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冒険者ギルド編

14話 アーノルドの朝のルーティン

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翌朝、アーノルドがベッドの上で目を覚ました。
初のクエストでよほど疲れたのか馬車で帰る途中で寝込んでしまったらしい。護衛の誰かがここまで運んでくれたのだろう。呼び鈴をならして風呂と朝食の用意をさせる。

侍女達が用意をしている間に、アーノルドの毎朝のルーティンを始めた。

「おはよう、レーナ嬢。昨日は帰ってからの報告ができなくてすまなかった。しかし、君はいつ見てもかわいいな。君を見ているだけで癒される……ブツブツ…ブツブツ。」

アーノルドの自室の壁には見上げるほど大きなレーナの肖像画が飾られている。アーノルドは毎日、その肖像画に向かって話しかけるのが日課となっていた。
ちなみにその肖像画は王妃に頼み込んで、王妃のお抱えで人物模写の最高峰と言われる絵師が描いたものだ。
侍女達はいつもの事なので、そんなアーノルドの行動(奇行?)はスルーして黙々と作業をしていた。

「アーノルド殿下、お風呂とお食事の用意ができました。どちらを先にいたしますか?」

ようやく、アーノルドとレーナ(肖像画)との会話に終わりが見えた頃を見計らって、侍女が話しかけてきた。

「風呂からにする。」

「畏まりました。」


風呂に入り、朝食を取っていると父上の従者がやってきた。

「なに? 師匠がきているのか?」

「はい、現在は陛下と会談でございます。そして、陛下よりご伝言を預かってまいりました。」

従者によると指定の時間になったら、父上の執務室まで来るようにとの事だった。

「わかった。」

師匠と父上が何の話をしているのか少し気になったのだが、呼び出されるという事は俺にも何か話があるのだろう。
そして、指定の時間が近づくと執務室へと向かった。長い渡り廊下を歩いていると前方からあまり関わりたくない人物が歩いてくるのがみえた。

その人物は、この国の大臣の一人のグリードだ。こいつは俺が子どもの時に何かと俺に甘いことを言って堕落させようとした筆頭だったように思える。今、考えると俺を傀儡にしようする意図があったのではないかと疑っている。

小太りのその男は俺を見つけると愛想笑いを浮かべながら俺に近づいてきた。

「アーノルド殿下、見ないうちに随分とご立派になられて……。勉学や剣術においても同い年の者達より飛びぬけているとか。やはり、私の目に狂いはなかった。殿下が優秀であるということは、私は昔から知っておりましたぞ。」

「……そうか。」

あまり話をしたくはなかったが声をかけられたからには返事をしないわけにはいかないので一言だけ返す。グリードは、俺のそんな態度にも気にせず揉み手をしながら話を続けた。

「しかし、根を詰めてはなりませぬぞ。殿下はまだお若い。ときには息抜きも必要でしょう。丁度、私の邸の庭園の花が見ごろとなっております。庭園を眺めながら一息つくのもいいものですよ。そうだ!私には殿下と同い年の娘もおります、いい話し相手になるでしょう。どうです?今度の休日にでも……。」

やはりそう来たか。近頃、何かとこの類の話が増えてきた。兄上にはすでに婚約者が決まっているが、俺はまだ婚約者がいない為に格好の標的になってしまったようだ。
しかし、俺はレーナ以外を妻にする気はない。

「悪いが、そういった誘いはすべて断っている。私はこう見えて忙しいのでね。今も陛下に呼ばれて向かっている途中なのだ。これで、失礼する。」

そう言って早々にグリードの元を離れた。



「チッ。ガキがいい気になりおって……。」

立ち去るアーノルドの背中をグリードが忌々しそうに睨みつけていた。


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