でしょう! 爽やかで喉ごしがよくなるんです。」

「では、おれも秘蔵のワインを出すか。」

「きゃー! さすがアレク様、太っ腹ですわ!!」

「お前は、こんな時だけ調子がいいな。」





そうやって、飲み食いすること数時間、さすがに俺も酔いが回ってきそうだが…。

「きいてます~かあ~、アレ…ヒックさまあ~。」

「ああ、聞いているがお前は少し飲みすぎだ!」

「ええ~、もうひょっとだけ…。」

「お前は、さっきからそう言って止めないだろうが。いい加減、二日酔いで明日は大変なことになるぞ!」

「なあにいってんすか、わ~た~しは、ふつかよいなんてぇ、いっかいもしたことないんれすよお~。」

「はいはい、わかったから。もう部屋帰ろうな。」

「ん~~~、あ。べっどある~ここでねるう~。」

と言って俺のベッドへとダイブした。

「ちょ! お前、それは俺のベッドだ!! こら、お前の部屋まで連れて行くから‥‥。」

「ん~、もう、うるさあい。いっしょにねればもんだいないれしょ。」

と言ってぐいっと俺を強引にベッドへ引き入れた。

「おおい!! お前っ、なにやっているのかわかっているのか!?」

ヴィクトリアはそのまま俺の上に覆いかぶさるようにして寝始めた。

「くう……。」

「待て、寝るな! おい!」

最初は抵抗していたが、だんだん面倒くさくなってきた。

「くそ、朝になって驚いて泣いても知らないからな!」


その時、俺は確実に酔っていた。普段なら絶対そんなことしないし叩き起こしてでも部屋に連れていくはずだ。
だが、俺は考えるのを放棄してそのまま寝ることにした。
それが間違いだとは気づかずに。





そして、翌朝、起きた俺の目の前には地獄絵図が広がっていた……。


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