6 / 92
5話 一撃姫の噂(side:アレク)
しおりを挟む「アレク! 今日はもう帰るのか?」
「ああ、まあな。」
今日の業務を終え廊下を歩いていると、同僚のロイが声をかけてきた。
「なあなあ! 一撃姫の話、聞いたか?」
話したくて仕方ないといった感じだ。
「はあ? 一撃姫? なんだそれは。」
およそそれを名付けた奴のネーミングセンスを疑う。
「それがな、今日は王立学園の卒業式だったろ? 卒業式の後の舞踏会ですげえ事が起きたんだよ!」
興奮したように話しかけてくる。
「わかったから、少し落ち着いて話してくれ。」
こいつがこうなったら最後まで聞かないと放してくれそうにない。
「ああ、すまんすまん。俺もこれを聞いたときはびっくりしてな~。おまえ最近の学園の噂聞いてないか? 光の魔法が使える女子生徒がいるっていう……。」
「ああ、それなら聞いている。希少な魔法を扱えるということで平民から… たしか、キャンベル男爵に引き取られて学園に通うことになったとか。」
「そうそう! そのクララ・キャンベルという娘なんだが転入してから瞬く間に第二王子やその側近、高位の貴族の子息を次々に篭絡していった………と、おい!」
途中までは普通に聞いていたが周りに聞かれたら不味そうな話の流れになってきたのでロイの襟首を捕まえて近くの部屋に入った。
「その話、嘘ではないのだな?」
「嘘じゃない!俺の弟も同じ学園に通っているが、彼女を囲んで王子達がチヤホヤしているのを何度も見ているんだってよ、そんで婚約者のマーガレット嬢がそれをお諫めしている姿も見たことがあるそうだ。」
「そんな、まさか……。」
「そのまさかだったんだよ。なんでも、今日の舞踏会の場で彼女を取り巻いている男共がマーガレット嬢を卒業生達がいる目の前でいじめをしていたなどと糾弾したらしい。」
「はあ? なんでそんな馬鹿なことを……。」
あまりの話に開いた口が塞がらない。
「そしたら、マーガレット嬢を庇うようにヴィクトリア嬢が婚約者のジェフリー・クレイグ― あいつも例の娘の取り巻きだったんだが、そのジェフリーに食って掛かったらしい。で、奴はヴィクトリア嬢を公衆の面前で罵倒した挙句、婚約破棄を宣言したらしい。」
「…………。」
あまりの愚かな行いに言葉が出なかった。
ジェフリー・クレイグは侯爵家の三男で末っ子ということで甘やかされて育ったらしい。
上の二人の兄は優秀な文官となっているがジェフリーは学問では兄以上に才能を開花させることはなかった。それではと、親が騎士団に入隊させようとしたのだが仮入隊の1日目でリタイヤした。
婚約者のヴィクトリア嬢は才色兼備で第二王子の婚約者のマーガレット嬢と並ぶとそこら中に花が咲き誇るようだと噂の美少女らしい。
ヴィクトリア嬢の父親は宰相を務めている、妻を早くに亡くしそれはもう目に入れても痛くないというくらい娘を可愛がっていると有名だ。それこそジェフリーとの婚約の時もかなり荒れたが、国王陛下のとりなしでなんとか首を縦に振ったというのは有名な話だった。
「おい、それが本当なら国が荒れるぞ……。」
それほど娘ラブの父親なのだ。
「それがなあ、それで終わりじゃないんだ。」
「いや、もう俺はお腹がいっぱいなのだが。」
「まあ、聞けや。婚約破棄を宣言したジェフリーに、一撃姫―― ヴィクトリア嬢が腹に一発、拳をぶち込んだらしい。」
「はあああああ!?」
「俺も最初聞いたときは同じ反応だったよ。でも大勢が見ている前でやったからホントらしい。しかも、その一撃でジェフリーは完全にのびていたらしいぜ。」
あまりの話の展開に正直ついて行けなかった。
「まあ、その後はヴィクトリア嬢とマーガレット嬢が会場から立ち去ったみたいだけど、これからが大変だろうな~。さっき、すっごい形相の宰相が足早に王宮の廊下を歩いていたらしい。」
およそ令嬢らしからぬことをしてしまったのだ、宰相の怒りは相当なものだろう。
一撃姫、か。
どのようなご令嬢か会ってみたいな。
などと思っていたらその数刻後にまさか本人に会って、俺がこの騒動の渦中に巻き込まれていくなどとはその時は夢にも思わなかった。
4
お気に入りに追加
3,636
あなたにおすすめの小説
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました
市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。
……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。
それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?!
上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる?
このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!!
※小説家になろう様でも投稿しています
アクアリネアへようこそ
みるくてぃー
恋愛
突如両親を亡くしたショックで前世の記憶を取り戻した私、リネア・アージェント。
家では叔母からの嫌味に耐え、学園では悪役令嬢の妹して蔑まれ、おまけに齢(よわい)70歳のお爺ちゃんと婚約ですって!?
可愛い妹を残してお嫁になんて行けないわけないでしょ!
やがて流れ着いた先で小さな定食屋をはじめるも、いつしか村全体を巻き込む一大観光事業に駆り出される。
私はただ可愛い妹と暖かな暮らしがしたいだけなのよ!
働く女の子が頑張る物語。お仕事シリーズの第三弾、食と観光の町アクアリネアへようこそ。
前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!
Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜!
【第2章スタート】【第1章完結約30万字】
王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。
主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。
それは、54歳主婦の記憶だった。
その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。
異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。
領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。
1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します!
2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ
恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。
<<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
全てが終わったBADEND後の乙女ゲーム転生で反逆いたします
高梨
恋愛
乙女ゲームの転生……。一部の人が夢にみる転生が自分の身に起こった……のだが、こんな世紀末感ただよう乙女ゲームなんて私は知らない。見たくない、聞きたくない、お家に返して。
【輪廻とロンドの果て】魔法のある中世ファンタジーの乙女ゲームの……悪役ライバルに主人公も攻略対象も負け、悪役ライバルが舞台【アンドール大国】の女王となり、世界を悪い方向に統一してしまった未来を迎えたBADEND世界の……悪役ライバルの孫に転生してしまった【大橋 賽(おおばし さい】
現在の悪役の息子の国王も……目も当てられぬさま。
こんな世界にしたご本人は甘い汁をチューチュー吸ったまま死んだけれども、孫に転生させられた私は様々な嫌悪に当てられて……。誰がどう見ても革命なり反乱なりが怒ることが分かるので、殺されないために私が国に反逆致します。けど、おかしい? 私はあの悪役の血を引いているのにもかかわらずに皆の好感度が階段飛びに上がってゆく……。
条件付きのチートを宿し、今……殺伐としたBADENDの先へ降り立ちます。
【アナタハ 実の両親ヨリモ 愛ヲ 取リマスカ?】
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる